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21話
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12月25日のクリスマスは生後、12か月になった冬空の1歳の誕生日だ。ジャンダ教授は朝早くから、苺ショットケーキ、タラのじゃがいもハンバーグ、さつまいものグラタン、鶏ささみのカリカリチーズスティック、大豆入りのポークチャップ、小松菜とツナの和え物、かぼちゃのヨーグルトサラダ、豆腐のごまサラダ、しらすと青のりのおにぎり、鮭とキャベツの味噌汁を作っている。居間では、ポールが見守る中、冬空と風馬が積み木で遊んでいる。
居間とキッチンが繋がっているリビングキッチンなので、料理をしながら、子供たちの様子を見るのができて、安心できる。電話が鳴り響き、冬空がAIテレビ電話に向けて、喋る。
「でんはー、もらう」
クラッシク音楽が流れていたテレビのセンサーが自動的に作動して、テレビ電話に繋げる。
「冬空、お誕生日おめでとう!」
すると、冬空がよちよち歩いて、テレビの前まできて、綺麗な笑顔をみせる。
「ばば、ありがちゅー、あいたいよー」
「ババも、あいたいよ。来週には会えるよ。待ってるから」
テレビの中のアンナが穏やかな笑みをみせる。アンナの横には、ルイが無表情で映っている。積み木を積み終えた風馬がよちよち歩いてきて、逞しい笑顔を見せる。
「ばば、ばば、ばーばー」
「風馬、大きくなったね。可愛い。来週が待ち遠しいね」
手を洗ってきたジャンダ教授が風馬を抱き上げて、テレビの中の両親に挨拶する。
「お元気ですか?こちらは大雪で寒いんです。29日に行きますので、少し待ってくださいね」
「うん、早く冬空と風馬を抱きたいね」
山形文化大学はピース大学より、学会やセミナーの機会が少ないので、時間の余裕ができたジャンダ教授は早めにパリに行くことを決めた。ジャンダ教授の父、ルイは8月初め、アンナから風馬のことを知らされた。初めは、凄く怒ったが、ジャンダが新しい地で新しい職場で頑張っていることを知ったら、口を出すことができなかった。
孫に会いに直ぐ行きたかったけれど、選挙のために、パリから離れなかった。テレビ通話を通してみた孫たちは、可愛かった。ジャンにそっくりな冬空、春馬にそっくりな風馬。春馬のことを考えたら、直ぐ、ぶっ潰すのもできたが、春馬が自ら壊れていったので、手を出さなかった。
アンナとジャンダ教授が暫くおしゃべりをしていたら、もう、遅いので寝なさいとルイが口を挟んだ。アンナは孫たちと挨拶をして、テレビ通話を切る。冬空はお祖母ちゃんが大好きだ。いつも、テレビ通話で話したり、歌ってくれたり、笑ってくれるから、好きだ。風馬が生まれて、7月までずっと一緒に遊んでくれて、楽しかった。お祖母ちゃんは愛情深い目でいつも冬空をみるから、赤ちゃんの冬空さえ、本能で祖母の愛情を感じる。
冬空と風馬は美味しいご飯をたくさん食べた。ジャンダ教授は朝ご飯を美味しく食べる子供たちを見て、いっぱい作って本当に良かったと満足する。食事後、ジャンダ教授は後片付けをして、ブルーパールのプジョーミニバンで新庄市に向かう。今日も大雪だが、除雪剤が撒かれた道路は安全だ。冬空は幻想的な雪景色を見ながら、綺麗な声で歌を歌っている。風馬はすやすや眠っている。
ジャンダ教授の車はピースショッピングモールの駐車場に入る。クリスマスの特別人形劇が開かれるモールには、子供連れの家族で賑わっていた。
冬空と風馬は新庄市で唯一の大型ショッピングモールのピーズショッピングモールが大好きだ。子供の遊び場が充実しているので、子育て家族の味方なのだ。冬空と風馬は発達が早い方で、6か月で歩き出したので、保健所の医師もびっくりした。冬空は喋るのも早くて、先月からはテレビで覚えられた歌も歌えた。
2階の子供の広場は、子供連れの家族で混雑している。ジャンダ教授ははしゃいで歩こうとする風馬を抱いて、子供椅子に冬空を座らせる。風馬も椅子に座りたくて、グズグズしたが、子供が多すぎて、風馬の席は取れなかった。11時開始の人形劇は15分で終わった。子供たちは喜んで大きな声を出したり、拍手したり、笑ったりして、楽しんだ。
人形劇の終了後、ジャンダ教授は2階の子供の遊び場で、入場料を払って、冬空と風馬を遊ばさせる。豊富な品揃えのおもちゃと遊具があるから、子供たちのパラダイスだ。風馬は1歳未満のコーナーで親と一緒に入れる。冬空は3歳未満のコーナーで他の子と仲良く遊んでる。ジャンダ教授は物静かな冬空は安心できるから、いたずらっ子の風馬を見守っている。
やっぱり、風馬は大きな体格のせいか、同じ年齢でも自分より小さい赤ちゃんに悪戯をしようとするから、ジャンダ教授は風馬に遊ぶのはいいけど、そうしたら、この子が怖がるでしょと言って、注意した。風馬が1歳未満には見えないから、一緒に遊ばせるのを嫌がる親もいたので、ジャンダ教授は風馬を早めに、遊びコーナーから、連れて出る。
風馬はもっと遊びたかったのか、大きな声で泣き出す。風馬を抱っこして、ベビー休憩室に入ったジャンダ教授は風馬を優しくあやしながら、おっぱいを飲ませる。遊びコーナーでは、複数のスタッフが子供たちを見守っているから、冬空のことは心配しない。
風馬が落ち着いてきたから、冬空を見に行く。冬空は子供用のピアノを楽しく弾いている。冬空の周りには、男の子たちが集まっている。風馬が冬空の所に行きたいと暴れるから、冬空も早く出てきた。
昼飯の時間になり、ジャンダ教授は5階のフードコートに行く。空いた席について、大きなトートバッグから弁当箱を出した。レタスや卵、ハムやチーズなどの具材を使って彩りがよいサンドイッチだ。具材は全部有機農産の安心マックがついたものだ。
フードコートの洗面台で、冬空と風馬の手を洗ってきて、冬空と風馬の前に、それぞれのサンドイッチ弁当箱と豆乳を置いた。二人が美味しく食べるのを見ながら、ジャンダ教授もサンドイッチを食べる。
昼食を終えて、ピアノコンサートまで、時間の余裕があったので、本屋に行って、絵本をみる。12月1日に販売されたジャンダ教授の児童書”猫のポールの冒険”が子供コーナーでずらりと並んでいた。ジャンダ教授はフランス文学本やエッセイではジャンダ・ローゼと本名を使っていたが、絵本や児童書にはローゼとだけ、名乗っている。
30歳から、絵本や児童書を出し始めて、もう、21年になる。”魔法使いのソフィア”シリーズで、デビューして、魔法使いのソフィアの全7巻がロング-セラーになり、フランス児童文学賞とアメリカ児童文学賞を貰った。43歳に出した”泣き虫のアザラシ”は国際アンデルセン賞を受賞して、話題になったが、ジャンダ教授は顔やプロファイルも出さないで、密かに活躍している。47歳の時には、”おかあさんといっしょ”という絵本で、日本絵本賞大賞を受賞した。
ジャンダ教授のお陰で、光出版社の認知度が高まった。メディアからのインタビューの依頼も殺到したが、ジャンダ教授は一切公の場に姿を現さず、インタビューも応じなかった。
本が大好きな冬空は喜んで、色んな本を触っていたが、風馬はジャンダ教授の胸の中で、くっすり眠ってしまった。
昼寝のために、ベビー休憩室に寄って、二人を寝かせたジャンダ教授はスマホのメッセージを読んでいる。
パリの家族、ピース大学の友人たち、冬心、齋藤助教、知人などから、冬空の誕生日お祝いのメッセージがたくさん届いていた。大学の友人には風馬が生まれてから、連絡をした。急に、退職して、東京からいなくなって、スマホも繋がらなかったジャンダ教授を心配した友人たちはジャンダ教授の2回の出産、氏名の変更、新しい職場等々、事情を聞いて、理解してくれた。
山形文化大学の総合施設ビルの2階のコンサートホールでは17時に始まるピアノコンサートを見るために、大勢の人々で混んでいた。齋藤教授(ジャンダ教授)は乳母車で風馬を座らせて、いっぱい歩いてちょっと疲れてきた冬空を抱っこして、エレベーターに乗る。
職員たちや学生たちが寄ってきて、挨拶したり、冬空と風馬をなでなでしたりして、いつの間にか人々に囲まれていた。パク教授ときららが寄ってきて、冬空を抱いてあげる。冬空は見慣れたパク教授ときららが好きだ。
1時間も及んだピアノコンサートが終わって、齋藤教授は冬空と風馬におっぱいを飲ませるために、ベビー休憩室に行く。きららが付き添って、風馬がおっぱいを飲んでいるうちに、冬空のオムツを交換してくれた。
ベビー休憩室から出たら、待っていたパク教授が夜飯を一緒にしたいと誘った。子供向けのファミリーレストランがあるので、安心できる料理とバリアフリーで便利だとも言って、しつこく誘った。今まで、外食はしたことがなかったので、ちょっと不安を感じたが、パク教授のお勧めだから、行くことにした。
きららは約束があると言って、冬空と風馬にクリスマスプレゼントを渡して、行ってしまった。ファミリーレストランは、凄く広くて、乳母車が通っても余裕のある通路で、席も広くて、可愛い絵画がいっぱい飾られていて綺麗だ。店内はクリスマスを祝う家族でいっぱいだ。
パク教授が予約をしておいたので、待たずに、直ぐに入れた。冬空と風馬は、綺麗な絵画や可愛い人形で飾られている店内をキョロキョロ見ながら、喜んだ。
子供のメニューも豊富で、山形県産の安全安心な無添加、オーガニックのベビーフードで、齋藤教授は満足した。可愛いクマさんの皿で出たお子様プレートが気に入った冬空と風馬はよく食べる。齋藤教授もパク教授とハンバーグ定食を美味しく食べながら、色んな話をする。
食べ終わって、トイレに寄ったうちに、パク教授が勘定を済ました。齋藤教授が自分たちの分を渡しようとしたら、パク教授は頑なに断った。
駐車場に出て、帰る準備をしたら、パク教授が大きな箱を持ってきた。彼は冬空にお誕生日のプレゼントだよと言って、明るく笑う。風馬のプレゼントも渡したパク教授は凄く楽しかったとお礼を言い、齋藤教授の車がファミリーレストランの駐車場を出て行くのを、ずっと見送っている。
始めて入った道が慣れなくて、齋藤教授はナビゲーションをつけて、運転をしている。次の交差点で左折すれば、いいと思いながら、進むと、信号を無視したバイクが急に入ってくるから、左折できず、直進してしまった。再び、ナビゲーションに従って、進むと横断歩道が出たので、車を停める。
4人の若者たちがはしゃいで歩いている。その群れの中、見慣れた顔があった。清水助教だ。鬱そうな顔で、下を向いている清水助教は、両肩を二人の男に掴まれて、元気なく歩く。
勘が鋭い齋藤教授はきららを追って、運転する。冬空と風馬はチャイルドシートですやすやと眠っている。4人は派手なラブホテルの前に着いた。きららが躊躇って嫌かったら、男たちがきららを掴まって、中に入る。
不安に駆けられた齋藤教授は咄嗟にパク教授に電話する。事情を説明したら、パク教授は直ぐにいくから、一人では絶対入らないようにと念を押して言った。18分後、パク教授の車がラブホテルの前に現れた。
パク教授は運動で鍛えているので、筋肉ムキムキで体格がいい。パク教授がラブホテルに入ってから、30分以上も経ったのに、まだ、出てこない。心配になった齋藤教授が警察に通報したほうがいいかどうか悩んでいた時に、警察車と救急車がきた。
びっくりした齋藤教授が車から出て、近寄ったら、警察官が立ち入り禁止ですと堅く言う。齋藤教授が友人が中にいるから、様子を見に来たと言ったら、警察官は少し待ちなさいと言う。
子供たちが心配で、車に戻った齋藤教授は担架で運ばれる誰かを見た。再び慌てて近寄ったら、パク教授が担架で横になっている。齋藤教授が友人だと言い出して、近寄ったら、警察官が新庄市立病院に運ばれるから、そっちにきてくださいと言う。
齋藤教授は眠っている風馬を乳母車に入れて、起き上がった冬空を抱いて、新庄市立病院に入る。案内テスクで、パク教授のことを訊いて、院内の救急センターに行く。
閑散としている救急センターで暫く待っていると、年配の看護師が寄ってきて、パク・ヨングさんのご家族ですかと優しく訊く。齋藤教授が友人ですと答えると看護師が中に案内してくれる。
心配している齋藤教授を見て、パク教授は笑顔で、大丈夫だと言う。担当医師が肋骨骨折だが、痛みが軽いので、消炎鎮痛薬と湿布だけで治療が可能で、2週間で完治できると言う。
医師の説明が終わると、二人の警察官が入ってきて、いろいろと質問する。要するに、パク教授がラブホテルに入って、ホテルのスタッフに事情を説明して、きららがいる部屋に入ったら、3人の男がきららを犯していたそうだ。パク教授に邪魔されたと思った男たちが突然襲いかかってきて、殴ったから、パク教授も保身のために、喧嘩したと言った。
警察官はきららを含む男達にも訊いてみたが、昔からの付き合いで、合意でのセックスだと言われたから、警察が関与できなくなり、男たちをそのまま、家に帰したと言う。
パク教授は、10年前に山形文化大学に転任されてきて、きららと仲良くなったけれど、その時から、時々酷い痣の顔で登校するから、心配で何回か話したけれど、きららは大丈夫だと言い続けたそうだ。何も助けることができず、心配していたそうだ。パク教授はきららが持続的に暴力を受けていると確信している。
パク教授の話を真剣に聞いていた警察官が神妙な表情で本人が警察に相談や通報しない限り、法律上、警察は動けないと言う。気の毒だと思われた警察官が、3人の男の中、一人は清水きららの義理の父親だと教えてくれる。
思いがけない話を聞いた齋藤教授とパク教授はびっくりして言葉を失う。
居間とキッチンが繋がっているリビングキッチンなので、料理をしながら、子供たちの様子を見るのができて、安心できる。電話が鳴り響き、冬空がAIテレビ電話に向けて、喋る。
「でんはー、もらう」
クラッシク音楽が流れていたテレビのセンサーが自動的に作動して、テレビ電話に繋げる。
「冬空、お誕生日おめでとう!」
すると、冬空がよちよち歩いて、テレビの前まできて、綺麗な笑顔をみせる。
「ばば、ありがちゅー、あいたいよー」
「ババも、あいたいよ。来週には会えるよ。待ってるから」
テレビの中のアンナが穏やかな笑みをみせる。アンナの横には、ルイが無表情で映っている。積み木を積み終えた風馬がよちよち歩いてきて、逞しい笑顔を見せる。
「ばば、ばば、ばーばー」
「風馬、大きくなったね。可愛い。来週が待ち遠しいね」
手を洗ってきたジャンダ教授が風馬を抱き上げて、テレビの中の両親に挨拶する。
「お元気ですか?こちらは大雪で寒いんです。29日に行きますので、少し待ってくださいね」
「うん、早く冬空と風馬を抱きたいね」
山形文化大学はピース大学より、学会やセミナーの機会が少ないので、時間の余裕ができたジャンダ教授は早めにパリに行くことを決めた。ジャンダ教授の父、ルイは8月初め、アンナから風馬のことを知らされた。初めは、凄く怒ったが、ジャンダが新しい地で新しい職場で頑張っていることを知ったら、口を出すことができなかった。
孫に会いに直ぐ行きたかったけれど、選挙のために、パリから離れなかった。テレビ通話を通してみた孫たちは、可愛かった。ジャンにそっくりな冬空、春馬にそっくりな風馬。春馬のことを考えたら、直ぐ、ぶっ潰すのもできたが、春馬が自ら壊れていったので、手を出さなかった。
アンナとジャンダ教授が暫くおしゃべりをしていたら、もう、遅いので寝なさいとルイが口を挟んだ。アンナは孫たちと挨拶をして、テレビ通話を切る。冬空はお祖母ちゃんが大好きだ。いつも、テレビ通話で話したり、歌ってくれたり、笑ってくれるから、好きだ。風馬が生まれて、7月までずっと一緒に遊んでくれて、楽しかった。お祖母ちゃんは愛情深い目でいつも冬空をみるから、赤ちゃんの冬空さえ、本能で祖母の愛情を感じる。
冬空と風馬は美味しいご飯をたくさん食べた。ジャンダ教授は朝ご飯を美味しく食べる子供たちを見て、いっぱい作って本当に良かったと満足する。食事後、ジャンダ教授は後片付けをして、ブルーパールのプジョーミニバンで新庄市に向かう。今日も大雪だが、除雪剤が撒かれた道路は安全だ。冬空は幻想的な雪景色を見ながら、綺麗な声で歌を歌っている。風馬はすやすや眠っている。
ジャンダ教授の車はピースショッピングモールの駐車場に入る。クリスマスの特別人形劇が開かれるモールには、子供連れの家族で賑わっていた。
冬空と風馬は新庄市で唯一の大型ショッピングモールのピーズショッピングモールが大好きだ。子供の遊び場が充実しているので、子育て家族の味方なのだ。冬空と風馬は発達が早い方で、6か月で歩き出したので、保健所の医師もびっくりした。冬空は喋るのも早くて、先月からはテレビで覚えられた歌も歌えた。
2階の子供の広場は、子供連れの家族で混雑している。ジャンダ教授ははしゃいで歩こうとする風馬を抱いて、子供椅子に冬空を座らせる。風馬も椅子に座りたくて、グズグズしたが、子供が多すぎて、風馬の席は取れなかった。11時開始の人形劇は15分で終わった。子供たちは喜んで大きな声を出したり、拍手したり、笑ったりして、楽しんだ。
人形劇の終了後、ジャンダ教授は2階の子供の遊び場で、入場料を払って、冬空と風馬を遊ばさせる。豊富な品揃えのおもちゃと遊具があるから、子供たちのパラダイスだ。風馬は1歳未満のコーナーで親と一緒に入れる。冬空は3歳未満のコーナーで他の子と仲良く遊んでる。ジャンダ教授は物静かな冬空は安心できるから、いたずらっ子の風馬を見守っている。
やっぱり、風馬は大きな体格のせいか、同じ年齢でも自分より小さい赤ちゃんに悪戯をしようとするから、ジャンダ教授は風馬に遊ぶのはいいけど、そうしたら、この子が怖がるでしょと言って、注意した。風馬が1歳未満には見えないから、一緒に遊ばせるのを嫌がる親もいたので、ジャンダ教授は風馬を早めに、遊びコーナーから、連れて出る。
風馬はもっと遊びたかったのか、大きな声で泣き出す。風馬を抱っこして、ベビー休憩室に入ったジャンダ教授は風馬を優しくあやしながら、おっぱいを飲ませる。遊びコーナーでは、複数のスタッフが子供たちを見守っているから、冬空のことは心配しない。
風馬が落ち着いてきたから、冬空を見に行く。冬空は子供用のピアノを楽しく弾いている。冬空の周りには、男の子たちが集まっている。風馬が冬空の所に行きたいと暴れるから、冬空も早く出てきた。
昼飯の時間になり、ジャンダ教授は5階のフードコートに行く。空いた席について、大きなトートバッグから弁当箱を出した。レタスや卵、ハムやチーズなどの具材を使って彩りがよいサンドイッチだ。具材は全部有機農産の安心マックがついたものだ。
フードコートの洗面台で、冬空と風馬の手を洗ってきて、冬空と風馬の前に、それぞれのサンドイッチ弁当箱と豆乳を置いた。二人が美味しく食べるのを見ながら、ジャンダ教授もサンドイッチを食べる。
昼食を終えて、ピアノコンサートまで、時間の余裕があったので、本屋に行って、絵本をみる。12月1日に販売されたジャンダ教授の児童書”猫のポールの冒険”が子供コーナーでずらりと並んでいた。ジャンダ教授はフランス文学本やエッセイではジャンダ・ローゼと本名を使っていたが、絵本や児童書にはローゼとだけ、名乗っている。
30歳から、絵本や児童書を出し始めて、もう、21年になる。”魔法使いのソフィア”シリーズで、デビューして、魔法使いのソフィアの全7巻がロング-セラーになり、フランス児童文学賞とアメリカ児童文学賞を貰った。43歳に出した”泣き虫のアザラシ”は国際アンデルセン賞を受賞して、話題になったが、ジャンダ教授は顔やプロファイルも出さないで、密かに活躍している。47歳の時には、”おかあさんといっしょ”という絵本で、日本絵本賞大賞を受賞した。
ジャンダ教授のお陰で、光出版社の認知度が高まった。メディアからのインタビューの依頼も殺到したが、ジャンダ教授は一切公の場に姿を現さず、インタビューも応じなかった。
本が大好きな冬空は喜んで、色んな本を触っていたが、風馬はジャンダ教授の胸の中で、くっすり眠ってしまった。
昼寝のために、ベビー休憩室に寄って、二人を寝かせたジャンダ教授はスマホのメッセージを読んでいる。
パリの家族、ピース大学の友人たち、冬心、齋藤助教、知人などから、冬空の誕生日お祝いのメッセージがたくさん届いていた。大学の友人には風馬が生まれてから、連絡をした。急に、退職して、東京からいなくなって、スマホも繋がらなかったジャンダ教授を心配した友人たちはジャンダ教授の2回の出産、氏名の変更、新しい職場等々、事情を聞いて、理解してくれた。
山形文化大学の総合施設ビルの2階のコンサートホールでは17時に始まるピアノコンサートを見るために、大勢の人々で混んでいた。齋藤教授(ジャンダ教授)は乳母車で風馬を座らせて、いっぱい歩いてちょっと疲れてきた冬空を抱っこして、エレベーターに乗る。
職員たちや学生たちが寄ってきて、挨拶したり、冬空と風馬をなでなでしたりして、いつの間にか人々に囲まれていた。パク教授ときららが寄ってきて、冬空を抱いてあげる。冬空は見慣れたパク教授ときららが好きだ。
1時間も及んだピアノコンサートが終わって、齋藤教授は冬空と風馬におっぱいを飲ませるために、ベビー休憩室に行く。きららが付き添って、風馬がおっぱいを飲んでいるうちに、冬空のオムツを交換してくれた。
ベビー休憩室から出たら、待っていたパク教授が夜飯を一緒にしたいと誘った。子供向けのファミリーレストランがあるので、安心できる料理とバリアフリーで便利だとも言って、しつこく誘った。今まで、外食はしたことがなかったので、ちょっと不安を感じたが、パク教授のお勧めだから、行くことにした。
きららは約束があると言って、冬空と風馬にクリスマスプレゼントを渡して、行ってしまった。ファミリーレストランは、凄く広くて、乳母車が通っても余裕のある通路で、席も広くて、可愛い絵画がいっぱい飾られていて綺麗だ。店内はクリスマスを祝う家族でいっぱいだ。
パク教授が予約をしておいたので、待たずに、直ぐに入れた。冬空と風馬は、綺麗な絵画や可愛い人形で飾られている店内をキョロキョロ見ながら、喜んだ。
子供のメニューも豊富で、山形県産の安全安心な無添加、オーガニックのベビーフードで、齋藤教授は満足した。可愛いクマさんの皿で出たお子様プレートが気に入った冬空と風馬はよく食べる。齋藤教授もパク教授とハンバーグ定食を美味しく食べながら、色んな話をする。
食べ終わって、トイレに寄ったうちに、パク教授が勘定を済ました。齋藤教授が自分たちの分を渡しようとしたら、パク教授は頑なに断った。
駐車場に出て、帰る準備をしたら、パク教授が大きな箱を持ってきた。彼は冬空にお誕生日のプレゼントだよと言って、明るく笑う。風馬のプレゼントも渡したパク教授は凄く楽しかったとお礼を言い、齋藤教授の車がファミリーレストランの駐車場を出て行くのを、ずっと見送っている。
始めて入った道が慣れなくて、齋藤教授はナビゲーションをつけて、運転をしている。次の交差点で左折すれば、いいと思いながら、進むと、信号を無視したバイクが急に入ってくるから、左折できず、直進してしまった。再び、ナビゲーションに従って、進むと横断歩道が出たので、車を停める。
4人の若者たちがはしゃいで歩いている。その群れの中、見慣れた顔があった。清水助教だ。鬱そうな顔で、下を向いている清水助教は、両肩を二人の男に掴まれて、元気なく歩く。
勘が鋭い齋藤教授はきららを追って、運転する。冬空と風馬はチャイルドシートですやすやと眠っている。4人は派手なラブホテルの前に着いた。きららが躊躇って嫌かったら、男たちがきららを掴まって、中に入る。
不安に駆けられた齋藤教授は咄嗟にパク教授に電話する。事情を説明したら、パク教授は直ぐにいくから、一人では絶対入らないようにと念を押して言った。18分後、パク教授の車がラブホテルの前に現れた。
パク教授は運動で鍛えているので、筋肉ムキムキで体格がいい。パク教授がラブホテルに入ってから、30分以上も経ったのに、まだ、出てこない。心配になった齋藤教授が警察に通報したほうがいいかどうか悩んでいた時に、警察車と救急車がきた。
びっくりした齋藤教授が車から出て、近寄ったら、警察官が立ち入り禁止ですと堅く言う。齋藤教授が友人が中にいるから、様子を見に来たと言ったら、警察官は少し待ちなさいと言う。
子供たちが心配で、車に戻った齋藤教授は担架で運ばれる誰かを見た。再び慌てて近寄ったら、パク教授が担架で横になっている。齋藤教授が友人だと言い出して、近寄ったら、警察官が新庄市立病院に運ばれるから、そっちにきてくださいと言う。
齋藤教授は眠っている風馬を乳母車に入れて、起き上がった冬空を抱いて、新庄市立病院に入る。案内テスクで、パク教授のことを訊いて、院内の救急センターに行く。
閑散としている救急センターで暫く待っていると、年配の看護師が寄ってきて、パク・ヨングさんのご家族ですかと優しく訊く。齋藤教授が友人ですと答えると看護師が中に案内してくれる。
心配している齋藤教授を見て、パク教授は笑顔で、大丈夫だと言う。担当医師が肋骨骨折だが、痛みが軽いので、消炎鎮痛薬と湿布だけで治療が可能で、2週間で完治できると言う。
医師の説明が終わると、二人の警察官が入ってきて、いろいろと質問する。要するに、パク教授がラブホテルに入って、ホテルのスタッフに事情を説明して、きららがいる部屋に入ったら、3人の男がきららを犯していたそうだ。パク教授に邪魔されたと思った男たちが突然襲いかかってきて、殴ったから、パク教授も保身のために、喧嘩したと言った。
警察官はきららを含む男達にも訊いてみたが、昔からの付き合いで、合意でのセックスだと言われたから、警察が関与できなくなり、男たちをそのまま、家に帰したと言う。
パク教授は、10年前に山形文化大学に転任されてきて、きららと仲良くなったけれど、その時から、時々酷い痣の顔で登校するから、心配で何回か話したけれど、きららは大丈夫だと言い続けたそうだ。何も助けることができず、心配していたそうだ。パク教授はきららが持続的に暴力を受けていると確信している。
パク教授の話を真剣に聞いていた警察官が神妙な表情で本人が警察に相談や通報しない限り、法律上、警察は動けないと言う。気の毒だと思われた警察官が、3人の男の中、一人は清水きららの義理の父親だと教えてくれる。
思いがけない話を聞いた齋藤教授とパク教授はびっくりして言葉を失う。
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