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第六章 遊猟区域

92.ご機嫌な鉄拳制裁

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 ケランダットは城へ戻り、自室のベッドで横になり塞ぎ込んだ。
 起きて食事を取っただけだというのに、感情的になりすぎたせいですでに疲労が溜まっていた。少し時間を置いてから改めてベルトリウスと話をしようと思い、ひとまず一、二時間ほどの仮眠を取った。

 目を覚ましたケランダットはフポリリーの群生地へと向かった。ベルトリウスが潜り込んだはずのこの鬱蒼うっそうと茂る森のような場所は、どこを探しても人の気配など感じられなかった。

 よもや己に愛想を尽かしてどこかに去ってしまったのではないかと、ケランダットはのん気に眠っていた自分を呪いたくなった。
 もしかすると、また知らぬ間にエカノダと言い合いになって領地から追い出されたのかもしれない……ケランダットは居ても立っても居られず、急ぎ玉座の間へと駆けた。

 そうして顔を見せるなり怒鳴り散らしてくる部下に、エカノダは深々と溜息を吐いて要件を聞いた。

「何をそんなに憤慨しているのよ。空腹なの? それとも睡眠不足?」
「違うっ、あいつが消えたんだ!! どこへ行った!? またお前が殺しやがったのか!?」
「私は何もしてないわよ……ベルトリウスなら”仕事をしに行く”と言って、地上へ降りたわ」
「仕事っ……!? 一人で行かせたのか!? どうして俺を呼ばなかった!!」
「もうっ、私が命じたのではなくて自主的に降りていったの!! 私は放任主義なのっ! 個人の細かな活動までいちいち把握してないわっ! ……どうせまた喧嘩でもしたんでしょう? 何でもいいけど無関係の私に突っ掛かるのはやめなさいよね! ったく、お前達と来たら本当にりないんだから……!」

 エカノダから怒声を返されたケランダットは口端を下方にひん曲げ、チクチクと小言を刺してくるエカノダに背を向けて大股で歩きだした。
 口論の末に後を追おうとしなかったのは自分だが、だからといって一声掛けるくらいあってもよかったはずだ……。

 自室に戻ったケランダットは装備を解いてベッドに身を投げると、そのままふて寝した。



◇◇◇



 置いてきぼりを食らったと判明した日から、さらに数日が経過した。
 ”鍋が空になるまで”という、ベルトリウスのちょっとした一言さえ記憶に深く刻み付けていたケランダットは、律儀にスープを完食してから地上に降りた。

 降り立った先は、薄暗い洞窟どうくつの中に家具を運んだだけの狭苦しい部屋だった。
 目の前には蝋燭ろうそくが立てられたテーブルがあり、そのぼんやりとした明かりに照らされているのは、あちこちで探し求めていたベルトリウスだった。
 どこからくすねて来たのか、ベルトリウスは椅子に腰掛けて煙草をふかせていた。向かい側の席には、机上に広げた帳面に独り言を投げ掛けているコリッツァー盗賊団の副団長ムドーがいる。彼の姿があるということは、ここはガガラから移った盗賊団の新しいねぐらというわけだ。

 ベルトリウスは何もない宙から登場した己と目が合うと、無表情のまま視線を離さずに大きく煙を吐き出した。
 ケランダットは上手い挨拶が思い浮かばず、ただ立ち尽くしていた。そのうち集中していたムドーがふとこちらに気が付き、ガタンッ! と椅子ごと体をはねさせて驚いたように叫んだ。

「ドゥワ”ッ”―― !? あっ……あんたらなぁっ、揃いも揃って音もなしに突然現れんのやめてくれねぇかなあ!? 幽霊みてぇで心臓に悪ぃんだよっ!」
「ムドー、金を持ってこい。すぐに出発する」

 取り乱すムドーとは対照的に、ベルトリウスは淡々と”小遣い”の請求をした。
 盗賊団はこうして活動資金をせびるために生かしておいたのだ。それを理解しているムドーは渋々といった様子で返事をすると、テーブルの帳面を拾い上げて背後に空いた大穴……別室へと続く真っ暗闇の通路へと消えていった。


 二人きりの空間に、煙草をふかせる吐息だけが静かに響く。
 ケランダットは空いた席に座るでもなく、その場で直立したまま弱々しく尋ねた。

「どうして俺を置いて地上へ降りてるんだ……」
「どうしてって……あの流れで誘うわけねぇじゃん。お互いに気まずいだろ?」
「気まずくても誘えよ……」
「お前……あれだけ言ったのにまだ俺に付いてこようとしてんのか? すげぇな、相当変わってるよ」

 冷めた言い方で吐き捨てる割に、ベルトリウスの口元は緩やかに笑んでいた。しかし、これは明るい意味を持った笑みではない。呆れや侮辱を含んだ笑みだ。

 ベルトリウスは次にケランダットが発する言葉を待っているようだった。”謝罪”か”開き直り”か……彼の品定めをするような視線に焦燥感を煽られたケランダットは、とにかく思ったことを口にした。

「お前は……病気なんだ。俺が治す方法を探してやるから……それまで我慢しろ……何か方法があるはずなんだ……」
「はぁ? ………………―― ぐっ、はははははっ!!!! マジでヤッバいよお前っ!? 全然話通じねぇじゃん!! 俺に自分の意見を押し付けんな、”探してやる”って上から目線も気持ち悪ぃんだよ。意思表明とかしなくていいから。そういうのはてめぇの心ん中に仕舞っとけ自己満足野郎」
「……怒っ――」
「怒ってねぇから。いちいち聞くなボケ」

 ベルトリウスは依然笑みを作りながらも、明らかに苛立っている風に煙草をテーブルへグリグリと押し付けて火を揉み消した。
 ケランダットはまたも選択を誤ってしまったと全身から汗を噴き出しながら、ベルトリウスの機嫌を取り戻そうと、何とか喜びそうな話題を絞り出した。

「スープ……全部食べてきたんだ……だからこんな遅くなっちまって……」
「だから何だ? まさか褒めてほしいわけじゃねぇよな? お前は話に脈絡がねぇんだよ。今ならあの高圧的な父親の気持ちが分かる。こんな馬鹿正直な愚図が息子だと、腹いせに当たり散らしたくもなるさ」

 ……倍の悪口となって返ってきた言葉に、ケランダットはじんわりと目鼻が熱くなるのを感じた。大の男が続けざまに泣きっ面を晒すわけにもいかないので諸々の液体を垂れ流すのはこらえたが、静まり返る場所では抑え気味にすすった鼻の音すらかなり鮮明に聞こえてしまい、それがまたベルトリウスを苛立ちを助長しているのではないかと、顔の角度が自然と自身の足元へと落ちていった。


 両者共に押し黙る時間が続く……するとベルトリウスは深い息を吐いた後に、ビクリと肩を揺らすケランダットに向かって、打って変わっての落ち着いた声色で語り掛けた。

「……でも偉いな。残すのは俺に悪いと思って、何日もかけて食ってきたんだろ? 作った甲斐があったよ。お前のこと馬鹿正直だってののしったけど、そういう愚直さがお前のいいところだと思うぜ。人間、少しぐらい欠点がなきゃ可愛げもねぇってもんだ」
「ベっ、ベルぅ……!! おっ、おれっ、迷ったんだっ、すぐに追おうかどうかっ!! でも全部食べろって言われてたしっ、それで遅れるのと残すのとどっちがお前を怒らせるのかって考えてっ……でもっ、これでよかったんだよな!? 怒ってないんだよなっ!? よかった、おれっ―― ……ぁっ! また怒ってないか聞いちまった! ごめんおれっ……!」

 フッと表情を緩ませたベルトリウスを見て頭の中で何かが弾けたケランダットは、お互いを隔てるように開いていた物理的距離を一気に詰め、着席していた彼の肩を鷲掴んで無理矢理に立ち上がらせた。

 極度の緊張から緩和に切り替わる瞬間というのは、薬物がもたらす解放感に似ている。
 一瞬で気分が最高潮に達してしまったケランダットは、興奮に突き動かされるがままにベルトリウスの体を自身の方へ引き寄せた。
 ベルトリウスは苦笑いしながら上体を後方へそらせると、圧迫感の増すケランダットを見上げて言った。

「そう興奮するなよ、別に気にしちゃいない……こないだも言っただろ? 付いてきたきゃ付いてくればいいだけの話だ。お前のしたいようにすればいい。……俺達はこれでいいんだ。お互い上手くやってる。そうだろう?」
「ぁっ……そ、そうだな……俺達は……これで上手くいってる!! や、やっぱりお前って優しいやつだなっ……! 俺は分かってるんだっ、他の奴らはお前のことを悪く言ってるがっ、お前は俺が今まで出会った人間の中で一番いいやつだっ……! だからっ……気を落とすなよっ!? おれっ、俺は分かってるからっ……!」
「……お前も、いいやつだよ」


 ”都合の”。


 ……そう心中で呟かれているなど露知らず、ケランダットは安堵から顔をほころばせ、肩を掴む手に一層の力を込めた。


 この二人のやり取りを暗い通路から覗いている者がいた。
 コリッツァー盗賊団の団長、タラハマである。

 タラハマは人相の悪い面をさらにしかめて二人の元までやって来ると、それぞれを交互に見てから迷惑そうに口を開いた。

「出発前に大事な話をしときたくて来たんだが……痴話喧嘩ならここを出てってからにしてくれねぇか?」
「いい度胸だなタラハマ! よしっ、適当な団員を一人殺そう!」

 ベルトリウスは眉間にシワを寄せたとびっきりの笑顔を見せると、肩を挟み込む大きな手をはたき落として命知らずな盗賊のかしらに向かい合った。
 茶化すように”ン?”と片眉を上げて二人を嘲笑するタラハマに、ケランダットからも強烈な殺気が放たれる……だが、そこは流石に場馴れした賊のおさと言うべきか。ピーピーと喚いていた男の威圧など物ともせず、タラハマは下働きさせられているお返しだと言わんばかりに、ベルトリウスに向けて続けた。

「違うのか? ねぐらの外でなら、どんだけ仲良くしてもらっても文句は言わねぇぞ?」
「お前って堅物そうに見えて意外と冗談考える人間だったんだな! つまらねぇから二度と口にすんなよ? 次に俺に軽口利きやがったら、てめぇに指名させた団員を全員の目の前で破裂させてやるからな」
「ハハッ……悪かったよ。俺らも早くテメェらに消えてほしいからよ、さっさと仕事の話を進めようや」

 タラハマは上辺だけの謝罪を入れ、先程ムドーが腰掛けていた席にドカリと座り込んだ。
 合わせてベルトリウスもわざとらしく音を立てて自分の椅子に座る。他に空いている席がないので、ケランダットは相棒の後ろで直立して控えることにした。

「言うほど大事な話じゃなかったらてめぇの頬骨ほおぼねぶん殴って粉々に砕いてやるからな」
「そうピリピリするな……実は頼みがあるんだ。オメェ魔物なんだろ? 今いるこの洞窟は仮住まいでな、今度別の場所に拠点を移そうと思ってる。”ボーロー”って名の森だ。適度な間隔で街や村が点在していて色々と都合がいいんだが、そこがどうも恐ろしい魔物の住処らしくてな。代わりに対処してくれないか?」

 思いのほかしっかりとした頼み事に、ベルトリウスは不機嫌もそこそこに真面目に取り合うことにした。

「魔物ねぇ……別にいいけど、そいつに関する情報くらいはそっちで集めとけよ」
「もう集めてある。最寄り村の住民の話じゃ、そいつは上半身が牛、下半身が人間でできた奇妙な体をしてるらしい。この地方では大型の牛のことを”ユー”って呼んでてな、ボーロー森に住む大牛ユーだから、”ユー・ボーロー”っつー呼び名が付けられてる。少なくとも百年以上前から森をうろついてるそうだ」
「そんな面倒な魔物がいんなら、別の潜伏先を探せよ」
「言っただろ、立地がいいんだ。ボーロー森はユー・ボーローがいるお陰で国の騎士団ですら避けて通る場所なんだ。隠れ家にこれほど適した土地はねぇ」
「そんなヤベぇのがいんなら、どうして近場に街や村が存在してる?」
「ユー・ボーローは森から出られねぇんだ。昔の討伐隊が倒し切れずに封印だけしてったらしい。生涯森に縛り付けられることとなったユー・ボーローは余計に気性が荒くなり、特に二足の生物が奏でる足音に敏感になっちまったとかなんとか……侵入者は森に足を踏み入れた瞬間、どこからともなく駆け付けた大牛ユーに八つ裂きにされちまうんだとよ。本当かどうかは知らねぇがな。とにかく、んな物騒な相手はオメェに任せたい。人間相手なら俺達でどうともなるが、魔術師ですら始末できねぇ凶暴な魔物となると話は別だ」
「ふーん……いいだろう。その牛の魔物は俺らでどうにかしてやる。問題を解決したらまたここに来る」
「ああ、頼んだぞ」

 二人が建設的な会話を終えると、ちょうど機を窺っていたかのように通路の闇からムドーがひっそりと現れた。

「大将、金の確認をお願いします」
「あぁ? 適当な額でいいっつったろうが。余計な手間取らせんな、いいからこっちに持ってこい」
「いやぁ……でもあんた、あとでいちゃもん付けてきそうですし……」
「付けねぇよ、ったく面倒くせぇなぁ……どうせすぐ戻ってくるからお前はここで待ってろ」

 ヘラヘラと苦笑いしながら話すムドーにぼやきつつ立ち上がると、ベルトリウスはケランダットに一言告げて部屋を離れた。
 当然の如く後をついていこうとしていたケランダットは、金の髪が消えていった暗い穴をぼーっと見つめていた。



 タラハマは着席した状態から、正面に立つ陰気な大男の顔を覗いていた。
 ムドーに命じて二人を引き離させたのはタラハマだった。タラハマはどうにかしてベルトリウスとの力関係を解決したかった。そこで目を付けたのが、ケランダットだ。
 ムドーらから彼が魔術を使用するという話を聞いていたタラハマは、彼を味方に付ければいくらか有利な手を取れるのではないかと考えた。二人のやり取りを盗み見して思ったのは、ケランダットは何かしらの弱みを握られて言うことを聞かされているのではないかということだ。

 ベルトリウスさえ片付けてくれれば、用済みになったこの男は隙を突いて始末すればいい。元は敵同士であったのだし、切り捨てるのも容易いものだ……タラハマはなるべく自然な調子で話し掛けた。

「オメェ、どうしてあいつに従ってんだ? 脅されて仕方なくか? まぁ、そうでもなきゃ必死に機嫌を取るはずもねぇか……」
「……」
「もし居場所を求めてるなら、うちに来い。強い奴は大歓迎だ」

 ケランダットは体を石像のように静止させたまま、視線だけをこちらに向けた。
 無言でじっと見下ろしてくる純黒の瞳が何を考えているのかは全く不明であったが、一つ確かなことは、彼がタラハマにちりほどの価値も感じていないということである――。

「使い捨てのドブネズミが俺に気安く話し掛けるな」
「あ”あ”? テメェ下手したてに出りゃイイ気になりやがって……若造にいいように扱われて恥ずかしくねぇのか? ああ? 図体だけの木偶でくぼうが」
「その木偶の坊を勧誘したのはどいつだ? わざわざ自分より力の劣るカス共とつるむ物好きがいるか。 黙って金集めに没頭してろ、使いっ走りが」
「……一人だと随分口達者じゃねぇか。ご主人様の前じゃ照れてお喋りもできなかったか?」

 引き入れる見込みがないと分かったタラハマは、こめかみに青筋を立てながらケランダットに喧嘩を売り始めた。いや、売ったのはケランダットの方からであるが……睨み合いが続く中、あっという間に金の受け取りを済ませたベルトリウスが、ムドーを連れて部屋に戻ってきた。

「俺の友達はお前のことが嫌いだとさ。当てが外れちまったなぁ、タラハマぁ?」

 楽しげにくつくつと喉を鳴らす青年は、タラハマの狙いなどお見通しのようだった。ベルトリウスは仲間が勧誘されると分かっていて、わざと席を外したのだ。タラハマは奥歯を強く噛み締めながら、見えない場所で握りこぶしを震わせた。
 ”行くぞ”と声を掛けられたケランダットは、タラハマの横を通り過ぎる瞬間に一瞥すらくれなかった。言い負かされたような終わり方が気に入らなかったタラハマは、大きな背中に向けて捨て台詞を吐いた。

「おい、首紐くびひも引っ張られて簡単に引き下がっちまうのか? 意気地のねぇダサ坊が」
「お前もいい加減に諦めろ。こいつは魔術師なんだぞ? おまけにキレやすくて俺でも止められない時がある。下っ端連中に自分の死体処理をさせたくねぇなら、無闇に刺激すんな」

 本命に背を向けられたまま……振り返ったベルトリウスにたしなめられたタラハマは特大の舌打ちをかまし、冷や汗をかくムドーと共に、去る二人の後ろ姿を見送った。





 ……湿っぽい地下通路をある程度進んだ所で、ベルトリウスは隣をゆく相棒をチラリと見上げた。
 夜目の利く魔物には、暗闇の中でもその憤怒にまみれた表情がよく見て取れた。自分に対しては情けないほど弱々しい一面を押し付けてくるくせに、格下の人間相手となるとああも強気に出られるのかと、呆れを通り越して感心した。

「お前本当すげぇよ……ダセぇ泣きっ面見られた相手によく喧嘩吹っ掛ける気になれるな……」
「俺はダサくねぇよ”っ……!! ダセぇのはあの野郎だろ”っ!? たかだか金の管理のために生かされてる三流の盗賊風情がっ”、魔術師である俺をこけにしやがってっ”……あ”あ”んのクソったれぇ”ぇ”ぇ”ッ”!!!! 用済みになりゃ俺が細切れにしてや”る”っ……!!!!」
「ふはっ! やばっ、お前キレすぎじゃん? 珍しく冷静に言い返してたから見直したんだけど、いまいち決めきれねぇ奴だなぁ……」
「斬り掛からなかっただけマシだろ”っ”……!! クソっ”、あのドブの顔を思い出させんな”っ”……!!」

 最近何をしてもベルトリウスから駄目出しを食らうので取っ組み合いだけは避けたというのに、やはり駄目出しを食らってしまったケランダットは、そばにあった硬土の壁を思いきり殴り付けた。
 己の中でどうにか感情を自己完結しようとしている……ケランダットにしては比較的怒りが制御できている点を評価したベルトリウスは、自分が抱くタラハマへの鬱憤うっぷんらしも兼ね、ある提案を持ち掛けた。

「タラハマに嫌がらせしたいか?」
「してぇに決まってんだろっ”!!!! お前に叱られると思って我慢してるだけなんだよお”れ”はあ”あ”あ”っ”!!!!」
「していいぞ。次に会った団員をボコっちまえ。あいつ俺に対してもちょっと舐めてる節があるからな、態度を改めさせるいい機会だ」

 ベルトリウスの言葉に、ケランダットは思わず足を止めた。
 タラハマは団員を守るために下働きに甘んじている男だ。本人を傷付けるよりも、部下に手を出した方が痛手を与えられるのは間違いない。ベルトリウスは仲間意識の強い人間の弱点というものを心得ていた。

 わなわなと全身を震わせていたケランダットは少しばかり冷静さを取り戻し、何か考えるように口をつぐんでから、ベルトリウスをじっと見つめて言った。

「……ボコった後に俺に文句を言うんじゃねぇだろうな?」
「言わねぇよ。その代わり殺すなよ? 剣も術も使用禁止だ。素手で半殺しにしろ」
「……そうか……じゃあいいか……」

 そう呟くと、ケランダットは出口付近で見張りをしていた団員を背後から襲い、原型がなくなるまで顔面を殴打した。
 他にもう一人いた見張りが止めに入ると、その団員もまとめて叩きのめしてしまったケランダットは血で汚れた拳を誇らしげにベルトリウスに見せつけながら、すっきりとした表情で共に洞窟を後にした。
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