3 / 32
1
2
しおりを挟む
それから数日が経った。
いつものように出稼ぎに行こうとガウェインを探すも、姿がない。
「ねぇ、エリック、ガウェイン見なかった?」
エリックはガウェインを兄のように慕う一人。いつも暇があればガウェインにくっついているのだけど。
「知らない。」
「え?」
「知らないよ!ぼ、僕のせいじゃない!ほんとに何も知らない!」
エリックは最初は聞こえないくらい小さな声だったのに、最後は叫ぶように大声を出して走り去っていった。
「ちょっと待っ…て…」
呼び止めようと伸ばした手だけが残されて、ため息と共にそっと手をおろした。
「はぁ。」
エリックはガウェインを慕う余り、ガウェインと仲良くする私を良く思っていなかった。
ガウェインにスーは似合わないとか、
ガウェインを独り占めするなとか、
どれもガウェインを慕うからこその言葉
だと聞き流していたけれど。
エリックからしたら、兄のように慕う相手が私のような何の取り柄もない女と仲良くするのは面白くないよね。
「居場所を尋ねただけなのに…」
「エリックを責めないでやっておくれ」
「え?院長先生。私…責めてなんて…」
いつも柔和な笑みを絶やさない院長先生が珍しく思い詰めた表情をしていた。
その雰囲気から何か良からぬことが起こったのだと察してしまう。
ドクンドクンドクンと心臓が早鐘をうつ。
きっとそれはガウェインのこと…
先程のエリックの態度といい、何かがあったのは間違いなさそう。
でも、どうか予想が外れていますように…
緊張から乾ききった唇をなんとか動かして、院長先生に尋ねることにした
「院長先生…ガウェインは…?」
最近足腰がめっきり弱ったと、コツンコツンと杖をつきながら院長室へと歩き出す。
ここでは話しにくい内容なのだろう。院長先生の後ろを黙って歩く。
室内に入り扉を閉めると院長先生は深々とソファーへと腰掛けた。私にも向に座るように促し、座ったのを確認するとゆっくりと説明をしてくれた。
「年長組は…スミレのみとなった…」
年長組はガウェインと二人だったはず。ということはガウェインは出ていったの?
院長先生の様子からガウェインは自分の意志で出ていったのではないはず。
だって、ガウェインは院長先生を残して出ていったりしない。
ガウェインは優しいから、もっともっと働いてお金を稼いで孤児院のみんなを守っていくと言っていたもの。
老いていく院長先生が孤児院の行末を危惧していたから、自分がずっとみんなを守っていくと約束していたもの。だから私も…
孤児院には時々魔力持ちの子も預けられる。魔力持ちの子は大体貴族の訳ありの庶子だが、魔力持ちは貴重なので養子に迎えられてここを出て行く。
魔力持ちでなくても、容姿が良かったり、覚えの良い子は養子に迎えられる。
こういう幼い子達を年少組。
ある程度大きくなった子を年長組と呼んでいる。年長組は働き口を見つけ、生活基盤を整えたら巣立って行く。
孤児院出身では働き口を探すのは難しい。自力で探すとなると、身元保証のいらない日雇いの仕事が主となる。
院長先生が尽力して就職先を見つけてくれたり、運よく住み込みで雇ってもらえたりすることもある。
だけどガウェインと私は孤児院に残り、ここを守っていこうと頑張っていた。出稼ぎにいき、給金を孤児院に持ち帰り過ごしていた。
それはこの先もずっと変わらない日常だと思っていたのに。
「ガウェインはな…エリックを守ったのじゃよ」
いつものように出稼ぎに行こうとガウェインを探すも、姿がない。
「ねぇ、エリック、ガウェイン見なかった?」
エリックはガウェインを兄のように慕う一人。いつも暇があればガウェインにくっついているのだけど。
「知らない。」
「え?」
「知らないよ!ぼ、僕のせいじゃない!ほんとに何も知らない!」
エリックは最初は聞こえないくらい小さな声だったのに、最後は叫ぶように大声を出して走り去っていった。
「ちょっと待っ…て…」
呼び止めようと伸ばした手だけが残されて、ため息と共にそっと手をおろした。
「はぁ。」
エリックはガウェインを慕う余り、ガウェインと仲良くする私を良く思っていなかった。
ガウェインにスーは似合わないとか、
ガウェインを独り占めするなとか、
どれもガウェインを慕うからこその言葉
だと聞き流していたけれど。
エリックからしたら、兄のように慕う相手が私のような何の取り柄もない女と仲良くするのは面白くないよね。
「居場所を尋ねただけなのに…」
「エリックを責めないでやっておくれ」
「え?院長先生。私…責めてなんて…」
いつも柔和な笑みを絶やさない院長先生が珍しく思い詰めた表情をしていた。
その雰囲気から何か良からぬことが起こったのだと察してしまう。
ドクンドクンドクンと心臓が早鐘をうつ。
きっとそれはガウェインのこと…
先程のエリックの態度といい、何かがあったのは間違いなさそう。
でも、どうか予想が外れていますように…
緊張から乾ききった唇をなんとか動かして、院長先生に尋ねることにした
「院長先生…ガウェインは…?」
最近足腰がめっきり弱ったと、コツンコツンと杖をつきながら院長室へと歩き出す。
ここでは話しにくい内容なのだろう。院長先生の後ろを黙って歩く。
室内に入り扉を閉めると院長先生は深々とソファーへと腰掛けた。私にも向に座るように促し、座ったのを確認するとゆっくりと説明をしてくれた。
「年長組は…スミレのみとなった…」
年長組はガウェインと二人だったはず。ということはガウェインは出ていったの?
院長先生の様子からガウェインは自分の意志で出ていったのではないはず。
だって、ガウェインは院長先生を残して出ていったりしない。
ガウェインは優しいから、もっともっと働いてお金を稼いで孤児院のみんなを守っていくと言っていたもの。
老いていく院長先生が孤児院の行末を危惧していたから、自分がずっとみんなを守っていくと約束していたもの。だから私も…
孤児院には時々魔力持ちの子も預けられる。魔力持ちの子は大体貴族の訳ありの庶子だが、魔力持ちは貴重なので養子に迎えられてここを出て行く。
魔力持ちでなくても、容姿が良かったり、覚えの良い子は養子に迎えられる。
こういう幼い子達を年少組。
ある程度大きくなった子を年長組と呼んでいる。年長組は働き口を見つけ、生活基盤を整えたら巣立って行く。
孤児院出身では働き口を探すのは難しい。自力で探すとなると、身元保証のいらない日雇いの仕事が主となる。
院長先生が尽力して就職先を見つけてくれたり、運よく住み込みで雇ってもらえたりすることもある。
だけどガウェインと私は孤児院に残り、ここを守っていこうと頑張っていた。出稼ぎにいき、給金を孤児院に持ち帰り過ごしていた。
それはこの先もずっと変わらない日常だと思っていたのに。
「ガウェインはな…エリックを守ったのじゃよ」
1
お気に入りに追加
368
あなたにおすすめの小説
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました
しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。
そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。
そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。
全身包帯で覆われ、顔も見えない。
所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。
「なぜこのようなことに…」
愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。
同名キャラで複数の話を書いています。
作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。
この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。
皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。
短めの話なのですが、重めな愛です。
お楽しみいただければと思います。
小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛せないですか。それなら別れましょう
黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」
婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。
バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。
そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。
王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。
「愛せないですか。それなら別れましょう」
この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる