想っていたのは私だけでした

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アルと佇んでいるところへ、
向こうからデーが手を挙げてやって来るのが見えた

でーは男性を連れていた。
先程の正装服の男性ではなく

「あの人は」

ドキンドキンドキンドキンとスミレの鼓動は加速する

少し霞んだ金色の髪、どこか優しげな雰囲気の男性

面影はあるものの、あの頃より背は伸びて大人の男性へと成長していた━ガヴェイン

(こうして、デーと並んで見比べると髪色は全然違うのね。なのになぜデーを見てガヴェインのことを思いだしたのかしら)
スミレは不思議に思った


ガヴェインに目が釘付けになるものの、その前にまずゼイン殿下に謝罪を述べる

「ゼイ━」
「スミレ!」

最後まで言い終える前に殿下が言葉を発する

ビクッと驚き、スミレはお叱りの言葉が来るのではないかと身構えた

「アルをちょっと借りる。今は私達に構わず彼との時間を。あっちにいる」

何か言いたげな表情のアルを無理矢理引き連れて2人は少し離れて行った


取り残されたスミレは改めてガヴェインと向き合う

まるで子供の頃に戻ったようで、妙に落ち着かず戸惑うスミレ

そんなスミレにガヴェインは明るく声をかける

「スー、なんか雰囲気変わったね。
もうすっかりおおきくなって」

あの頃よりも低いトーンの声を発するガヴェイン

目の前にいる男性を、スミレは見上げる

まず何を言おうとあれだけ考えていたのに、頭の中は真っ白でぼうっとする

「はは、本当にスーだ。なつかしいな」

ガシガシガシっとスミレの頭を遠慮なく撫でるガヴェインの手つきは昔と変わらない


そのことにスミレは、懐かしくて泣きそうになる


「大きくなってって、あの時もそんな子供じゃなかったから」

少しむくれるスミレはガヴェインの手を自分の頭からどかす
 
その時つかんだガヴェインの手の大きさに、年月の経過を実感した。
ゴツゴツとした男の人の手だった

「はは、第一声がそれ?
そうだねスミレは子供じゃなかったね。頼りにしてたよほんとに」

「いつも子供扱いして」

「ちょっとここにでも座ろうか」

ガヴェインは座れそうな瓦礫の石を指差して、スミレを誘う

サッサッと軽く石をはたきスミレに座るように言うガヴェインに、あの頃と同じ優しさを感じた

「ガヴェイン…あの時、いなくなった時、何があったの?」

スミレは一番気になっていたことを質問する

「あぁ、どこから話そうかな。」


「私には何も隠さないで。院長様が、ガヴェインは…エリックの身代わりに…変な‥」

最後まで言葉が続かないスミレ
口に出すのもためらってしまう

「あぁ、あの時のことか。本当に幸運だったよ
孤児院に来られたのは、あるお貴族さまの奥方様でね。

その奥方様が旦那様ののワインを嗜む時や、のオペラ鑑賞に連れて行ける容姿が整った者をお望みだったんだ。
いわばアクセサリー感覚でエリックを欲しがったのさ。
 
孤児院から引き取って侍従として雇っているとなれば、善意のアピールにもなるし、綺麗な者に囲まれたいんだろ。」

「え…アクセサリー?」


「ただの飾りじゃなくて、知識もあるところを見せつけたいとかでね。

エリックのような、小さいうちから教育するつもりだったのさ。だから、ちょうど良かったんだ」

「ちょうどいい?」


「日雇いで稼ぐのも限界を感じていたし、もっと広い世界を見たかったからね。

必死に学んでみせるから、私ならすぐにでもお役に立ってみせます、とね

私にとっても孤児院にとっても好都合だっんだよ。」

「俺」ではなく、自分のことを私というガヴェインにスミレは距離を感じた
戸惑うスミレを気にすることなくガヴェインは続ける
  

「みんなに同じ内容の手紙残したはずだけど…
あれ?もしかして読まなかった?おかしいな」

あの思い出の手紙のことを触れられて、ドキっとスミレは心臓が跳ね上がる

「みんなに?」

「あぁ時間がなかったし、別れもできないから、

えっと、確か、こんな感じ。

(一緒に入れなくてごめんな、

大好きだよ)って名前を書いてみんなに。」


「そんな…」

スミレは自分の期待していた想いと違うことを言われて、絶句する。


「案外あそこでの生活は性に合っててね。奥方様の期待通りにしていれば給金ももらえたし。
ただ、そろそろもっと若い子を側に置きたいからと辞めることになったんだ。
退職金も貰ったし」



「え?辞める?それならどうしてここに?」

確かガヴェインは売られると聞いたはずだと記憶をたぐりよせる

「あぁそれはね、ある人に頼まれたんだよ。
スーが会いたがってると聞いて気になったのもあるし。

劇的な場面で救出して盛り上げたいってさ。 でも確か助けられる予定なのは私のはずなんだけど、途中でスーに交代したんだね。知らなかったよ

まぁ、よく分からないけどお貴族様っぽかったし、そんなもんかなって。」

予想外の情報量が多すぎて、スミレは思考を停止していた

「…」

「スー、私は結婚するんだ。もうすぐ父親にもなる。はは、すごいだろ?私は絶対に自分の子を手放したりしない。

ついでにワインの店を出そうと思ってる。奥方様の力添えもあるしね。

まさかこんな幸運が訪れるなんて思わないだろ?
 
ちょうど院長様にも彼女を連れて挨拶に行こうと思ってたんだ。お世話になったお礼に寄付もしたいし。

いち早くスーに会えて良かったよ

スーもがんばれよ。
あ、そういえば
スーに会ったら帰っていいって言われてるからもう行くな。彼女が待ってるから心配で。今安定期に入ったとこなんだ
 じゃあ元気で」

一方的にガヴェインは話し終えると、意気揚々と去って行った

対してスミレはまるで抜け殻のような状態だった

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