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1話
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薄暗がりの細道、冷たい空気を浴びながら力なく歩いている椿冬心、半透明に欠けられた月明かりでも映える端正な美しい顔、丸くて大きな薄茶色の神秘的な瞳、豊かで長い睫毛が柔らかなカールになってる。高くて凛とした華やかな鼻筋。薔薇色のぷっくらとしたほんのり妖艶さも感じられる小さな唇。磁器のように白くて艶がある雪のような純白の肌。つやつや、さらさらとした栗皮色のボリューミーなショートヘア。全体が優雅なオーラで輝いている。
オメガらしく、線の細いスリムな体にはほのかな甘い薔薇のフェロモン香りが漂っている。オメガとしては177センチの高い身長で蒼白くて弱く見えるが、実は体育が得意な健康な青年だ。
書店のバイトの終わり、一人考えことをしながら歩くこのぐねぐねの細道が大好きだ。駅、マンション、店等が並ぶ中心地から離れて歩いて20分位また続いて、ぐねぐねの坂道を10分歩いたら低所得者専用のアイボリー色の5階公営アパートが現れる。
愛しく大好きな80歳の祖母が待っている我が家。冬心の疲れに落ちいた小さい顔がパアッと明るい色彩で微笑む。2LDに風呂と小さなキッチンと居間。5年前建てられて二人で暮らすには十分な広さで綺麗だ。
静かに足音を立たないようにして、祖母の部屋のドアを開けると祖母がスヤスヤと寝ている。しわだらけの安らぎ顔を覗いたら安心感で緩んでくる冬心の表情。ドアをそっと閉めてから鞄を自分の部屋に置き、風呂場に行く。温かいシャワーを浴びて鈴木先生からいただいたオメガ専用クリームを全身に丁寧に塗る。
居間には鈴木先生からいただいた2人用の茶色レザーソファと木材の茶色テーブルだけが置いてあり、小さな祖母の部屋には、鈴木先生からいただいた小さなテレビと介護ベットがあった。白色で清潔感あるキッチンに入り、冷蔵庫を確認して安心する冬心。今朝、作って置いた牛肉お粥やナムルなどが全部なくなってるってことは祖母が食べられてくれたことだから冬心は嬉しくで嬉しくで鼻歌も出る。
ベージュ色の壁紙と茶色の無地カーテン、綺麗な木製のベットにはベージュ色の水玉模様の布団が皺一つもなくスッキリと敷かれていて、隣の木材の茶色の机と本棚にはぎっしり整然と沢山の本が並んでいる。冬心の部屋の家具もやっぱり鈴木先生からいただいた物だ。本は両親の遺品が多く時々鈴木先生からいただいた本もあった。両親の倹約な生活の中、本だけは結構豊かだった。医学、科学、文学、天文学、スピリチュアルなどの種類も多様で冬心の知的創造性が醸し出される。
押入式のクロゼットには鈴木先生の娘からいただいた綺麗な服や上品な鞄が整理されている。
綺麗に整理された机の上の額縁には事故でなくなれた両親と今よりずっと若く健康な祖母に抱っこされている幼い子供の自分が写っている。冬心が大切にしている、宝物だ。この家では数少ない飾り物だ。他には冬心が小、中、高校生の全国美術大会で3回も優勝を取った野生花の水彩画、祖母の肖像画そして宇宙の抽象画がこの家の飾り物の全てだ。祖母はいつもこの家に入られる人々に対して冬心の絵画を指差して自慢気に私の孫は天才でこんなにも絵が上手だ、賞も取ったぞと言いふらすのだった。
冬心は静かに椅子にかけて本日の授業の宿題を始める。暫く勉強に夢中で、ふっと机上の時計を見たら、もう夜明けの2時を過ぎている。机上の本やノートを片付けてからベットに入る。冬心の充実な一日が幕を下ろすのだ。
朝6時、アラームが響き、冬心は起き上がる。風呂場にいって顔を洗って歯磨きもする。また、オメガクリームも丁寧に顔に満遍なく塗る。
キッチンに移り、冷蔵庫からいんげん豆、玉ねぎ、人参、カボチャ、じゃがいもと豆腐、豚肉を出して、豚汁を作る。手際よく祖母の好みのもやしナムルも作る。丸くて白い食卓に朝食を置いたら祖母がドアを開けて出てくる。
「ほら、私が作りたかったのに、ごめんね、冬心」
「いいえ、料理は楽しいし、全然無理してないから、おばあさん、胃もたれはよくなったの?病院行かなくても大丈夫?腰はどうです?」
「あー、もう、スッキリした。心配かけてごめんね。もう、オメガ支援施設にも出られるように、頑張らなくちゃ」
「えー、掃除の仕事は辞めないの。無理しないほうがいいって言われたでしょ」
食卓に座って、スプーンを取った祖母が笑顔で言う。
「あぁー、豚汁美味しい、体の隅々まで浸透する旨味だね。でもね、年取っても働き口があるのってありがたいことよ。家で独りテレビみるより、出て皆と話したり、体動かすのがもっと楽しいし、金も入るし、得なのよ」
「俺、バイトしてて成績優秀者奨学金ももらっているから無理はしないでね」
「うんうん、このナムルもしゃきしゃきして、美味しいね。冬心も早く食べなさい」
祖母が元気そうで安心した冬心は食事の片付けを終えて、大学に足を運ぶ。エレベーターで5階から1階まで降りる。新しい公営アパートだから、エレベーターも付いている。とても便利で満足している。
1、2限が終わり、皆はガヤガヤしながら講義室を出ていく。冬心は鞄を持ってトイレにいく。そうだ、オメガ専用のトイレだ。世界でも日本でも優秀な人材しか入れない、ピース財団のピース大学だ。稀のオメガも在籍している有名な大学だから、トイレも充実している。
冬心はトイレで手を丁寧に洗った後、1階のカフェテリアにいく。皆は学生食堂にいくが、お金に厳しい冬心はカフェテリアの無料のコーヒーを狙い、暖かい日差しが伸びている窓辺に座る。無料のアメリカーノを持ってきて鞄から消毒ウェットティッシュとお弁当箱を取り出す。カフェテリアでは静かな雨音色のジャズが流れていて、殆ど独りでコーヒーを飲んだり、本を読んでいる学生達で満ちている。ピース大学は規模も大きく、各部の各々の建物にカフェテリア、食堂、保健所、図書館などの設備も完璧だった。冬心はナムル、キムチ、じゃこ炒め、卵巻きと雑穀米で頬を膨らませながら静かにモグモグ食べる。
大学に入るまでは冬心はいつも人々の熱い視線を浴びった。美しくてスラッとした容姿が人々の心を惹き付けられた。でも、ここは優秀な人材の集まり、初めてはちらほら見られていたが今は、もう誰も気にせずに自分のことで精一杯だ。冬心は大学が楽で勉強も面白くて本当に好きだ。今も高校の不運のできことで強迫性不安障害の潔癖症を患っている。その節には、鈴木美知子先生に大変お世話になった。今も鈴木先生とは仲良しだ。鈴木先生は稀の女性の優性オメガで、形質研究の一任者として有能な50代の医者だ。
ゆっくりご飯を食べ終わると消毒ウェットティッシュで手と口元をふき、コーヒーを啜る。その後、弁当箱を鞄に入れて手を洗うためにトイレへ向く。これから30分くらい余った時間は図書館にいって本を読む。
3、4、5時限が終わり、冬心はバイト先のピース書店にいくとした。
「じゃね、冬心」
「うん、じゃね。愛子ちゃん」
愛子は入学式で初めて会ってから、今も仲良しだ。入学式で愛子から写真撮ってくださいと声をかけてきたので、それを機に仲良くなった。彼女はベータで英米文学を学び、仏文学科の冬心とはたまに、共通の教養授業で顔合わせしてる。
160センチのぽっちゃり体型で明るくて可愛い愛子はもう彼氏が出来て、薔薇色のホヤホヤのキャンパスライフを楽しんでいる。金曜日は愛子が彼氏と食事するので、冬心は独りでランチをする。何回か誘われて3人で食事もしたが、二人の邪魔にならないように冬心は言い訳を作って独りで食べるようにした。二人の愛のためにも、独りが気楽でのんびりできるからだ。愛子の彼氏は愛子と同じ英米文学科で、背が高くがっしりした穏やかな雰囲気が漂う1年上の先輩だ。冬心は彼から何回か友達を紹介してあげたいと言われたが、その度、真摯に且つ真面目に断った。
ピース書店は日本でも世界中でも大手チェーンの書店で、ピースデパートの7階に入店されている。扱っている本の種類も豊富でスピリチュアルから漫画まで、170万冊位あろうと店長から聞いている。寛ぎの読書スペースや美味しいコーヒーがあるお洒落なカフェもあり、いつも色んな人々で満ちている。
本の在庫確認と出庫を担当してる冬心はユニフォームに着替えて書店の裏側の倉庫にいって作業する。
平日、夜7時から10時までの短い時間だが、ピース大学の優等生だと、成績優秀者奨学金受給者だということで特別に雇われている。時給も2000円で高いし、冬心が書く本の見出しの評判がよくて、毎月1冊の本もプレゼントされる。週末は朝10時から17時まで働いている。
今日も相変わらず一生懸命頑張る冬心だ。その姿をひっそり見守っている人がいる。店長の高橋幸雄だ。初めて、本部から冬心の履歴書が届いた時、顔写真を見てはカウンターで立たされたら大変になりそうで、裏側の倉庫を任せることにした。実際に会ってみては、真面目で純粋な子だと感じた。勿論、初印象は息を殺したくなるくらいの美貌で息が止まったが、いい年を取った高橋店長だから、直ぐに理性に戻られた。
地味で静かに仕事熱心の冬心は素晴らしい青年だと思っているが、なぜ本部の常務の秘書橘が直接連絡して雇われるように指示したか、店長の高橋の疑問は膨らむ一方であった。
夜10時の別れの音楽が流れ出し、書店はもう戸締まりの準備に入る。パソコンでデータ入力を終えた冬心は従業員室にいって服を着替えてトイレによる。後、皆にお疲れさまでしたと挨拶してから、大きなマスクをかけてデパートの裏側の出口から出る。
デパート前のひばりヶ丘駅で副都心緑線に乗って10分走ったら、星空駅につく。星空駅から歩いて30分位で冬心のアパート、銀河水公営アパートが現れる。星空駅周辺は交番と防犯カメラが複数あり、パトロール中の警察官もよく目に入る。星空駅周辺には星空町といって数少ないオメガが集まって暮らしているから、国が全力をあげて保安、防犯対策を強化している。そのため、鈴木先生の推薦書もあり、ここの公営アパートに入られることが出来た。
5階の窓から光が照らされている。”おばあさん、まだ眠ってないんだ”と考えながら冬心は早足で家に向かう。
「冬心だの。お帰り。ご飯は食べたの」
「はい、ただいま。昼は弁当で、夜は書店で軽くサラダボールをいただきました。お体はどうです?」
「うん、いいんだ。腰も痛くないから来週からはオメガ支援施設にバイト行けるよ。ふふふ」
「無理しないでよ。ご飯は?」
「うん、食べた。冷飯を豚汁に入れて食べたら絶品だった。冬心、料理人になったらきっと成功するよ。まぁ、画家でもいけるね。ほほほ。ばあちゃんは冬心のこと、いつも応援するよ」
土曜日の朝6時、冬心はカレー作りに熱心だ。
「ご飯できだよ」
「うん、いい匂いね。もっとゆっくり寝てたらいいのに、掃除はばあちゃんがやるからね」
「折角の週末だから、掃除も任せてね」
冬心は朝ご飯を食べ終わって皿洗いと後片付けしてから祖母を部屋にいさせ、居間の大きい窓とキッチンの小さい窓を開け、掃除機をかけて水雑巾で床拭きもする。その後、自分の部屋の窓も開け、掃除する。水雑巾で本棚や机、ベットなどを隅々まで拭き取る。まるで自分の辛い黒歴史を消したい執念も見られる。
11月になって肌寒くなったが、冬心は掃除を欠かさない。祖母も冬心の潔癖症のことも配慮し、冬心が居心地よく暮らせるように掃除に力をいれる。冬でも日差しがいい日には必ず布団干しもするのだ。
「おばあさん、ここもう掃除終わったから、次はおばあさんの部屋だよ」
冬心は居間の大きな窓を閉めて、ボイラをつける。祖母が出て来たら掃除機を持って祖母の部屋に入る。1時間以上の掃除が終わり、冬心は洗った洗濯物を乾かすためにベランダに干す。今朝は大掃除でけっこう時間を使ったから星空駅までバスにいこうと決めてる。
週末はいつも忙しくて時間に追われてしまうのだ。
ピース書店につき、おはようございますと元気よく挨拶してから職員室へ向かう。
冬心は今日もがむしゃらに働く。午後1時の昼休みの時間、隣のカフェで売ってるサラダボール、パン、飲料を無料で食べられる。職員特典で食費がかからないのも本当にありがたいことだ。冬心はサラダボールとアメリカーノを貰ってデパートの裏側にある従業員休憩室にいく。
ピースデパートは従業員の満足感を高めるために充実な福祉制度に全力を尽くしている。その為に、従業員休憩室はとても綺麗で清潔感があり、大きな窓もあって窓からテラスにも出られる。ふわふわのお洒落なソファも複数あり、少し開けている大きな窓からは新鮮な空気が流れきて、皆はのんびり休められる心地よい暖かい雰囲気でリラックスしている。
休憩室の皆は冬心を注視するが、悪い意味ではなく、綺麗だなぁと思う羨望の眼差しでみているだけ。冬心は静かに流れるピアノの甘い旋律を感想しなからゆっくりとサラダボールを口に運ぶ。スマホでニュースを見ていたら、愛子からラインがきた。
<冬心、バイト。
私、彼の部活の付き合いで大学来たよ。ねえー、いま、日本文学科の掲示板に全国大学生文芸創作コンテストって紙、貼ってけど、有名なピース財団主催だってね。賞金が100万円だよ。優秀賞が100万円で、特別賞が50万円で原稿用紙100枚までの短編だって。
これ、2年に1回開催される有名なコンテストだって。
わー、うける。
私、やるからね。
冬心も挑戦したら、
あぁー彼、呼んでるわ。
行かなくちゃ。
応募案内紙、写真撮って送ってやる!じゃね!
来週また会おう!>
冬心は愛子から直ぐに送られてきた応募案内紙をじっくりと読む。
冬心の薄茶色の大きい瞳がキラッと神秘的に輝いた。
オメガらしく、線の細いスリムな体にはほのかな甘い薔薇のフェロモン香りが漂っている。オメガとしては177センチの高い身長で蒼白くて弱く見えるが、実は体育が得意な健康な青年だ。
書店のバイトの終わり、一人考えことをしながら歩くこのぐねぐねの細道が大好きだ。駅、マンション、店等が並ぶ中心地から離れて歩いて20分位また続いて、ぐねぐねの坂道を10分歩いたら低所得者専用のアイボリー色の5階公営アパートが現れる。
愛しく大好きな80歳の祖母が待っている我が家。冬心の疲れに落ちいた小さい顔がパアッと明るい色彩で微笑む。2LDに風呂と小さなキッチンと居間。5年前建てられて二人で暮らすには十分な広さで綺麗だ。
静かに足音を立たないようにして、祖母の部屋のドアを開けると祖母がスヤスヤと寝ている。しわだらけの安らぎ顔を覗いたら安心感で緩んでくる冬心の表情。ドアをそっと閉めてから鞄を自分の部屋に置き、風呂場に行く。温かいシャワーを浴びて鈴木先生からいただいたオメガ専用クリームを全身に丁寧に塗る。
居間には鈴木先生からいただいた2人用の茶色レザーソファと木材の茶色テーブルだけが置いてあり、小さな祖母の部屋には、鈴木先生からいただいた小さなテレビと介護ベットがあった。白色で清潔感あるキッチンに入り、冷蔵庫を確認して安心する冬心。今朝、作って置いた牛肉お粥やナムルなどが全部なくなってるってことは祖母が食べられてくれたことだから冬心は嬉しくで嬉しくで鼻歌も出る。
ベージュ色の壁紙と茶色の無地カーテン、綺麗な木製のベットにはベージュ色の水玉模様の布団が皺一つもなくスッキリと敷かれていて、隣の木材の茶色の机と本棚にはぎっしり整然と沢山の本が並んでいる。冬心の部屋の家具もやっぱり鈴木先生からいただいた物だ。本は両親の遺品が多く時々鈴木先生からいただいた本もあった。両親の倹約な生活の中、本だけは結構豊かだった。医学、科学、文学、天文学、スピリチュアルなどの種類も多様で冬心の知的創造性が醸し出される。
押入式のクロゼットには鈴木先生の娘からいただいた綺麗な服や上品な鞄が整理されている。
綺麗に整理された机の上の額縁には事故でなくなれた両親と今よりずっと若く健康な祖母に抱っこされている幼い子供の自分が写っている。冬心が大切にしている、宝物だ。この家では数少ない飾り物だ。他には冬心が小、中、高校生の全国美術大会で3回も優勝を取った野生花の水彩画、祖母の肖像画そして宇宙の抽象画がこの家の飾り物の全てだ。祖母はいつもこの家に入られる人々に対して冬心の絵画を指差して自慢気に私の孫は天才でこんなにも絵が上手だ、賞も取ったぞと言いふらすのだった。
冬心は静かに椅子にかけて本日の授業の宿題を始める。暫く勉強に夢中で、ふっと机上の時計を見たら、もう夜明けの2時を過ぎている。机上の本やノートを片付けてからベットに入る。冬心の充実な一日が幕を下ろすのだ。
朝6時、アラームが響き、冬心は起き上がる。風呂場にいって顔を洗って歯磨きもする。また、オメガクリームも丁寧に顔に満遍なく塗る。
キッチンに移り、冷蔵庫からいんげん豆、玉ねぎ、人参、カボチャ、じゃがいもと豆腐、豚肉を出して、豚汁を作る。手際よく祖母の好みのもやしナムルも作る。丸くて白い食卓に朝食を置いたら祖母がドアを開けて出てくる。
「ほら、私が作りたかったのに、ごめんね、冬心」
「いいえ、料理は楽しいし、全然無理してないから、おばあさん、胃もたれはよくなったの?病院行かなくても大丈夫?腰はどうです?」
「あー、もう、スッキリした。心配かけてごめんね。もう、オメガ支援施設にも出られるように、頑張らなくちゃ」
「えー、掃除の仕事は辞めないの。無理しないほうがいいって言われたでしょ」
食卓に座って、スプーンを取った祖母が笑顔で言う。
「あぁー、豚汁美味しい、体の隅々まで浸透する旨味だね。でもね、年取っても働き口があるのってありがたいことよ。家で独りテレビみるより、出て皆と話したり、体動かすのがもっと楽しいし、金も入るし、得なのよ」
「俺、バイトしてて成績優秀者奨学金ももらっているから無理はしないでね」
「うんうん、このナムルもしゃきしゃきして、美味しいね。冬心も早く食べなさい」
祖母が元気そうで安心した冬心は食事の片付けを終えて、大学に足を運ぶ。エレベーターで5階から1階まで降りる。新しい公営アパートだから、エレベーターも付いている。とても便利で満足している。
1、2限が終わり、皆はガヤガヤしながら講義室を出ていく。冬心は鞄を持ってトイレにいく。そうだ、オメガ専用のトイレだ。世界でも日本でも優秀な人材しか入れない、ピース財団のピース大学だ。稀のオメガも在籍している有名な大学だから、トイレも充実している。
冬心はトイレで手を丁寧に洗った後、1階のカフェテリアにいく。皆は学生食堂にいくが、お金に厳しい冬心はカフェテリアの無料のコーヒーを狙い、暖かい日差しが伸びている窓辺に座る。無料のアメリカーノを持ってきて鞄から消毒ウェットティッシュとお弁当箱を取り出す。カフェテリアでは静かな雨音色のジャズが流れていて、殆ど独りでコーヒーを飲んだり、本を読んでいる学生達で満ちている。ピース大学は規模も大きく、各部の各々の建物にカフェテリア、食堂、保健所、図書館などの設備も完璧だった。冬心はナムル、キムチ、じゃこ炒め、卵巻きと雑穀米で頬を膨らませながら静かにモグモグ食べる。
大学に入るまでは冬心はいつも人々の熱い視線を浴びった。美しくてスラッとした容姿が人々の心を惹き付けられた。でも、ここは優秀な人材の集まり、初めてはちらほら見られていたが今は、もう誰も気にせずに自分のことで精一杯だ。冬心は大学が楽で勉強も面白くて本当に好きだ。今も高校の不運のできことで強迫性不安障害の潔癖症を患っている。その節には、鈴木美知子先生に大変お世話になった。今も鈴木先生とは仲良しだ。鈴木先生は稀の女性の優性オメガで、形質研究の一任者として有能な50代の医者だ。
ゆっくりご飯を食べ終わると消毒ウェットティッシュで手と口元をふき、コーヒーを啜る。その後、弁当箱を鞄に入れて手を洗うためにトイレへ向く。これから30分くらい余った時間は図書館にいって本を読む。
3、4、5時限が終わり、冬心はバイト先のピース書店にいくとした。
「じゃね、冬心」
「うん、じゃね。愛子ちゃん」
愛子は入学式で初めて会ってから、今も仲良しだ。入学式で愛子から写真撮ってくださいと声をかけてきたので、それを機に仲良くなった。彼女はベータで英米文学を学び、仏文学科の冬心とはたまに、共通の教養授業で顔合わせしてる。
160センチのぽっちゃり体型で明るくて可愛い愛子はもう彼氏が出来て、薔薇色のホヤホヤのキャンパスライフを楽しんでいる。金曜日は愛子が彼氏と食事するので、冬心は独りでランチをする。何回か誘われて3人で食事もしたが、二人の邪魔にならないように冬心は言い訳を作って独りで食べるようにした。二人の愛のためにも、独りが気楽でのんびりできるからだ。愛子の彼氏は愛子と同じ英米文学科で、背が高くがっしりした穏やかな雰囲気が漂う1年上の先輩だ。冬心は彼から何回か友達を紹介してあげたいと言われたが、その度、真摯に且つ真面目に断った。
ピース書店は日本でも世界中でも大手チェーンの書店で、ピースデパートの7階に入店されている。扱っている本の種類も豊富でスピリチュアルから漫画まで、170万冊位あろうと店長から聞いている。寛ぎの読書スペースや美味しいコーヒーがあるお洒落なカフェもあり、いつも色んな人々で満ちている。
本の在庫確認と出庫を担当してる冬心はユニフォームに着替えて書店の裏側の倉庫にいって作業する。
平日、夜7時から10時までの短い時間だが、ピース大学の優等生だと、成績優秀者奨学金受給者だということで特別に雇われている。時給も2000円で高いし、冬心が書く本の見出しの評判がよくて、毎月1冊の本もプレゼントされる。週末は朝10時から17時まで働いている。
今日も相変わらず一生懸命頑張る冬心だ。その姿をひっそり見守っている人がいる。店長の高橋幸雄だ。初めて、本部から冬心の履歴書が届いた時、顔写真を見てはカウンターで立たされたら大変になりそうで、裏側の倉庫を任せることにした。実際に会ってみては、真面目で純粋な子だと感じた。勿論、初印象は息を殺したくなるくらいの美貌で息が止まったが、いい年を取った高橋店長だから、直ぐに理性に戻られた。
地味で静かに仕事熱心の冬心は素晴らしい青年だと思っているが、なぜ本部の常務の秘書橘が直接連絡して雇われるように指示したか、店長の高橋の疑問は膨らむ一方であった。
夜10時の別れの音楽が流れ出し、書店はもう戸締まりの準備に入る。パソコンでデータ入力を終えた冬心は従業員室にいって服を着替えてトイレによる。後、皆にお疲れさまでしたと挨拶してから、大きなマスクをかけてデパートの裏側の出口から出る。
デパート前のひばりヶ丘駅で副都心緑線に乗って10分走ったら、星空駅につく。星空駅から歩いて30分位で冬心のアパート、銀河水公営アパートが現れる。星空駅周辺は交番と防犯カメラが複数あり、パトロール中の警察官もよく目に入る。星空駅周辺には星空町といって数少ないオメガが集まって暮らしているから、国が全力をあげて保安、防犯対策を強化している。そのため、鈴木先生の推薦書もあり、ここの公営アパートに入られることが出来た。
5階の窓から光が照らされている。”おばあさん、まだ眠ってないんだ”と考えながら冬心は早足で家に向かう。
「冬心だの。お帰り。ご飯は食べたの」
「はい、ただいま。昼は弁当で、夜は書店で軽くサラダボールをいただきました。お体はどうです?」
「うん、いいんだ。腰も痛くないから来週からはオメガ支援施設にバイト行けるよ。ふふふ」
「無理しないでよ。ご飯は?」
「うん、食べた。冷飯を豚汁に入れて食べたら絶品だった。冬心、料理人になったらきっと成功するよ。まぁ、画家でもいけるね。ほほほ。ばあちゃんは冬心のこと、いつも応援するよ」
土曜日の朝6時、冬心はカレー作りに熱心だ。
「ご飯できだよ」
「うん、いい匂いね。もっとゆっくり寝てたらいいのに、掃除はばあちゃんがやるからね」
「折角の週末だから、掃除も任せてね」
冬心は朝ご飯を食べ終わって皿洗いと後片付けしてから祖母を部屋にいさせ、居間の大きい窓とキッチンの小さい窓を開け、掃除機をかけて水雑巾で床拭きもする。その後、自分の部屋の窓も開け、掃除する。水雑巾で本棚や机、ベットなどを隅々まで拭き取る。まるで自分の辛い黒歴史を消したい執念も見られる。
11月になって肌寒くなったが、冬心は掃除を欠かさない。祖母も冬心の潔癖症のことも配慮し、冬心が居心地よく暮らせるように掃除に力をいれる。冬でも日差しがいい日には必ず布団干しもするのだ。
「おばあさん、ここもう掃除終わったから、次はおばあさんの部屋だよ」
冬心は居間の大きな窓を閉めて、ボイラをつける。祖母が出て来たら掃除機を持って祖母の部屋に入る。1時間以上の掃除が終わり、冬心は洗った洗濯物を乾かすためにベランダに干す。今朝は大掃除でけっこう時間を使ったから星空駅までバスにいこうと決めてる。
週末はいつも忙しくて時間に追われてしまうのだ。
ピース書店につき、おはようございますと元気よく挨拶してから職員室へ向かう。
冬心は今日もがむしゃらに働く。午後1時の昼休みの時間、隣のカフェで売ってるサラダボール、パン、飲料を無料で食べられる。職員特典で食費がかからないのも本当にありがたいことだ。冬心はサラダボールとアメリカーノを貰ってデパートの裏側にある従業員休憩室にいく。
ピースデパートは従業員の満足感を高めるために充実な福祉制度に全力を尽くしている。その為に、従業員休憩室はとても綺麗で清潔感があり、大きな窓もあって窓からテラスにも出られる。ふわふわのお洒落なソファも複数あり、少し開けている大きな窓からは新鮮な空気が流れきて、皆はのんびり休められる心地よい暖かい雰囲気でリラックスしている。
休憩室の皆は冬心を注視するが、悪い意味ではなく、綺麗だなぁと思う羨望の眼差しでみているだけ。冬心は静かに流れるピアノの甘い旋律を感想しなからゆっくりとサラダボールを口に運ぶ。スマホでニュースを見ていたら、愛子からラインがきた。
<冬心、バイト。
私、彼の部活の付き合いで大学来たよ。ねえー、いま、日本文学科の掲示板に全国大学生文芸創作コンテストって紙、貼ってけど、有名なピース財団主催だってね。賞金が100万円だよ。優秀賞が100万円で、特別賞が50万円で原稿用紙100枚までの短編だって。
これ、2年に1回開催される有名なコンテストだって。
わー、うける。
私、やるからね。
冬心も挑戦したら、
あぁー彼、呼んでるわ。
行かなくちゃ。
応募案内紙、写真撮って送ってやる!じゃね!
来週また会おう!>
冬心は愛子から直ぐに送られてきた応募案内紙をじっくりと読む。
冬心の薄茶色の大きい瞳がキラッと神秘的に輝いた。
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