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13話
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青空が美しい情景を魅せる9月に冬心は大学院に昇格された。冬心が書いた論文が高く評価されてアーラン教授は博士コースを進めたが、未曾有の昇進だったので教授陣は悩んだ末に普通の修士課程をまず修了させることに意見を集めた。アーラン教授は時間の無駄だと主張したが、教授陣は今学期にちょっと進度を斟酌して来年には博士課程に入れることを決めた。
朝晩は寒く感じる10月に入り、冬心は学業と翻訳でほとんどの時間を注ぎ込んでいた。4年生のエミリはインターンシップを受けていて忙しいし、ジャンは来年の大学院の試験のために、奮闘していた。でも、毎週土曜日にはジャンとのデートは欠かさずに楽しんでいた。ジャンとのヨーロッパ列車旅行の映像を編集してユーチューブに掲載したら、反応が凄かった。恋人としてジャンの顔と冬心の顔を晒したからだ。ジャンの承諾を得て顔を晒すことを決めたきっけは冬心に誘いの迷惑メールがたくさん来るからだ。それであっさり恋人がいることを発表したのだ。
イギリスの宇宙流星が頻繁にラインで連絡を寄こしてきた。流星は冬心のSNSやユーチューブのコメントでも熱い思いのメッセージを書き込んでいた。冬心は流星をただの知り合いだと思っていたのに、沢山の誘いのメールで悩んだ末にジャンに相談した。冬心の悩みを聞いたジャンはひっそりと気持ちが陰るのを隠し、自分は冬心を愛しているから、自分を晒して誰も冬心に近寄らないように助けたいと言った。
ジャンの優しい言葉に心底から満たされる冬心は凄く嬉しくて鼻の奥がツンとした。それで、動画に二人の真顔を出したのだが、その波紋に乗ってジャンに関して沢山の質問が寄せられた。でも、二人の恋を応援するコメントが多かったので、ファンの優しさはすごく心強かった。木々は黄色くなって紅葉の便りの10月半ばに入り、冬心のツイッターのフォロワーは1000万人、ユーチューブは2700万人に達した。想像できない程の膨大な収益も入って、パリでの税金も増えた。
冬心の本、黒と白noir et blancが8月からアメリカ、カナダ、オーストラリアなどの英語圏で発売されて、9月と10月にはイタリアとスペインとドイツでも発売し始めた。9月末までの清算によれば、6か月間で1000万部も売れて世界新記録を成し遂げた。数百億円の印税をどうするかをジャンダ教授と相談して、国境なき医師団と難民救済財団に全額を寄付した。冬心は当分の間騒ぐマスコミの取材依頼をやっと断り、学校の勉強に励んでいた。フランスのオメガ保護法律は世界でも突飛に厳しくて極優性オメガの冬心に勝手に写真を撮ったり、付き纏う行動は懲役20年の実刑が罰せられる。そのため、案の定、しげしげと見る人は沢山いたが、迷惑になりそうな無礼者はいなかった。
11月のパリにはヒンヤリとした北風が奮い立つ厳しい寒さが到来した。バーガンディー色のロングダウンジャケットを羽織った冬心は急ぎ足でシャンゼリゼ通りのローゼホテルのレストランに向かう。今日は11月25日の金曜日、ジャンの22番目の誕生日だ。冬心は授業を終えて夜7時に予約していたローゼホテルのレストランに7時15分位で着いた。ジャンは既に来ていてスマホを見ていた。
「お待たせてごめんなさい」
頬を淡いサクランボ色に染めた冬心が大きいショッピングバッグを持って現れた。ぱっーと満面の笑みを広げてジャンは「大丈夫」と爽やかな暖かい声音で言った。冬心は「お誕生日おめでとう!」と言いながら、ショッピングバッグを差し出す。「ありがとう!」と返事してプレゼントを受け取ったジャンが綺麗に包装されたセリーヌのロゴの箱を開けたらグレー系のクルーネックセーターがあった。
今、冬心が着ているセーターと同じだ。カップルルックのお揃いコーデだ。ジャンはとても嬉しくて何回もお礼を口に発した。二人は美味しいディナーと暖かい談笑でほくほくした時間を分かち合ってから、予約しておいた4階の部屋に上がった。
ルイ16世様式の家具に18世紀のクラシックスタイルの豪華な空間は極上のひとときを味わえる魔法にかかったように絢爛華麗な雰囲気だ。二人は一緒に眩いばかりの湯船に浸ってお互いの体温、匂い、感触を精しく触れあっていた。冬心は耳元で囁くジャンの甘たるい恋言葉と優しい愛撫で鼓動が高く鳴り、自然と高揚感が浮き上がった。冬心は熱くなった身体を反りながら夢見心地でジャンと熱くキスをする。
ローゼホテルを予約する時、冬心は8月のスイスでのできなかった続きを今度、ジャンの誕生日には成し遂げたいと切に思った。もう、怖くない!ジャンのためならーと自分を奮い立たせた。ジャンと一緒にいると、なぜか世界が暖かく感じるのだ。
時計が夜10時をまわった頃、ジャンは冬心を横抱きして浴室から出た。二人は甘い雰囲気の余韻を引いて愛し合う思いに馳せながらベットで体を一つに重なった。冬心がほわっとした気持ちでジャンを見上げる。ジャンは興奮した様子で短い吐息を吐きながら「愛してる」と囁く。その瞬間、冬心の涙腺が緩み、視界がじわっと滲んだ。ぽろぽろと涙が溢れだし冬心の頬を伝う。冬心は嬉しくて、幸せで胸がいっぱいになった。
「私も愛してる」と震える涙声で発する冬心の囁きにジャンの鼓動が一気に加速した。ジャンは舌を冬心の唇から項へ、鎖骨へと手際よく動かしながら薄ピンクの乳房についてちゅっるんと舐め始める。燃え上がった裸身の二人は息を喘ぎながら、お互いの体に心酔している。ジャンはゆっくり冬心の後孔に舌を滑らせて愛液で濡れている穴を優しく愛撫する。両足を大きく広げて嬌声を上げる冬心は身体を大きく震えながら射精してしまった。
イってしまった冬心を見て、ジャンは嬉しくて愛おしくて、心の奥底から沢山の気持ちが込み上げてきた。ジャンは冬心を優しく宥めながら肥大したペニスをゆっくり挿入した。緊張した狭い内壁が一気にペニスのサイズに合わせてじわっと広げられ、ペニスの脈に合わせてリズミカルに踊る。
部屋中は冬心の濃密な薔薇のフェロモンの香りでふわっと満ちていて、ジャンの興奮を煽っていた。冬心は余りの気持ちいい刺激に恍惚感に酔って何回も射精した。ジャンは腰を力強く振りながら冬心の胎内を突き抉っていた。突然、汗だらけのジャンから徐々に森林のウッディな香りが放し始めた。
冬心は恍惚に陶酔していても、鼻腔をツンと突く落ち着いた渋いウッディの香りで熱が弾けて身体中にジャンのフェロモンが染み渡る感覚を楽しんでいた。冬心が渋いフェロモンの余韻に浸り、揺れていたら突然、突発性発情期が来てしまった。
15歳頃、カナダのスキー場で大怪我して劣性アルファからベータになった以後、ずっとベータ一筋だったジャンは何も気づかずにペニスを精強に疾駆していた。極優性のオメガのフェロモンは強くて密度が高いのでセックス中に相方のフェロモン分泌腺を刺激して塞がっていたフェロモン分泌を急激に促すケースもあり、アルファ性のホルモンとフェロモンが潜在的に残っていたベータ性の相方がオメガのフェロモンに触発されて、アルファ性に変換されたケースも稀にある。ベータだったジャンは冬心のフェロモンにより、アルファ性が再び芽生えてきた。
冬心を無茶苦茶に壊したいという野性の欲情に駆けられたジャンは初めの優しさからは遠ざかって、本能のままに猛獣の如く、冬心を激しくむさぶっていた。
とうとう絶頂に至ったジャンは身体を大きく振るい、大量の精液を冬心の膣内に注ぎ込んだ。満悦感で頭がふわふわしていた冬心は絶叫して、華奢な身体を大きく痙攣した。荒い息遣いを漏らすジャンは涙と汗で滲まれ萎びれている冬心を見て、はっと我に返った。
「冬心。愛してる」
ジャンの包み込むような低い声が冬心の鼓膜に甘く反響した。二人は顔を寄せてお互いの吐息が触れ合い、吸い込まれるように熱いキスをする。
翌朝、ジャンは早く起きて、冬心の綺麗な顔を目に焼き付きながら、華奢な身体を優しく撫でていた。その感触で目を覚ました冬心は優しい眼差しでジャンを見つめる。ジャンは爽やかな笑顔で「おはよう。朝セックスしたいーぃ」と言い出した。
冬心は初めてのセックスで身体が疲れてしんどかったが、あどけなく笑って話すジャンが子犬みたいに可愛いから、つい頭を柔らかく頷いた。春の陽だまりのような温もりを持ったジャンはパぁぁと顔を輝かせて冬心を抱き付いた。二人は朝ご飯のことも忘れて、正午12時にホテルのフロントから退室の確認電話が来るまで燃えるセックスに遊び呆けた。
11月の初め、冷たい北風が飄々と吹き出すピース大学はジャンダ教授のゴシップでいつもざわついていた。10月中旬に入り、妊婦ワンピースを着始めたジャンダ教授の姿を見て、学生たちも職員たちも教授たちも眼を丸くして心配そうに話し合っていた。未婚で番もいない高齢のオメガがどうやって出産するのかなど、好奇心より、健康を心配する憂う声が多かった。
齋藤助教は8月からジャンダ教授の調子が悪かったのが妊娠のせいだと気づいてジャンダ教授が可哀そうだと思われ、もっと慎重にジャンダ教授に気を使っていた。春馬は12月の全日本アイスホッケー選手権大会に向けて多忙になり、宿舎で寝泊まりしながら、自由の時間なしに猛訓練に励んでいた。
でも、ジャンダ教授に会いたい春馬はとうとう外出禁止のルールを破って、勝手に宿舎を出て、ジャンダ教授の家に向かった。でも、いくらインターフォンを押してもジャンダ教授は答えてくれなかった。会いたくて会いたくて苦しい心を辛うじて落ち着かせ、宿舎に戻るしかできなかった。
11月25日の金曜日の東京は小春日の日差しが穏やかな眩い日だった。夜8時をまわった頃、ジャンダ教授は重い腹を抱えながら地下駐車場に足を運んだ。校内で色んな噂が出ていることは知っていた。でも、珍しいオメガの妊娠と出産は国を挙げて手厚く支援してくれるので、周囲の助けで順序に出産の準備が進んでいった。
一般のベータ性の女性は妊娠37週目から正期産と言われるが、形質者は特殊な身体の性質のため、女性のオメガは28週目、男性のオメガは23週目が正期産と定められている。そのため、ジャンダ教授の出産予定日は12月31日か1月1日だと診断された。
今はお腹が大きく膨らんだジャンダ教授は結局、パリの家族に妊娠の事実を素直に明かした。心配になった情深い母、アンナと妹、ソフィアが12月頃、東京に来て面倒を見てあげたいと申し出た。
一人で悩んだ春馬は11月になり、訓練が厳しくなって自由時間が取れないから気が滅入り、母、桂子に助けを求めたくてジャンダ教授の妊娠のことを打ち明けた。母、桂子は凄く驚いたが、初孫に会えるなんてと嬉しくなり、声を高く弾んだ。
桂子はジャンダ教授を助けるために、力を尽くすから心配しないで訓練に集中しなさいと痛切に言いながら春馬を元気よく励んであげた。その晩、春馬の実家では父、マイクと母、桂子がそわそわしながら、一人息子の春馬のために、ジャンダ教授の妊娠に関していろいろと話しあった。
春馬の母、桂子は悩んだ挙句、ピース大学に現れた。桂子は深呼吸をして人文学部棟の3階にあるジャンダ教授の研究室にノックする。研究室から、厚い眼鏡をかけた男前の大柄な男が出てきた。
彼は有名な書道家の山田桂子を見て、驚いて目をぱちくりした。齋藤助教は書道が大好きで中学生の時から書道部に入って、大学生でも部活で書道を楽しんでいる。1月に開かれた山田桂子の個展にも足を運んだ大ファンなのだ。44歳になっても気力よく振る舞う迫力ある山田桂子の書体が粋もあってとても好きだ。
はっと我に返った齋藤助教は丁寧な口調で「ジャンダ教授は只今トイレに行かれましたので、中に入ってお待ちください」と言った。とっても大好きな書道家なので、なぜ訪問したかなど理由も訊かないで研究室に入れてしまった。齋藤助教は礼儀正しく何を飲まれるかも訊きだして、暖かいお茶を出した。暫くしたら、大きなお腹を抱えてジャンダ教授が研究室に入ってきた。
桂子は思わず立ち上がって、ジャンダ教授の大きなお腹を見つめる。相変わらず美しくて若々しいジャンダ教授は痩せてはいたが、お腹だけが大きくて大変そうに見えた。一人息子が惚れ込んで猛進して盲愛している稀の男性オメガ。その並外れた美貌に目を奪われて思わず生唾を呑んだ桂子ははっと我に返った。
驚いて戸惑っているジャンダ教授を察して、桂子は改めて微笑みながら先に挨拶を述べた。ジャンダ教授も淡々とした語気で挨拶を返す。
桂子は準備してきた通り、話を進める。桂子はジャンダ教授に春馬との結婚を考えてほしいとおっとり口調で痛切に言った。慮外な話にジャンダ教授は漠然とした不安がよぎり、呂律が回らなくなった。ぽっかんとしているジャンダ教授を察して、桂子は赤ちゃんの幸せのために、春馬と結婚してほしいと芯のある声音でもう一度念を押した。
桂子は自分より、6歳も年上のお嫁は想像もしたことがなかった。優性アルファらしく、セックス好きな春馬の嗜好は熟知していた。今まで、春馬は自由奔放に恋愛してきたが、計画性と将来性を持っていたから、誰かを妊娠させたことはなかった。その故、息子を信じで、息子の自由な性生活には一切口を出さなかった。
この絶世美人のオメガには確実に男性を虜にする魔性があった。春馬は社会から排除される危険を冒して、レイプまでしてしまったのだ。気が狂った息子が狂気の狭間でエスカレートしていく無鉄砲な行動に桂子は恐怖心すら覚えていた。
でも、春馬の幸せと孫の将来のためなら、年上のお嫁でも歓迎したい心境だった。暫く沈黙が流れる間、ジャンダ教授は視線を落としていた。何も言わないで静かに座っているジャンダ教授の体調を配慮して、察しのいい桂子は腰を上げる。桂子は直ぐに返事しなくてもいいから、ゆっくり考慮してほしいと言い残し、丁寧にお辞儀をして出て行った。
隣の机で会話の全てを不意に聞いてしまった齋藤助教は赤ちゃんの父親が春馬選手だと知り、驚愕したが、なぜ春馬選手が必死に研究室へ訪れてきたのかが腑に落ちた。義理堅い齋藤助教は尊敬するジャンダ教授のために、絶対、この話は墓場まで持っていこうと決めた。
ジャンダ教授は暫く座ったまま、動かなかった。やっと考えが整理できたかのように、ゆっくり立ち上がったジャンダ教授は机上のパイロット制服のポールの写真を見て、号泣する。傍で見ていた齋藤助教は酷く動揺したが、何かを察知して胸が裂けるような悲痛を抱えて、ひそかに研究室を出た。
厳しい寒波が襲ってきて寒い日々が続く12月上旬、パリからジャンダ教授の母、アンナと妹、ソフィアが来日した。母、アンナは男性の劣性オメガらしく、出産の経験が3回もあったので、テキパキと世話をしてくれた。出産予定日が近くなるほど、ジャンダ教授は足が浮腫んで歩くのも大変そうになった。
母、アンナと妹、ソフィアは妊娠の原因や相方の家族の結婚誘いなどの重い話を聞いて涙を流した。ジャンダ教授は未だにポールを深く愛している。母も妹も7年間付き合ったポールとジャンダ教授の熱愛は尊しい愛だと感じていた。
ジャンダ教授より、5歳若かったポールは番が飛行機事故で亡くなり、長年、誰とも付き合わないで悲しんでいた。ジャンダ教授とポールは共通の友人の結婚式で出会ってから友達として出会い初め、徐々に愛を育んだ。ポールは亡くなった前の番のこともあって、ジャンダ教授との番の契約を躊躇っていた。
ポールの亡くなった前の番は極劣性のオメガで同じくパイロットだった。二人は付き合って2か月目で番の契約をして結婚式も挙げた。でも、結婚して僅か、3か月後、ポールの前の番が運航する飛行機がアメリカからシンガポールに向かう途中、大きな乱気流に巻き込まれ、フィリピン海で墜落してパイロットも乗務員も乗客も含む全員が死亡した悲惨な事故にあった。ポールがまだ若かった27歳頃のできことだった。
番が死んでしまたら、自然に番の契約は解除されるメカニズムなのだが、心にぽっかりと大きな穴ができたポールはジャンダ教授に出会えるまでには大きな喪失感で誰も愛することができなかった。ジャンダ教授は美しい美貌と優しい包容力で物心がつく頃から恋人がいなかった時期がなかった。ポールに初めて出会った頃、タイミングよく元彼と別れたばかりのジャンダ教授は自然とポールに好意を持ち始めた。それで、二人は着実に熱烈な愛を育んでいったのだ。
アンナはポールの死亡後、誰とも付き合わないでどこか抜け殻のようで、6年間も独身で貫くジャンダを見て、息子がどんなにポールを愛したのかを痛切に実感した。案の定、ジャンダは春馬と春馬の家族の結婚申請を頑な断り続けた。
アンナはジャンダを可哀そうだと思い、生まれてくる孫を全身全霊で面倒を見る意思を固めた。陰惨なレイプによって授かった赤ちゃんといえども、半分はローゼ血統の尊し命だと全てを受け入れたアンナはパリにいる主人に妊娠の真相を伝えた。
大手ローゼグループの会長のルイ・ローゼはジャンダ教授の父親でフランスでは著名な優性アルファ性のセレブだ。若い頃から外交官として海外で活躍したが、妻の父親だった先代の会長がなくなり、パリに戻って養子縁組されて婿養子になり、家業を継いだ。また、傍らに社会党の国会議員としても活躍している。
ルイ・ローゼは既に春馬・パンサーについて探偵から身辺調査の報告を受けていた。20歳のピース大学生でアイスホッケーの日本体表選手、裕福な家庭で日本人の母親は有名な書道家、ベルギー人の父親は名高い現役のプロゴルファーだ。
父親方の祖父はベルギー人でベルギー王立大学の医学部の教授だったが、3年前に胃癌で亡くなっている。祖母は著名なフランス人歌手、イザベル・マルソーだ。70歳になったイザベル・マルソーは今まで沢山の有名な歌を自作し、権威ある賞もたくさん受賞して歌声も魅力のある芸能界の巨匠なのだ。
母親方の祖父は尊敬される書道家で祖母は著名な古典舞踊家だったが、4年前にティレニア海のクルーズ座礁事故に遭って亡くなった。氏素性は申し分のないだが、レイプという事実が非常に気に障る。次男のジャンダは生まれてから絶世の美貌で周囲の視線を集めた。仕事柄、色んな国を転々して暮らしたが、ジャンダにはいつも恋人が付き添っていた。
融通無碍な恋愛観を持っていたルイは恋多きのジャンダを自由に育てた。心優しいジャンダを心底から信頼していたからだ。今まで、色んなアルファと恋愛してきたジャンダだったが、妊娠は初めてだった。妊娠の真相を隠していた次男が心配でいろいろ手を凝れて調査させた結果、レイプのことを知った。憤慨で込み上がる怒気を痛切に抑えて息子の唇が自ら開くのをじっくり待った。
春馬・パンサーを裁判に訴えることもできだが、ジャンダは生まれてくる赤ちゃんを配慮して、父親である春馬の起訴はしたくないと切に頼んできた。ルイは抑えきれない怒りをかろうじて押し込んで、次男のジャンダの状況を受け入れるしかできなかった。
春馬は全日本アイスホッケー選手権大会で優勝し、自由な時間を貰えた。毎日の夜、ジャンダ教授のマンションに待ち伏せていたが、容赦ないジャンダ教授は冷たかった。12月17日の土曜日、ピース大学校は長い冬休みに入った。冬休みの初の土曜日だから、時間の余裕があった春馬は相変わらずジャンダ教授の姿を追いたくて、北風が冷たく吹く寒冷な朝9時からジャンダ教授のマンションの入り口で待ち伏せていた。
木槿丘のピース高層タワーマンションのコンシェルジュはいつも見かける春馬選手がなぜ、マンションの入り口で待ち伏せているか、好奇心が沸いてきた。彼が昼食を取ってきたら、午後1時になった。でも、朝9時から午後1時まで外で突っ立ている春馬選手が寒い中、可哀そうに思われてつい声をかけた。
彼は「寒いからよければ、ラウンジの中で待ってもいいです」と話しかけた。春馬選手は「ありがとうございます!」と朗らかに言ってお辞儀をする。
マンションのラウンジは温かくて穏やかな音楽も流れて居心地よかった。午後、2時になり、お腹が減ってきた春馬は鞄から栄養ドリングを取り出して、一気に飲み干した途端に、奥のエレベーターが開かれ背が高く綺麗なブロンドヘアの美人が三人も揃って歩み出た。その中、一番背が高くて際立つ美貌のジャンダ教授が見えた。嬉しくなった春馬は走って行ってジャンダ教授に目を合わせる。
ビックリしたジャンダ教授は春馬を見て、嫌な胸騒ぎを抱えてうっすらと凍り付いたが、知らんぷりをして、春馬の横を通り過ぎろうとした。勘が鋭いアンナは春馬を見て、直ぐに赤ちゃんの父親のアルファだと気づいた。大きく膨らんだ腹を抱えながら、ゆっくり歩くジャンダ教授は足が浮腫んで早く歩けない。
アンナとソフィアの付き添いで大変そうに歩くジャンダ教授を見て、春馬は放胆にジャンダ教授の腕を引っ張って抱き締めた。驚いたジャンダ教授は「嫌だー」と叫んだ。隣にいたアンナとソフィアもびっくりしちゃって、震える声で「止めなさい」と日本語で春馬を宥める。
ジャンダ教授の悲鳴を聞いたコンシェルジュがびっくりして、走ってきて何のことだかを訊いた。春馬は何も言わずにジャンダ教授を横抱きして担いだ。弱弱しいアンナとソフィアとコンシェルジュは途方に暮れて、巨躯の春馬を説得するしかできなかった。
ジャンダ教授は震える涙声で警察を呼ぶようにコンシェルジュに頼んだ。でも、春馬はアンナとソフィアとコンシェルジュの忠告にどこ吹く風という顔ですたすたと歩いてエントランスの外に出た。
アンナは孫のことを気兼ねしてコンシェルジュに警察は呼ばないでほしいと切実に頼んだ。アンナは孫がいつかニュースや新聞などで自分の父親が母親をレイプして望まぬ命を孕まれたことを知ったら、どんなに悲観するかを想像してゾッとしたのだ。コンシェルジュはなんか痴情に絡む沙汰だと察知して、警察には通報しなかった。
北風が暴れ疲れて静かになったジャンダ教授の長いブロンドヘアをなびかせて蒼白な頬を冷やした。アンナは速足で春馬に歩み寄って、ジャンダ教授の足が浮腫んで痛いから血行促進のため、少し歩かせたいので降ろしてほしいと優しく言った。上手い日本語のアンナを見て、春馬はジャンダ教授の母親だとすぐ分かった。珍しく、綺麗な男性のオメガだった。ジャンダ教授の美貌は母親譲りなのだ。
春馬はジャンダ教授を地面に優しく降ろす。ジャンダ教授はアンナとソフィアの手を取って、マンションの隣の公園まで散歩する。春馬は何も言わずに、ひたすらジャンダ教授の後ろについて歩いた。澄み渡った青空で日差しが燦々と躍り出す暖かい日なので、公園には子連れの若い奥さんたちで賑わっていた。
テレビで見慣れた春馬選手を見て、若い奥さんたちは日本選手権大会競技、素晴らしかったと笑顔で褒めまくった。春馬も気前よくありがとうございますとお礼を言う。
ジャンダ教授は春馬が気に障るが、赤ちゃんの健康のために、頑張って公園内をよろよろ歩ぎ回る。冷たい風が新鮮で空気も澄んで美味しい。春馬はアンナとソフィアがジャンダ教授の両手を握て、ゆっくり歩いている姿をじっと見つめる。
若い奥さんたちは美しい外国人の3人に目を惹かれたが、その中でも、目立つほどに絶世美人の妊婦のジャンダ教授に目を凝らしていた。とある奥さんの子供がジャンダ教授に近寄って声をかけた。「綺麗なお姉ちゃんのお腹、触ってみてもいいですか?」と無邪気に訊く4、5歳ぐらいの男の子がわんこみたいにとっても可愛くてジャンダ教授は「いいよ」と優しく言う。
ジャンダ教授は男の子が触りやすくするために、薔薇色のロングコートの前を開けて大きいお腹を晒した。男の子が喜んでお腹を撫でたら、他の子たちも寄ってきて触りたいと異口同音に言う。ジャンダ教授がてっきり女だと思われた若い奥さんたちも寄ってきていろいろと質問をして、談笑が花咲く。
暫く見守っていた春馬は段々疲れてきたジャンダ教授を察して、そろそろ帰る時間だと言い出し、ジャンダ教授を人集りから離す。皆は有名な春馬選手と優美なジャンダ教授を交互に見つめる。
無垢な子供たちは「お姉ちゃんの旦那様ですか」と訊く。その質問に春馬は上機嫌になって「そう、俺の奥さんだよ」と快活に言い残し、ジャンダ教授の手を取ってゆっくり歩き出す。
ぎろぎろと見つめている人々の好奇の目を気にしたジャンダ教授は握られた春馬の大きな手を突き放すことができなかった。アンナはジャンダより30歳も年下の若い春馬を見て、彼が本気で息子を愛していることを確認して、心の奥でほっとしていた。
急激に疲れてきたジャンダ教授がよろめいて倒れそうになったので、運動神経がいい春馬が瞬発にジャンダ教授を抱きしめて横抱きをする。心配になったアンナとソフィアは気軽くジャンダ教授を抱き上げる春馬がそばにいて良かったと密かに思った。
家に入ってから、ジャンダ教授は手を洗って、水分補給をしてベットに入る。とても疲れたジャンダ教授は春馬のことなど、気にも留めず、眩暈が酷かったので、休みたかったのだ。
ジャンダ教授の家までつられて上がってしまった春馬は目を瞑ってベットで微睡むジャンダ教授を見ながら、フェロモンを多量に放した。春馬は自分ができることなら、何でもやってあげたい切ない気持ちで、大量のフェロモンを出している。それを見ていたアンナはオメガの妊婦にはパートナーのフェロモンシャワーが薬だと分かっていたので、春馬を追い出さないで家で留まらせていた。
夜ご飯を準備しながらソフィアはなぜかレイプ犯の春馬が嫌いでないことに薄っすら気づいた。ジャンダから初めて妊娠の真相を聞いた時には憎悪や鬱憤で胸が苦しいかったのに、実際に会ってみた春馬は愛に焦がれている悲しいさを帯びた瞳で、優しい眼差しでずっとジャンダを追っていた。30歳の年差もびっくりしたが、全然若く見えるジャンダと年相応に見えない大人っぽい春馬はお似合いだと感じた。
春馬が寝室でジャンダ教授をずっと見守っていたら、アンナが静かに入ってきて、夜ご飯を勧める。アンナはジャンダ教授を優しく起こして、野菜スープでも食べるように誘う。春馬のフェロモンに酔って朦朧としていたジャンダ教授は眩暈が収まって身体も軽くなった感じで、急に食欲が増してお腹減ったと言い出した。食欲不振の息子が腹減ったというから、嬉しくなったアンナはカレーライスがあるから食べようと明るく言う。
4人は食卓に囲んで野菜チキンカレーライスと野菜スープと和風サラダを静かに食べる。ジャンダ教授の美味しく食べてる可愛い姿を満足気に見ていた春馬は幸せな気持ちでカレーライスを平らげた。アンナもソフィアも珍しく食欲旺盛で美味しく食べているジャンダを見て、ほっとして口元が柔らかく緩んでいた。
朝晩は寒く感じる10月に入り、冬心は学業と翻訳でほとんどの時間を注ぎ込んでいた。4年生のエミリはインターンシップを受けていて忙しいし、ジャンは来年の大学院の試験のために、奮闘していた。でも、毎週土曜日にはジャンとのデートは欠かさずに楽しんでいた。ジャンとのヨーロッパ列車旅行の映像を編集してユーチューブに掲載したら、反応が凄かった。恋人としてジャンの顔と冬心の顔を晒したからだ。ジャンの承諾を得て顔を晒すことを決めたきっけは冬心に誘いの迷惑メールがたくさん来るからだ。それであっさり恋人がいることを発表したのだ。
イギリスの宇宙流星が頻繁にラインで連絡を寄こしてきた。流星は冬心のSNSやユーチューブのコメントでも熱い思いのメッセージを書き込んでいた。冬心は流星をただの知り合いだと思っていたのに、沢山の誘いのメールで悩んだ末にジャンに相談した。冬心の悩みを聞いたジャンはひっそりと気持ちが陰るのを隠し、自分は冬心を愛しているから、自分を晒して誰も冬心に近寄らないように助けたいと言った。
ジャンの優しい言葉に心底から満たされる冬心は凄く嬉しくて鼻の奥がツンとした。それで、動画に二人の真顔を出したのだが、その波紋に乗ってジャンに関して沢山の質問が寄せられた。でも、二人の恋を応援するコメントが多かったので、ファンの優しさはすごく心強かった。木々は黄色くなって紅葉の便りの10月半ばに入り、冬心のツイッターのフォロワーは1000万人、ユーチューブは2700万人に達した。想像できない程の膨大な収益も入って、パリでの税金も増えた。
冬心の本、黒と白noir et blancが8月からアメリカ、カナダ、オーストラリアなどの英語圏で発売されて、9月と10月にはイタリアとスペインとドイツでも発売し始めた。9月末までの清算によれば、6か月間で1000万部も売れて世界新記録を成し遂げた。数百億円の印税をどうするかをジャンダ教授と相談して、国境なき医師団と難民救済財団に全額を寄付した。冬心は当分の間騒ぐマスコミの取材依頼をやっと断り、学校の勉強に励んでいた。フランスのオメガ保護法律は世界でも突飛に厳しくて極優性オメガの冬心に勝手に写真を撮ったり、付き纏う行動は懲役20年の実刑が罰せられる。そのため、案の定、しげしげと見る人は沢山いたが、迷惑になりそうな無礼者はいなかった。
11月のパリにはヒンヤリとした北風が奮い立つ厳しい寒さが到来した。バーガンディー色のロングダウンジャケットを羽織った冬心は急ぎ足でシャンゼリゼ通りのローゼホテルのレストランに向かう。今日は11月25日の金曜日、ジャンの22番目の誕生日だ。冬心は授業を終えて夜7時に予約していたローゼホテルのレストランに7時15分位で着いた。ジャンは既に来ていてスマホを見ていた。
「お待たせてごめんなさい」
頬を淡いサクランボ色に染めた冬心が大きいショッピングバッグを持って現れた。ぱっーと満面の笑みを広げてジャンは「大丈夫」と爽やかな暖かい声音で言った。冬心は「お誕生日おめでとう!」と言いながら、ショッピングバッグを差し出す。「ありがとう!」と返事してプレゼントを受け取ったジャンが綺麗に包装されたセリーヌのロゴの箱を開けたらグレー系のクルーネックセーターがあった。
今、冬心が着ているセーターと同じだ。カップルルックのお揃いコーデだ。ジャンはとても嬉しくて何回もお礼を口に発した。二人は美味しいディナーと暖かい談笑でほくほくした時間を分かち合ってから、予約しておいた4階の部屋に上がった。
ルイ16世様式の家具に18世紀のクラシックスタイルの豪華な空間は極上のひとときを味わえる魔法にかかったように絢爛華麗な雰囲気だ。二人は一緒に眩いばかりの湯船に浸ってお互いの体温、匂い、感触を精しく触れあっていた。冬心は耳元で囁くジャンの甘たるい恋言葉と優しい愛撫で鼓動が高く鳴り、自然と高揚感が浮き上がった。冬心は熱くなった身体を反りながら夢見心地でジャンと熱くキスをする。
ローゼホテルを予約する時、冬心は8月のスイスでのできなかった続きを今度、ジャンの誕生日には成し遂げたいと切に思った。もう、怖くない!ジャンのためならーと自分を奮い立たせた。ジャンと一緒にいると、なぜか世界が暖かく感じるのだ。
時計が夜10時をまわった頃、ジャンは冬心を横抱きして浴室から出た。二人は甘い雰囲気の余韻を引いて愛し合う思いに馳せながらベットで体を一つに重なった。冬心がほわっとした気持ちでジャンを見上げる。ジャンは興奮した様子で短い吐息を吐きながら「愛してる」と囁く。その瞬間、冬心の涙腺が緩み、視界がじわっと滲んだ。ぽろぽろと涙が溢れだし冬心の頬を伝う。冬心は嬉しくて、幸せで胸がいっぱいになった。
「私も愛してる」と震える涙声で発する冬心の囁きにジャンの鼓動が一気に加速した。ジャンは舌を冬心の唇から項へ、鎖骨へと手際よく動かしながら薄ピンクの乳房についてちゅっるんと舐め始める。燃え上がった裸身の二人は息を喘ぎながら、お互いの体に心酔している。ジャンはゆっくり冬心の後孔に舌を滑らせて愛液で濡れている穴を優しく愛撫する。両足を大きく広げて嬌声を上げる冬心は身体を大きく震えながら射精してしまった。
イってしまった冬心を見て、ジャンは嬉しくて愛おしくて、心の奥底から沢山の気持ちが込み上げてきた。ジャンは冬心を優しく宥めながら肥大したペニスをゆっくり挿入した。緊張した狭い内壁が一気にペニスのサイズに合わせてじわっと広げられ、ペニスの脈に合わせてリズミカルに踊る。
部屋中は冬心の濃密な薔薇のフェロモンの香りでふわっと満ちていて、ジャンの興奮を煽っていた。冬心は余りの気持ちいい刺激に恍惚感に酔って何回も射精した。ジャンは腰を力強く振りながら冬心の胎内を突き抉っていた。突然、汗だらけのジャンから徐々に森林のウッディな香りが放し始めた。
冬心は恍惚に陶酔していても、鼻腔をツンと突く落ち着いた渋いウッディの香りで熱が弾けて身体中にジャンのフェロモンが染み渡る感覚を楽しんでいた。冬心が渋いフェロモンの余韻に浸り、揺れていたら突然、突発性発情期が来てしまった。
15歳頃、カナダのスキー場で大怪我して劣性アルファからベータになった以後、ずっとベータ一筋だったジャンは何も気づかずにペニスを精強に疾駆していた。極優性のオメガのフェロモンは強くて密度が高いのでセックス中に相方のフェロモン分泌腺を刺激して塞がっていたフェロモン分泌を急激に促すケースもあり、アルファ性のホルモンとフェロモンが潜在的に残っていたベータ性の相方がオメガのフェロモンに触発されて、アルファ性に変換されたケースも稀にある。ベータだったジャンは冬心のフェロモンにより、アルファ性が再び芽生えてきた。
冬心を無茶苦茶に壊したいという野性の欲情に駆けられたジャンは初めの優しさからは遠ざかって、本能のままに猛獣の如く、冬心を激しくむさぶっていた。
とうとう絶頂に至ったジャンは身体を大きく振るい、大量の精液を冬心の膣内に注ぎ込んだ。満悦感で頭がふわふわしていた冬心は絶叫して、華奢な身体を大きく痙攣した。荒い息遣いを漏らすジャンは涙と汗で滲まれ萎びれている冬心を見て、はっと我に返った。
「冬心。愛してる」
ジャンの包み込むような低い声が冬心の鼓膜に甘く反響した。二人は顔を寄せてお互いの吐息が触れ合い、吸い込まれるように熱いキスをする。
翌朝、ジャンは早く起きて、冬心の綺麗な顔を目に焼き付きながら、華奢な身体を優しく撫でていた。その感触で目を覚ました冬心は優しい眼差しでジャンを見つめる。ジャンは爽やかな笑顔で「おはよう。朝セックスしたいーぃ」と言い出した。
冬心は初めてのセックスで身体が疲れてしんどかったが、あどけなく笑って話すジャンが子犬みたいに可愛いから、つい頭を柔らかく頷いた。春の陽だまりのような温もりを持ったジャンはパぁぁと顔を輝かせて冬心を抱き付いた。二人は朝ご飯のことも忘れて、正午12時にホテルのフロントから退室の確認電話が来るまで燃えるセックスに遊び呆けた。
11月の初め、冷たい北風が飄々と吹き出すピース大学はジャンダ教授のゴシップでいつもざわついていた。10月中旬に入り、妊婦ワンピースを着始めたジャンダ教授の姿を見て、学生たちも職員たちも教授たちも眼を丸くして心配そうに話し合っていた。未婚で番もいない高齢のオメガがどうやって出産するのかなど、好奇心より、健康を心配する憂う声が多かった。
齋藤助教は8月からジャンダ教授の調子が悪かったのが妊娠のせいだと気づいてジャンダ教授が可哀そうだと思われ、もっと慎重にジャンダ教授に気を使っていた。春馬は12月の全日本アイスホッケー選手権大会に向けて多忙になり、宿舎で寝泊まりしながら、自由の時間なしに猛訓練に励んでいた。
でも、ジャンダ教授に会いたい春馬はとうとう外出禁止のルールを破って、勝手に宿舎を出て、ジャンダ教授の家に向かった。でも、いくらインターフォンを押してもジャンダ教授は答えてくれなかった。会いたくて会いたくて苦しい心を辛うじて落ち着かせ、宿舎に戻るしかできなかった。
11月25日の金曜日の東京は小春日の日差しが穏やかな眩い日だった。夜8時をまわった頃、ジャンダ教授は重い腹を抱えながら地下駐車場に足を運んだ。校内で色んな噂が出ていることは知っていた。でも、珍しいオメガの妊娠と出産は国を挙げて手厚く支援してくれるので、周囲の助けで順序に出産の準備が進んでいった。
一般のベータ性の女性は妊娠37週目から正期産と言われるが、形質者は特殊な身体の性質のため、女性のオメガは28週目、男性のオメガは23週目が正期産と定められている。そのため、ジャンダ教授の出産予定日は12月31日か1月1日だと診断された。
今はお腹が大きく膨らんだジャンダ教授は結局、パリの家族に妊娠の事実を素直に明かした。心配になった情深い母、アンナと妹、ソフィアが12月頃、東京に来て面倒を見てあげたいと申し出た。
一人で悩んだ春馬は11月になり、訓練が厳しくなって自由時間が取れないから気が滅入り、母、桂子に助けを求めたくてジャンダ教授の妊娠のことを打ち明けた。母、桂子は凄く驚いたが、初孫に会えるなんてと嬉しくなり、声を高く弾んだ。
桂子はジャンダ教授を助けるために、力を尽くすから心配しないで訓練に集中しなさいと痛切に言いながら春馬を元気よく励んであげた。その晩、春馬の実家では父、マイクと母、桂子がそわそわしながら、一人息子の春馬のために、ジャンダ教授の妊娠に関していろいろと話しあった。
春馬の母、桂子は悩んだ挙句、ピース大学に現れた。桂子は深呼吸をして人文学部棟の3階にあるジャンダ教授の研究室にノックする。研究室から、厚い眼鏡をかけた男前の大柄な男が出てきた。
彼は有名な書道家の山田桂子を見て、驚いて目をぱちくりした。齋藤助教は書道が大好きで中学生の時から書道部に入って、大学生でも部活で書道を楽しんでいる。1月に開かれた山田桂子の個展にも足を運んだ大ファンなのだ。44歳になっても気力よく振る舞う迫力ある山田桂子の書体が粋もあってとても好きだ。
はっと我に返った齋藤助教は丁寧な口調で「ジャンダ教授は只今トイレに行かれましたので、中に入ってお待ちください」と言った。とっても大好きな書道家なので、なぜ訪問したかなど理由も訊かないで研究室に入れてしまった。齋藤助教は礼儀正しく何を飲まれるかも訊きだして、暖かいお茶を出した。暫くしたら、大きなお腹を抱えてジャンダ教授が研究室に入ってきた。
桂子は思わず立ち上がって、ジャンダ教授の大きなお腹を見つめる。相変わらず美しくて若々しいジャンダ教授は痩せてはいたが、お腹だけが大きくて大変そうに見えた。一人息子が惚れ込んで猛進して盲愛している稀の男性オメガ。その並外れた美貌に目を奪われて思わず生唾を呑んだ桂子ははっと我に返った。
驚いて戸惑っているジャンダ教授を察して、桂子は改めて微笑みながら先に挨拶を述べた。ジャンダ教授も淡々とした語気で挨拶を返す。
桂子は準備してきた通り、話を進める。桂子はジャンダ教授に春馬との結婚を考えてほしいとおっとり口調で痛切に言った。慮外な話にジャンダ教授は漠然とした不安がよぎり、呂律が回らなくなった。ぽっかんとしているジャンダ教授を察して、桂子は赤ちゃんの幸せのために、春馬と結婚してほしいと芯のある声音でもう一度念を押した。
桂子は自分より、6歳も年上のお嫁は想像もしたことがなかった。優性アルファらしく、セックス好きな春馬の嗜好は熟知していた。今まで、春馬は自由奔放に恋愛してきたが、計画性と将来性を持っていたから、誰かを妊娠させたことはなかった。その故、息子を信じで、息子の自由な性生活には一切口を出さなかった。
この絶世美人のオメガには確実に男性を虜にする魔性があった。春馬は社会から排除される危険を冒して、レイプまでしてしまったのだ。気が狂った息子が狂気の狭間でエスカレートしていく無鉄砲な行動に桂子は恐怖心すら覚えていた。
でも、春馬の幸せと孫の将来のためなら、年上のお嫁でも歓迎したい心境だった。暫く沈黙が流れる間、ジャンダ教授は視線を落としていた。何も言わないで静かに座っているジャンダ教授の体調を配慮して、察しのいい桂子は腰を上げる。桂子は直ぐに返事しなくてもいいから、ゆっくり考慮してほしいと言い残し、丁寧にお辞儀をして出て行った。
隣の机で会話の全てを不意に聞いてしまった齋藤助教は赤ちゃんの父親が春馬選手だと知り、驚愕したが、なぜ春馬選手が必死に研究室へ訪れてきたのかが腑に落ちた。義理堅い齋藤助教は尊敬するジャンダ教授のために、絶対、この話は墓場まで持っていこうと決めた。
ジャンダ教授は暫く座ったまま、動かなかった。やっと考えが整理できたかのように、ゆっくり立ち上がったジャンダ教授は机上のパイロット制服のポールの写真を見て、号泣する。傍で見ていた齋藤助教は酷く動揺したが、何かを察知して胸が裂けるような悲痛を抱えて、ひそかに研究室を出た。
厳しい寒波が襲ってきて寒い日々が続く12月上旬、パリからジャンダ教授の母、アンナと妹、ソフィアが来日した。母、アンナは男性の劣性オメガらしく、出産の経験が3回もあったので、テキパキと世話をしてくれた。出産予定日が近くなるほど、ジャンダ教授は足が浮腫んで歩くのも大変そうになった。
母、アンナと妹、ソフィアは妊娠の原因や相方の家族の結婚誘いなどの重い話を聞いて涙を流した。ジャンダ教授は未だにポールを深く愛している。母も妹も7年間付き合ったポールとジャンダ教授の熱愛は尊しい愛だと感じていた。
ジャンダ教授より、5歳若かったポールは番が飛行機事故で亡くなり、長年、誰とも付き合わないで悲しんでいた。ジャンダ教授とポールは共通の友人の結婚式で出会ってから友達として出会い初め、徐々に愛を育んだ。ポールは亡くなった前の番のこともあって、ジャンダ教授との番の契約を躊躇っていた。
ポールの亡くなった前の番は極劣性のオメガで同じくパイロットだった。二人は付き合って2か月目で番の契約をして結婚式も挙げた。でも、結婚して僅か、3か月後、ポールの前の番が運航する飛行機がアメリカからシンガポールに向かう途中、大きな乱気流に巻き込まれ、フィリピン海で墜落してパイロットも乗務員も乗客も含む全員が死亡した悲惨な事故にあった。ポールがまだ若かった27歳頃のできことだった。
番が死んでしまたら、自然に番の契約は解除されるメカニズムなのだが、心にぽっかりと大きな穴ができたポールはジャンダ教授に出会えるまでには大きな喪失感で誰も愛することができなかった。ジャンダ教授は美しい美貌と優しい包容力で物心がつく頃から恋人がいなかった時期がなかった。ポールに初めて出会った頃、タイミングよく元彼と別れたばかりのジャンダ教授は自然とポールに好意を持ち始めた。それで、二人は着実に熱烈な愛を育んでいったのだ。
アンナはポールの死亡後、誰とも付き合わないでどこか抜け殻のようで、6年間も独身で貫くジャンダを見て、息子がどんなにポールを愛したのかを痛切に実感した。案の定、ジャンダは春馬と春馬の家族の結婚申請を頑な断り続けた。
アンナはジャンダを可哀そうだと思い、生まれてくる孫を全身全霊で面倒を見る意思を固めた。陰惨なレイプによって授かった赤ちゃんといえども、半分はローゼ血統の尊し命だと全てを受け入れたアンナはパリにいる主人に妊娠の真相を伝えた。
大手ローゼグループの会長のルイ・ローゼはジャンダ教授の父親でフランスでは著名な優性アルファ性のセレブだ。若い頃から外交官として海外で活躍したが、妻の父親だった先代の会長がなくなり、パリに戻って養子縁組されて婿養子になり、家業を継いだ。また、傍らに社会党の国会議員としても活躍している。
ルイ・ローゼは既に春馬・パンサーについて探偵から身辺調査の報告を受けていた。20歳のピース大学生でアイスホッケーの日本体表選手、裕福な家庭で日本人の母親は有名な書道家、ベルギー人の父親は名高い現役のプロゴルファーだ。
父親方の祖父はベルギー人でベルギー王立大学の医学部の教授だったが、3年前に胃癌で亡くなっている。祖母は著名なフランス人歌手、イザベル・マルソーだ。70歳になったイザベル・マルソーは今まで沢山の有名な歌を自作し、権威ある賞もたくさん受賞して歌声も魅力のある芸能界の巨匠なのだ。
母親方の祖父は尊敬される書道家で祖母は著名な古典舞踊家だったが、4年前にティレニア海のクルーズ座礁事故に遭って亡くなった。氏素性は申し分のないだが、レイプという事実が非常に気に障る。次男のジャンダは生まれてから絶世の美貌で周囲の視線を集めた。仕事柄、色んな国を転々して暮らしたが、ジャンダにはいつも恋人が付き添っていた。
融通無碍な恋愛観を持っていたルイは恋多きのジャンダを自由に育てた。心優しいジャンダを心底から信頼していたからだ。今まで、色んなアルファと恋愛してきたジャンダだったが、妊娠は初めてだった。妊娠の真相を隠していた次男が心配でいろいろ手を凝れて調査させた結果、レイプのことを知った。憤慨で込み上がる怒気を痛切に抑えて息子の唇が自ら開くのをじっくり待った。
春馬・パンサーを裁判に訴えることもできだが、ジャンダは生まれてくる赤ちゃんを配慮して、父親である春馬の起訴はしたくないと切に頼んできた。ルイは抑えきれない怒りをかろうじて押し込んで、次男のジャンダの状況を受け入れるしかできなかった。
春馬は全日本アイスホッケー選手権大会で優勝し、自由な時間を貰えた。毎日の夜、ジャンダ教授のマンションに待ち伏せていたが、容赦ないジャンダ教授は冷たかった。12月17日の土曜日、ピース大学校は長い冬休みに入った。冬休みの初の土曜日だから、時間の余裕があった春馬は相変わらずジャンダ教授の姿を追いたくて、北風が冷たく吹く寒冷な朝9時からジャンダ教授のマンションの入り口で待ち伏せていた。
木槿丘のピース高層タワーマンションのコンシェルジュはいつも見かける春馬選手がなぜ、マンションの入り口で待ち伏せているか、好奇心が沸いてきた。彼が昼食を取ってきたら、午後1時になった。でも、朝9時から午後1時まで外で突っ立ている春馬選手が寒い中、可哀そうに思われてつい声をかけた。
彼は「寒いからよければ、ラウンジの中で待ってもいいです」と話しかけた。春馬選手は「ありがとうございます!」と朗らかに言ってお辞儀をする。
マンションのラウンジは温かくて穏やかな音楽も流れて居心地よかった。午後、2時になり、お腹が減ってきた春馬は鞄から栄養ドリングを取り出して、一気に飲み干した途端に、奥のエレベーターが開かれ背が高く綺麗なブロンドヘアの美人が三人も揃って歩み出た。その中、一番背が高くて際立つ美貌のジャンダ教授が見えた。嬉しくなった春馬は走って行ってジャンダ教授に目を合わせる。
ビックリしたジャンダ教授は春馬を見て、嫌な胸騒ぎを抱えてうっすらと凍り付いたが、知らんぷりをして、春馬の横を通り過ぎろうとした。勘が鋭いアンナは春馬を見て、直ぐに赤ちゃんの父親のアルファだと気づいた。大きく膨らんだ腹を抱えながら、ゆっくり歩くジャンダ教授は足が浮腫んで早く歩けない。
アンナとソフィアの付き添いで大変そうに歩くジャンダ教授を見て、春馬は放胆にジャンダ教授の腕を引っ張って抱き締めた。驚いたジャンダ教授は「嫌だー」と叫んだ。隣にいたアンナとソフィアもびっくりしちゃって、震える声で「止めなさい」と日本語で春馬を宥める。
ジャンダ教授の悲鳴を聞いたコンシェルジュがびっくりして、走ってきて何のことだかを訊いた。春馬は何も言わずにジャンダ教授を横抱きして担いだ。弱弱しいアンナとソフィアとコンシェルジュは途方に暮れて、巨躯の春馬を説得するしかできなかった。
ジャンダ教授は震える涙声で警察を呼ぶようにコンシェルジュに頼んだ。でも、春馬はアンナとソフィアとコンシェルジュの忠告にどこ吹く風という顔ですたすたと歩いてエントランスの外に出た。
アンナは孫のことを気兼ねしてコンシェルジュに警察は呼ばないでほしいと切実に頼んだ。アンナは孫がいつかニュースや新聞などで自分の父親が母親をレイプして望まぬ命を孕まれたことを知ったら、どんなに悲観するかを想像してゾッとしたのだ。コンシェルジュはなんか痴情に絡む沙汰だと察知して、警察には通報しなかった。
北風が暴れ疲れて静かになったジャンダ教授の長いブロンドヘアをなびかせて蒼白な頬を冷やした。アンナは速足で春馬に歩み寄って、ジャンダ教授の足が浮腫んで痛いから血行促進のため、少し歩かせたいので降ろしてほしいと優しく言った。上手い日本語のアンナを見て、春馬はジャンダ教授の母親だとすぐ分かった。珍しく、綺麗な男性のオメガだった。ジャンダ教授の美貌は母親譲りなのだ。
春馬はジャンダ教授を地面に優しく降ろす。ジャンダ教授はアンナとソフィアの手を取って、マンションの隣の公園まで散歩する。春馬は何も言わずに、ひたすらジャンダ教授の後ろについて歩いた。澄み渡った青空で日差しが燦々と躍り出す暖かい日なので、公園には子連れの若い奥さんたちで賑わっていた。
テレビで見慣れた春馬選手を見て、若い奥さんたちは日本選手権大会競技、素晴らしかったと笑顔で褒めまくった。春馬も気前よくありがとうございますとお礼を言う。
ジャンダ教授は春馬が気に障るが、赤ちゃんの健康のために、頑張って公園内をよろよろ歩ぎ回る。冷たい風が新鮮で空気も澄んで美味しい。春馬はアンナとソフィアがジャンダ教授の両手を握て、ゆっくり歩いている姿をじっと見つめる。
若い奥さんたちは美しい外国人の3人に目を惹かれたが、その中でも、目立つほどに絶世美人の妊婦のジャンダ教授に目を凝らしていた。とある奥さんの子供がジャンダ教授に近寄って声をかけた。「綺麗なお姉ちゃんのお腹、触ってみてもいいですか?」と無邪気に訊く4、5歳ぐらいの男の子がわんこみたいにとっても可愛くてジャンダ教授は「いいよ」と優しく言う。
ジャンダ教授は男の子が触りやすくするために、薔薇色のロングコートの前を開けて大きいお腹を晒した。男の子が喜んでお腹を撫でたら、他の子たちも寄ってきて触りたいと異口同音に言う。ジャンダ教授がてっきり女だと思われた若い奥さんたちも寄ってきていろいろと質問をして、談笑が花咲く。
暫く見守っていた春馬は段々疲れてきたジャンダ教授を察して、そろそろ帰る時間だと言い出し、ジャンダ教授を人集りから離す。皆は有名な春馬選手と優美なジャンダ教授を交互に見つめる。
無垢な子供たちは「お姉ちゃんの旦那様ですか」と訊く。その質問に春馬は上機嫌になって「そう、俺の奥さんだよ」と快活に言い残し、ジャンダ教授の手を取ってゆっくり歩き出す。
ぎろぎろと見つめている人々の好奇の目を気にしたジャンダ教授は握られた春馬の大きな手を突き放すことができなかった。アンナはジャンダより30歳も年下の若い春馬を見て、彼が本気で息子を愛していることを確認して、心の奥でほっとしていた。
急激に疲れてきたジャンダ教授がよろめいて倒れそうになったので、運動神経がいい春馬が瞬発にジャンダ教授を抱きしめて横抱きをする。心配になったアンナとソフィアは気軽くジャンダ教授を抱き上げる春馬がそばにいて良かったと密かに思った。
家に入ってから、ジャンダ教授は手を洗って、水分補給をしてベットに入る。とても疲れたジャンダ教授は春馬のことなど、気にも留めず、眩暈が酷かったので、休みたかったのだ。
ジャンダ教授の家までつられて上がってしまった春馬は目を瞑ってベットで微睡むジャンダ教授を見ながら、フェロモンを多量に放した。春馬は自分ができることなら、何でもやってあげたい切ない気持ちで、大量のフェロモンを出している。それを見ていたアンナはオメガの妊婦にはパートナーのフェロモンシャワーが薬だと分かっていたので、春馬を追い出さないで家で留まらせていた。
夜ご飯を準備しながらソフィアはなぜかレイプ犯の春馬が嫌いでないことに薄っすら気づいた。ジャンダから初めて妊娠の真相を聞いた時には憎悪や鬱憤で胸が苦しいかったのに、実際に会ってみた春馬は愛に焦がれている悲しいさを帯びた瞳で、優しい眼差しでずっとジャンダを追っていた。30歳の年差もびっくりしたが、全然若く見えるジャンダと年相応に見えない大人っぽい春馬はお似合いだと感じた。
春馬が寝室でジャンダ教授をずっと見守っていたら、アンナが静かに入ってきて、夜ご飯を勧める。アンナはジャンダ教授を優しく起こして、野菜スープでも食べるように誘う。春馬のフェロモンに酔って朦朧としていたジャンダ教授は眩暈が収まって身体も軽くなった感じで、急に食欲が増してお腹減ったと言い出した。食欲不振の息子が腹減ったというから、嬉しくなったアンナはカレーライスがあるから食べようと明るく言う。
4人は食卓に囲んで野菜チキンカレーライスと野菜スープと和風サラダを静かに食べる。ジャンダ教授の美味しく食べてる可愛い姿を満足気に見ていた春馬は幸せな気持ちでカレーライスを平らげた。アンナもソフィアも珍しく食欲旺盛で美味しく食べているジャンダを見て、ほっとして口元が柔らかく緩んでいた。
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