推しと行く魔法士学園入学旅行~日本で手に入れた辞典は、異世界の最強アイテムでした~

ことのはおり

文字の大きさ
上 下
122 / 175
三章 入学旅行三日目

3-13   アルビレオとガスティオール

しおりを挟む
 霧、リリエンヌ、リューエスト、アデルの四人が、図書塔へ向かっている頃。
 別行動のアルビレオは、ガスティオールを連れて街はずれを歩いていた。
 ひと気の無い一角で立ち止まったアルビレオは、ガスティオールに向き合い、重い溜息を吐き出す。明らかに不機嫌なその様子にガスティオールはすくみあがり、背を丸めて何度もアルビレオに頭を下げた。

「すいません、すいません、陛下」

「しっ! やめろ、二度と俺をそう呼ぶな」

 アルビレオの冷たい声と凄味のある表情に、ガスティオールは震え上がった。

「はっ、はい! す、すいません、二度と呼びません!」

 アルビレオはガスティオールの手枷てかせを外しながら、淡々とした口調で話し出す。

「よく聞け、ガスティオール。俺はここでおまえを解放するが、24班には『記録所』に連れて行ったと説明する。おまえはこの一件について、今後一切口に出すな。沈黙を通せ。誰に対しても、だ。わかったか?」

「はい、誰にも言いません」

 アルビレオが厳しい表情で再び重い溜息をつくと、ガスティオールはビクッと震えた。今やガスティオールは怯え切った小動物のようだ。先程の、威圧的なチンピラ然とした態度は微塵みじんもない。
 アルビレオはしばらく沈黙し、冷たい目でガスティオールを見下ろしていた。二人の間には緊迫した空気が漂い、ガスティオールはその刺さるような気配に冷や汗を浮かばせている。
 ややあって、アルビレオが口を開いた。

「おまえは欲望を制御することを覚えるべきだ。おまえの役割は、他にあることを忘れるな。その目的の達成に、先ほどの行為がいかに愚かであるか、自覚しろ」

「はっ、はい。本当に、すいませんでした……」

「それから」

「は、はい」

「今後一切、キリ・ダリアリーデレに関わるな」

「えっ……。どうしてですか……あんな生意気な年増女、今のうちに潰して……ヒッ!」

 アルビレオの射るような視線を受けて、ガスティオールはすぐさま口をつぐんだ。
 不穏な気配をにじませながら、アルビレオが冷たく言い放つ。

「おまえなどに、潰せるものか。力の差もわからぬ愚か者め、どこまで鈍感なのだ」

「す、すいません……」

「……あれは、別格だ。おまえのような小物が関わると、命を落とすぞ」

「は、はい……。わかりました、あの女には、もう関わりません」

 アルビレオは小さく頷くと、再び口を開く。

「おまえと俺は、無関係だ。わかっているな? おまえにとって俺は、ただの同期生、24班のメンバーの一人、それだけだ。ごく自然にふるまえ。今のように委縮するな」

「はい、わかりました」

「よし。では行け。身勝手な行動を慎み、計画に備えて相応しい行動を取れ」

「はい。失礼します」

 ガスティオールはアルビレオに一礼すると、主人に叱られた犬のように、頭を垂れてすごすごとその場から立ち去る。
 ガスティオールの背中に冷たい視線を注いでいたアルビレオは、相手の姿が見えなくなると、肺から絞り出すように長い溜息をついたのち、全身から力を抜いた。
 そしてガスティオールから外した手枷に目を落とし、顔をしかめる。その手枷は、ガスティオールの反撃を封じるために、リューエストがはめた物だ。

「あいつ……何だって、こんなものを持っていたんだ? 変態か」

 こんなものを所持していると趣味が危ぶまれる、早々にリューエストあいつに返さねば、と呟きながら、アルビレオは今日何度目か分からない溜息をつくと、その場を後にした。

 誰もいないその街はずれの一角、二人の男が去った静かなその場所の、一本の木。その枝に、茶色い小鳥が止まっている。知性の輝きが灯っていたその目から、フッと、色がなくなる。次の瞬間、小鳥は金縛りが解けたようにブルッと体を震わせ、キョロキョロと周りを確認したあと、枝から飛び立っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で泣いていた僕は、戻って来てヒーロー活動始めます。

まったりー
ファンタジー
8歳の頃、勇者召喚で異世界に飛んだ主人公、神楽啓斗(かぐらけいと)は、1年間を毎日泣いて過ごしていました。 そんな彼を可哀そうと思ったのは、その世界で女神と呼ばれている女性で、使い魔を通して色々力添えをして行き、段々と元気になった神楽啓斗(かぐらけいと)は、異世界で生きる訓練を始めます。 ですが、子供は親元に戻るべきと女神様は力を使い、現代に戻してくれたのです。 戻って来た現代では、女神様の使い魔も助けも行われ続け、神楽啓斗(かぐらけいと)は異世界の力を使い、困ってる人を助けるヒーロー活動を始めます。 普通の平和な世界だと思っていた神楽啓斗(かぐらけいと)でしたが、世界には裏の顔が存在し、戦いの中に身を置く事になって行く、そんなお話です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

黒白の魔法少女初等生(プリメール) - sorcier noir et blanc -

shio
ファンタジー
 神話の時代。魔女ニュクスと女神アテネは覇権をかけて争い、ついにアテネがニュクスを倒した。力を使い果たしたアテネは娘同然に育てた七人の娘、七聖女に世の平和を託し眠りにつく。だが、戦いは終わっていなかった。  魔女ニュクスの娘たちは時の狭間に隠れ、魔女の使徒を現出し世の覇権を狙おうと暗躍していた。七聖女は自らの子供たち、魔法少女と共に平和のため、魔女の使徒が率いる従僕と戦っていく。  漆黒の聖女が魔女の使徒エリスを倒し、戦いを終結させた『エリスの災い』――それから十年後。  アルカンシエル魔法少女学園に入学したシェオル・ハデスは魔法は使えても魔法少女に成ることはできなかった。異端の少女に周りは戸惑いつつ学園の生活は始まっていく。  だが、平和な日常はシェオルの入学から変化していく。魔法少女の敵である魔女の従僕が増え始めたのだ。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...