傷だらけの令嬢 〜逃げ出したら優しい人に助けられ、騎士様に守られています〜

m

文字の大きさ
上 下
38 / 70
第2部

1

しおりを挟む
「せんぱーい、グレッグせんぱーい」

「キース、何度も言っているが無駄に語尾を伸ばすのをやめろ。もう少しきちんとした話し方ができるだろう?
騎士として恥ずかしくない言動をだな…」

治安隊本舎内の廊下にて、グレッグは後輩のキースに呼び止められていた。

キースはいつも間の抜けた物言いをするが、その話し方とはうらはらに剣の腕はかなりのものだ。

有事の際には、自分の背後を任せてもいいと思うほどには信用している。多少、お調子者ではあるが。

「えー、ちょっと難しいっす。
それに、俺にそんなこと言ってもいいんですかー?」


「どういう意味だ?」


「この間のこと言いふらしますよー。
先輩が女性と抱き合ってたって。
いいのかなー?
俺らに仕事押しつけて、自分は女性とい
ちゃついちゃってー。
あの後二人きりで何してたんすか?」

へらへらと笑いながらキースはグレッグへと話しかける。

グレッグは立ち止まると、キースを射殺すように睨みつける


「お前……見たのか?」


「なんすか?先輩、ちょっと怖いんですけ
ど」


「彼女の顔を見たのか?
視界に入れるなと言ったはずだが? 
しばくぞ」


「ちょ、ちょ、こわっ!静かに怒るのまじ
でやめてもらえませんか。こわいんすけ
ど…
パワハラされたと隊長に言いつけますよ」


「勝手にしろ」

グレッグは執務室へと向かい再び歩を進める。


「あ、ちょっ先輩待ってください」


「何だ、まだ何か用か」

「また、手紙が届いていたんすけど…
どうします?」

「貸せ」

グレッグはキースの手から手紙を奪い取ると、目の前でビリビリと破きはじめる

「あー!先輩、だめっすよ!
どうして破くんですかー」


「キース、片付けておけ」

「はぁー?ちょっとせんぱーい」

キースは、文句を言いながら床に散らばった手紙の残骸を必死にかき集めた。

「隊長に、言いつけますからね!」


✳︎✳︎✳︎
その日グレッグは、隊長室に呼び出されていた。

治安隊は平民と貴族と混在しているが、上の役職に就くのは貴族が主であった。

実力主義の騎士とはいえ、平民の下で働くことに抵抗がある者も少なくない。

無意味な軋轢あつれきをうまないための措置でもあった。

隊長はグレッグの扱い困惑していた。

何年か前に治安隊に移動してきた青年。

以前は王城の騎士だったと聞いている。

華々しい王城勤めの騎士から、治安隊に異動ということは、何かしら不祥事があっての左遷だと勘繰る。


だが、今も王城のかなり上の役職の者に太いパイプを持っているようだ。

先日のノーマン伯の件といい、治安隊の一騎士が申し立てただけにしては、王命が下るのが早すぎる。私でさえ王城の騎士へアポを取るのが難しいのに…そういえば事後報告だったなと、今さら思い至る。

家柄といい、仕事ぶりといい、本来なら役職が与えられるべきだ。

異動の際、本人の希望に沿うようにとあったので、名目上は平の騎士だ。

本人が目立ちたくないからという理由で平を希望している。

あの容姿なので目立たないのは難しいだろうが。

何を考えているかよく分からない青年なので、隊長は気が重かった



「グレッグ、元ノーマン邸にこの手紙を含めて、複数の手紙が届いていたはずだが……お前、きちんと宛名の人物に届けているのか?」

執務机の上に置かれている郵便物を指差しながら、隊長はグレッグに問いかける。

「……」

「どうして無言なんだ?
お前、まさか届けていないんじゃないだろうな?
もしそうなら別の者に届けさせるが━━」

グレッグは机の上に置かれている手紙を素早く取り去った

「あ、おいこら、お前は勝手に…
返せ。何してる?」

「お断りします。他の者がソフィアへ届けることも許可できません」


「は?なんでお前の許可がいるんだ?
宛名は確かにソフィア嬢となっているが、知り合いなのか?」

「……婚約者です」

「は?誰の?」

「私です」

「は?は?お前の……?
お、お前の婚約者?
聞いていないが」

「言っていませんから」

「お前、そういう大事なことは上司の私に一言伝えるべきだろう…
婚約者がいたのか。あぁ、まぁお前の実家は侯爵家だったな、婚約者ぐらいいて当然か」


「家は関係ありません。私が彼女に想いを受け入れてもらったのです。」

「なっ!堅物のお前が?お、お前が…」


「隊長、先程から何をそんなに驚いているのですか?
語彙力が崩壊していますよ。
私だって男ですから、大切に想う人くらいいますよ」

「お、お前本当にグレッグか?
近寄る女性達を虫ケラのように扱っていたではないか。おかげで女性の扱いが雑だと苦情が殺到していたが…
 
グレッグ、お前、まさか本当に手紙を捨てていないだろうな?」

「隊長に密告したのは、キースですか」

「おい、キースを責めるな。いいか、勝手に手紙を処分したことが世間にしれたら、この治安隊の信用に関わる。分かっているのか?」

「知られなければいいことです」

「お前なぁ…そういう問題ではないだろう。真面目なお前がどうした?手紙の送り主に心当たりでもあるのか?差出人の記載はないが……まさか開封して読んだりはしてないよな?」


「あぁ、思いつきませんでした。その手がありましたね。」

グレッグは先程奪い取った手紙を開封しようと手をかける。
隊長は椅子から立ち上がると、グレッグから手紙を奪い返そうと詰め寄る

けれどグレッグは颯爽と身を交わし手紙を死守する。

「おい、何してる!開けるな!貸せ」


「二度とソフィアに近づかないようにしなければ。」

「お前、何言ってる?」

「こういったシンプルな封筒は女性は好んで使いません。化粧品や香水などの匂いもしません。送り主は男性と思われます。
おおかたソフィアに一目惚れしたストーカー男に違いありません!」


「グレッグ、いったん頭を冷やせ。ストーカーかそうでないかも含めて、その手紙をソフィア嬢に届けてこい!今すぐだ!
直接彼女に確認してもらって、お前の言う通りストーカーからの手紙だったら、送り主も含めて好きに処分してこい!」

隊長は手紙を取り上げるのを諦めると、グレッグを扉から強引に押し出した。


~~~~~~~
お読みいただき本当にありがとうございます!
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

不遇の花嫁は偽りの聖女を暴く──運命を切り開く契約結婚

evening
恋愛
辺境の小国で育ち、王女でありながら冷遇され続けてきたセレスティア。 ある日、彼女は父王の命令で、圧倒的な軍事力と権威を誇る隣国・シュヴァルツ公国の公子ラウルとの政略結婚を余儀なくされる。周囲は「愛など得られない」と揶揄するばかり。それでも彼女は国のために渋々嫁ぐ道を選んだ。 ところが、ラウルは初対面で「愛を誓う気はない」と冷たく言い放ち、その傍らには“奇跡の力”を持つと噂される美貌の聖女・フィオナが仕えていた。彼女は誰はばかることなく高慢な態度を取り、「ラウルを支えるのは聖女である私」と言い放つ。まるでセレスティアが入り込む隙などないかのように──。 だが、この“奇跡”を振りかざす聖女には大きな秘密があった。実はフィオナこそが聖女を偽る“偽りの存在”だったのだ。政略結婚という不遇の境遇にありながらも、セレスティアは自分の誇りと優しさを武器に、宮廷での地位を切り拓こうと奮闘する。いつしかラウルの心も、彼女のひたむきさに揺れ動き始めるが、フィオナの陰謀や、公国の権力争いがふたりを大きな危機へと導いてしまう。 「あなたが偽物だって、私が証明してみせる。私の運命は、私自身が切り開く──!」 高慢なる“偽りの聖女”に対峙するとき、セレスティアの内なる力が目覚める。愛と陰謀が渦巻く華麗なる宮廷で、彼女が掴む未来とは? 運命を変える壮大な恋物語が、いま幕を開ける。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、142話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(11/21更新)

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

処理中です...