花筏

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麗らか

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うららか

 私塾から帰宅すると、修治は母の部屋に通された。そこには番頭と女中頭がおり、昨夜出来なかった打ち合わせをしていたようだった。
 修治がふすまを開けて一礼すると、母は修治に座るよう告げた。
「明日、常磐木様の一行が着物を取りに参ります。修治も同席しなさい」
「分かりました」
 頭を下げた修治に、母上は表情を緩めた。
「その時何かに誘われた場合は、お受けしてきなさい」
 何かとは何だ、と思ったが、怪訝な顔をすると母の表情が厳しくなる。
慌てて頷いた。
 それで宜しいとばかりに微笑むと、母は話は済みましたと言った。
 修治がまた低頭して立ち上がると、そこで何気ないように筆を置いて口を開いた。
「それから、今日から新しく女中が増えますから、そのつもりで」
 さらりと言われた言葉に、思わず聞き逃しそうになった。
(それは妹のことか)と尋ねたかったが、母上は出て行かない修治に有無を言わせない厳しい視線を向けてくる。
 何も言えずに部屋を出るしかなかった。

とにかく…。
(妹は女中となって寿和家にいることになったのか)
そう思うと、すぐに部屋を出た。
角部屋に行くと、そこはキレイに片付けてあり、誰もいない。
(風邪は治ったのか?)
廊下を抜けて、住み込みの女中達の部屋に続く渡りを通るが、妹の姿は見えない。
広い家が恨めしいが、きっと何処かのタイミングで会えると思った。

「新しい女中は、主に外用事ですよ」
 すっかり春めき暖かい陽気の中、洗濯を取り込む女中に尋ねると、彼女はそう言った。
 いつか会えると思っていたが、やはり気になってつい尋ねていた。
「十一ばかりの小娘ですから、出来るのはお使いくらいなもんですよ」
 そう言う女中は明らかに修治がどうして気にするのだろうかと好色ぶった目で見てくる。
「よくおかみ様は許しましたね、だってほら、女中の手は足りているのに」
 意味ありげに攻められて、修治は適当にはぐらかしてその場から立ち去る。
 父上の隠し子であるらしいことは、現場を目撃していた女中達の間で暗黙の了解のようになっているらしかった。
 修治から何か聞き出せるのではないかと、鎌を掛けるような問答ばかりだ。
 これ以上女中相手に情報収集は出来そうも無かった
 女中頭に妹のことを聞くしかないと思うのだが、母上に捕まってしまっている。
 どちらにしても、母上のあの態度では…。
(兄妹に憧れていたが、そんな関係は望めそうもないな)
縁側に腰掛けて、ため息をついた。
 散りかけの梅を見上げ、そういえば明日の常磐木様の件を準備しなくてはと、急いで腰を上げた。
 紋付きの袴を桐箪笥きりだんすから取り出すと、開け放しの縁側から、梅の花弁はなびらが、追い掛けるように転がり込んできた。
それを見つめて手を止めると、花ははたりと動きを止める。
 畳の上で崩れた花を見やると、それを拾い上げ、自らの呼気で空中へ滑り降ろした。逆さに上にと舞い落ちる花弁に一瞬目を遣ると、着丈を見るために隣の部屋へと入り、修治は障子を閉ざした。



  
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