119 / 175
三章 入学旅行三日目
3-11 言読町での寄り道
しおりを挟む
24班の一行は、『繋がりの塔/レンデュアル北』の飛行者用到着ポートから、塔の内部を通って地上に降り立ち、賑わう街へと繰り出した。
目指すは、図書塔方面。
繋がりの塔と図書塔は、一本の道でまっすぐ繋がっている。その大きな道を目の前にして、霧は口をポカンと開けて立ち尽くしていた。
「ふわぁ~、すご……。道幅、100メートルぐらいあるんじゃない? 壮観……」
日本のように有害物質を吐き出すガソリン車は存在しないので、空気もよく、道は快適に歩けるように整備されていた。木々や花壇で飾られ、ベンチが設置されているのも見える。
そして多くの人が行き交うその大通り沿いには、様々な店舗が軒を連ねていた。中でも一番多いのは書店で、本好きにはたまらない眺めだ。もちろん霧は図書塔へと向かう道すがら、興奮して大喜びしている。
「わあ、すごい、すごい、すごい。本屋さん、いっぱい! うわぁ、見てあのショーウィンドウに飾ってある本、見事な装丁! きれーっ!! あっ、その隣の店、古書店? ほわぁ……なんという趣。天井まで本、ぎっしり。床にもぎゅうぎゅう。店内通路、狭っ! なになに、『絶対見つかる掘り出し物。宝探しの店にようこそ』だって。もうワクワクしてきた……」
霧はフラフラと店に吸い寄せられ、リューエストに引き戻された。リューエストは霧が迷子になるのを心配して、今回は初めから手を繋いでいる。彼は満面の笑みを湛えて歩きながら、霧に話しかけた。
「この街の名前は言読町といってね、図書塔の存在で古くから栄えてきた本の街なんだ。図書塔と言読町の歴史は、すなわち新暦の歴史。およそ1500年前、ダリアの改革後に図書塔が建立されると、この地に多くの人々が集まるようになって、自然に街ができ、大きく発展してきたんだ」
リューエストの解説通り、図書塔のそびえるエリアを中心にして、周辺には多くの建物がひしめき合っている。
セセラム競技場付近の賑わいもすごかったが、あちらは屋台が中心で、お祭りのような雰囲気があった。それに対してこちらは、歴史ある街に相応しい威厳が漂い、まるで街全体が美術館のような趣を醸し出している。
表通りに整然と並んだ店はいずれも重厚なたたずまいのレンガ造りと見られる建物だ。歴史を感じさせる建築物の美と、人々の暮らしの息吹が見事に調和した街並みは、とても美しく活気に満ちている。
そんな風情のある街中を歩きながら、霧たちは今、図書塔に向かう前に昼食を摂る店を探していた。
「ね、ここなんかどう? 席数が多くて、テーブル席も空いてる。雰囲気もいいし、メニューも豊富みたいよ」
アデルの提案を受け入れ、24班の面々は大通り沿いにある一軒のレストランに入った。そして思い思いに料理を注文し、空腹を満たす。
学園標準時間はただいま15時半。このレンデュアル島の現地時間は幸いにも霧たちの時間とあまり開きはなく、ただいま16時半だった。
「もうこんな時間。今日はもう、たいして読書できそうにないわね」
アデルが残念そうにそう呟くと、トリフォンが頷きながら言った。
「うむ、そうじゃな。どれ、わしはこのあと、今夜の宿泊場所を確保しに行くかの。近くに、友人が経営しているホテルがあるんじゃ。とても可愛らしい趣向を凝らしたホテルでの。特に女性に人気なんじゃ。実は昨日、近々行くことになると、知らせを飛ばしておいたんじゃよ。6室分空けておくと返事があったから、先にわし一人で挨拶に行こうと思う。みんな、今夜の宿泊所はそこでいいかの?」
「もちろんですわ! 女性に人気の可愛らしいホテルだなんて、楽しみですわ! ありがとうございます、トリフォン」
リリエンヌがそう言うと、続けてみんなもトリフォンに礼を言い、一行はレストランを出て歩き出した。件のホテルも同じ方向にあるらしく、みんな揃って図書塔方面に向かう。
その道中で、霧はみんなに質問をしながら歩いていた。訊きたいことは、山ほどある。
「ねえ、図書塔の本って、持ち出しできないの?」
「できないよ。持ち出し禁止。本はどれも、図書塔内で読むんだ。だから大抵の人は、図書塔で気に入った本を見つけたら、街に繰り出して同じものを探すんだよ。そういうわけで書店がたくさんあるんだ」
リューエストがそう答えたのを聞き、霧は次の疑問を口にしようとした。
そのとき。
「ん……? どした、ミミ?」
霧の『辞典妖精』、ミミが『辞典』から飛び出してきて、表通りと交わる脇道の一本、細い路地に向かって指をさす。
【キリ……あっちに、向かって。お願い】
「あっち? いいけど……何があるの?」
立ち止まって薄暗い路地を覗き込んでいる霧に、リューエストが声をかけた。
「どうしたの、キリ? あっちに何かある? フラフラすると、迷子になるよ。表通りからそれると、複雑な裏路地が無数にあるから」
「う~ん……寄り道したい。ごめん、みんな」
そう言いながら路地に足を踏み入れた霧の背中を、24班の面々は追いかけた。
「いったいどうしちゃったのよ、キリ? 何があるっての?」
アデルの問いかけに、霧が首を振って答える。
「よくわからない。けど、呼ばれてる……。誰か、困ってる……みたいな」
「みたいな、って、……ん? 前にもあったよね……こんなこと……」
「あったのぉ……。昨日。セセラム地方の、『繋がりの塔』へ向かう道中のことじゃった。あのときは、性急に助けが必要な男の子がおったの。ふむ、ふむ……ここは黙ってキリについて行くのが得策じゃろうて」
トリフォンの言葉に無言で同意した一行は、ほぼ一列になって狭い路地を突き進んだ。
道はカクカクと細かく折れ曲がりながら続き、一行は右に左に行ったあげく、小刻みに表れる5~6段の階段を経て、上ったり下りたりしながらひたすら進む。ぼーっと歩いていればたちまち転びそうな道ゆきである。
いったい何があるのだろうとみんな不思議に思っていると、前方からよく知る声が聞こえてきた。
「俺様を誰だと思ってるんだ、いにしえの貴族、カワードゥ家の血を引くガスティオール様だぞ! しかも魔法士学園一の優等生だ! この俺様が一緒に遊んでやると言ってるんだ、ありがたく思え!」
目指すは、図書塔方面。
繋がりの塔と図書塔は、一本の道でまっすぐ繋がっている。その大きな道を目の前にして、霧は口をポカンと開けて立ち尽くしていた。
「ふわぁ~、すご……。道幅、100メートルぐらいあるんじゃない? 壮観……」
日本のように有害物質を吐き出すガソリン車は存在しないので、空気もよく、道は快適に歩けるように整備されていた。木々や花壇で飾られ、ベンチが設置されているのも見える。
そして多くの人が行き交うその大通り沿いには、様々な店舗が軒を連ねていた。中でも一番多いのは書店で、本好きにはたまらない眺めだ。もちろん霧は図書塔へと向かう道すがら、興奮して大喜びしている。
「わあ、すごい、すごい、すごい。本屋さん、いっぱい! うわぁ、見てあのショーウィンドウに飾ってある本、見事な装丁! きれーっ!! あっ、その隣の店、古書店? ほわぁ……なんという趣。天井まで本、ぎっしり。床にもぎゅうぎゅう。店内通路、狭っ! なになに、『絶対見つかる掘り出し物。宝探しの店にようこそ』だって。もうワクワクしてきた……」
霧はフラフラと店に吸い寄せられ、リューエストに引き戻された。リューエストは霧が迷子になるのを心配して、今回は初めから手を繋いでいる。彼は満面の笑みを湛えて歩きながら、霧に話しかけた。
「この街の名前は言読町といってね、図書塔の存在で古くから栄えてきた本の街なんだ。図書塔と言読町の歴史は、すなわち新暦の歴史。およそ1500年前、ダリアの改革後に図書塔が建立されると、この地に多くの人々が集まるようになって、自然に街ができ、大きく発展してきたんだ」
リューエストの解説通り、図書塔のそびえるエリアを中心にして、周辺には多くの建物がひしめき合っている。
セセラム競技場付近の賑わいもすごかったが、あちらは屋台が中心で、お祭りのような雰囲気があった。それに対してこちらは、歴史ある街に相応しい威厳が漂い、まるで街全体が美術館のような趣を醸し出している。
表通りに整然と並んだ店はいずれも重厚なたたずまいのレンガ造りと見られる建物だ。歴史を感じさせる建築物の美と、人々の暮らしの息吹が見事に調和した街並みは、とても美しく活気に満ちている。
そんな風情のある街中を歩きながら、霧たちは今、図書塔に向かう前に昼食を摂る店を探していた。
「ね、ここなんかどう? 席数が多くて、テーブル席も空いてる。雰囲気もいいし、メニューも豊富みたいよ」
アデルの提案を受け入れ、24班の面々は大通り沿いにある一軒のレストランに入った。そして思い思いに料理を注文し、空腹を満たす。
学園標準時間はただいま15時半。このレンデュアル島の現地時間は幸いにも霧たちの時間とあまり開きはなく、ただいま16時半だった。
「もうこんな時間。今日はもう、たいして読書できそうにないわね」
アデルが残念そうにそう呟くと、トリフォンが頷きながら言った。
「うむ、そうじゃな。どれ、わしはこのあと、今夜の宿泊場所を確保しに行くかの。近くに、友人が経営しているホテルがあるんじゃ。とても可愛らしい趣向を凝らしたホテルでの。特に女性に人気なんじゃ。実は昨日、近々行くことになると、知らせを飛ばしておいたんじゃよ。6室分空けておくと返事があったから、先にわし一人で挨拶に行こうと思う。みんな、今夜の宿泊所はそこでいいかの?」
「もちろんですわ! 女性に人気の可愛らしいホテルだなんて、楽しみですわ! ありがとうございます、トリフォン」
リリエンヌがそう言うと、続けてみんなもトリフォンに礼を言い、一行はレストランを出て歩き出した。件のホテルも同じ方向にあるらしく、みんな揃って図書塔方面に向かう。
その道中で、霧はみんなに質問をしながら歩いていた。訊きたいことは、山ほどある。
「ねえ、図書塔の本って、持ち出しできないの?」
「できないよ。持ち出し禁止。本はどれも、図書塔内で読むんだ。だから大抵の人は、図書塔で気に入った本を見つけたら、街に繰り出して同じものを探すんだよ。そういうわけで書店がたくさんあるんだ」
リューエストがそう答えたのを聞き、霧は次の疑問を口にしようとした。
そのとき。
「ん……? どした、ミミ?」
霧の『辞典妖精』、ミミが『辞典』から飛び出してきて、表通りと交わる脇道の一本、細い路地に向かって指をさす。
【キリ……あっちに、向かって。お願い】
「あっち? いいけど……何があるの?」
立ち止まって薄暗い路地を覗き込んでいる霧に、リューエストが声をかけた。
「どうしたの、キリ? あっちに何かある? フラフラすると、迷子になるよ。表通りからそれると、複雑な裏路地が無数にあるから」
「う~ん……寄り道したい。ごめん、みんな」
そう言いながら路地に足を踏み入れた霧の背中を、24班の面々は追いかけた。
「いったいどうしちゃったのよ、キリ? 何があるっての?」
アデルの問いかけに、霧が首を振って答える。
「よくわからない。けど、呼ばれてる……。誰か、困ってる……みたいな」
「みたいな、って、……ん? 前にもあったよね……こんなこと……」
「あったのぉ……。昨日。セセラム地方の、『繋がりの塔』へ向かう道中のことじゃった。あのときは、性急に助けが必要な男の子がおったの。ふむ、ふむ……ここは黙ってキリについて行くのが得策じゃろうて」
トリフォンの言葉に無言で同意した一行は、ほぼ一列になって狭い路地を突き進んだ。
道はカクカクと細かく折れ曲がりながら続き、一行は右に左に行ったあげく、小刻みに表れる5~6段の階段を経て、上ったり下りたりしながらひたすら進む。ぼーっと歩いていればたちまち転びそうな道ゆきである。
いったい何があるのだろうとみんな不思議に思っていると、前方からよく知る声が聞こえてきた。
「俺様を誰だと思ってるんだ、いにしえの貴族、カワードゥ家の血を引くガスティオール様だぞ! しかも魔法士学園一の優等生だ! この俺様が一緒に遊んでやると言ってるんだ、ありがたく思え!」
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説

異世界で泣いていた僕は、戻って来てヒーロー活動始めます。
まったりー
ファンタジー
8歳の頃、勇者召喚で異世界に飛んだ主人公、神楽啓斗(かぐらけいと)は、1年間を毎日泣いて過ごしていました。
そんな彼を可哀そうと思ったのは、その世界で女神と呼ばれている女性で、使い魔を通して色々力添えをして行き、段々と元気になった神楽啓斗(かぐらけいと)は、異世界で生きる訓練を始めます。
ですが、子供は親元に戻るべきと女神様は力を使い、現代に戻してくれたのです。
戻って来た現代では、女神様の使い魔も助けも行われ続け、神楽啓斗(かぐらけいと)は異世界の力を使い、困ってる人を助けるヒーロー活動を始めます。
普通の平和な世界だと思っていた神楽啓斗(かぐらけいと)でしたが、世界には裏の顔が存在し、戦いの中に身を置く事になって行く、そんなお話です。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394


ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる