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10夏、涼やかなお茶は落ち着きをもたらします

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スコールが降り始めるとすぐに膝上ほどになった雨は、今はもう1階の窓近くまで水位が上がっていた。
「本当に水が溜まるんですね」
「ああ、もうすぐたくさん魚も来るよ。さっき2階からボート出して魚釣ってきたからご飯にしよう」
「え、ボートあるんですか」
「いつも屋根裏に吊ってあるんだ。もう少し水位が安定したら外も散歩しようか」

そう言っているリーザさんの手の竹かごがなにやらびちびちとはねている。
一瞬きらりと何かが光った。

「この魚は太刀魚だよ。普段はここらでは見かけないんだけど、なぜかこの時期だけはすごいよく釣れるんだよね。骨は強いのにしなやかで武器に加工できるし、身もおいしい魚だよ」
「なんか、長くて銀色で剣みたいですね」

竹籠の中が二重になっていて、その中で水を波立たせながらその魚は体をきらめかせていた。

「そう。その通り。だから太刀魚。この前教えた剣の種類の太刀だよ。個人での使い道はあまりないけど表面の銀粉は装飾にも使える」

「素敵ですね!私も少し欲しいです」

「じゃああとで卸す分以外にも取り分けておこう。今日はこっちで捌くからさっきやっていた作業片付けてきて」

作業台を片付けて来ると、お刺身と炙り、唐揚げが並んでいた。

「今日は豪華ですね!サラダとお汁を持ってきて食べましょう」

「え、サラダいらなくない?」

「そうやってまた野菜から逃げるんですか?大盛りにしますよ?」

「すみません食べます……」

はじめて食べる太刀魚は、お刺身だとコリコリしているのに炙ったり火入れで化けるとっても楽しい食材なのでした。

「そうだ、この前干しておいたネトルとペパーミントのお茶を淹れますね。最近寝れていないんじゃないですか?そんなに依頼も立て込んでないはずなのに」

「いやぁ、君にはお見通しか。さすが聖女さまだ人をよく見ている。君は良い薬師になるね」

「ちょっと先生?ごまかさないでちゃんと寝てくださいね?夜はリンデンとレモンバーベナで用意しますから」

「あれ、ちょっと甘味があって美味しいよねぇ」

「あ、甘味ってことはレモンバームのがいいですか?先生はちみつ好きですもんね」

「そろそろ水も満ちてきたし、飲み終わったら散歩に行こうか。そろそろ色んな魚が来はじめるんじゃない?」

そういえばぐんぐん水位は上がっていて、さっきまではまだ窓の桟にかからないくらいだったのにもう半分ほどまで来ている。
1階が水に沈むのももうすぐなんでしょう。
雲が切れて、久しぶりに青い空が見えました。

「昨日編んだ竹籠持っていきますか?あれ、先生の割り方が均等じゃないからすごくあみにくかったんですよ」
「そうだねぇ、すごいきれいに編んであったからびっくりしちゃった。クッキー持ってくるね」

涼やかなお茶の香りと窓の外の水の景色がとてもきれいにマッチして、とても爽やかな空間が出来上がりました。
ちょっと心配だった雨季も、これなら楽しく過ごせそうです。
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