傷だらけの令嬢 〜逃げ出したら優しい人に助けられ、騎士様に守られています〜

m

文字の大きさ
上 下
1 / 70

1

しおりを挟む
「邪魔よ!」


『痛っ』

突然、突き飛ばされてバランスを崩した。恐る恐る私は義姉の顔を見上げる

「な~に。その顔は!
あなた、まさか文句でもあるの? ほんっとにその顔を見ると虫酸が走るわ。さっさと私の視界から消えてちょうだい」

『申し訳…ありません…』

「ほんっとにトロいんだから」

はぁ

義姉の癇癪や八つ当たりはいつものこと
ただ黙って耐えるしかない


私は10歳の時にこの家に引き取られた。それまで母と2人暮らし。決して裕福とはいえなかったけれど、優しい母と穏やかに過ごしていた。いつも忙しい合間をぬっては私との時間を作ってくれた。
 
 気軽に新しいお洋服を買うことは出来ないので、ほつれているところを修繕してくれたり、野菜の切り方を教えてくれたり、一人で生活するために必要なことを教えてくれた。
 
嫌なことがあった時は、一緒に歌を歌って明るい気分になれるように励ましてくれた

今なら分かる。

母は私の前では無理をしていたのだと思う…心配をかけまいと。
倒れるその瞬間まで。

 私もどこかで働きたかったけれど、子供のうちは遊ぶのが仕事だからと。
 それでも働いて母を少しでも休ませてあげればよかった
  気づかなくてごめんなさい……後悔しても遅いけれど

母が亡くなりしばらくすると、知らない人が迎えに来た。

父親の遣いだと名乗るその人が言うには、母は以前勤めていたお屋敷の主に見初められ、私を身籠ったと。
そのことが知れて奥様は激怒。
母は身重の体で屋敷を追い出されたのだそうだ。
 そのお屋敷の主が私の父親だと。
母の訃報をどこから知ったのか、父親が私を引き取りたいと言っているから一緒に来て欲しいと。

その時の幼い自分の行動を思い出すと後悔するばかり。
どうしてなんのためらいもなくついて行ってしまったのか。
知らない人に付いていってはいけないと言われていたのに。

その方に連れられて、このお屋敷に来たときはあまりの広さ、豪華さに驚いた。今までの家とは比べ物にならなかったから


目を輝かせて興奮する私の心を打ち砕いたのは、初めて対面する父親の一言だった。

「お前はここで死ぬまで働くのだ。まずは躾が必要だな。」

部屋を出て行ってすぐに戻って来た父の手には、鞭が握られていた

何をされるのか怖くて固まっていると、容赦なく鞭で叩かれた。

『痛い。やめて。やめてください!いやいやー!』

咄嗟に逃げようとするも、父に殴られて床にうつ伏せで倒れこんだ。背中に馬乗りになられ何度も何度も何度も執拗に殴られた


その仕打ちがどれくらい続いたのかは分からない
ぷつりと意識が途絶えたから



意識が戻った時には、暗い部屋の床に寝かされていた。

体中が刺すように痛い
殴られた所は腫れ上がり、鞭で打たれた所も水膨れができ、服も破れていた。痛みから起き上がることもできなかった

いったいなぜこんな仕打ちを受けるのだろう

混乱してる私の元へ、義姉と名乗る女性が訪れた。

「汚いっ。こんな地下なんて来たくないのに。あなたね。あの女の娘というのは」

金髪の輝く髪に染みひとつない綺麗な肌。吊り上がった目で、私を見下ろす義姉。
きつい印象の女性だった

「ふふっ。いい気味。あなたにお似合いね。いいこと。これからは私の言うことは何でも聞いてもらうわ。分かるわね?あなたなんか生きる価値もないのだから。お父様をたぶらかした下品なあの女そっくり。」

ヅカヅカと寝ている私の側に近づいてきた
おもむろに手を振り上げたかと思うと勢いよく振り下ろした。頬を叩かれたのだと認識する間もなく━バンッーバンッ━バンッ━と乾いた音が響いた


『やめて……やめて』

消え入りそうな声を遮るように義姉は嘲笑いながら罵声を浴びせる

「うるさいわね!声を上げるなんて生意気ね。躾が足りないのね」

ヒュっと何かが空気を切る音がしたかと思うと、身体に激痛が走った

鞭だと気づいて両腕で咄嗟に顔を庇ったものの、悲鳴をあげることしかできなかった

『いやぁ!』

「あなたバカなの?声を上げるなと言ったのよ。耳障りなのよ!」


『…うっ』

痛みと恐怖で、歯をくいしばり、ただひたすら黙って、この地獄のような時が終わるのを待った。

「今日はこのくらいかしら。分かったわね!」


カツッ、カツッ、カツッと靴音が遠ざかって行った

どうやら義姉が行ったようだ。

痛みからなのか恐怖からなのか、ガタガタと全身が震えている。おそるおそる両腕を顔から外した。激痛を通り越して感覚が麻痺している


それから、声を上げると余計に仕打ちが酷くなること

ただ黙って耐える方が打たれる時間が短いこと

逃げようとすれば余計に酷く打たれ、食事も抜かれること

を身を持って学んだ。







しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

紀尾井坂ノスタルジック

涼寺みすゞ
恋愛
士農工商の身分制度は、御一新により変化した。 元公家出身の堂上華族、大名家の大名華族、勲功から身分を得た新華族。 明治25年4月、英国視察を終えた官の一行が帰国した。その中には1年前、初恋を成就させる為に宮家との縁談を断った子爵家の従五位、田中光留がいた。 日本に帰ったら1番に、あの方に逢いに行くと断言していた光留の耳に入ってきた噂は、恋い焦がれた尾井坂男爵家の晃子の婚約が整ったというものだった。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

【電子書籍発売に伴い作品引き上げ】私が妻でなくてもいいのでは?

キムラましゅろう
恋愛
夫には妻が二人いると言われている。 戸籍上の妻と仕事上の妻。 私は彼の姓を名乗り共に暮らす戸籍上の妻だけど、夫の側には常に仕事上の妻と呼ばれる女性副官がいた。 見合い結婚の私とは違い、副官である彼女は付き合いも長く多忙な夫と多くの時間を共有している。その胸に特別な恋情を抱いて。 一方私は新婚であるにも関わらず多忙な夫を支えながら節々で感じる女性副官のマウントと戦っていた。 だけどある時ふと思ってしまったのだ。 妻と揶揄される有能な女性が側にいるのなら、私が妻でなくてもいいのではないかと。 完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。 誤字脱字が罠のように点在します(断言)が、決して嫌がらせではございません(泣) モヤモヤ案件ものですが、作者は元サヤ(大きな概念で)ハピエン作家です。 アンチ元サヤの方はそっ閉じをオススメいたします。 あとは自己責任でどうぞ♡ 小説家になろうさんにも時差投稿します。

ロザリーの新婚生活

緑谷めい
恋愛
 主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。   アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。  このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。

拾われ令嬢と拗らせ侯爵

純鈍
恋愛
 伯爵令嬢であるレイチェルは料理をするのが好きだった。しかし、婚約者であるミスグリード伯爵は家の品位を落とす行為だとレイチェルとの婚約を破棄する。  それでも料理ばかりしているレイチェルは29歳にもなって、と家のメイドたちにも馬鹿にされていた。  一生一人でも良い、そう思っていたのに……ある雨夜が彼女の人生を変える。  そして、怪物と噂されたリーデンハルクに隠された本当の秘密とは?  これは自分の好きなことのために婚約した者同士が本物の婚約者になっていく物語。 「リーデンハルク様、このお部屋は一体……?」

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

処理中です...