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第四章 選抜・熱湯昂死宴!
70.面倒くさい奴だな!
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「骨が中で粉々に砕けています。一度腕を切開して微細な骨を取り除き、再生術を施して元に戻すという治療法もございますが……もし見逃した骨がある状態で肉を閉じますと、残った欠片が何年後かに血管を傷付けて壊死に繋がるという可能性もありますので、今後の生活を考えると切断してしまうのがよろしいでしょう」
医師はベッドの上のケランダットを見下ろして告げた。
腕を破壊されたケランダットを担いだイヴリーチは、エイレンと共に地上のガガラの城へと舞い戻っていた。
城内には競売の後片付けのために使用人やジョイ商会の関係者があちこち徘徊しており、イヴリーチは騒ぎを起こさないよう、まずはミェンタージュに化けたエイレンに先んじて動いてもらい、使用人に話をつけて空の客間を用意してもらった。
人払いのされた上階の角部屋へケランダットを運ぶと、エイレンには続けて医師の手配を頼んでもらった。そして深夜にもかかわらず診療を始めさせられたのが、このアラスチカ家お抱えの初老の医師であった。
駆け付けた医師は戦地帰りのように身なりの悪いケランダットと高貴なミェンタージュの関係性に疑問を抱いている様子だったが、気を利かせたエイレンが、”先生は余計な勘ぐりをなさらないので助かります”と牽制したお陰で、大人しく診察へと移ってくれた。
しかし、見るも無残に変形してしまった右腕を前に、医師が提案できるのは”切断”という無慈悲な選択だけだった。
「少し本人と話をさせて。わたくしの恩人ですの。せめて本人の意向を聞いてからにしたいわ」
「分かりました。この状態の人間がまともに会話できるとは思いませんが……なるべくお早めの決断を。今のまま放置していると、最悪死も考えられますから」
「ええ、分かりました」
「それと、施術には公の許可が必要なのですが、今どちらにおいでですか?」
医師の問いに、部屋の隅に置かれた家具の裏に隠れていたイヴリーチは内心ドキリとした。城主であるパジオと城仕えの魔術師のショーディーは殺してしまったからだ。現時点で誰も問題視していないのが奇跡だとイヴリーチ自身思っているところであるが……痛い部分を突かれようと、エイレンは優雅さを欠かず冷静に対応した。
「お父様なら急用により、ショーディーを連れてお出掛けになられましたわ。わたくしが望んでやってもらったことなら術後の報告でも気になさらないでしょう」
「それならいいのですが……では、今度こそ失礼いたします。下の階に控えておりますので、そちらの方とのお話が済み次第お呼びください」
「ええ、ありがとう」
一礼して退出した医師の熱反応が遠くへ消えるのを確認すると、イヴリーチは縮こまっていた体を大きく伸ばしてケランダットがふせるベッド際まで移動した。
「グッ……ゥ”……ッ!!」
「どうしようっ、私のせいだよねっ……わ、私のせいで、おじさんがっ……!」
「イヴのせいじゃないよ! 死なないだけマシなんだから、早くお医者さんに腕を切ってもらおう?」
泣きつくイヴリーチの背を優しく撫でながら、エイレンは平坦な声で言った。
イヴリーチにとってケランダットは短い人生の中で出会った信頼の置ける貴重な大人の一人であったが、エイレンからすれば”大事な友を傷付けた悪”という認識でしかなく、両者の助けたいという気持ちには温度差があった。正直なところ、苦しみ抜いて死んでしまえばいいとさえ思っているエイレンの濁りきった考えを見据え、ミェンタージュを吸収してからの彼女の思考の変化を嘆きつつも、イヴリーチは湧き上がる感情を堪えきれなかった。
「どうしてそんな酷いこと言うの!? 仲間に悪いこと考えるエイレンなんて嫌いだからねっ!!」
「ウエェーーーーッ!? やだやだごめっ……い、今のはナシだよぉ!! ななななんとかして助けるからっ、きらいにならないでねっ!?」
目尻に涙を浮かべてキッと睨んでくるイヴリーチを見て、”やってしまった”と数秒前の自分を呪ったエイレンは、以前の幼い口調に戻ってしまうくらい慌てに慌てた。
しかし、助けると言えど、助かる方法は腕の切断しかないわけで……如何に言葉を選んで愛しの少女をなだめるか悩んでいると、部屋の外のバルコニーから”コンコンッ”、と大窓を小突く音が届いた。
城に仕える者なら外からやってくる必要はないし、まず地上から二十メートルは離れたこの部屋に到達する術もないだろう……ともすれば、侵入者だ。イヴリーチとエイレンは警戒を強めた。
だが窓の外の相手は一向にガラスを小さく叩く以外に何もしてこないので、戦闘に適しているイヴリーチが前へ出て、閉じられていたカーテンを開けた。
そこには地獄より降り立ったベルトリウスと、彼より一回り体の大きな見知らぬ魔物の姿があった。
「違う部屋だったらどう誤魔化そうかと思ったが、当たりで何よりだ」
「そんなっ……!? ほっ、本当にっ、おにぃ……ちゃ…………」
追放されたと聞いていたベルトリウスとの再会に笑顔を弾けさせて喜んだイヴリーチは、はためくカーテンの向こうにある肉体が何の衣服も纏っていないことに気付き、サッと顔を背けて恥ずかしさのあまり一人頭を火照らせた。
固まってしまったイヴリーチに代わってエイレンが窓の鍵を開けると、ベルトリウスはへらりと笑って部屋の中へとお邪魔した。
「いやーごめんごめん、こんな格好で。俺も色々大変な目に遭ってさぁ……とりあえず何か適当な服を貰えないかな?」
「……そっちにあの男に用意した分の着替えがあるから、使えば」
「どうも」
明らかに歓迎していないであろう、無愛想にソファーを指差すエイレンに人好きのする笑顔で返すと、ベルトリウスはいそいそと着替えを始めた。後に入ってきた面識のない新参者……オイパーゴスは、”ホエ~”と間の抜けた声を出しながらキョロキョロと内装を見回していた。
ベルトリウスが城仕えの兵士に支給される良くも悪くもない質の服を身に着け終えると、動作音で察したイヴリーチはようやくこちらを向き直り、視線を合わせてくれた。黒い鱗にやや赤みを残した彼女は、恐る恐るといった風に小さな口を開いて尋ねてきた。
「お、おにいちゃん……帰ってきたってことは、エカノダ様と仲直りしたんだよね……?」
「あぁ、もう万事解決だ。俺もエカノダ様も大人だからね。お互い譲歩して、すっかり元の鞘さ。ここに来たのだってエカノダ様からの指示なんだ」
あっさりと答えるベルトリウスを見て、イヴリーチは心の底から安堵したような深い溜息を吐いた。しかし横から聞こえた呻き声にすぐに表情を曇らせると、ばつが悪そうに顔を上げた。
「あのね、おじさんが……」
「それも聞いてる。いやー、俺って本当に間がいい男だよ。ちょうど役に立つ奴を連れてきたんだ」
そう言ってベルトリウスは部屋を観察していたオイパーゴスに手招きをし、自己紹介するように促した。
「ヤホヤホ。ワシ、オイパーゴス。成り立てホヤホヤのお仲間ちゃんやで。仲ようしてな」
「えっと……どうも? イヴリーチです……」
「……」
「……こっちはエイレン。ごめんなさい、少し警戒心の強い子なの」
「ええよ、ええよ、ンナ堅苦しくせんでええ。イヴリーチちゃんにエイレンちゃんな。オッちゃん覚えたで。ほな早速、そこで寝とる子を治したろうかいな」
オイパーゴスは子供好きの老人のように穏やかな声色で挨拶すると、ベッドの上で酷い汗をかきながら震えているケランダットに向き合った。
全長三メートルほど……人間より幾ばくか大きな体躯を窮屈そうにかがませると、オイパーゴスは事前に聞いていた患部である右腕に顔を寄せ、仮面の下から伸びた触手の群れで上着ごと飲み込んでしまった。
ジュルジュルジュルと、生え揃った多量の触手がそれぞれ忙しなく揺れ動き、まるで液体を吸い上げているような不気味な音を立てる。これがオイパーゴスの治療風景だった。口部と臀部に生えた触手から排出される分泌液には彼の誇る肉体を再構築させる力が備わっており、触れた瞬間に表面から深層まで届く特殊なつくりになっていた。対象の大きさに伴い処置に要する時間も増すが、今回のように一メートルにも満たない人間の腕部くらいならば数十秒で完治させることができた。
「ジュルジュルジュルジュル…………ン。ま、こんなもんやろ」
ヌチャリと締めの音を立てて触手を離したオイパーゴスが言うので、ベルトリウスは濡れた袖口を捲ってみた。するとそこには、骨折どころか古傷一つない傭兵らしからぬ綺麗な腕が伸びていた。
”おおっ!”と歓声が上がると、オイパーゴスは仮面の下の目をニッと細めて得意げに胸を張った。
「見てみぃ、ワシの能力! へん曲がっとった腕がピッカピカの元通り! 素ン晴らしぃーやろ!」
「すごい……本当に腕が治ってる!!」
「確かにすげぇが……俺の時もそうやって体中舐め回したってことだよな? なんだか全身がむず痒くなってきたぜ……」
感激するイヴリーチの一方で、ベルトリウスは眉をひそめて体のあちこちをボリボリと掻いた……。
◇◇◇
四匹の魔物が見守る中、折れ曲がった腕が元に戻ったはずのケランダットは未だ唸りを上げて体を震わせていた。
息は浅く荒く、青い顔色もそのまま。
ベルトリウスが汗を垂れ流す額へと手のひらを当ててみると、温度に鈍感になった皮膚越しにでも分かるくらいに、ほんのりと熱を感じられた。
「これ本当に治ってんのか? まだ熱が残ってる気が……」
「ウーン……ワシが今まで治してきた魔物は見た目が戻っとれば追随する内側の病も漏れなく消えとったんやけどなぁ……この子だいぶ脆いみたい。ま、しばらく寝とったらなんとかなるやろ! 患部は完全に修復されとるワケやし、あとは大人しく待つノミ!」
「はぁ……まぁ、回復してんならいいか。次の仕事を命じられてるわけでもないし、しばらくは自由行動だな。皆お疲れさん。地獄に戻るなり地上でふらつくなり、各自で好きに過ごそうぜ。俺も息抜きしてくるわ」
ベルトリウスの言葉にエイレンとオイパーゴスは賛成の頷きを返したが、この状況を生み出したことに負い目を感じていたイヴリーチはためらいがちに尋ねた。
「おじさんまだ苦しそうにしてるのに、私達だけ休んじゃっていいのかな……?」
「いいよ、いいよ、熱なんて放っといたら治んだから。そばにいても冴えないおっさんの寝顔眺めてるだけだぜ? 時間は有効に使え」
「でも……」
「そうだよイヴ、せっかくだから言われた通りにしようよ。あとは起き上がるのを待つだけなんでしょう? じゃあいいじゃない! ねっ、ミェンタージュの部屋を探検しようよ! あの子何個も自分のお部屋を持ってたみたいなの! 綺麗な宝石とか服がいっぱい集めてたみたいだからさ、見て回っちゃおうよ!」
「……そうだね。隣でお喋りしてる方が寝てる人の邪魔になっちゃうよね。ここはお言葉に甘えて、休ませてもらおうかな……」
「えへへっ、やったー! 行こう行こうー!」
エイレンは声を弾ませると、イヴリーチの手を取って無邪気にステップを踏みながら扉へ向かっていった。しかし何かを思い出したように一度鱗の付いた手を離すと、視線を集める中、独りベルトリウスの元まで足を引き返した。
「……この部屋は好きに使っていいけど、出入りするところを城の人間に見られないでね。一応私が呼ばない限りはこの階に足を踏み入れないように伝えてあるけど、外壁伝いには兵士が巡回してるから敷地外へ出掛けるつもりなら注意して。とにかく、これ以上イヴを心配させないで。呼んでた医者は帰らせるから……あと――」
エイレンはベルトリウスの肩に手を乗せ、引き寄せるように体をかがませた。そして耳元に唇を寄せ、二人だけにしか聞こえない小さな声で囁いた。
「あなたもあの男も死ねばよかったのに」
ベルトリウスが驚いたように目を見開いて顔を離すと、エイレンは一変して朗らかな笑みを浮かべ、不安げに見つめるイヴリーチの手を再度引いて部屋を出ていってしまった。
エイレンに嫌われる覚えがない……と思っているベルトリウスは、耳に残る冷たい一言に首を傾げた。
「……なんで俺嫌われてんの?」
「ほな、ワシは領地に戻ろうかいな。あの嬢ちゃんには聞いときたいことがあるし、地上を楽しむのはまた今度や」
「おー、分かった……念の為クリーパーは街の外で呼んでくれ。あんまり近い場所だと地鳴りで人が騒ぐかもしれねぇからな」
「ホイホイ。ンじゃ、サヨナラさん」
オイパーゴスはバルコニーに出ると、辺りに人がいないか確認してから自前の羽を広げ、夜空へと飛び立っていった。
夜通し夜街で過ごそうと考えていたベルトリウスも後に続き窓から出ていこうとすると、背後から呻きに混じって力のない低い声が聞こえた。
「ベル……ベル……ッ!」
縋るように初めて自分の名を呼んだベッドの住人は意識が朦朧としているようで、どこにいるか分からないベルトリウスを探すように治ったばかりの腕を必死に伸ばして宙を掻いていた。
普段気取っているくせに、よくよく情けない姿を晒す奴だとこみ上げてきた笑いを隠さず近寄ってみると、ケランダットは虚ろな目でそばに立つベルトリウスを見つめた。
「くくっ……なんだよお前、こういう時に名前で呼ぶとか狙いすぎて気持ち悪いよ。もう意識が戻ってきたんなら、熱もあっという間に下がっちまうかな?」
「ぃ……きてる……のか……? ほんもの……か……?」
「本物じゃなかったら何者だってんだよ。ちょっくら街フラついてくっけど欲しいもんある? 何か食い物でも買ってきてやろうか?」
ベルトリウスの問いにケランダットは唸りながら体を起こそうとしたが、骨折によりかなりの高熱を発していたので上手く力が入れられず、すぐに上体から崩れてしまった。それでも懲りずに起き上がろうとしては失敗を繰り返すので、見兼ねたベルトリウスが押さえ付けるように寝かすと、ケランダットはその肩に掛かった手を掴み取って悲痛に訴えた。
「いっ、いくなっ……ひとりにしないでくれっ……!」
「うわっ……お前それはかなりマジっぽいぞ? あんだけカマ野郎は嫌いだとか騒いでたくせに、自分の方がよっぽど……ォ”ア”ッ”!?」
ケランダットはげんなりしたように言うベルトリウスの指を乱暴に握り直すと、持てるありったけの力で手の甲側へ押し曲げた。ベルトリウスは慌てて絡み付いた太い指を解こうとしたが、こういう時に限って異常な頑張りを見せるこの陰気な男は、”ピキッ、ピキッ”と嫌な音を出す指にさらにねじりを加え、自身が横になるベッドの方へと引っ張った。
「ここにいろっ!! なっ、なんでおまえのせいでこんなひどい目にあってるのにっ、どうしておれを見捨てるようなまねをするっ!?」
「見捨ててねぇだろうがっ!! ちょっ、指もげるから一旦手ぇ離せ!! ちょっと痛い”っ、ちょっと痛い”からっ!!」
「おっ、おれはひとりでよかったのにっ、おまえのせいで戻れないのにっ……どうしておれを突き放すんだ……う”ぅ”ぅ”……!! ”穢れ”――」
「あ”ぁ”ーーーーーーっ!? バッッカッ、やめろっ!!」
涙と鼻水と汗で顔面をぐちゃぐちゃに荒らしたケランダットは、あろうことか浄化の魔術を展開しようとした。ベルトリウスは相手が病人ということを考慮し、極力加減したげんこつを一発こめかみにお見舞いした。だがいくら力を抑えたとはいえ、魔物と化した肉体から繰り出される一撃は高熱にうなされる人間にとっては充分に手痛いものだった。
ゴンッと重い音と共にベッドに沈んだケランダットは、ずっと震わせていた体を幼児のように丸めて嗚咽を漏らし始めた。
「ひグッ”……なぐっだな”ぁ”……? がらだじゅうい”でぇ”のに”……もっどい”でぇ”……フッ”、ぅ”ぅ”……っ!!」
「うるせぇこのイカれ野郎っ!! まだ頭に薬が回ってんのかぁ!? 魔術使って焼き殺そうとしたくせに軽くド突き返されただけで済んでマシだと思えよ!? 人の痛みを知れっ!! ったく……!」
頭を抱えぐずぐずと泣いて非難してくるケランダットに苛立ったベルトリウスは、いびつに空を向いてしまった自身の人差し指と中指を反対の手で掴み、無理矢理折り直して形を整えながら罵りを返した。
ベルトリウスは体を丸めたケランダットの襟ぐりから覗く赤い線に目をやった。着込んでいた軽鎧を脱がせられ、袖や裾から素肌が見えるようになったケランダットの肉体には、いくつもの真新しい引っ掻き傷や切り傷が見受けられた。戦闘で負ったものではない、明らかな自傷跡だった。
ベルトリウスが薬物中毒者を相手するのはこれが初めてではない。盗賊時代の部下にも同じような症状の者はいた。彼らは共通して薬の効果で段々と気性が荒くなっていき、最終的には親しい仲間にすら因縁を付けて問題を起こすようになる。あの頃は再三の注意も聞かなくなれば見切りを付けて別の部下に始末させていたが……とにかく、一度薬物に手を出してしまった者はそう簡単に抜け出せないと心得ていた。心傷の原因を振り払ったところで全てが元通りになるわけではない。ケランダットもそうなのだ。
「はぁ……萎えちまった……俺の負けだ……女はまた今度にするよ……」
やれやれと首を横に振ってマットレスに腰掛けたベルトリウスは、膝まで下がっていた厚手の掛布をケランダットの肩が隠れるまで掛け直してやった。そのまま慰めるように震える体を何度も撫で、暴力を振るった直後とは思えないほど優しい声色で語り掛けた。
「寒いならエイレンに言って毛布を持ってきてもらおうか?」
「ぃ”っ……い”らない”っ……ごごにい”ろ”っ……!」
「はいはい……いい年してみっともねぇ声出すなよ情けねぇ……つーかお前、今更だが酷ぇ格好だな。血と汗で肌はベッタベタに黒ずんでるし、髪なんか束になって固まってる上にフケだらけだぜ? くくっ……よくこんな高ぇベッドに寝かせてもらえたな? ついでに城で世話になってる間に湯浴みくらいさせてもらえよ。この鬱陶しい長髪も切っちまえ」
実際汚れの塊ともいえるケランダットの髪を平気な顔でひと束摘まみ上げて笑うと、ベルトリウスは涙に暮れる男が眠りに落ち着くまで枕元で甲斐甲斐しく恨み節に相槌を打ってやるのだった。
医師はベッドの上のケランダットを見下ろして告げた。
腕を破壊されたケランダットを担いだイヴリーチは、エイレンと共に地上のガガラの城へと舞い戻っていた。
城内には競売の後片付けのために使用人やジョイ商会の関係者があちこち徘徊しており、イヴリーチは騒ぎを起こさないよう、まずはミェンタージュに化けたエイレンに先んじて動いてもらい、使用人に話をつけて空の客間を用意してもらった。
人払いのされた上階の角部屋へケランダットを運ぶと、エイレンには続けて医師の手配を頼んでもらった。そして深夜にもかかわらず診療を始めさせられたのが、このアラスチカ家お抱えの初老の医師であった。
駆け付けた医師は戦地帰りのように身なりの悪いケランダットと高貴なミェンタージュの関係性に疑問を抱いている様子だったが、気を利かせたエイレンが、”先生は余計な勘ぐりをなさらないので助かります”と牽制したお陰で、大人しく診察へと移ってくれた。
しかし、見るも無残に変形してしまった右腕を前に、医師が提案できるのは”切断”という無慈悲な選択だけだった。
「少し本人と話をさせて。わたくしの恩人ですの。せめて本人の意向を聞いてからにしたいわ」
「分かりました。この状態の人間がまともに会話できるとは思いませんが……なるべくお早めの決断を。今のまま放置していると、最悪死も考えられますから」
「ええ、分かりました」
「それと、施術には公の許可が必要なのですが、今どちらにおいでですか?」
医師の問いに、部屋の隅に置かれた家具の裏に隠れていたイヴリーチは内心ドキリとした。城主であるパジオと城仕えの魔術師のショーディーは殺してしまったからだ。現時点で誰も問題視していないのが奇跡だとイヴリーチ自身思っているところであるが……痛い部分を突かれようと、エイレンは優雅さを欠かず冷静に対応した。
「お父様なら急用により、ショーディーを連れてお出掛けになられましたわ。わたくしが望んでやってもらったことなら術後の報告でも気になさらないでしょう」
「それならいいのですが……では、今度こそ失礼いたします。下の階に控えておりますので、そちらの方とのお話が済み次第お呼びください」
「ええ、ありがとう」
一礼して退出した医師の熱反応が遠くへ消えるのを確認すると、イヴリーチは縮こまっていた体を大きく伸ばしてケランダットがふせるベッド際まで移動した。
「グッ……ゥ”……ッ!!」
「どうしようっ、私のせいだよねっ……わ、私のせいで、おじさんがっ……!」
「イヴのせいじゃないよ! 死なないだけマシなんだから、早くお医者さんに腕を切ってもらおう?」
泣きつくイヴリーチの背を優しく撫でながら、エイレンは平坦な声で言った。
イヴリーチにとってケランダットは短い人生の中で出会った信頼の置ける貴重な大人の一人であったが、エイレンからすれば”大事な友を傷付けた悪”という認識でしかなく、両者の助けたいという気持ちには温度差があった。正直なところ、苦しみ抜いて死んでしまえばいいとさえ思っているエイレンの濁りきった考えを見据え、ミェンタージュを吸収してからの彼女の思考の変化を嘆きつつも、イヴリーチは湧き上がる感情を堪えきれなかった。
「どうしてそんな酷いこと言うの!? 仲間に悪いこと考えるエイレンなんて嫌いだからねっ!!」
「ウエェーーーーッ!? やだやだごめっ……い、今のはナシだよぉ!! ななななんとかして助けるからっ、きらいにならないでねっ!?」
目尻に涙を浮かべてキッと睨んでくるイヴリーチを見て、”やってしまった”と数秒前の自分を呪ったエイレンは、以前の幼い口調に戻ってしまうくらい慌てに慌てた。
しかし、助けると言えど、助かる方法は腕の切断しかないわけで……如何に言葉を選んで愛しの少女をなだめるか悩んでいると、部屋の外のバルコニーから”コンコンッ”、と大窓を小突く音が届いた。
城に仕える者なら外からやってくる必要はないし、まず地上から二十メートルは離れたこの部屋に到達する術もないだろう……ともすれば、侵入者だ。イヴリーチとエイレンは警戒を強めた。
だが窓の外の相手は一向にガラスを小さく叩く以外に何もしてこないので、戦闘に適しているイヴリーチが前へ出て、閉じられていたカーテンを開けた。
そこには地獄より降り立ったベルトリウスと、彼より一回り体の大きな見知らぬ魔物の姿があった。
「違う部屋だったらどう誤魔化そうかと思ったが、当たりで何よりだ」
「そんなっ……!? ほっ、本当にっ、おにぃ……ちゃ…………」
追放されたと聞いていたベルトリウスとの再会に笑顔を弾けさせて喜んだイヴリーチは、はためくカーテンの向こうにある肉体が何の衣服も纏っていないことに気付き、サッと顔を背けて恥ずかしさのあまり一人頭を火照らせた。
固まってしまったイヴリーチに代わってエイレンが窓の鍵を開けると、ベルトリウスはへらりと笑って部屋の中へとお邪魔した。
「いやーごめんごめん、こんな格好で。俺も色々大変な目に遭ってさぁ……とりあえず何か適当な服を貰えないかな?」
「……そっちにあの男に用意した分の着替えがあるから、使えば」
「どうも」
明らかに歓迎していないであろう、無愛想にソファーを指差すエイレンに人好きのする笑顔で返すと、ベルトリウスはいそいそと着替えを始めた。後に入ってきた面識のない新参者……オイパーゴスは、”ホエ~”と間の抜けた声を出しながらキョロキョロと内装を見回していた。
ベルトリウスが城仕えの兵士に支給される良くも悪くもない質の服を身に着け終えると、動作音で察したイヴリーチはようやくこちらを向き直り、視線を合わせてくれた。黒い鱗にやや赤みを残した彼女は、恐る恐るといった風に小さな口を開いて尋ねてきた。
「お、おにいちゃん……帰ってきたってことは、エカノダ様と仲直りしたんだよね……?」
「あぁ、もう万事解決だ。俺もエカノダ様も大人だからね。お互い譲歩して、すっかり元の鞘さ。ここに来たのだってエカノダ様からの指示なんだ」
あっさりと答えるベルトリウスを見て、イヴリーチは心の底から安堵したような深い溜息を吐いた。しかし横から聞こえた呻き声にすぐに表情を曇らせると、ばつが悪そうに顔を上げた。
「あのね、おじさんが……」
「それも聞いてる。いやー、俺って本当に間がいい男だよ。ちょうど役に立つ奴を連れてきたんだ」
そう言ってベルトリウスは部屋を観察していたオイパーゴスに手招きをし、自己紹介するように促した。
「ヤホヤホ。ワシ、オイパーゴス。成り立てホヤホヤのお仲間ちゃんやで。仲ようしてな」
「えっと……どうも? イヴリーチです……」
「……」
「……こっちはエイレン。ごめんなさい、少し警戒心の強い子なの」
「ええよ、ええよ、ンナ堅苦しくせんでええ。イヴリーチちゃんにエイレンちゃんな。オッちゃん覚えたで。ほな早速、そこで寝とる子を治したろうかいな」
オイパーゴスは子供好きの老人のように穏やかな声色で挨拶すると、ベッドの上で酷い汗をかきながら震えているケランダットに向き合った。
全長三メートルほど……人間より幾ばくか大きな体躯を窮屈そうにかがませると、オイパーゴスは事前に聞いていた患部である右腕に顔を寄せ、仮面の下から伸びた触手の群れで上着ごと飲み込んでしまった。
ジュルジュルジュルと、生え揃った多量の触手がそれぞれ忙しなく揺れ動き、まるで液体を吸い上げているような不気味な音を立てる。これがオイパーゴスの治療風景だった。口部と臀部に生えた触手から排出される分泌液には彼の誇る肉体を再構築させる力が備わっており、触れた瞬間に表面から深層まで届く特殊なつくりになっていた。対象の大きさに伴い処置に要する時間も増すが、今回のように一メートルにも満たない人間の腕部くらいならば数十秒で完治させることができた。
「ジュルジュルジュルジュル…………ン。ま、こんなもんやろ」
ヌチャリと締めの音を立てて触手を離したオイパーゴスが言うので、ベルトリウスは濡れた袖口を捲ってみた。するとそこには、骨折どころか古傷一つない傭兵らしからぬ綺麗な腕が伸びていた。
”おおっ!”と歓声が上がると、オイパーゴスは仮面の下の目をニッと細めて得意げに胸を張った。
「見てみぃ、ワシの能力! へん曲がっとった腕がピッカピカの元通り! 素ン晴らしぃーやろ!」
「すごい……本当に腕が治ってる!!」
「確かにすげぇが……俺の時もそうやって体中舐め回したってことだよな? なんだか全身がむず痒くなってきたぜ……」
感激するイヴリーチの一方で、ベルトリウスは眉をひそめて体のあちこちをボリボリと掻いた……。
◇◇◇
四匹の魔物が見守る中、折れ曲がった腕が元に戻ったはずのケランダットは未だ唸りを上げて体を震わせていた。
息は浅く荒く、青い顔色もそのまま。
ベルトリウスが汗を垂れ流す額へと手のひらを当ててみると、温度に鈍感になった皮膚越しにでも分かるくらいに、ほんのりと熱を感じられた。
「これ本当に治ってんのか? まだ熱が残ってる気が……」
「ウーン……ワシが今まで治してきた魔物は見た目が戻っとれば追随する内側の病も漏れなく消えとったんやけどなぁ……この子だいぶ脆いみたい。ま、しばらく寝とったらなんとかなるやろ! 患部は完全に修復されとるワケやし、あとは大人しく待つノミ!」
「はぁ……まぁ、回復してんならいいか。次の仕事を命じられてるわけでもないし、しばらくは自由行動だな。皆お疲れさん。地獄に戻るなり地上でふらつくなり、各自で好きに過ごそうぜ。俺も息抜きしてくるわ」
ベルトリウスの言葉にエイレンとオイパーゴスは賛成の頷きを返したが、この状況を生み出したことに負い目を感じていたイヴリーチはためらいがちに尋ねた。
「おじさんまだ苦しそうにしてるのに、私達だけ休んじゃっていいのかな……?」
「いいよ、いいよ、熱なんて放っといたら治んだから。そばにいても冴えないおっさんの寝顔眺めてるだけだぜ? 時間は有効に使え」
「でも……」
「そうだよイヴ、せっかくだから言われた通りにしようよ。あとは起き上がるのを待つだけなんでしょう? じゃあいいじゃない! ねっ、ミェンタージュの部屋を探検しようよ! あの子何個も自分のお部屋を持ってたみたいなの! 綺麗な宝石とか服がいっぱい集めてたみたいだからさ、見て回っちゃおうよ!」
「……そうだね。隣でお喋りしてる方が寝てる人の邪魔になっちゃうよね。ここはお言葉に甘えて、休ませてもらおうかな……」
「えへへっ、やったー! 行こう行こうー!」
エイレンは声を弾ませると、イヴリーチの手を取って無邪気にステップを踏みながら扉へ向かっていった。しかし何かを思い出したように一度鱗の付いた手を離すと、視線を集める中、独りベルトリウスの元まで足を引き返した。
「……この部屋は好きに使っていいけど、出入りするところを城の人間に見られないでね。一応私が呼ばない限りはこの階に足を踏み入れないように伝えてあるけど、外壁伝いには兵士が巡回してるから敷地外へ出掛けるつもりなら注意して。とにかく、これ以上イヴを心配させないで。呼んでた医者は帰らせるから……あと――」
エイレンはベルトリウスの肩に手を乗せ、引き寄せるように体をかがませた。そして耳元に唇を寄せ、二人だけにしか聞こえない小さな声で囁いた。
「あなたもあの男も死ねばよかったのに」
ベルトリウスが驚いたように目を見開いて顔を離すと、エイレンは一変して朗らかな笑みを浮かべ、不安げに見つめるイヴリーチの手を再度引いて部屋を出ていってしまった。
エイレンに嫌われる覚えがない……と思っているベルトリウスは、耳に残る冷たい一言に首を傾げた。
「……なんで俺嫌われてんの?」
「ほな、ワシは領地に戻ろうかいな。あの嬢ちゃんには聞いときたいことがあるし、地上を楽しむのはまた今度や」
「おー、分かった……念の為クリーパーは街の外で呼んでくれ。あんまり近い場所だと地鳴りで人が騒ぐかもしれねぇからな」
「ホイホイ。ンじゃ、サヨナラさん」
オイパーゴスはバルコニーに出ると、辺りに人がいないか確認してから自前の羽を広げ、夜空へと飛び立っていった。
夜通し夜街で過ごそうと考えていたベルトリウスも後に続き窓から出ていこうとすると、背後から呻きに混じって力のない低い声が聞こえた。
「ベル……ベル……ッ!」
縋るように初めて自分の名を呼んだベッドの住人は意識が朦朧としているようで、どこにいるか分からないベルトリウスを探すように治ったばかりの腕を必死に伸ばして宙を掻いていた。
普段気取っているくせに、よくよく情けない姿を晒す奴だとこみ上げてきた笑いを隠さず近寄ってみると、ケランダットは虚ろな目でそばに立つベルトリウスを見つめた。
「くくっ……なんだよお前、こういう時に名前で呼ぶとか狙いすぎて気持ち悪いよ。もう意識が戻ってきたんなら、熱もあっという間に下がっちまうかな?」
「ぃ……きてる……のか……? ほんもの……か……?」
「本物じゃなかったら何者だってんだよ。ちょっくら街フラついてくっけど欲しいもんある? 何か食い物でも買ってきてやろうか?」
ベルトリウスの問いにケランダットは唸りながら体を起こそうとしたが、骨折によりかなりの高熱を発していたので上手く力が入れられず、すぐに上体から崩れてしまった。それでも懲りずに起き上がろうとしては失敗を繰り返すので、見兼ねたベルトリウスが押さえ付けるように寝かすと、ケランダットはその肩に掛かった手を掴み取って悲痛に訴えた。
「いっ、いくなっ……ひとりにしないでくれっ……!」
「うわっ……お前それはかなりマジっぽいぞ? あんだけカマ野郎は嫌いだとか騒いでたくせに、自分の方がよっぽど……ォ”ア”ッ”!?」
ケランダットはげんなりしたように言うベルトリウスの指を乱暴に握り直すと、持てるありったけの力で手の甲側へ押し曲げた。ベルトリウスは慌てて絡み付いた太い指を解こうとしたが、こういう時に限って異常な頑張りを見せるこの陰気な男は、”ピキッ、ピキッ”と嫌な音を出す指にさらにねじりを加え、自身が横になるベッドの方へと引っ張った。
「ここにいろっ!! なっ、なんでおまえのせいでこんなひどい目にあってるのにっ、どうしておれを見捨てるようなまねをするっ!?」
「見捨ててねぇだろうがっ!! ちょっ、指もげるから一旦手ぇ離せ!! ちょっと痛い”っ、ちょっと痛い”からっ!!」
「おっ、おれはひとりでよかったのにっ、おまえのせいで戻れないのにっ……どうしておれを突き放すんだ……う”ぅ”ぅ”……!! ”穢れ”――」
「あ”ぁ”ーーーーーーっ!? バッッカッ、やめろっ!!」
涙と鼻水と汗で顔面をぐちゃぐちゃに荒らしたケランダットは、あろうことか浄化の魔術を展開しようとした。ベルトリウスは相手が病人ということを考慮し、極力加減したげんこつを一発こめかみにお見舞いした。だがいくら力を抑えたとはいえ、魔物と化した肉体から繰り出される一撃は高熱にうなされる人間にとっては充分に手痛いものだった。
ゴンッと重い音と共にベッドに沈んだケランダットは、ずっと震わせていた体を幼児のように丸めて嗚咽を漏らし始めた。
「ひグッ”……なぐっだな”ぁ”……? がらだじゅうい”でぇ”のに”……もっどい”でぇ”……フッ”、ぅ”ぅ”……っ!!」
「うるせぇこのイカれ野郎っ!! まだ頭に薬が回ってんのかぁ!? 魔術使って焼き殺そうとしたくせに軽くド突き返されただけで済んでマシだと思えよ!? 人の痛みを知れっ!! ったく……!」
頭を抱えぐずぐずと泣いて非難してくるケランダットに苛立ったベルトリウスは、いびつに空を向いてしまった自身の人差し指と中指を反対の手で掴み、無理矢理折り直して形を整えながら罵りを返した。
ベルトリウスは体を丸めたケランダットの襟ぐりから覗く赤い線に目をやった。着込んでいた軽鎧を脱がせられ、袖や裾から素肌が見えるようになったケランダットの肉体には、いくつもの真新しい引っ掻き傷や切り傷が見受けられた。戦闘で負ったものではない、明らかな自傷跡だった。
ベルトリウスが薬物中毒者を相手するのはこれが初めてではない。盗賊時代の部下にも同じような症状の者はいた。彼らは共通して薬の効果で段々と気性が荒くなっていき、最終的には親しい仲間にすら因縁を付けて問題を起こすようになる。あの頃は再三の注意も聞かなくなれば見切りを付けて別の部下に始末させていたが……とにかく、一度薬物に手を出してしまった者はそう簡単に抜け出せないと心得ていた。心傷の原因を振り払ったところで全てが元通りになるわけではない。ケランダットもそうなのだ。
「はぁ……萎えちまった……俺の負けだ……女はまた今度にするよ……」
やれやれと首を横に振ってマットレスに腰掛けたベルトリウスは、膝まで下がっていた厚手の掛布をケランダットの肩が隠れるまで掛け直してやった。そのまま慰めるように震える体を何度も撫で、暴力を振るった直後とは思えないほど優しい声色で語り掛けた。
「寒いならエイレンに言って毛布を持ってきてもらおうか?」
「ぃ”っ……い”らない”っ……ごごにい”ろ”っ……!」
「はいはい……いい年してみっともねぇ声出すなよ情けねぇ……つーかお前、今更だが酷ぇ格好だな。血と汗で肌はベッタベタに黒ずんでるし、髪なんか束になって固まってる上にフケだらけだぜ? くくっ……よくこんな高ぇベッドに寝かせてもらえたな? ついでに城で世話になってる間に湯浴みくらいさせてもらえよ。この鬱陶しい長髪も切っちまえ」
実際汚れの塊ともいえるケランダットの髪を平気な顔でひと束摘まみ上げて笑うと、ベルトリウスは涙に暮れる男が眠りに落ち着くまで枕元で甲斐甲斐しく恨み節に相槌を打ってやるのだった。
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