8 / 22
ようやくまともな説明を聞く
しおりを挟む
フェンリルの背にしがみついて、どれくらい時間が経っただろう。
そこそこの早さで森を走り抜けていくから、風が寒い。
寒いというか、顔とかむき出しのところは痛い。
なので途中からは周りを見るのはあきらめて毛並みに顔を突っ込んでいた。
いや、べつにもふりたいから顔を突っ込んだんじゃないんですよ。
あくまで顔が痛いからそれを和らげるためで、ってなんで私言い訳してるんだろう。
最果ての小屋は古びた小さなログハウスだった。
「着いたぞ我が主よ。降りろ」
「あ、ああ、ありがとうございます」
フェンリルは私を下ろすとログハウスのドア前でスッと人型になった。
「えっ、いま人に?え?」
いままで乗っていたモフモフが人になった。
「どうした。早く中に入れ。瘴気にやられるぞ」
「あ、は、はい」
急いで小屋に入る。
「やあ、待ってたよ。君が今回の聖女のリリィちゃんだね」
小屋に入るとだれもいないはずなのに暖炉に赤々と火がともって、紅茶を楽しんでいる先客がいた。
「ああ、僕は魔公国の第一王子、アベル。さっきまで乗ってきてたフェンリルが第二王子のカミオね」
「えっ、えっと、リリィです。お初にお目にかかります」
この状況が良くわからないが、とりあえず頭を下げておこう。
「あー、畏まんなくていいよ。とりあえずお茶どうぞ。魔族が良く飲むものだけど、人間でも大丈夫な茶葉を用意させたから。ああ、カミオのはいつものがあるよ」
手際よく私たちは座らされると、一通り机に並んだお菓子の話を聞かされた。
どうやら自分で作るのが好きで、今日も彼のお手製らしい。
この人パティシエなのかな。さっき第一王子って言ってたよね?
「そろそろ本題を話さないか、アベル。そろそろ菓子の話は聞き飽きたぞ」
「あー、そう?リリィが楽しそうに聞いてくれるからもう少し」
「早くしろ」
フェンリル、いやカミオ様は話の終わらなさにイラついていた。
この話は今日に限ったことじゃなくて、昔から飽きるほど聞いているのかもしれない。
「はいはい。まず確認だけど、リリィ。そっち国にいたときに、カミオでもだれでも良いから魔族のこと何か聞いてる?」
「いえ、特に何も。カミオ様のことも先ほどまでフェンリルとしてのお姿しか知りませんでしたし」
「あー、分かった。カミオ、後でお話ね。
で、リリィ。とりあえずこれからのことについてカミオから何か聞いてる?いまさっきまで人形と獣形を使い分けられることすら知らなかったみたいだけど」
アベルさま、ちょっと怒ってますよね?ニコニコしてるけど言い方が当てこすりすぎる。
「いえ、特には」
「んー、簡単に言うとね、こちらの国に来て聖女をやってほしいんだ」
「えっそれはどういうことですか?」
魔公国の聖女?
でも私は人間で、今までの感じからすると人間と魔族は違った種族なんだよね?
「あー、そういう反応ということは……そっちの国と魔公国の歴史的な関係、聖女の仕組みと役割何も知らない感じ?」
「まあ、そもそもこちらに召喚されてすぐにフェンリル、いやカミオ様?を召喚して、そこからすぐにここに追放されることになりましたから。よく考えたら私ここの国の名前も王様も知りません」
「なんというか……異邦人を呼び出しておいてその対応は……今代の王は頭が弱いんだね」
新しいお茶をもらいながら色々説明してもらった。
人間と魔族、精霊はもとはすべて同じ種族から出ていて、超常的な力を失ったのが人間、魔法としてその力を保っているのが魔族。その中でも人間に貸し出される魔族は精霊と呼ばれるらしい。
「え、精霊はイコール魔族なんですか?しかも貸し出されるって言うのは?」
「僕らの方では特に区別はしてないよ。
ただ、人間側が魔公国の者を魔族、教会の聖女が呼び出したものを精霊って呼び出したのが広まった感じかな。
「なるほど」
「貸出って言うのはさっきちょっと触れた、魔族の出す瘴気に関係してる。
人間は力を失ったから、その力を持ち続けている僕らといるとその力で具合が悪くなったりするんだ。
それを人間は瘴気って呼んでいる。
で、この国同士は地続きでしょう。
国境があるのとおなじようにその瘴気を遮るものも必要になる」
「どんどん広がるってことですか」
「まあ、そんなにすぐではないけどね。
で、その遮るものとして、こちらから派遣した魔族、もとい精霊が国を覆うように自分の瘴気で結界を張るんだ。
聖女に召喚された魔族、精霊の瘴気は人を蝕むことが無いからね。
それに派遣されるのは力のある魔族だから、変な気を起こした弱い魔族が攻め込もうとしてもそれを大方防いでくれるし」
「は、はぁ」
「ああ、その精霊としての派遣は、先の戦争の時の協定によるものなんだよね。まあ、詳しい歴史的なことはこれから帰る屋敷にまとめた本があるから読みたければ読めばいいよ」
異世界召喚されてから初めてこの世界のまともな情報を得た気がする。
これ、初日に説明あればもう少し気が楽になったんですけど。
そこそこの早さで森を走り抜けていくから、風が寒い。
寒いというか、顔とかむき出しのところは痛い。
なので途中からは周りを見るのはあきらめて毛並みに顔を突っ込んでいた。
いや、べつにもふりたいから顔を突っ込んだんじゃないんですよ。
あくまで顔が痛いからそれを和らげるためで、ってなんで私言い訳してるんだろう。
最果ての小屋は古びた小さなログハウスだった。
「着いたぞ我が主よ。降りろ」
「あ、ああ、ありがとうございます」
フェンリルは私を下ろすとログハウスのドア前でスッと人型になった。
「えっ、いま人に?え?」
いままで乗っていたモフモフが人になった。
「どうした。早く中に入れ。瘴気にやられるぞ」
「あ、は、はい」
急いで小屋に入る。
「やあ、待ってたよ。君が今回の聖女のリリィちゃんだね」
小屋に入るとだれもいないはずなのに暖炉に赤々と火がともって、紅茶を楽しんでいる先客がいた。
「ああ、僕は魔公国の第一王子、アベル。さっきまで乗ってきてたフェンリルが第二王子のカミオね」
「えっ、えっと、リリィです。お初にお目にかかります」
この状況が良くわからないが、とりあえず頭を下げておこう。
「あー、畏まんなくていいよ。とりあえずお茶どうぞ。魔族が良く飲むものだけど、人間でも大丈夫な茶葉を用意させたから。ああ、カミオのはいつものがあるよ」
手際よく私たちは座らされると、一通り机に並んだお菓子の話を聞かされた。
どうやら自分で作るのが好きで、今日も彼のお手製らしい。
この人パティシエなのかな。さっき第一王子って言ってたよね?
「そろそろ本題を話さないか、アベル。そろそろ菓子の話は聞き飽きたぞ」
「あー、そう?リリィが楽しそうに聞いてくれるからもう少し」
「早くしろ」
フェンリル、いやカミオ様は話の終わらなさにイラついていた。
この話は今日に限ったことじゃなくて、昔から飽きるほど聞いているのかもしれない。
「はいはい。まず確認だけど、リリィ。そっち国にいたときに、カミオでもだれでも良いから魔族のこと何か聞いてる?」
「いえ、特に何も。カミオ様のことも先ほどまでフェンリルとしてのお姿しか知りませんでしたし」
「あー、分かった。カミオ、後でお話ね。
で、リリィ。とりあえずこれからのことについてカミオから何か聞いてる?いまさっきまで人形と獣形を使い分けられることすら知らなかったみたいだけど」
アベルさま、ちょっと怒ってますよね?ニコニコしてるけど言い方が当てこすりすぎる。
「いえ、特には」
「んー、簡単に言うとね、こちらの国に来て聖女をやってほしいんだ」
「えっそれはどういうことですか?」
魔公国の聖女?
でも私は人間で、今までの感じからすると人間と魔族は違った種族なんだよね?
「あー、そういう反応ということは……そっちの国と魔公国の歴史的な関係、聖女の仕組みと役割何も知らない感じ?」
「まあ、そもそもこちらに召喚されてすぐにフェンリル、いやカミオ様?を召喚して、そこからすぐにここに追放されることになりましたから。よく考えたら私ここの国の名前も王様も知りません」
「なんというか……異邦人を呼び出しておいてその対応は……今代の王は頭が弱いんだね」
新しいお茶をもらいながら色々説明してもらった。
人間と魔族、精霊はもとはすべて同じ種族から出ていて、超常的な力を失ったのが人間、魔法としてその力を保っているのが魔族。その中でも人間に貸し出される魔族は精霊と呼ばれるらしい。
「え、精霊はイコール魔族なんですか?しかも貸し出されるって言うのは?」
「僕らの方では特に区別はしてないよ。
ただ、人間側が魔公国の者を魔族、教会の聖女が呼び出したものを精霊って呼び出したのが広まった感じかな。
「なるほど」
「貸出って言うのはさっきちょっと触れた、魔族の出す瘴気に関係してる。
人間は力を失ったから、その力を持ち続けている僕らといるとその力で具合が悪くなったりするんだ。
それを人間は瘴気って呼んでいる。
で、この国同士は地続きでしょう。
国境があるのとおなじようにその瘴気を遮るものも必要になる」
「どんどん広がるってことですか」
「まあ、そんなにすぐではないけどね。
で、その遮るものとして、こちらから派遣した魔族、もとい精霊が国を覆うように自分の瘴気で結界を張るんだ。
聖女に召喚された魔族、精霊の瘴気は人を蝕むことが無いからね。
それに派遣されるのは力のある魔族だから、変な気を起こした弱い魔族が攻め込もうとしてもそれを大方防いでくれるし」
「は、はぁ」
「ああ、その精霊としての派遣は、先の戦争の時の協定によるものなんだよね。まあ、詳しい歴史的なことはこれから帰る屋敷にまとめた本があるから読みたければ読めばいいよ」
異世界召喚されてから初めてこの世界のまともな情報を得た気がする。
これ、初日に説明あればもう少し気が楽になったんですけど。
104
お気に入りに追加
493
あなたにおすすめの小説

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる