強欲ババァから美少女になったけど、煩悩なんて消せません

豊倉麻南美

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7話

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草木も寝静まった頃、一人の男が夜道を歩いている。
ただの夜道ではない、山道だ。
明かりは何も持たず、月明かりだけで進んでいる。
足元が見えず、歩きにくいのではないだろうか?
いや、夜道の男はそんなことは考えない。
なぜなら、今の時間に明かりを持って歩くと、色々と面倒になるからだ。
何より、男は山道に慣れており、目的地があるから迷うことなく進んでいける。
向かった先は、森の中で火を囲み、酒盛りをしている男たち。
足軽の甲冑を着た者、槍をそばに置いてすぐ応戦できるようにしている者。
その中に、誰よりも体が大きく、太刀を肩にかけて酒を飲んでいる男がいる。
風貌、人相共に下卑た印象だが、周りの男たちより目線が鋭く、油断ならない印象だ。
夜道の男は、その男に向かって進んでいる。
なぜなら・・・

「遅くなって申し訳ねぇです、大将」
「おう、やっと来たか。で、どうだ?」

夜道の男は、酒盛りをしている男たちに軽く頭を下げ、太刀の男の前に進んだ。

「いい感じですよ、明日にでも引き渡せそうです」
「それならいい、手筈通り、俺が指定した場所まで連れてくれば、交渉成立だ」

太刀の男は夜道の男に酒を注ぎ、それを美味そうに飲み干す。

「しかし、自分が世話になった人間に対してとんでもねぇこと考えるもんだ。しかもなんだ、いい買い手を知っててもっと儲けさせてくれると。イマイチ信用できねぇなぁ」

聞かれた夜道の男は悪い笑みを浮かべ、太刀の男を見る。

「これから寒くなるってぇのに先立つものがないのはいけねぇ、あんた達もわかるだろ?こっちは手間賃さえ貰えればいい、儲けはあんた達で分けな。多少、懐があったかい所からいくらか頂くだけだ、金も人も、天下の回り物ですよってね」

酒が入って機嫌がよくなったのか、夜道の男は聞かれていないことまで話す。

「それだといい思いをするのは俺等だけになる、あんたの目的は何だ?」
「ここともそろそろおさらばするからな、世話になった礼に、一儲けさせてほしいだけさ」
「ふん、悪い奴だ」

二人の男は笑い合い、何回か酒を酌み交わす。
この会合の行方は、月だけが知っており、他の誰も知らない。



何かに水を注ぐ音で、目が覚めた。
顔を上げると、側の囲炉裏の鍋はフツフツと湯気を立てていることから、朝飯の準備ができているようだ。

「しの、おはよう」

土間には、近くの川から汲んできた水を、水瓶に入れている姉。
もうこんな時間か、というか、姉は本当に寝たのか?
夜遅くには機織りをし、朝早くに飯の支度をする、本当に働き者だ。

「お、起きたか、じゃあ飯にするか」

畑仕事をしてきたのか、足を土まみれにした「父」が入ってきた。
アタイは手早く顔を洗い、大急ぎで朝飯の準備をする。
今日も、クズ野菜と小麦、雑穀を入れた雑炊。
うん、野菜の味がよく出てて美味い。
食べていると、姉と「父」が今日何するか話し合っている。

「今日は徳次さんが来て、カゴを直してくれるわ」
「そうか、俺はいくつかの畑の手伝いに行くから、帰りは遅くなるかもしれん」
「分かった、ケガに気をつけてね。しの、今日はお前も手伝って」
「うん、分かった」

カゴを直すだけなのに、他に手伝いがいるのか?
朝飯を食べ終えると、「父」は鎌と水を入れる竹筒を持って出かけ、アタイは使い終わったお椀と箸を洗う。
姉はアタイに片付けを任せると、ナタを持って出かけて行った。
洗ったお椀と箸を乾かし、囲炉裏の火に灰をかぶせて火事にならないようにする。
これで、朝飯の後始末は終わり。
さて、姉はどこに行ったのか・・・

「ねえちゃん、終わったけど何すればいい?」

家の外に通じる引き戸から顔を出して呼びかけるも、姉の姿はない。
本当にどこに行ったんだ?
何もすることがないので、家の外で姉を待っていると、徳次がやってきた。

「しのちゃんおはよう、ときちゃんはいる?」
「おはよう、ねえちゃんは朝飯食ったらどっか行っちゃったよ」
「どのカゴを直してほしいとか言ってたかい?」
「いんや、何にも聞いてねぇ」
「参ったな・・・」

徳次も、どうやってときを探せばいいのかわからない様子。
しばらく二人で待っていると、林の向こうから、姉が何かを担いでやってきた。
あれは・・・

「ときちゃん、竹を切ってきたのか?!」

そう、姉が担いでいるのは切ったばかりで葉っぱが付いている竹。
それも、両肩に担いでいるから2本ずつ。
近くの竹林から切って、ズルズル引きずりながら持ってきたようだ。

「徳次さんおはようございます、カゴを直すならこれくらいあれば足りますか?」

姉は、額に、首に汗をかきながら、家の前まで竹を引っ張り、放り出す。
竹とはいえ、葉っぱも付いているような竹なので、1本でもそこそこ重いはずだが・・・?
徳次も同じことを思ったのだろう、口をぽかんと開けて姉を見ている。

「ときちゃん、これ相当重かったろう。竹を切って持ってくるくらい俺がやるのに」
「いえいえ、それに我が家も使いますから」

姉は額の汗を拭いながら家の中に入り、壊れたカゴを持ってくる。

「直してほしいのはこれなんですが、どうでしょう?直りますか?」

カゴを渡された徳時は、外側、内側をまじまじと見る。

「これはもう古いし、新しく作り直したほうがいいかもな。せっかくいい竹を持ってきてくれたんだし、いいカゴを作るよ」

そういうと、懐から自分の道具を出して、姉が持ってきた竹を切り始めた。

「よろしくお願いします、しの、私はもうちょっと竹を切ってくるから、ここで待ってて」

と言い残し、姉はまた竹林の方へ駆けていった。
姉は何をして欲しいんだろう?
何もすることがないので、徳次の仕事を眺めながら待つ。
しばらくして、姉がまた大きな竹を担いで来た。

「しのは、この竹を細く切って薪の代わりを作って」
「薪の代わり?」

姉は家からノコギリを持ち出し、竹を節ごとに短く切り始める。
そして、薪割りの土台にしている切り株の上に、先ほど短く切った竹を縦に置く。
その竹にナタを振り下ろして縦に半分に割り、更に縦半分、4つ割になるように割ってみせた。

「これから冬になると薪を確保するのが難しくなってくるから、こんなふうに竹を割って、薪の代わりにするの」

へー、こんな方法があるのか。
でも・・・

「節ごとに切るだけじゃダメなのか?いちいち4つ割にするのは面倒だろ」

そう聞くと、竹を細工しやすいように細く切っていた徳次がやってきた。

「竹ってね、節の間の中身が空っぽだから短くすると思ったより軽いし、水を入れる竹筒にできるだろ?でも、縦半分に割らずに火の中に入れると、空っぽの所が弾けて火が飛んできて、火事になったり火傷してしまうんだ」
「そんなに危ないものなのか!」
「だから、ときちゃんは使いやすいように4つ割で割ってほしいんじゃないかな?」

徳次に目を向けられ、顔を赤らめるとき。

「そうなんです、一度そんなこと知らずに竹を火の中に放り込んだことがあって・・・」
「そりゃ大変だ、ケガはなかったのかい?」
「ええ、幸い、当たることはなかったので」
「ああ良かった、ときちゃんのきれいな顔に火傷なんてできたら大事だよ」
「もう、徳次さんたら・・・」

アタイを挟みながら、朝っぱらからいちゃつき始めた。
ナンダコレ。

お前らなー、仲良くしたいのはわかるが時と場所を選べよ。
特に徳次、てめぇ仕事してんのに色目使ってんじゃねぇよ。
女口説くならやることやってからにしやがれ。
しかもよりによってアタイのねえちゃん口説こうとは、いい度胸だ。
アタイは手加減しねぇからな、覚悟しとけよ。

などと思いながら二人を見ていたら、アタイがいることにようやく気づいたのか、ときがハッと動く。

「そうだそうだ!もう少し竹を切ってくるわね。しの、じゃあよろしく!」

耳まで真っ赤にしながら、そそくさと離れていく。
一方の徳次は、ニヤニヤ笑いながらときを見送っていたが、ときの姿が見えなくなると作業を再開した。
さてと、いつまでも睨んでいられないからね。
気を取り直し、家の中からナタを持ってきて作業する。

1本目、ナタは竹の上半分を割ったが下半分までは割れなかったので、ナタが竹をくっつけているみたいになった。

「少し、力が弱かったか・・・」
竹をくっつけたままもう一度切り株にナタを振り下ろすと、竹が二つに割れた。
続けて、四つ割にするために片方を割る。
今度は力を入れ過ぎたのか、綺麗に割れず、片方が太くて片方が細すぎる状態になった。

「さっきより力を入れたのに、難しいな・・・」

ナタを見ながら呟いていると、徳次がクスクスと笑っている。
その顔が憎らしくなってしまい、プイッとそっぽを向き、もう一つの半分の竹に向き合う。
何度かナタを上下し、

「ここだ!」

という場所に当たるよう、ナタを振り下ろす。
再挑戦の結果、ナタは切り株に突き刺さり、竹は綺麗な四つ割に。
割れた竹の姿が思ったより綺麗で感動し、思わず誰かに自慢したい笑みがこぼれる。

「よし!」

切り株に足を掛け、刺さったナタを引き抜く。
力の入れ具合は今のでいいけど、勢いがつきすぎた。
それに、しゃがんでやっているせいか、足が痺れて来る。

「これ以上、痺れるのはちょっと・・・」

何かいい方法はないものか?
キョロキョロと周囲を見ていると、徳次の姿が目に入った。
徳次はそこらに放ってあった大きい石に腰掛け、カゴを編んでいる。
その姿でひらめき、家から桶を引っ張り出す。
さっきお椀や箸を洗っていたものなので、そんなに大きくない。
これを裏返しにすると、アタイが腰掛けるのにちょうどいい高さになる。
桶が土で汚れたら、洗って戻せばいい。
切り株の前に裏返しにした桶を置き、そこに腰かけて竹を割ってみる。
いい高さなので作業しやすいが、桶を前に置きすぎたようでナタをふるいにくい。
桶を少し後ろに押し、再度竹を割ると、今度はいい感じ。
そうして、3つ4つと竹を割ってコツを掴んだせいか、竹割りが面白くなってきた。
姉が用意した竹を切り終わるころには、左右の切り株に竹の山が現れた。
桶から腰を上げると、姉がまた竹を持って来た。

「しの、いっぱい割ったわね」

その言葉が嬉しくて、汗まみれになった手をこすり合わせる。
ナタを握り込んだ手は赤くなり、ちょっと擦れて痛い所もあるが、不快ではない。

「へへへ、まだまだいけるよ」

そういい、姉が竹を切るのを手伝った。
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