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三章 入学旅行三日目
3-13 アルビレオとガスティオール
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霧、リリエンヌ、リューエスト、アデルの四人が、図書塔へ向かっている頃。
別行動のアルビレオは、ガスティオールを連れて街はずれを歩いていた。
ひと気の無い一角で立ち止まったアルビレオは、ガスティオールに向き合い、重い溜息を吐き出す。明らかに不機嫌なその様子にガスティオールはすくみあがり、背を丸めて何度もアルビレオに頭を下げた。
「すいません、すいません、陛下」
「しっ! やめろ、二度と俺をそう呼ぶな」
アルビレオの冷たい声と凄味のある表情に、ガスティオールは震え上がった。
「はっ、はい! す、すいません、二度と呼びません!」
アルビレオはガスティオールの手枷を外しながら、淡々とした口調で話し出す。
「よく聞け、ガスティオール。俺はここでおまえを解放するが、24班には『記録所』に連れて行ったと説明する。おまえはこの一件について、今後一切口に出すな。沈黙を通せ。誰に対しても、だ。わかったか?」
「はい、誰にも言いません」
アルビレオが厳しい表情で再び重い溜息をつくと、ガスティオールはビクッと震えた。今やガスティオールは怯え切った小動物のようだ。先程の、威圧的なチンピラ然とした態度は微塵もない。
アルビレオはしばらく沈黙し、冷たい目でガスティオールを見下ろしていた。二人の間には緊迫した空気が漂い、ガスティオールはその刺さるような気配に冷や汗を浮かばせている。
ややあって、アルビレオが口を開いた。
「おまえは欲望を制御することを覚えるべきだ。おまえの役割は、他にあることを忘れるな。その目的の達成に、先ほどの行為がいかに愚かであるか、自覚しろ」
「はっ、はい。本当に、すいませんでした……」
「それから」
「は、はい」
「今後一切、キリ・ダリアリーデレに関わるな」
「えっ……。どうしてですか……あんな生意気な年増女、今のうちに潰して……ヒッ!」
アルビレオの射るような視線を受けて、ガスティオールはすぐさま口をつぐんだ。
不穏な気配をにじませながら、アルビレオが冷たく言い放つ。
「おまえなどに、潰せるものか。力の差もわからぬ愚か者め、どこまで鈍感なのだ」
「す、すいません……」
「……あれは、別格だ。おまえのような小物が関わると、命を落とすぞ」
「は、はい……。わかりました、あの女には、もう関わりません」
アルビレオは小さく頷くと、再び口を開く。
「おまえと俺は、無関係だ。わかっているな? おまえにとって俺は、ただの同期生、24班のメンバーの一人、それだけだ。ごく自然にふるまえ。今のように委縮するな」
「はい、わかりました」
「よし。では行け。身勝手な行動を慎み、計画に備えて相応しい行動を取れ」
「はい。失礼します」
ガスティオールはアルビレオに一礼すると、主人に叱られた犬のように、頭を垂れてすごすごとその場から立ち去る。
ガスティオールの背中に冷たい視線を注いでいたアルビレオは、相手の姿が見えなくなると、肺から絞り出すように長い溜息をついたのち、全身から力を抜いた。
そしてガスティオールから外した手枷に目を落とし、顔をしかめる。その手枷は、ガスティオールの反撃を封じるために、リューエストがはめた物だ。
「あいつ……何だって、こんなものを持っていたんだ? 変態か」
こんなものを所持していると趣味が危ぶまれる、早々にリューエストに返さねば、と呟きながら、アルビレオは今日何度目か分からない溜息をつくと、その場を後にした。
誰もいないその街はずれの一角、二人の男が去った静かなその場所の、一本の木。その枝に、茶色い小鳥が止まっている。知性の輝きが灯っていたその目から、フッと、色がなくなる。次の瞬間、小鳥は金縛りが解けたようにブルッと体を震わせ、キョロキョロと周りを確認したあと、枝から飛び立っていった。
別行動のアルビレオは、ガスティオールを連れて街はずれを歩いていた。
ひと気の無い一角で立ち止まったアルビレオは、ガスティオールに向き合い、重い溜息を吐き出す。明らかに不機嫌なその様子にガスティオールはすくみあがり、背を丸めて何度もアルビレオに頭を下げた。
「すいません、すいません、陛下」
「しっ! やめろ、二度と俺をそう呼ぶな」
アルビレオの冷たい声と凄味のある表情に、ガスティオールは震え上がった。
「はっ、はい! す、すいません、二度と呼びません!」
アルビレオはガスティオールの手枷を外しながら、淡々とした口調で話し出す。
「よく聞け、ガスティオール。俺はここでおまえを解放するが、24班には『記録所』に連れて行ったと説明する。おまえはこの一件について、今後一切口に出すな。沈黙を通せ。誰に対しても、だ。わかったか?」
「はい、誰にも言いません」
アルビレオが厳しい表情で再び重い溜息をつくと、ガスティオールはビクッと震えた。今やガスティオールは怯え切った小動物のようだ。先程の、威圧的なチンピラ然とした態度は微塵もない。
アルビレオはしばらく沈黙し、冷たい目でガスティオールを見下ろしていた。二人の間には緊迫した空気が漂い、ガスティオールはその刺さるような気配に冷や汗を浮かばせている。
ややあって、アルビレオが口を開いた。
「おまえは欲望を制御することを覚えるべきだ。おまえの役割は、他にあることを忘れるな。その目的の達成に、先ほどの行為がいかに愚かであるか、自覚しろ」
「はっ、はい。本当に、すいませんでした……」
「それから」
「は、はい」
「今後一切、キリ・ダリアリーデレに関わるな」
「えっ……。どうしてですか……あんな生意気な年増女、今のうちに潰して……ヒッ!」
アルビレオの射るような視線を受けて、ガスティオールはすぐさま口をつぐんだ。
不穏な気配をにじませながら、アルビレオが冷たく言い放つ。
「おまえなどに、潰せるものか。力の差もわからぬ愚か者め、どこまで鈍感なのだ」
「す、すいません……」
「……あれは、別格だ。おまえのような小物が関わると、命を落とすぞ」
「は、はい……。わかりました、あの女には、もう関わりません」
アルビレオは小さく頷くと、再び口を開く。
「おまえと俺は、無関係だ。わかっているな? おまえにとって俺は、ただの同期生、24班のメンバーの一人、それだけだ。ごく自然にふるまえ。今のように委縮するな」
「はい、わかりました」
「よし。では行け。身勝手な行動を慎み、計画に備えて相応しい行動を取れ」
「はい。失礼します」
ガスティオールはアルビレオに一礼すると、主人に叱られた犬のように、頭を垂れてすごすごとその場から立ち去る。
ガスティオールの背中に冷たい視線を注いでいたアルビレオは、相手の姿が見えなくなると、肺から絞り出すように長い溜息をついたのち、全身から力を抜いた。
そしてガスティオールから外した手枷に目を落とし、顔をしかめる。その手枷は、ガスティオールの反撃を封じるために、リューエストがはめた物だ。
「あいつ……何だって、こんなものを持っていたんだ? 変態か」
こんなものを所持していると趣味が危ぶまれる、早々にリューエストに返さねば、と呟きながら、アルビレオは今日何度目か分からない溜息をつくと、その場を後にした。
誰もいないその街はずれの一角、二人の男が去った静かなその場所の、一本の木。その枝に、茶色い小鳥が止まっている。知性の輝きが灯っていたその目から、フッと、色がなくなる。次の瞬間、小鳥は金縛りが解けたようにブルッと体を震わせ、キョロキョロと周りを確認したあと、枝から飛び立っていった。
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