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グレッグ様にエスコートされて馬車へと乗り込む。
「ソフィア、少しだけ待っていてもらえるか?すぐ戻る」
「…はい」
消え入りそうな声で返答するのがやっとだった。
背中に添えられていたグレッグ様の温もりが消えて、落ち着かない。
あまりにも衝撃的な内容を聞いてしまい、脳内整理出来ずに、かるくパニックになりかけていた。
先程までグレッグ様が寄り添ってくれていたので、精神バランスを保っていられたのだと改めて実感する。
大きな優しさに包まれているようで、妙に安心した。
男性に寄りかかるなんて…いったい私はどうしてしまったの。
これじゃあ義姉と同じじゃない
でも、他の誰かに何を言われてもいい。
あの大きな胸に抱きつきたい、
抱きしめてほしい。
この感情は何?
(「下品なあの女にそっくり!」
「あなたの母親は沢山の男を誑かしていたのよ」
「まさかあなたが本気で相手にされるとで
も思ってるの?ははっ!ばかじゃない
の!?」)
(やめて!お母さんはそんなことしない!
私は、別にグレッグ様に振り向いてほしい
なんて思ってない。
私はグレッグ様のこと…)
頭の中で、真っ赤な口紅を塗ったアンジェリカが罵声を浴びせてくる
私は必死にアンジェリカを振り払おうとする。
同時に、自分の中に芽生えているグレッグ様への淡い想いも振り払うように頭を振る。
この気持ちは、きっと気のせい…
私なんかが、抱いていい感情ではない。
辛いことがありすぎて弱くなっているだけ。
少しでも気を抜いたら、堪えていたものが怒涛のごとく涙と共に溢れてしまいそうだ。
だから必死に「大丈夫」と自分に暗示をかける。
虚ろな瞳で窓の外を見ると、グレッグ様が御者と何やら言葉を交わしていた。
私の視線に気づいたグレッグ様は、すぐに馬車へと乗り込んで来た。
「待たせてすまない。」
「…いえ」
グレッグ様が前方の御者へノックして合図を出すと、馬車は走り出した。
「…」
「…」
向かい合わせに座った二人は、しばらく無言だった。
ドッドッドッドッと心臓が早鐘を打つのを感じる。
向かいにグレッグ様がいるので、顔を上げるとふとした拍子にパチッと視線が合う。
優しげな眼差しを向けられて、ボッと顔から火が出そうになるくらい紅潮して顔を逸らす。
「…ソフィア…大丈夫か?」
「は、は、は、はい。」
恥ずかしくて声が上擦る。
先程まであんなにつらかったのに、グレッグ様が傍にいるだけで、不思議とこんなにも気持ちが軽くなる。
けれど今度は別の感情が押し寄せてくる。
辛いのか、恥ずかしいのか、嬉しいのか、自分の気持ちが分からずに混乱する。
手を伸ばせば届く距離にいるのに、どこか遠く感じられて、無性に寂しくなる。
「はぁ…」
「グレッグ様…あの…も、申し訳ありません…ご迷惑をおかけして。せっかくのお茶会も台無しにしてしまって…」
溜め息をつくグレッグ様にいたたまれずに謝罪をする。
グレッグ様は一瞬呆けた顔をした後、言葉を発した
「迷惑などかかっていない。すまない、溜め息をついたのは…その…ソフィアが…」
「私が…何かしてしまったのでしょうか?」
馬車に乗った後、何か粗相をしてしまったのではないかと思い返すように、小首をかしげる。
「かわ…」
グレッグ様は慌てて手で口を押さえると、すぐさま顔を逸らした。
「グレッグ様?今、何かおっしゃいませんでしたか?
やはり…私が何か気に障るようなことを…」
「違うんだ…ソフィア…か、わ、だ」
「川が見えるのですか?」
グレッグ様が急に不自然な話し方になったのが気になりつつも、ぱぁっと顔を綻ばせて、そっと窓のカーテンをめくる。小さい頃、川遊びをしたことを思い出す。
けれども、建物や行き交う人が見えるだけで川は見えなかった。
反対側の窓も確認したけれど同じだった。
「…グレッグ様?川が見えないようですが…」
「…そうなのか。いや、確かこの辺りだったと思ったのだが、勘違いしたようだ。
すまない。今度、川に行こう。
ソフィアは船遊びはしたことはあるか?」
「いいえ、ありません。子供の頃に川辺で遊んだことがあるくらいです。楽しかったな…」
「そうか。川ではないが別荘地には湖がある。一緒にボートに乗ろう。こう見えても私は漕ぐのが得意だ」
「ふふふ。こう見えてもって、グレッグ様は何でも出来そうに見えますよ。」
「あぁ、やはりソフィアは笑っている方がいい。」
「え?」
視線が絡み合い、恥ずかしくなり顔を逸らそうとした時、方頬にそっと手を添えられる。
「グレッグ様?」
グレッグ様の瞳の中に自分の姿が映っている。
自分の姿を確認できるほどの至近距離に戸惑う。
グレッグはソフィアの頬を手のひらで優しく撫でる。
何度か撫でた後に、ソフィアの顎を掬い上げるように手を添えて、親指でソフィアの唇をゆっくりとなぞらえていく。
艶めかしい視線に捉えられて、どうしたらいいか分からずに翻弄されていた。
「ソフィア、少しだけ待っていてもらえるか?すぐ戻る」
「…はい」
消え入りそうな声で返答するのがやっとだった。
背中に添えられていたグレッグ様の温もりが消えて、落ち着かない。
あまりにも衝撃的な内容を聞いてしまい、脳内整理出来ずに、かるくパニックになりかけていた。
先程までグレッグ様が寄り添ってくれていたので、精神バランスを保っていられたのだと改めて実感する。
大きな優しさに包まれているようで、妙に安心した。
男性に寄りかかるなんて…いったい私はどうしてしまったの。
これじゃあ義姉と同じじゃない
でも、他の誰かに何を言われてもいい。
あの大きな胸に抱きつきたい、
抱きしめてほしい。
この感情は何?
(「下品なあの女にそっくり!」
「あなたの母親は沢山の男を誑かしていたのよ」
「まさかあなたが本気で相手にされるとで
も思ってるの?ははっ!ばかじゃない
の!?」)
(やめて!お母さんはそんなことしない!
私は、別にグレッグ様に振り向いてほしい
なんて思ってない。
私はグレッグ様のこと…)
頭の中で、真っ赤な口紅を塗ったアンジェリカが罵声を浴びせてくる
私は必死にアンジェリカを振り払おうとする。
同時に、自分の中に芽生えているグレッグ様への淡い想いも振り払うように頭を振る。
この気持ちは、きっと気のせい…
私なんかが、抱いていい感情ではない。
辛いことがありすぎて弱くなっているだけ。
少しでも気を抜いたら、堪えていたものが怒涛のごとく涙と共に溢れてしまいそうだ。
だから必死に「大丈夫」と自分に暗示をかける。
虚ろな瞳で窓の外を見ると、グレッグ様が御者と何やら言葉を交わしていた。
私の視線に気づいたグレッグ様は、すぐに馬車へと乗り込んで来た。
「待たせてすまない。」
「…いえ」
グレッグ様が前方の御者へノックして合図を出すと、馬車は走り出した。
「…」
「…」
向かい合わせに座った二人は、しばらく無言だった。
ドッドッドッドッと心臓が早鐘を打つのを感じる。
向かいにグレッグ様がいるので、顔を上げるとふとした拍子にパチッと視線が合う。
優しげな眼差しを向けられて、ボッと顔から火が出そうになるくらい紅潮して顔を逸らす。
「…ソフィア…大丈夫か?」
「は、は、は、はい。」
恥ずかしくて声が上擦る。
先程まであんなにつらかったのに、グレッグ様が傍にいるだけで、不思議とこんなにも気持ちが軽くなる。
けれど今度は別の感情が押し寄せてくる。
辛いのか、恥ずかしいのか、嬉しいのか、自分の気持ちが分からずに混乱する。
手を伸ばせば届く距離にいるのに、どこか遠く感じられて、無性に寂しくなる。
「はぁ…」
「グレッグ様…あの…も、申し訳ありません…ご迷惑をおかけして。せっかくのお茶会も台無しにしてしまって…」
溜め息をつくグレッグ様にいたたまれずに謝罪をする。
グレッグ様は一瞬呆けた顔をした後、言葉を発した
「迷惑などかかっていない。すまない、溜め息をついたのは…その…ソフィアが…」
「私が…何かしてしまったのでしょうか?」
馬車に乗った後、何か粗相をしてしまったのではないかと思い返すように、小首をかしげる。
「かわ…」
グレッグ様は慌てて手で口を押さえると、すぐさま顔を逸らした。
「グレッグ様?今、何かおっしゃいませんでしたか?
やはり…私が何か気に障るようなことを…」
「違うんだ…ソフィア…か、わ、だ」
「川が見えるのですか?」
グレッグ様が急に不自然な話し方になったのが気になりつつも、ぱぁっと顔を綻ばせて、そっと窓のカーテンをめくる。小さい頃、川遊びをしたことを思い出す。
けれども、建物や行き交う人が見えるだけで川は見えなかった。
反対側の窓も確認したけれど同じだった。
「…グレッグ様?川が見えないようですが…」
「…そうなのか。いや、確かこの辺りだったと思ったのだが、勘違いしたようだ。
すまない。今度、川に行こう。
ソフィアは船遊びはしたことはあるか?」
「いいえ、ありません。子供の頃に川辺で遊んだことがあるくらいです。楽しかったな…」
「そうか。川ではないが別荘地には湖がある。一緒にボートに乗ろう。こう見えても私は漕ぐのが得意だ」
「ふふふ。こう見えてもって、グレッグ様は何でも出来そうに見えますよ。」
「あぁ、やはりソフィアは笑っている方がいい。」
「え?」
視線が絡み合い、恥ずかしくなり顔を逸らそうとした時、方頬にそっと手を添えられる。
「グレッグ様?」
グレッグ様の瞳の中に自分の姿が映っている。
自分の姿を確認できるほどの至近距離に戸惑う。
グレッグはソフィアの頬を手のひらで優しく撫でる。
何度か撫でた後に、ソフィアの顎を掬い上げるように手を添えて、親指でソフィアの唇をゆっくりとなぞらえていく。
艶めかしい視線に捉えられて、どうしたらいいか分からずに翻弄されていた。
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