推しと行く魔法士学園入学旅行~日本で手に入れた辞典は、異世界の最強アイテムでした~

ことのはおり

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五章 入学旅行五日目

5-03b 天眼・慧眼 2

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「来い、天眼てんがん慧眼けいがん! 僕の目に宿れ!」

 リューエストの『辞典』から、異様な輝きを放つ大きな目が二つ現れる。それらは即座にリューエストの目に入り込み、一体化した。彼の瞳に怪しくも美しい光が宿り、明らかに人のものではない奇妙な模様が浮き出す。

 言獣げんじゅうは通常、人に宿ることは無い。しかしリューエストが4歳の時に契約したこの二つの言獣は、人の目に宿ってその力を貸す、極めてまれな固有種だった。
 左目の『天眼てんがん』は、すべてを見通す力を持つ。肉眼では見ることのできない、極小世界から遥か彼方まで視認でき、周囲の明るさや暗さ、視界の悪さも関係なく、物体に遮られたその先まで、透視することができる。
 右目の『慧眼けいがん』は、物事の本質や隠された真実を見抜く力を持つ。あらゆる真偽はもちろん、人が心の奥底にしまっている秘密まで、容易く暴いてしまう。

 天眼・慧眼を宿したリューエストは、その不思議な彩りを放つ双眸そうぼうで、周囲を見渡した。足元に射るような視線を向けた彼は、明らかに何かを見つけた様子で一点を凝視したのち、顔を上げる。24班の面々はリューエストの視線に晒されて息を呑んだが、誰一人その場から去ろうとはしなかった。
 静かに成り行きを見守っていたトリフォンが、リューエストに語りかける。

「リューエスト、見つけたか?」

「もちろん。老師」

「ふむ……。なら、ゆくとするか」

 リューエストはトリフォンに頷きながら、微笑んだ。血の気のひいたリューエストの白い肌は冷たく光り、その笑みは、ゾッとするほど美しかった。
 次にリューエストはゆっくりと、アルビレオに向き合う。
 アルビレオは一瞬身じろぎしたが、何も言わずにまっすぐリューエストの目を受け止めた。ほんの数秒後、リューエストは驚きを示すようにわずかに目を見開いたあと、声を発する。

「へえ……。そうか……。なるほど……フフッ……」

「…………」

「……いいよ、黙っていてあげる、アルビレオ。高潔な君の精神に敬意を表して。それにキリにしたって、『ツアーメイト』が欠けるのは本意じゃないだろうしね。何しろ君を助けるためにわざわざ『白痴』に飛び込むぐらいだ。……フフッ、妬けるね」

「……俺だったから、ではない。彼女は相手が誰でも身代わりになっただろう」

「そうだね、あの子はそういう子だ。……だけどね、僕は違う。ハッキリ言って、君のことなんか、僕はどうでもいいんだ。今は見逃すけど、もし今後、君がキリを害する可能性を感じたら、僕は容赦しない。わかっているよね?」

「わかっている。おまえを敵に回すほど、俺は愚かではないつもりだ」

「なら、いいよ。――目指すは最下層、封印の間。過酷な地下階の全てを抜けてゆく。キリを取り戻す手伝いを、全力で果たしてくれるね?」

「もちろんだ。そのために、留まった。俺は卑怯者ではない」

 リューエストは頷くと、トリフォンに視線を戻した。トリフォンはその視線の意味することを正確に理解し、応える。

「封印の間か。では案内しよう。ギリギリまで、移動チューブで降りる。ゲートの開錠は、すべてわしの権限で突破できる。その後、水没した階層を越えねばならん。わしの後についてこい。道順は一つのみ。道を逸れるな。水没階は、不安定じゃ。異界に飛ばされれば、二度と戻ってこれんからの」

 移動チューブに向かった三人に、アデルとリリエンヌがついてくる。
 リューエストは移動チューブに入ると、即座に二人に声を上げた。

「二人とも、水没階は危険だ。待っていてくれ」

「嫌よ! 私も一緒に行く! 水泳は得意だし、準備校で海難救助の模擬訓練をしたときは、校内1位を取ったのよ! 安心してリューエスト、誰かが溺れそうになったら助けてあげるから」

 リューエストはアデルを見つめたあと、溜息をついて、今度はリリエンヌを見つめた。彼女はにっこり微笑むと、まったく恐れる様子を見せずに言った。

「ちなみに2位はわたくしでしたの。うふふ……、こう見えてわたくし、『麗しの人魚妖精』なんて言われるほど、潜水が得意ですの。それにキリには及ばないにしても、水の自然現象系言獣スピリッツを操れば右に出る者はいないと自負していますわ。ええ、もちろん一緒に行きますわ。止めても無駄です。キリがもし体調を崩していれば、誰よりもうまく癒しの施術を使い、彼女を回復させるつもりですの」

 二人の意思が固いことを見て取ったリューエストは、トリフォンに助けを求めて視線を投げかけた。それに気付いて、トリフォンが穏やかに言う。

「ふむ、二人の実力ならまあ問題なかろう。今回はわしがついているからの。良いか、わしの辿った後を正確についてくるんじゃぞ。何か興味深いものを発見しても、決して道を逸れるでないぞ。約束できるか?」

 二人は真剣な表情で頷いた。
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