120 / 175
三章 入学旅行三日目
3-12a “ゲス”ティオールの一幕 1
しおりを挟む
「俺様を誰だと思ってるんだ、いにしえの貴族、カワードゥ家の血を引くガスティオール様だぞ! しかも魔法士学園一の優等生だ! この俺様が一緒に遊んでやると言ってるんだ、ありがたく思え!」
「やめてください、やめて、手を放してください……。ぶつかってごめんなさい、急いでいたんです、お願い、もう放して」
「詫びをするなら誠意を見せろよ。なぁに、難しいことじゃねぇよ。このすぐ近くにある俺の泊ってる宿屋で……」
どういう状況なのか、一目瞭然だった。
ガスティオール・カワードゥ――眉目秀麗、金髪碧眼の王子様のような見た目とは裏腹の、下品で邪悪で陰険な男。入学旅行初日に出会い、アデルを「エセダリア」とののしり、霧に向かっては「だせぇ地面激突オバサン」と言って醜い嘲笑を浴びせてきた男。その後セセラム競技場にてアデルに負けた腹いせに、24班の課題への取り組みを妨害した男。――霧たちの前方にいるのは正にその、ガスティオールだった。
おそらく、ガスティオールの所属する1班も、霧たち24班と同じく課題6を消化するために、この言読町に滞在しているのだろう。
ガスティオールと運悪く、このひと気の無い狭い路地でぶつかってしまったと推察される少女――16~18歳ぐらいと思われるその女の子は、目を引く美少女だった。彼女の『辞典妖精』と思われる妖精が、霧の『辞典妖精』ミミと目を見交わし、何かを訴えている。
なるほど、と霧はすぐさま理解した。ミミに助けを求めてきたのは、この少女の『辞典妖精』だったのだ。
霧はパッと『辞典』を開くと、一歩前に出て、大きく息を吸いこんだあと声を張り上げた。
「よおっ、毒ガスの下種ティオールじゃねぇか!」
我ながらうまいこと言った、と思いつつ、霧は続けて叫ぶ。
「こんなところで嫌がる女の子をかどわかそうとしてるということは、よっぽどモテないんだな、おまえ! まあ、その下種な性格なら、当然か。醜い内面が表っ皮に滲み出てきてるぞ。おまえは本当に見下げ果てたダサい男だ、本当にだせぇ、究極にだせぇぜ、すげぇだせぇ!! おっと、おまえのボギャ貧が移ったわ。ヒッヒッヒッ! ヒャア~ハハハハハッ!! おまえなんぞあたしの辞典魔法で吹き飛ばしてやる!」
霧の挑発に、ガスティオールは見事にかかった。怒りで顔を赤く染め、吠える。
「なんだとこの、インチキおばはんめ!」
ガスティオールは自分の『辞典』に手を伸ばし、それを広げようとした。彼が少女の手を放したその一瞬の隙に、霧は用意していた辞典魔法を発動させる。
「あたしの立ち位置を、目の前のガスティオール・カワードゥと交換する!」
パッと、二人の立ち位置が入れ替わった。霧は少女のそばへ、ガスティオールは24班のそばへ。
そこからは何もかもが、一瞬のことだった。
霧は少女を背にかばい次の魔法を発動させようとする――が、それより早く、トリフォンの杖先がガスティオールのみぞおちに向かって素早く突き出された。その効果的な一撃でガスティオールは息を詰まらせ、その間に彼の背面にするりと回り込んだアデルが、ガスティオールの後ろ膝に蹴りを喰らわすと、彼はガクッと膝を折り石造りの路上に倒れ込んだ。素早くリューエストがガスティオールの後ろ手を掴み、手枷をはめ込む。
そうしてガスティオールの反撃を一瞬で封じ込めた24班の面々は、一息ついた。
「まったく……ガスティオール・カワードゥ、おぬしはどうしようもない御仁じゃの。赤ん坊から躾をやり直さんといかんて」
「くそっ! くそぉっ! 放しやがれ! 俺が何をしたってんだ!」
「あきれた。自分の下種な行動に自覚もないの? 下種ティオール、まさにピッタリなあだ名ね。キリってば、うまいこと言う」
「何だと、この、エセダリアめ! 真っ赤っ赤アデルのくせに、生意気じゃねぇか! 覚えてろ、おまえなんか」
ゴスッと、アルビレオの踵がガスティオールの背中に落ち、強かに打たれたガスティオールは、呼吸困難に陥り悪態の続きを発音することができなくなった。痛みにうずくまり、静かになったガスティオールを軽蔑の眼差しで見下ろしながら、アデルは心の中でアルビレオに拍手を贈る。
一方、リリエンヌはガスティオールの傍らを通り過ぎ、霧と少女のそばに駆けて行った。彼女はふんわり優しく笑うと、少女の手首を優しく手に取る。
「可哀相に、赤くなってますわ。あの男、余程強く握っていたのね。待ってね、今、癒してあげる」
リリエンヌの癒術が、瞬く間に少女の手首の腫れと痛みを取り除く。少女はホッとした様子で、手首をさすりながら小さな声で言った。
「あ、ありがとうございます……本当に、助かりました」
「やめてください、やめて、手を放してください……。ぶつかってごめんなさい、急いでいたんです、お願い、もう放して」
「詫びをするなら誠意を見せろよ。なぁに、難しいことじゃねぇよ。このすぐ近くにある俺の泊ってる宿屋で……」
どういう状況なのか、一目瞭然だった。
ガスティオール・カワードゥ――眉目秀麗、金髪碧眼の王子様のような見た目とは裏腹の、下品で邪悪で陰険な男。入学旅行初日に出会い、アデルを「エセダリア」とののしり、霧に向かっては「だせぇ地面激突オバサン」と言って醜い嘲笑を浴びせてきた男。その後セセラム競技場にてアデルに負けた腹いせに、24班の課題への取り組みを妨害した男。――霧たちの前方にいるのは正にその、ガスティオールだった。
おそらく、ガスティオールの所属する1班も、霧たち24班と同じく課題6を消化するために、この言読町に滞在しているのだろう。
ガスティオールと運悪く、このひと気の無い狭い路地でぶつかってしまったと推察される少女――16~18歳ぐらいと思われるその女の子は、目を引く美少女だった。彼女の『辞典妖精』と思われる妖精が、霧の『辞典妖精』ミミと目を見交わし、何かを訴えている。
なるほど、と霧はすぐさま理解した。ミミに助けを求めてきたのは、この少女の『辞典妖精』だったのだ。
霧はパッと『辞典』を開くと、一歩前に出て、大きく息を吸いこんだあと声を張り上げた。
「よおっ、毒ガスの下種ティオールじゃねぇか!」
我ながらうまいこと言った、と思いつつ、霧は続けて叫ぶ。
「こんなところで嫌がる女の子をかどわかそうとしてるということは、よっぽどモテないんだな、おまえ! まあ、その下種な性格なら、当然か。醜い内面が表っ皮に滲み出てきてるぞ。おまえは本当に見下げ果てたダサい男だ、本当にだせぇ、究極にだせぇぜ、すげぇだせぇ!! おっと、おまえのボギャ貧が移ったわ。ヒッヒッヒッ! ヒャア~ハハハハハッ!! おまえなんぞあたしの辞典魔法で吹き飛ばしてやる!」
霧の挑発に、ガスティオールは見事にかかった。怒りで顔を赤く染め、吠える。
「なんだとこの、インチキおばはんめ!」
ガスティオールは自分の『辞典』に手を伸ばし、それを広げようとした。彼が少女の手を放したその一瞬の隙に、霧は用意していた辞典魔法を発動させる。
「あたしの立ち位置を、目の前のガスティオール・カワードゥと交換する!」
パッと、二人の立ち位置が入れ替わった。霧は少女のそばへ、ガスティオールは24班のそばへ。
そこからは何もかもが、一瞬のことだった。
霧は少女を背にかばい次の魔法を発動させようとする――が、それより早く、トリフォンの杖先がガスティオールのみぞおちに向かって素早く突き出された。その効果的な一撃でガスティオールは息を詰まらせ、その間に彼の背面にするりと回り込んだアデルが、ガスティオールの後ろ膝に蹴りを喰らわすと、彼はガクッと膝を折り石造りの路上に倒れ込んだ。素早くリューエストがガスティオールの後ろ手を掴み、手枷をはめ込む。
そうしてガスティオールの反撃を一瞬で封じ込めた24班の面々は、一息ついた。
「まったく……ガスティオール・カワードゥ、おぬしはどうしようもない御仁じゃの。赤ん坊から躾をやり直さんといかんて」
「くそっ! くそぉっ! 放しやがれ! 俺が何をしたってんだ!」
「あきれた。自分の下種な行動に自覚もないの? 下種ティオール、まさにピッタリなあだ名ね。キリってば、うまいこと言う」
「何だと、この、エセダリアめ! 真っ赤っ赤アデルのくせに、生意気じゃねぇか! 覚えてろ、おまえなんか」
ゴスッと、アルビレオの踵がガスティオールの背中に落ち、強かに打たれたガスティオールは、呼吸困難に陥り悪態の続きを発音することができなくなった。痛みにうずくまり、静かになったガスティオールを軽蔑の眼差しで見下ろしながら、アデルは心の中でアルビレオに拍手を贈る。
一方、リリエンヌはガスティオールの傍らを通り過ぎ、霧と少女のそばに駆けて行った。彼女はふんわり優しく笑うと、少女の手首を優しく手に取る。
「可哀相に、赤くなってますわ。あの男、余程強く握っていたのね。待ってね、今、癒してあげる」
リリエンヌの癒術が、瞬く間に少女の手首の腫れと痛みを取り除く。少女はホッとした様子で、手首をさすりながら小さな声で言った。
「あ、ありがとうございます……本当に、助かりました」
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説

異世界で泣いていた僕は、戻って来てヒーロー活動始めます。
まったりー
ファンタジー
8歳の頃、勇者召喚で異世界に飛んだ主人公、神楽啓斗(かぐらけいと)は、1年間を毎日泣いて過ごしていました。
そんな彼を可哀そうと思ったのは、その世界で女神と呼ばれている女性で、使い魔を通して色々力添えをして行き、段々と元気になった神楽啓斗(かぐらけいと)は、異世界で生きる訓練を始めます。
ですが、子供は親元に戻るべきと女神様は力を使い、現代に戻してくれたのです。
戻って来た現代では、女神様の使い魔も助けも行われ続け、神楽啓斗(かぐらけいと)は異世界の力を使い、困ってる人を助けるヒーロー活動を始めます。
普通の平和な世界だと思っていた神楽啓斗(かぐらけいと)でしたが、世界には裏の顔が存在し、戦いの中に身を置く事になって行く、そんなお話です。

黒白の魔法少女初等生(プリメール) - sorcier noir et blanc -
shio
ファンタジー
神話の時代。魔女ニュクスと女神アテネは覇権をかけて争い、ついにアテネがニュクスを倒した。力を使い果たしたアテネは娘同然に育てた七人の娘、七聖女に世の平和を託し眠りにつく。だが、戦いは終わっていなかった。
魔女ニュクスの娘たちは時の狭間に隠れ、魔女の使徒を現出し世の覇権を狙おうと暗躍していた。七聖女は自らの子供たち、魔法少女と共に平和のため、魔女の使徒が率いる従僕と戦っていく。
漆黒の聖女が魔女の使徒エリスを倒し、戦いを終結させた『エリスの災い』――それから十年後。
アルカンシエル魔法少女学園に入学したシェオル・ハデスは魔法は使えても魔法少女に成ることはできなかった。異端の少女に周りは戸惑いつつ学園の生活は始まっていく。
だが、平和な日常はシェオルの入学から変化していく。魔法少女の敵である魔女の従僕が増え始めたのだ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる