ショートショートアンソロジー

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ずっとずっと一緒だったのに、今更一人なんてどうしたらいいか分からないよ。


「━━賢人」


ふと崖下から呼ばれているような気がした。

目を閉じてゆっくりと体を前方に傾きかけた時だった。


「やめなよ」

ふいに若い男性の声がして、現実へと引き戻される


振り向くとそこには高校生くらいの男の子が立っていた。


「何が?」

邪魔されたことに対する怒りから、男の子に剣呑な物言いをしてしまう。

「あなたがしようとしていること。
それに、飛び降り立って死ねないよ。
━━経験者は語るってやつだから」

「経験者?それってどういうこと?」



男の子は傘を差したまま崖下を覗き込んでいた。


苦悶の表情を浮かべていて、不躾なことを聞いてしまったと後悔した。


いつの間にか雨が降り始めていた。


「傘ないの?」


全てを終わらせるつもりでいたので、天気予報なんて調べもしなかった。 さっきまで晴れていたのに。


「来なよ。そのままだと風邪を引く。」

しばらく逡巡した後、無言で頷く。

「少し待って」

花束をそっと足元へと供えて手を合わせた。


目を開けて立ち上がると、すぐ側に男の子が傘を差してくれていた。

私より頭二つ分くらい背が高かかった。


私は男の子の傘に入れてもらうと、山道を歩き始めた。


無言で歩き続けると、バス停へとたどり着いた。

小さなベンチが一つあり、屋根も付いていたので、私達はそのベンチへと腰かけた。

「傘、ありがと。バスで帰るの?」


私は男の子へと声をかけながら、時刻表を確認する。

こんな所にバス停があるなんて驚いた。

案の定、一日に一本しかない。

「バスとは違うかな。もうすぐ迎えがくる」

「そっか」

こんな山道で何をしていたのか気になるものの、高校生くらいだし、きっと家族が迎えにくるのだろう。

もしかしたら知らないだけで、山の中に学校があるのかもしれない。


「もうすぐ雨も上がる。それまで話し相手になってよ」


「話し相手って……君ね、知らない人に気軽に声かけたり、付いて行ったらダメだよ」

「はは、死のうとしてた人に言われたくない」

軽いノリで答える男の子の顔に、既視感を覚えた。

「━━賢人……あ、ごめん、ちょっと知り合いに似てて。一瞬、昔のこと思い出しちゃってさ。
はは、気にしないで」

ぶんぶんと首を振りながら、必死に「雨止まないね」と誤魔化すように取り繕う。


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