123 / 175
三章 入学旅行三日目
3-14a 夕暮れ時の図書塔 1
しおりを挟む
「ほへぇ……………………」
雲を突き抜けてそびえる図書塔を見上げ、霧はポカンと口を開け、間抜け面をさらしていた。塔の高さはもちろん、建築面積の大きさにも、目を見張る。塔の基盤部分の直径は、300メートルはありそうだった。遠くから見えていた時から驚いてはいたが、こうして目の前にすると、あまりの迫力に息を呑む。
「さ、早く行くわよ、キリ」
アデルに背中を押され、霧はヨロヨロと前へ進んだ。図書塔前に設けられた入塔ゲートで手続きをしたあと、霧、リューエスト、アデル、リリエンヌの4人は、いよいよ図書塔の内部へと足を運ぶ。
「ふわぁ……………………」
霧はまたもや間抜け面をさらしながら、塔内部を見回した。
目に入るものすべてが、珍しい。
1階エントランスは案内所兼休憩所となっており、中央に据えられた大きな柱を囲むように設置されたカウンターでは、50人ほどの図書塔の職員が、来塔者への案内業務を忙しそうにこなしている。
真ん中に据えられた大きな柱とは別に、6本の柱も見える。中央から等間隔に並ぶそれらの柱は、どうやら移動チューブになっているらしい。移動手段は他にも用意されていて、所々に螺旋階段が設置されてあった。
塔内は思った以上に明るい。エントランス階から5階あたりまでは中央の柱周辺が吹き抜けていて、各階を繋ぐ渡り廊下が見える。
塔の内壁に沿って書棚が並んでいるのもチラリと見え、所々に設けられた明り取りの窓からは、斜陽が差し込んでいた。黄昏時特有の日差しは、愁いを帯びたオレンジ色で塔内を染めあげている。何ともノスタルジックで切ないその風情に、霧はそっと、感嘆の溜息をついた。
「……はぁ……すごぉ……」
塔内の様子に霧が見惚れていると、何かがスッと上階の空間を横切る。キラキラと、光の余韻を残しながら。
「えっ?! あれ、あれって、妖精?!」
驚く霧に、リューエストが答える。
「司書妖精だよ。主な仕事は図書の整理だね。競技場では審判妖精、図書塔では司書妖精が人間の手助けをして、日々の業務を支えてくれているんだ。妖精たちは本当に働き者で、すごいよね」
「ふわわぁ……司書妖精……テラカワユス!! 素敵なベレー帽が良くお似合いで! え、あの、司書妖精のちっちゃいぬいぐるみとか、売ってる? ねえ、売ってる?」
リリエンヌがふんわり笑いながら、霧に答える。
「うふふ、売ってますわよ、キリ。あちらの図書塔オリジナルグッズ売り場にもありますし、言読町にもたくさんの種類が販売されていますわ」
「はわわわわわ……!!」
フラフラとグッズ売り場に向かう霧を、アデルが制した。
「ちょっとキリ、ここでの目的は買い物じゃないのよ! それに、もう学園標準時間は17時半、現地時間は18時半よ。図書塔はあと30分で閉まるから、今日はここまでね」
「えええ……。到着したばかりでもう、終わり……。そっかぁ……残念」
肩を落とす霧に、リューエストが優しい口調で話しかけてくる。
「キリ、図書塔は朝7時には開塔されるから、また明日来よう。課題6では結構な読書量が課せられているから、どのみち数日かかる。今日は『市場迷宮』の課題もクリアしたし、もう十分だよ。本が大好きなキリは今興奮状態で気付いていないけれど、相当疲れてるはずだよ。飛行魔法も二度使ってるしね。あれはエネルギー消費が激しいんだ」
そう言われてみれば、足がガクガクするし、何だかめまいもする。図書塔の素晴らしさに感動して足も頭も震えているのかと思ったが、疲労のせいらしい。霧はそれに気付いて、素直に頷いた。
「わかった。じゃあ、トリフォンとアルビレオを、塔の外で待つ?」
「そうね、それがいいと思う。塔の入場ゲートは一つしかないから、その付近で待ってたら二人とすれ違いになることもないと思うわ」
アデルがそう言い、霧たち4人は図書塔の外へと歩き出した。
雲を突き抜けてそびえる図書塔を見上げ、霧はポカンと口を開け、間抜け面をさらしていた。塔の高さはもちろん、建築面積の大きさにも、目を見張る。塔の基盤部分の直径は、300メートルはありそうだった。遠くから見えていた時から驚いてはいたが、こうして目の前にすると、あまりの迫力に息を呑む。
「さ、早く行くわよ、キリ」
アデルに背中を押され、霧はヨロヨロと前へ進んだ。図書塔前に設けられた入塔ゲートで手続きをしたあと、霧、リューエスト、アデル、リリエンヌの4人は、いよいよ図書塔の内部へと足を運ぶ。
「ふわぁ……………………」
霧はまたもや間抜け面をさらしながら、塔内部を見回した。
目に入るものすべてが、珍しい。
1階エントランスは案内所兼休憩所となっており、中央に据えられた大きな柱を囲むように設置されたカウンターでは、50人ほどの図書塔の職員が、来塔者への案内業務を忙しそうにこなしている。
真ん中に据えられた大きな柱とは別に、6本の柱も見える。中央から等間隔に並ぶそれらの柱は、どうやら移動チューブになっているらしい。移動手段は他にも用意されていて、所々に螺旋階段が設置されてあった。
塔内は思った以上に明るい。エントランス階から5階あたりまでは中央の柱周辺が吹き抜けていて、各階を繋ぐ渡り廊下が見える。
塔の内壁に沿って書棚が並んでいるのもチラリと見え、所々に設けられた明り取りの窓からは、斜陽が差し込んでいた。黄昏時特有の日差しは、愁いを帯びたオレンジ色で塔内を染めあげている。何ともノスタルジックで切ないその風情に、霧はそっと、感嘆の溜息をついた。
「……はぁ……すごぉ……」
塔内の様子に霧が見惚れていると、何かがスッと上階の空間を横切る。キラキラと、光の余韻を残しながら。
「えっ?! あれ、あれって、妖精?!」
驚く霧に、リューエストが答える。
「司書妖精だよ。主な仕事は図書の整理だね。競技場では審判妖精、図書塔では司書妖精が人間の手助けをして、日々の業務を支えてくれているんだ。妖精たちは本当に働き者で、すごいよね」
「ふわわぁ……司書妖精……テラカワユス!! 素敵なベレー帽が良くお似合いで! え、あの、司書妖精のちっちゃいぬいぐるみとか、売ってる? ねえ、売ってる?」
リリエンヌがふんわり笑いながら、霧に答える。
「うふふ、売ってますわよ、キリ。あちらの図書塔オリジナルグッズ売り場にもありますし、言読町にもたくさんの種類が販売されていますわ」
「はわわわわわ……!!」
フラフラとグッズ売り場に向かう霧を、アデルが制した。
「ちょっとキリ、ここでの目的は買い物じゃないのよ! それに、もう学園標準時間は17時半、現地時間は18時半よ。図書塔はあと30分で閉まるから、今日はここまでね」
「えええ……。到着したばかりでもう、終わり……。そっかぁ……残念」
肩を落とす霧に、リューエストが優しい口調で話しかけてくる。
「キリ、図書塔は朝7時には開塔されるから、また明日来よう。課題6では結構な読書量が課せられているから、どのみち数日かかる。今日は『市場迷宮』の課題もクリアしたし、もう十分だよ。本が大好きなキリは今興奮状態で気付いていないけれど、相当疲れてるはずだよ。飛行魔法も二度使ってるしね。あれはエネルギー消費が激しいんだ」
そう言われてみれば、足がガクガクするし、何だかめまいもする。図書塔の素晴らしさに感動して足も頭も震えているのかと思ったが、疲労のせいらしい。霧はそれに気付いて、素直に頷いた。
「わかった。じゃあ、トリフォンとアルビレオを、塔の外で待つ?」
「そうね、それがいいと思う。塔の入場ゲートは一つしかないから、その付近で待ってたら二人とすれ違いになることもないと思うわ」
アデルがそう言い、霧たち4人は図書塔の外へと歩き出した。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
黒白の魔法少女初等生(プリメール) - sorcier noir et blanc -
shio
ファンタジー
神話の時代。魔女ニュクスと女神アテネは覇権をかけて争い、ついにアテネがニュクスを倒した。力を使い果たしたアテネは娘同然に育てた七人の娘、七聖女に世の平和を託し眠りにつく。だが、戦いは終わっていなかった。
魔女ニュクスの娘たちは時の狭間に隠れ、魔女の使徒を現出し世の覇権を狙おうと暗躍していた。七聖女は自らの子供たち、魔法少女と共に平和のため、魔女の使徒が率いる従僕と戦っていく。
漆黒の聖女が魔女の使徒エリスを倒し、戦いを終結させた『エリスの災い』――それから十年後。
アルカンシエル魔法少女学園に入学したシェオル・ハデスは魔法は使えても魔法少女に成ることはできなかった。異端の少女に周りは戸惑いつつ学園の生活は始まっていく。
だが、平和な日常はシェオルの入学から変化していく。魔法少女の敵である魔女の従僕が増え始めたのだ。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
RISING 〜夜明けの唄〜
Takaya
ファンタジー
戦争・紛争の収まらぬ戦乱の世で
平和への夜明けを導く者は誰だ?
其々の正義が織り成す長編ファンタジー。
〜本編あらすじ〜
広く豊かな海に囲まれ、大陸に属さず
島国として永きに渡り歴史を紡いできた
独立国家《プレジア》
此の国が、世界に其の名を馳せる事となった
背景には、世界で只一国のみ、そう此の
プレジアのみが執り行った政策がある。
其れは《鎖国政策》
外界との繋がりを遮断し自国を守るべく
百年も昔に制定された国家政策である。
そんな国もかつて繋がりを育んで来た
近隣国《バルモア》との戦争は回避出来ず。
百年の間戦争によって生まれた傷跡は
近年の自国内紛争を呼ぶ事態へと発展。
その紛争の中心となったのは紛れも無く
新しく掲げられた双つの旗と王家守護の
象徴ともされる一つの旗であった。
鎖国政策を打ち破り外界との繋がりを
再度育み、此の国の衰退を止めるべく
立ち上がった《独立師団革命軍》
異国との戦争で生まれた傷跡を活力に
革命軍の考えを異と唱え、自国の文化や
歴史を護ると決めた《護国師団反乱軍》
三百年の歴史を誇るケーニッヒ王家に仕え
毅然と正義を掲げ、自国最高の防衛戦力と
評され此れを迎え討つ《国王直下帝国軍》
乱立した隊旗を起点に止まらぬ紛争。
今プレジアは変革の時を期せずして迎える。
此の歴史の中で起こる大きな戦いは後に
《日の出戦争》と呼ばれるが此の物語は
此のどれにも属さず、己の運命に翻弄され
巻き込まれて行く一人の流浪人の物語ーー。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
転移先は勇者と呼ばれた男のもとだった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
人魔戦争。
それは魔人と人族の戦争。
その規模は計り知れず、2年の時を経て終戦。
勝敗は人族に旗が上がったものの、人族にも魔人にも深い心の傷を残した。
それを良しとせず立ち上がったのは魔王を打ち果たした勇者である。
勇者は終戦後、すぐに国を建国。
そして見事、平和協定条約を結びつけ、法をつくる事で世界を平和へと導いた。
それから25年後。
1人の子供が異世界に降り立つ。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる