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「マリーベル様、直接こうしてお話しするのは初めてですね。改めまして、アーサー様の補佐官を勤めておりますビルと申します。」

ビルは座ったまま軽く一礼する。

濃いブラウンの髪色で、肩まで届く髪を後ろに一つで束ねており、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
 
「ご丁寧にありがとうございます。以前、アーサー様とご一緒の時に、お会いしましたわね。その節はご挨拶できませんで…」


アーサー様とのお茶会の際には、たいていビル様と入れ違いに入室することが多い。



眼鏡の奥から覗く瞳は、全てを見透かしているようで、笑っていない目がアーサー様とは違った意味で怖いわ。
何も悪いことはしていないのだけれど、妙に緊張してしまうわ。

「マリーベル様が、私のことを認識してくださっているのは意外でした。」

「えっ?」

いけない。咄嗟に呟いてしまったわ。

「いえ、失礼。良い意味ですので、お気になさらず」

ビル様は、私の記憶力が悪いことをご存知なのね。




「マリーベル様はアーサー様と個人的に交流がおありなのですか?」

会話の内容を疑問に感じたニコライが問いかける。

「えぇ。マリーベル様はアーサー様の
婚━━」

「ビルさま!」


咄嗟に、ビル様の言葉を遮ってしまった。


ビルさまの口から発言されてしまうと、もう後戻りができない気がした。

まだ辞退できるのではないかと、心のどこかで淡い期待をしているから。

「マリーベル様….そうですね、この話は、まだ時期尚早でしたね。」

ビルはそんなマリーベルの気持ちを察してか、続きの言葉をのみこんだ。

ニコライも、それ以上問いかけてはこなかった。


「失礼します。ビル様」

ノックの後に、騎士達が入室する。
扉の前に置かれていた花は、綺麗に片付けられていた。

「あぁ、戻ってきたようですね。丁度いいタイミングですね。こちらに来てマリーベル様にご挨拶を。」

ビルの指示に従い、騎士達はソファーの近くまで歩んでくる。

横並びに整列する騎士の姿に、マリーベルは動揺する。


挨拶? いえ、いえ、どうかお気になさらず。


ビル様、なぜ呼ぶのですか。


こんな大勢の人に、囲まれると、緊張しますっ。

しかも、見下ろされるよな視線で、悪いことをしていないのに、落ち着きません。

「ご紹介します。マリーベル様の護衛を務めさせていただきますのはら主にこちらの2人です。エドワードとフレッドです。」

ビルの言葉に合わせて、エドワードとフレッドは一歩前に出て一礼する。


「私の護衛…?」



「マリーベル様のお側に就きますので、どこに行く時にもお連れ下さい。夜間は、扉の前に交代で任務に就きますのでご安心ください。
他の者は、神殿内の警備にあたります。」

「あの、神殿に侵入者と伺いましたが、
私個人に護衛は大袈裟ではないでしょうか?
お花が置かれていたことくらいですし。」

なんだか、大変なことになったわ。

私がここにいることで、逆にご迷惑がかかっているのではなないかしら。

「何をおっしゃいますマリーベル様。この神殿に侵入者などあってはなりません。

皆が、祈りや救いを求めて集まる場所です。
神聖な場所に侵入者など不埒な輩が現れるなんて言語道断です!
ましてやマリーベル様の身辺にまで現れたとなると……
とにかく、警戒しすぎるにこしたことはありません。」

力説するニコライの様子に、マリーベルは考えを改める。

ニコライ様にとって、神殿は大切な場所。
強い思い入れがあることが伝わり、マリーベルは申し出を受け入れることにした。

「そ、そうですわね。では、エドワード様、フレッド様、皆さん宜しくお願い致します」

私は護衛の方に軽く一礼した。

「マリーベル様、呼び捨てで構いません。それと彼らは必要最低限の会話しか許されておりませんので、誰もいないものと思って接してください」

ビルは一通り説明すると席を立った。

「それではマリーベル様、私はこれで。
ニコライ殿、少しばかりお話を伺いたいので、入口まで見送りを頼めますか」


「仕方ないですね。マリーベル様、私はビル殿の見送りをしてきます。心配なので必ず扉に鍵をかけて休まれてください。よろしいですね」



「はい。それではお言葉に甘えて少し休ませていただきますわ。ビル様もお気をつけて」

マリーベルは、皆を入口まで見送った。


ビルとニコライの後ろを、騎士達も付き添う。
 
私は、扉付近に佇むエドワードとフレッドに向き合う。

誰もいない者と思う、なんて難しいわ。
なんだか、気まずいわね。

休む挨拶くらいはしてもいいかしら。

「あの、エドワード、フレッドとお呼びしても?」


2人とも無言で頷く。

「私は、休ませていただきますね。鍵をかけますので、お2人もご自由にされてくださいね」



「我々はここにおります」
「何かありましたら、お呼びください」


返事が返ってきたことに驚く。

全く会話をしてはいけない、というわけではないのね。

それなら、良かった。



マリーベルは宜しくお願いしますと伝えると、扉を閉めて鍵をかけた。



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