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四章 入学旅行四日目
4-05b 図書塔 地下12階 2
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霧は、あの無口なツアーメイトに思いを馳せた。
アルビレオ・ファルステーロ。
神秘的な紫色の瞳をした、黒髪の美青年。
(彼についてはよくわからないことが、よくわかった、うん。だってあのひと、ほとんどしゃべらないんだもんね~。何も聞くな、俺に構うな、っていう雰囲気もにじみ出てるし、下手に質問攻めなんかしたらめっちゃ避けられそうで、なんにも知ることが出来なかったなぁ……。……けど……)
霧は時々、アルビレオからの視線を感じることがあった。最初は、「キリ・ダリアリーデレという珍獣」が余程珍しくてつい見ちゃうんだろう、というぐらいにしか思わなかったが、そのうち、もしかしてオタクのテンションがうるさくて迷惑かけてんのかと不安になってきた。
やがて――霧はどことなく、彼の雰囲気に緊迫したものを感じるようになった。うまく説明できないが、アルビレオには他のツアーメイトにはない、異質な何かがある――霧は、そう感じていた。
(なんか……常に神経が張り詰めてるみたいな感じで……、悲しいんだよね。よくわかんないんだけど。彼を見ていると、何だか悲しい。胸がズキッとする。何が悲しいのかわかんないんだけど……。笑わないせいかな。そういえば、笑った顔、一度も見たことないや。若干口角が上がった程度の微笑しか見たことない。それも一瞬で消えるんだよね。ジュッと蒸発するみたいに)
霧はどうして彼が気になるのか、わからなかった。
もしかしてこの切なさは恋か?! などと思ってみたが、明らかに違う、と霧は自身に即答した。彼に対して、そういう特別な愛情は感じなかった。
ではなぜアルビレオが気になるのか? それに対する答えをみつけることはできなかった。ただひとつわかっているのは、彼のことをよく分からないから知りたい、というよりも、目の前で燃えている赤い炎のように、ただ目が離せない感じなのだ。
「キリ、着いたよ、地下12階だ。司書の話だと、最初はあのあたりの棚から探すといいって言ってたね」
リューエストから声をかけられ、霧は物思いから覚めた。移動チューブから出ると、ずらりと書棚の並ぶフロアに足を踏み入れる。地下とは思えないほど、明るい。リューエストの説明によると、辞典魔法による照明装置が自然な光を作り出しているらしい。
このフロアには、歴史や地理を始め、ククリコ・アーキペラゴの世界の成り立ちに関した本が並んでいる。日常に役立ちそうな実用書から、難しい学術書まで揃っているとか。
「わあ……なんか、背表紙見てるだけで、知識の洪水って感じ……」
霧はそう感想をこぼしながら、どれから読もうかと、本を探し始める。
地下12階は、とても静かだった。
上の階は物語を中心とした本を並べていたせいか、たくさんの人が本を読んでいたが、この階はいかにも難しい本ばかりという雰囲気が漂っていて、人影はまばらだ。読書繭もほとんどが空いている。
「キリ、とりあえずこの本、読んだらどうかな。現代地理と歴史の入門書だよ」
リューエストは2冊の本を書棚から選び出すと、「ちょっと離れるけど、何かあったら大声で呼んでね」と、トイレに入って行った。
霧が読書繭に向かうと、書棚の傍の椅子で本を読んでいるアルビレオが目に入った。
(お……アルビレオもこの階に来てたのか。……う~ん……どうしようかな、邪魔しちゃ悪いと思うが……無視するのも何だし、ちょっとあいさつ程度に声かけとくか)
霧がそう思いながら近づいていくと、パッと顔を上げたアルビレオと、目が合った。
アルビレオ・ファルステーロ。
神秘的な紫色の瞳をした、黒髪の美青年。
(彼についてはよくわからないことが、よくわかった、うん。だってあのひと、ほとんどしゃべらないんだもんね~。何も聞くな、俺に構うな、っていう雰囲気もにじみ出てるし、下手に質問攻めなんかしたらめっちゃ避けられそうで、なんにも知ることが出来なかったなぁ……。……けど……)
霧は時々、アルビレオからの視線を感じることがあった。最初は、「キリ・ダリアリーデレという珍獣」が余程珍しくてつい見ちゃうんだろう、というぐらいにしか思わなかったが、そのうち、もしかしてオタクのテンションがうるさくて迷惑かけてんのかと不安になってきた。
やがて――霧はどことなく、彼の雰囲気に緊迫したものを感じるようになった。うまく説明できないが、アルビレオには他のツアーメイトにはない、異質な何かがある――霧は、そう感じていた。
(なんか……常に神経が張り詰めてるみたいな感じで……、悲しいんだよね。よくわかんないんだけど。彼を見ていると、何だか悲しい。胸がズキッとする。何が悲しいのかわかんないんだけど……。笑わないせいかな。そういえば、笑った顔、一度も見たことないや。若干口角が上がった程度の微笑しか見たことない。それも一瞬で消えるんだよね。ジュッと蒸発するみたいに)
霧はどうして彼が気になるのか、わからなかった。
もしかしてこの切なさは恋か?! などと思ってみたが、明らかに違う、と霧は自身に即答した。彼に対して、そういう特別な愛情は感じなかった。
ではなぜアルビレオが気になるのか? それに対する答えをみつけることはできなかった。ただひとつわかっているのは、彼のことをよく分からないから知りたい、というよりも、目の前で燃えている赤い炎のように、ただ目が離せない感じなのだ。
「キリ、着いたよ、地下12階だ。司書の話だと、最初はあのあたりの棚から探すといいって言ってたね」
リューエストから声をかけられ、霧は物思いから覚めた。移動チューブから出ると、ずらりと書棚の並ぶフロアに足を踏み入れる。地下とは思えないほど、明るい。リューエストの説明によると、辞典魔法による照明装置が自然な光を作り出しているらしい。
このフロアには、歴史や地理を始め、ククリコ・アーキペラゴの世界の成り立ちに関した本が並んでいる。日常に役立ちそうな実用書から、難しい学術書まで揃っているとか。
「わあ……なんか、背表紙見てるだけで、知識の洪水って感じ……」
霧はそう感想をこぼしながら、どれから読もうかと、本を探し始める。
地下12階は、とても静かだった。
上の階は物語を中心とした本を並べていたせいか、たくさんの人が本を読んでいたが、この階はいかにも難しい本ばかりという雰囲気が漂っていて、人影はまばらだ。読書繭もほとんどが空いている。
「キリ、とりあえずこの本、読んだらどうかな。現代地理と歴史の入門書だよ」
リューエストは2冊の本を書棚から選び出すと、「ちょっと離れるけど、何かあったら大声で呼んでね」と、トイレに入って行った。
霧が読書繭に向かうと、書棚の傍の椅子で本を読んでいるアルビレオが目に入った。
(お……アルビレオもこの階に来てたのか。……う~ん……どうしようかな、邪魔しちゃ悪いと思うが……無視するのも何だし、ちょっとあいさつ程度に声かけとくか)
霧がそう思いながら近づいていくと、パッと顔を上げたアルビレオと、目が合った。
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