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「はぁ。
感謝、思いやり、愛情、
感謝、思いやり、愛情」
馬車の中で、
アーサー様から言われた言葉を、心の中で復唱していた。
『はぁ』
「どうなさったのですか?お嬢様」
「アーサー殿下に何か言われたのですか?」
『えぇ…まぁ。いつものことなのだけど。
感謝、思いやり、愛情」
「お嬢様?」
「先程から何かつぶやかれてますけど、呪文か何かですか?」
『えっ? もしかして声に出てたかしら?』
「はい、お嬢様。随分とお疲れのご様子ですが」
「私達でお力になれますか?」
『ありがとう。アン、エレナ』
アンは小さな頃から私の身の回りの世話をしてくれる侍女で、第二の母のような存在だ。
エレナは、勉強に苦戦している私の代わりに学習をしている、私の頭脳だ。
「実はね、
周囲へ感謝の気持ちを表したいのだけれど、
どうしたらいいのかしら?」
「まぁ、お嬢様、なんとお優しい!」
「えっ、ちがうのよ、アン。実はアーサー様からご指摘を受けたの。
私、甘やかされて育った自覚はあるのよ、だから、周囲への感謝が足りないのよ。」
「お嬢様、でしたら、私が何とかいたします。」
「えっ? だめよエレナ。
エレナには、いつも色々と迷惑をかけてるわね。私が何も出来ないばかりに…苦労をかけるわね」
「お嬢様。お嬢様は、お元気にお過ごしくださるだけでよいのです。お嬢様の存在が私の幸せなのです!
ですから、どうぞこの私にお任せください」
まるで女神を崇めるように、キラキラと目を輝かせながら声高々にエレナは胸を張って答える。
そんなエレナからの視線が眩しい。
『いつもありがとう、エレナ。
でもね、このままじゃダメだと思うの。
やっぱり、自分で行動を起こさないと。
エレナ、私を助けると思って、何かアドバイスをくれないかしら?
アンも何か思いついたことがあれば、教えてほしいわ』
「お嬢様…」
エレナは寂しそうな顔をしていた。
「いつも甘えてごめんね、エレナ。」
「そういうことでしたら、全力でご協力させていただきます。感謝の気持ち……そうですねぇ」
『あなた達はどういう風に感謝を表現しているの?
ごめんなさい、漠然としているわね。
私も、アーサー様が何を望んでいるのか、よく分からなくて……」
「そうですね、私は豊穣の女神様にいつも感謝の祈りを捧げております。」
「アンさん、それですわ!」
「エレナ?」
「お嬢様、神殿に行かれるのはどうでしょう?」
『神殿へ? 神殿ならつい先日も行ったわ』
「いえ、通常の祈りを捧げに行くことではないのです。
お嬢様は、神殿ではお仕事を体験することができるのはご存知でしょうか?」
『いいえ、初めて知ったわ。その体験というのはは、私でもできるの?』
「はい。神殿は身分など関係ありませんから。」
「そうだったわね。でも仕事を体験することで、感謝を表現できるかしら?」
「神殿では、女神様へ感謝の祈りを捧げることが大前提ですので。
奉仕活動も行ったりするそうです。
俗世と離れた生活を送ることで、自己修練を積めるそうです。
神殿のお仕事体験というか、修行とも呼ばれています。その体験を終えたものは、一目置かれるので、花嫁修行などにも人気のようです。」
『そうなのね。自己修練?
なるほど、いわゆる修行なのね。
うん、いいかもしれないわ。
ありがとう!
さっそく帰ったらすぐにでもお父様に相談してみるわ』
「お嬢様、神殿での生活は、身の回りのことは全て自分でしなければなりません。
心配ですので、私もお供いたします!」
「私も!」
『ありがとう。アン、エレナ。無理しなくていいのよ。まずはお父様に相談してからね。』
神殿、いいかもしれない。
何より神殿には権力が及ばない。
しばらく滞在することになれば、気が重いお茶会にも行かなくて済むかもしれない。
お父様の許可がでるといいのだけど。
感謝、思いやり、愛情、
感謝、思いやり、愛情」
馬車の中で、
アーサー様から言われた言葉を、心の中で復唱していた。
『はぁ』
「どうなさったのですか?お嬢様」
「アーサー殿下に何か言われたのですか?」
『えぇ…まぁ。いつものことなのだけど。
感謝、思いやり、愛情」
「お嬢様?」
「先程から何かつぶやかれてますけど、呪文か何かですか?」
『えっ? もしかして声に出てたかしら?』
「はい、お嬢様。随分とお疲れのご様子ですが」
「私達でお力になれますか?」
『ありがとう。アン、エレナ』
アンは小さな頃から私の身の回りの世話をしてくれる侍女で、第二の母のような存在だ。
エレナは、勉強に苦戦している私の代わりに学習をしている、私の頭脳だ。
「実はね、
周囲へ感謝の気持ちを表したいのだけれど、
どうしたらいいのかしら?」
「まぁ、お嬢様、なんとお優しい!」
「えっ、ちがうのよ、アン。実はアーサー様からご指摘を受けたの。
私、甘やかされて育った自覚はあるのよ、だから、周囲への感謝が足りないのよ。」
「お嬢様、でしたら、私が何とかいたします。」
「えっ? だめよエレナ。
エレナには、いつも色々と迷惑をかけてるわね。私が何も出来ないばかりに…苦労をかけるわね」
「お嬢様。お嬢様は、お元気にお過ごしくださるだけでよいのです。お嬢様の存在が私の幸せなのです!
ですから、どうぞこの私にお任せください」
まるで女神を崇めるように、キラキラと目を輝かせながら声高々にエレナは胸を張って答える。
そんなエレナからの視線が眩しい。
『いつもありがとう、エレナ。
でもね、このままじゃダメだと思うの。
やっぱり、自分で行動を起こさないと。
エレナ、私を助けると思って、何かアドバイスをくれないかしら?
アンも何か思いついたことがあれば、教えてほしいわ』
「お嬢様…」
エレナは寂しそうな顔をしていた。
「いつも甘えてごめんね、エレナ。」
「そういうことでしたら、全力でご協力させていただきます。感謝の気持ち……そうですねぇ」
『あなた達はどういう風に感謝を表現しているの?
ごめんなさい、漠然としているわね。
私も、アーサー様が何を望んでいるのか、よく分からなくて……」
「そうですね、私は豊穣の女神様にいつも感謝の祈りを捧げております。」
「アンさん、それですわ!」
「エレナ?」
「お嬢様、神殿に行かれるのはどうでしょう?」
『神殿へ? 神殿ならつい先日も行ったわ』
「いえ、通常の祈りを捧げに行くことではないのです。
お嬢様は、神殿ではお仕事を体験することができるのはご存知でしょうか?」
『いいえ、初めて知ったわ。その体験というのはは、私でもできるの?』
「はい。神殿は身分など関係ありませんから。」
「そうだったわね。でも仕事を体験することで、感謝を表現できるかしら?」
「神殿では、女神様へ感謝の祈りを捧げることが大前提ですので。
奉仕活動も行ったりするそうです。
俗世と離れた生活を送ることで、自己修練を積めるそうです。
神殿のお仕事体験というか、修行とも呼ばれています。その体験を終えたものは、一目置かれるので、花嫁修行などにも人気のようです。」
『そうなのね。自己修練?
なるほど、いわゆる修行なのね。
うん、いいかもしれないわ。
ありがとう!
さっそく帰ったらすぐにでもお父様に相談してみるわ』
「お嬢様、神殿での生活は、身の回りのことは全て自分でしなければなりません。
心配ですので、私もお供いたします!」
「私も!」
『ありがとう。アン、エレナ。無理しなくていいのよ。まずはお父様に相談してからね。』
神殿、いいかもしれない。
何より神殿には権力が及ばない。
しばらく滞在することになれば、気が重いお茶会にも行かなくて済むかもしれない。
お父様の許可がでるといいのだけど。
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