想っていたのは私だけでした

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翌朝、いただいたりんごの皮をむき、スープでも作ろうと起き上がる

隣の部屋へノックをするが返事がない
まだ寝ているのかもしれないが、様子が気になるので扉を開けた

「あれ?」

ベッドはもぬけの殻だった
椅子の上には毛布が綺麗に畳まれていた

ベッドの上に巾着が置かれてあり、中をのぞくと金貨が数枚入っていた

こんなにいただけないわ

スミレは、追いかける為に慌てて外へ向かおうとしたところを、中へ侵入してきた人とぶつかった

まだ、診療時間には早いはずだけど、急患なのかしら

尻もちをついた状態から立ち上がると、チャリンと金貨の入った袋が落ちた

頭の中に警鐘が鳴った

見た目で人を判断してはいけないけれど、明らかに人相の悪い男の人が立っていた

「金か?」

男は金貨の入った巾着に手を伸ばしていたので、横をすり抜けて外へ飛び出した

「あ、待てこら!」

追いかけてくる気配がする

「逃がすか!おいそっちに行ったぞ!殺すなよ」

物騒な言葉が聞こえる
やはり悪人なのね
泥棒か

「お嬢ちゃん、大人しくこっちにきな、ぎひひひ」

げひた笑いを浮かべる小柄な男の人が、正面に見えた

道を外れて山道に逃げ込んで走った

「おい!何してる!早く追え!」

「金のなる木を逃すかよ!」

人攫いだわ

助けて!誰か!

山道に入ってしまった為、村まで遠回りだ。逃げる前に捕まってしまう

近づいてくる足音

こわいこわいこわい

スミレは、ただただがむしゃらに必死で走った


*****
「ご無理はなさらないで下さい殿下」

「大丈夫だ。この通り、驚くほどに元気だ。あの娘には仮ができたな」

「本当に感謝してもしきれません。お礼をお伝えしたかったのですが…」

「ははは、なんだ、アル、お前あの娘が気になるのか?」

「殿下!そういうことではありません、あの娘は光の女神の申し子かもしれません。治癒魔法だけでなく影が見えてると」

「アルは、からかいがいがないな。真面目すぎると嫌われるぞ。あぁ、だからこそだ。お忍びとはいえ、面と向かえば聞かぬ訳にはいくまい。あまり知られてないが、黒い瞳を持つ光魔法の使い手は、女神の申し子。保護せねばいかんであろうな。
 だが同時に、自由は奪われて利用されるということだ」

「利用されるなどと、国の為に尽くすことは何よりの幸福です」

「私やアルにとってはな。だがあの娘にとってはどうであろうな」

「ですが、あのような辺鄙な所に」
「今までよく無事でいたものだな。アル、時折様子を見に行ってくれ」

「はっ仰せのままに」

「おっと~これはお綺麗な顔立ちの旦那方。うひひひ。金目のものとついでに旦那方も売り飛ばすと高く売れそうだなぁ。ぐわっ」

男が言い終える前にアルは一撃を与える

「アル、こらこら。人の話しは最後まで聞くものだよ」

「申し訳ありません。聞くに絶えなかったもので」

「ぐっそーついてない、こんなことなら治癒師の方へ行けばよかった」

「アルやめろ!おい!今、何と言った?」

「ぐぇっ!ゆ、ゆるしてくだせぇ!命だけは」

「今言ったこともう一度言え!」

殿下は痛みにもがく男に近づくと、胸ぐらをつかみ立ち上がらせ、剣を抜く

「はひ、ぐ、ぐそついてねぇと」

「違う!その後治癒師は?」

「えっと、治癒師の方へ行けば良かったと」

「どういうことかな?詳しく話せ!死にたいのか」

喉元に剣を突きつけられて、男は大人しくなっていた
治癒魔法使いの娘の評判を聞き、拐かし高値で売り捌くと言う計画を企て、決行中とのこと

「アル!彼女が危ない戻るぞ」

「殿下、この者はどうします?」

「あぁ、こいつはこうさ」

手を振りかざすと、男はその場から消え去った

「相変わらず恐ろしいお方ですね」

「ちょっと飛ばしただけだよ」

「どこへとは聞かないことに致します」


「急ぎましょう」

「無事でいてくれ」

****
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