想っていたのは私だけでした

m

文字の大きさ
上 下
14 / 32
1

アル視点

しおりを挟む
「いつまでそちらにいらっしゃるんですか?こちらへどうぞ」

 あの、聞いてます?と声をかけられているのが私に対してだと認識するのに時間かかった。
 殿下の気配を察知して、魔力で監視して周囲の警戒をしていたからだ
 窓から見ると殿下が大丈夫だと念を送ってきた
 心配だが仕方ない。とりあえず室内で待つことにする

 グイグイと左腕の服を引っ張るのを感じた

「紫さん、お茶いれますから」

 スミレが呼びかけに答えない私の服を引っ張っていた

「あ、あぁすまない」

 殿下を心配するあまり、自身の警戒を怠っていた。近づいていたことに気づかない自分に驚く

「いい加減名前を覚えたらどうだ?私は紫ではない、アル…んん…」


 本名を言いそうになって口籠もる
 真面目すぎるとよく言われるが、それはあくまでも良く言えばということ
 
 柔軟性がなく臨機応変が難しいので、偽名や嘘などつけない性格だ
 潜入にも向いてない

「アメ…だ」

 苦虫を噛み殺した顔で何とか口に出す
 いい加減、こういうことにも慣れねば

 くすくすと笑いを噛み殺す声がしてなんだと顔を向ける

「だって、名前を言うのにそんな難しい顔をして。ちょっと変わってますね。紫さんじゃなかったアメさん」

 なんだそんなことかと思い、勝手に開けるぞとお茶を淹れるのを手伝う為にカップを戸棚から取り出す

「そこに並べてくれますか?」

 私に見向きもせずに声をかけてくるスミレ。新鮮な反応にどこか心地良さを感じてもいた

 何を馬鹿なことを考えている私は


 ふとスミレを見ると窓の外へ目を向けていた

「デ、デーが気になるのか?」

 無理もない。殿下は誰にでも分け隔てなく話しかけてくださるので、惹かれる者は多い。見惚れる者も
 分かっていることなのに、なぜか面白くないムカムカとした気持ちになった
 何か変な物を食べただろうか


「あ、ちょっと髪の色がほんの少しですよ、あんなに綺麗な金色でないんですけど、似ていて、懐かしくて。」

 何でもないですと私に顔を向けた彼女の表情は物憂げで、吸い込まれそうな黒い瞳の奥には光の粒子がキラめいて見えた。欲しいと思った。

「恋人か?」

 不躾な質問をした自分に驚く
 咄嗟に言葉にでていた 

「兄…のような、とても頼りにしてた人です。こちらにおかけください。どうぞ」

「私が運ぼう」

恋人という返事ではなかったことに、ほっと安堵した
一体私はどうしたというのだ
別に恋人でもいいではないか

いや…


「何だ?アメ~もう尻に敷かれてるのか」

カップを並べてる最中に殿下が戻ってきた

「な、何を」

「ははは冗談だよ。アメがお茶をね~」

「淹れたのは彼女です。私は手伝ただけで」

「あ、そういえば名乗ってませんでした。私はスミレといいます」

「お嬢さんにピッタリな名前だ、そう思うだろアメも」

ありがとうございますと頬を少し染めて答える彼女にイライラする

「別に」

もう少し優しい言い方はできないのかと殿下の声が聞こえるが心がざわめく

いかん、これはきっと精神の鍛錬が足りないせいだ

鍛えねばとアルは心に決めるのだった
















しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

処理中です...