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四章 入学旅行四日目
4-06b アルビレオと日本談話 2
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さっそく二人は手近な読書繭に向かい、机を挟んで向かいあって座ると、読書を始める。
しばらくして霧が集中して読み始めた時、リューエストがトイレから戻ってきた。彼は霧を見つけるとホッとした様子で、アルビレオがそばにいることを知って意外そうに目を瞬いた。
3人で同じテーブルを共有しながら読書を進めるうち、霧は心地よい感覚で自身が満たされてゆくのを感じていた。
(読書はいい。この感じ……集中して、雑念が飛び、スッと心がクリアになってゆく、この感じ。うん、いい。最高)
読書のもたらす幸福感が、全身を巡る血液と共に循環し、霧を構成する細胞の一つ一つに至るまで、歓喜を届ける。
立ち止まることを許可されると同時に、進むことを肯定される。時間は時折一時停止しながらも、瞬く間に駆け足で過ぎ去ってゆく。
霧はそれらの心地よい感覚に身を浸しながら、文字を拾っていった。
リューエストが選んでくれた地理と歴史の本は、子供が学ぶための教科書にも採用されているらしく、とても分かりやすかった。興味が持てるように随所に絵が散らばっていて、理解が深まる。おかげで霧は最後まで飽きることなく読み終えた。
(よおし、じゃあ次は、アルビレオが選んでくれた本、いこ!)
アルビレオが薦めてくれた日本に関する本に、霧は少なからず驚く。
その3冊はそれぞれ、このククリコ・アーキペラゴの新暦以降、まったく別の時代に生きた人物がしたためた本だったが、不思議なことに、いずれもまるで実際に日本に行ったことがあるような体験が書かれていた。しかも3人とも、眠っている間の夢を介して、日本を見聞きしている。
(へえ……これ、あたしの――キリ・ダリアリーデレの設定と同じだな。眠っている間に日本を垣間見る……っていうところ……)
そう思いながら霧は、日本を夢の中で見た人の体験話を、どんどん読み進めた。
霧は日本の歴史にはそれほど詳しくないが、これらの3冊にはそれぞれ、鎌倉時代の日本、江戸時代の日本、昭和の日本が登場している。当然ながら、原著はその時代の古い日本語で綴られていて、鎌倉時代、江戸時代に関しての原著は、霧には読めない。しかしこの2冊にはいずれも現代訳が同時に掲載されていて、その内容を読むうち、霧は一つの確信を得た。
(ああ……これは、嘘じゃない。あたしの知ってる範囲で、歴史上の日本とほぼ同じだし、昭和の日本の夢を見た人の記述は、嘘じゃないと断言できる。3人は、実際、夢を通して日本を垣間見た人だ。……言語双生界の道が、なぜだか夢を通して繋がった……みたいな感じなのかも。なるほど、そうか……すでにこういう人たちがいたから……、あたしの『設定』――『ずっと眠っていて、夢の中で日本で暮らしていた』という特殊な半生が、24班のみんなにすんなり受け入れられたんだな。なるほど……)
霧はその3冊を読み終えると、別の日本に関する本も読み漁った。それらは思わず笑ってしまうほど荒唐無稽なものから、昔から語り継がれてきた昔話を編纂したもの、更には、オカルト分野の作り話まであった。
(はあ……何これ、日本は、神の作りたもうた上層社会? すべての日本人は宙に浮いてる? 後光が差してる?! なんじゃ、このイメージ絵!! 頭、とんがってるんだけど!! 幻のUMAニホンジンてか、はははははは、あはあははははははは!!)
霧は笑いをこらえきれず、肩を揺らして口を押え、必死で声が漏れるのを防いだ。その様子に気付いたアルビレオとリューエストが、霧を見つめている。
「ぶっ……ぶふ、ご、ごめ、二人とも……読書の、邪魔して……」
アルビレオが「構わない」と首を振り、リューエストが微笑んで声をかけてくる。
「いいんだよ、キリ。好きなだけ笑うといい。でもそれ、そんなに面白いの?」
「ギャ、ギャグだよ、これ。最高。ホントの日本を知ってるだけに嘘がパねくて笑え……あ」
アルビレオの眉間が、一瞬ピクリと動く。
霧は慌てて言い換えた。
「や、えっと、違くて、夢の中で、あたし自身は真実だろうと思っている日本を、知っているだけに……かな、あははは、ぶふーーーーっ!! おかしすぎ、だめだこりゃ、あたし、休憩してくるわ」
霧が席を立つと、リューエストも同じように立ち上がった。
「待ってキリ、僕も行くよ」
リューエストがそう言うと、アルビレオも本を閉じた。彼は時間を確認しながら立ち上がると、テーブルの上を片付けながら言った。
「もう18時を過ぎている。今日はここまでにして、365ページ広場に向かわないか」
「あ~、もうそんな時間かぁ。読書って、あっという間に時間過ぎるんだよねぇ。じゃあ、広場に向かおうか」
霧がそう答えると、リューエストも頷いた。
24班は19時に365ページ広場で集合し、夕食を摂りながら班ミーティングをする予定だ。
日中は各自自由行動で図書塔の読書に励んでいる24班だが、課題6では班合計の読書量が課せられているので、一日一回必ず進捗状況と翌日以降の行動を確認することにしている。
三人は読書を切り上げ、図書塔の外へと歩き出した。
しばらくして霧が集中して読み始めた時、リューエストがトイレから戻ってきた。彼は霧を見つけるとホッとした様子で、アルビレオがそばにいることを知って意外そうに目を瞬いた。
3人で同じテーブルを共有しながら読書を進めるうち、霧は心地よい感覚で自身が満たされてゆくのを感じていた。
(読書はいい。この感じ……集中して、雑念が飛び、スッと心がクリアになってゆく、この感じ。うん、いい。最高)
読書のもたらす幸福感が、全身を巡る血液と共に循環し、霧を構成する細胞の一つ一つに至るまで、歓喜を届ける。
立ち止まることを許可されると同時に、進むことを肯定される。時間は時折一時停止しながらも、瞬く間に駆け足で過ぎ去ってゆく。
霧はそれらの心地よい感覚に身を浸しながら、文字を拾っていった。
リューエストが選んでくれた地理と歴史の本は、子供が学ぶための教科書にも採用されているらしく、とても分かりやすかった。興味が持てるように随所に絵が散らばっていて、理解が深まる。おかげで霧は最後まで飽きることなく読み終えた。
(よおし、じゃあ次は、アルビレオが選んでくれた本、いこ!)
アルビレオが薦めてくれた日本に関する本に、霧は少なからず驚く。
その3冊はそれぞれ、このククリコ・アーキペラゴの新暦以降、まったく別の時代に生きた人物がしたためた本だったが、不思議なことに、いずれもまるで実際に日本に行ったことがあるような体験が書かれていた。しかも3人とも、眠っている間の夢を介して、日本を見聞きしている。
(へえ……これ、あたしの――キリ・ダリアリーデレの設定と同じだな。眠っている間に日本を垣間見る……っていうところ……)
そう思いながら霧は、日本を夢の中で見た人の体験話を、どんどん読み進めた。
霧は日本の歴史にはそれほど詳しくないが、これらの3冊にはそれぞれ、鎌倉時代の日本、江戸時代の日本、昭和の日本が登場している。当然ながら、原著はその時代の古い日本語で綴られていて、鎌倉時代、江戸時代に関しての原著は、霧には読めない。しかしこの2冊にはいずれも現代訳が同時に掲載されていて、その内容を読むうち、霧は一つの確信を得た。
(ああ……これは、嘘じゃない。あたしの知ってる範囲で、歴史上の日本とほぼ同じだし、昭和の日本の夢を見た人の記述は、嘘じゃないと断言できる。3人は、実際、夢を通して日本を垣間見た人だ。……言語双生界の道が、なぜだか夢を通して繋がった……みたいな感じなのかも。なるほど、そうか……すでにこういう人たちがいたから……、あたしの『設定』――『ずっと眠っていて、夢の中で日本で暮らしていた』という特殊な半生が、24班のみんなにすんなり受け入れられたんだな。なるほど……)
霧はその3冊を読み終えると、別の日本に関する本も読み漁った。それらは思わず笑ってしまうほど荒唐無稽なものから、昔から語り継がれてきた昔話を編纂したもの、更には、オカルト分野の作り話まであった。
(はあ……何これ、日本は、神の作りたもうた上層社会? すべての日本人は宙に浮いてる? 後光が差してる?! なんじゃ、このイメージ絵!! 頭、とんがってるんだけど!! 幻のUMAニホンジンてか、はははははは、あはあははははははは!!)
霧は笑いをこらえきれず、肩を揺らして口を押え、必死で声が漏れるのを防いだ。その様子に気付いたアルビレオとリューエストが、霧を見つめている。
「ぶっ……ぶふ、ご、ごめ、二人とも……読書の、邪魔して……」
アルビレオが「構わない」と首を振り、リューエストが微笑んで声をかけてくる。
「いいんだよ、キリ。好きなだけ笑うといい。でもそれ、そんなに面白いの?」
「ギャ、ギャグだよ、これ。最高。ホントの日本を知ってるだけに嘘がパねくて笑え……あ」
アルビレオの眉間が、一瞬ピクリと動く。
霧は慌てて言い換えた。
「や、えっと、違くて、夢の中で、あたし自身は真実だろうと思っている日本を、知っているだけに……かな、あははは、ぶふーーーーっ!! おかしすぎ、だめだこりゃ、あたし、休憩してくるわ」
霧が席を立つと、リューエストも同じように立ち上がった。
「待ってキリ、僕も行くよ」
リューエストがそう言うと、アルビレオも本を閉じた。彼は時間を確認しながら立ち上がると、テーブルの上を片付けながら言った。
「もう18時を過ぎている。今日はここまでにして、365ページ広場に向かわないか」
「あ~、もうそんな時間かぁ。読書って、あっという間に時間過ぎるんだよねぇ。じゃあ、広場に向かおうか」
霧がそう答えると、リューエストも頷いた。
24班は19時に365ページ広場で集合し、夕食を摂りながら班ミーティングをする予定だ。
日中は各自自由行動で図書塔の読書に励んでいる24班だが、課題6では班合計の読書量が課せられているので、一日一回必ず進捗状況と翌日以降の行動を確認することにしている。
三人は読書を切り上げ、図書塔の外へと歩き出した。
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