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三章 入学旅行三日目
3-09b 異世界市場の買い物を終えて 2
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「次の課題に移りたい。各自、課題8を確かに完了したか確認してくれ」
滅多に発言することのないアルビレオの言葉に、24班の面々は緊張感を取り戻し、各自『辞典』を開いた。
入学旅行に関するページを開いた霧もまた、改めて進捗を確認する。
――――――――――――――――――
魔法士学園 入学旅行 第1540年度
【第24班 6名 以下50音順】
1.アデル・ダリアリーデレ
2.アルビレオ・ファルステーロ
3.キリ・ダリアリーデレ
4.トリフォン・ワイズマン
5.リューエスト・ダリアリーデレ
6.リリエンヌ・ラエラ
■課題1/完了
第24班のメンバー全員と合流せよ
以降、上記ツアーメイトと協力しあうこと
なお、初めてツアーメイトと半径2メートル以内に接近すると、辞典が輝いて知らせてくれる
■課題2/完了
セセラム競技場で辞典競技を見学せよ
■課題3/完了
セセラム競技場でツアーメイトと表現バトルを体験せよ
■課題4/完了
セセラム競技場で他の班と表現バトル(団体戦)を体験せよ
なお、対戦相手となる班は競技場先着順に決定される
■課題5/ 2件完了・残り3件
ツアーメイトと協力して、人々の困り事を5件解決せよ
■課題6/実行前
レンデュアル島にある図書塔にて、各自好きな本を読了せよ
一人10冊以上、合計50万文字以上
かつ、班内合計200冊 500万文字を達成すること
★現在の個人文字数→0字
★現在の個人冊数→0冊
★現在のチーム合計文字数→0文字
★現在のチーム合計冊数→0冊
■課題7/完了
物語の泉に赴き、各自ストーリードームを制作せよ
■課題8/完了
市場迷宮で各自、他者への贈り物を購入せよ
なお、市場迷宮出現場所は明かされていない
よって、まず市場迷宮の探索から始めよ
上記課題のすべてを完了したのち、速やかに学園に帰還せよ
なお、学園は常に移動している
――――――――――――――――――
霧は、課題が順調に進んでいることを確認し、みんなに視線を戻した。
24班全員が課題8を終えたことを確認すると、アルビレオが再び口を開く。
「課題の残りは、課題5の困りごと3件分解決、課題6の図書塔だ。俺は図書塔に向かうべきだと思うが、他に意見があれば考慮する」
「いいね、図書塔! どんな本が読めるのか楽しみだ。でもその前に、みんな、お腹空かない? 食事に行こうよ」
霧の提案に皆は頷き、図書塔のあるレンデュアル島に移動したら、まず昼食を摂ることになった。
さっそく『市場迷宮』から発つ準備を始めた霧たちだが、アデルが何かを思い出した様子で声を上げる。
「待って、私、『キー』の残額を清算しておく。次はいつ来れるかわからないし。キリも残額、戻してもらった方がいいわよ」
(あ、そうか。この『キー』ってプリペイドカードみたいなもんだったっけ。う~ん……綺麗だし持っていたいけど……)
そう思って『キー』を眺めながら迷っている霧に、リューエストが言った。
「キリ、入学旅行が終わったら本格的な学園生活が始まるし、多分ここに来る暇は無くなるよ。今回はあっさり『市場迷宮』を発見したけど、普通はこんなにすぐ見つからないんだ。『市場迷宮』自体の探索に、何日もかかることはざらだしね。それに、『キー』の存在は『市場迷宮』以外では不安定になるから、長期間所持することは不可能だ」
「え……不安定? どういうこと?」
霧のその質問に、トリフォンが答えた。
「いつの間にか消えてしまうんじゃ。この通り美しいもんじゃから、蒐集目的で持ち帰る者もいるが、いずれも一年以内に跡形もなく消えてしまうんじゃよ」
「えぇえ~……消えちゃうの、残念……。仕方ない……」
霧はアデルと一緒に、精算機に向かった。精算機の外観は分かりやすく、鍵のオブジェを屋根に乗せた小さな小屋の形をしている。
「あ……何この可愛い小屋。これごと欲しいわ。庭に置きたい。……庭、持ってないけど」
鍵モチーフの素敵小屋をうっとり眺めているキリに、リューエストが笑いながら声をかけてきた。
「何言ってんの、キリ。うちに広い庭あるじゃないか。今はリール叔母さんもめちゃ忙しくてほったらかしで草ボーボーだけど。リール叔母さんは絶対、好きに使っていいって言ってくれるよ」
「マジで?!」
「うんうん。まあ、学園を卒業するまでは、家に帰る暇もほとんどないだろうけどね。あ~、楽しみだなぁ、キリと過ごす学園生活。一緒のクラスになりたいなぁ。キリと離れるなんて考えられないよ、生まれてからずっと一緒にいたんだもの」
「もう、リューエスト、脱線してるわよ。さあキリ、ちゃっちゃと『キー』の清算しちゃいなさいよ、次、行くから」
「うん、わかった」
霧と一緒に付いてきたリューエストが、使い方を教えてくれた。
『キー』を精算機に入れると、「所定の位置に辞典をのせてください」というアナウンスがあり、霧はその通りに『辞典』を置く。そうしながら、ふと思った。
(あ……待てよこれ、日本円で買っていたら、お釣りに日本のお札や硬貨が出てくるところだったんじゃない?! うわっ……危なっ……)
霧は一瞬、サッと青ざめた。
「ずっと眠っている間、日本という異世界で暮らしている夢を見ていた」という設定は、霧のおかしな言動をごまかせてしまっているが、目の前で不思議な異世界の通貨が出てきたら、みんなの反応はどうなるかわからない。機械の誤作動だとごまかしても、リューエストの好奇心を考えれば、どこまでその嘘が通じるか。
霧は、やるせない溜息をついた。
(あたしが実は日本から来た異世界人で、本当の家族じゃないことを知ったら……リューエストは、今みたいに優しくしてくれないんだろうな……)
それを思うと、霧の胸は激しく痛んだ。今まで知らずにいた「家族からの愛情」は、霧の心の中にあるカラカラに乾いた泉を、豊かな水で満たしてくれた。凍てついた空気をあたため、暗い空間に光を届けてくれた。この、初めて手にしたぬくもりを、霧は手放したくなかった。
(あたしが本当の家族じゃないことを、今はまだ、話したくない。『竜辞典』を守るためにも……。できればずっと、キリ・ダリアリーデレとして、このククリコ・アーキペラゴで生きたい)
霧はこのとき生まれてはじめて、はっきりと、「生きたい」と願った。
それを自覚した途端、霧の目に涙があふれる。霧はみんなに気付かれないようサッとその涙を拭うと、元気よく入学旅行の続きに戻って行った。
滅多に発言することのないアルビレオの言葉に、24班の面々は緊張感を取り戻し、各自『辞典』を開いた。
入学旅行に関するページを開いた霧もまた、改めて進捗を確認する。
――――――――――――――――――
魔法士学園 入学旅行 第1540年度
【第24班 6名 以下50音順】
1.アデル・ダリアリーデレ
2.アルビレオ・ファルステーロ
3.キリ・ダリアリーデレ
4.トリフォン・ワイズマン
5.リューエスト・ダリアリーデレ
6.リリエンヌ・ラエラ
■課題1/完了
第24班のメンバー全員と合流せよ
以降、上記ツアーメイトと協力しあうこと
なお、初めてツアーメイトと半径2メートル以内に接近すると、辞典が輝いて知らせてくれる
■課題2/完了
セセラム競技場で辞典競技を見学せよ
■課題3/完了
セセラム競技場でツアーメイトと表現バトルを体験せよ
■課題4/完了
セセラム競技場で他の班と表現バトル(団体戦)を体験せよ
なお、対戦相手となる班は競技場先着順に決定される
■課題5/ 2件完了・残り3件
ツアーメイトと協力して、人々の困り事を5件解決せよ
■課題6/実行前
レンデュアル島にある図書塔にて、各自好きな本を読了せよ
一人10冊以上、合計50万文字以上
かつ、班内合計200冊 500万文字を達成すること
★現在の個人文字数→0字
★現在の個人冊数→0冊
★現在のチーム合計文字数→0文字
★現在のチーム合計冊数→0冊
■課題7/完了
物語の泉に赴き、各自ストーリードームを制作せよ
■課題8/完了
市場迷宮で各自、他者への贈り物を購入せよ
なお、市場迷宮出現場所は明かされていない
よって、まず市場迷宮の探索から始めよ
上記課題のすべてを完了したのち、速やかに学園に帰還せよ
なお、学園は常に移動している
――――――――――――――――――
霧は、課題が順調に進んでいることを確認し、みんなに視線を戻した。
24班全員が課題8を終えたことを確認すると、アルビレオが再び口を開く。
「課題の残りは、課題5の困りごと3件分解決、課題6の図書塔だ。俺は図書塔に向かうべきだと思うが、他に意見があれば考慮する」
「いいね、図書塔! どんな本が読めるのか楽しみだ。でもその前に、みんな、お腹空かない? 食事に行こうよ」
霧の提案に皆は頷き、図書塔のあるレンデュアル島に移動したら、まず昼食を摂ることになった。
さっそく『市場迷宮』から発つ準備を始めた霧たちだが、アデルが何かを思い出した様子で声を上げる。
「待って、私、『キー』の残額を清算しておく。次はいつ来れるかわからないし。キリも残額、戻してもらった方がいいわよ」
(あ、そうか。この『キー』ってプリペイドカードみたいなもんだったっけ。う~ん……綺麗だし持っていたいけど……)
そう思って『キー』を眺めながら迷っている霧に、リューエストが言った。
「キリ、入学旅行が終わったら本格的な学園生活が始まるし、多分ここに来る暇は無くなるよ。今回はあっさり『市場迷宮』を発見したけど、普通はこんなにすぐ見つからないんだ。『市場迷宮』自体の探索に、何日もかかることはざらだしね。それに、『キー』の存在は『市場迷宮』以外では不安定になるから、長期間所持することは不可能だ」
「え……不安定? どういうこと?」
霧のその質問に、トリフォンが答えた。
「いつの間にか消えてしまうんじゃ。この通り美しいもんじゃから、蒐集目的で持ち帰る者もいるが、いずれも一年以内に跡形もなく消えてしまうんじゃよ」
「えぇえ~……消えちゃうの、残念……。仕方ない……」
霧はアデルと一緒に、精算機に向かった。精算機の外観は分かりやすく、鍵のオブジェを屋根に乗せた小さな小屋の形をしている。
「あ……何この可愛い小屋。これごと欲しいわ。庭に置きたい。……庭、持ってないけど」
鍵モチーフの素敵小屋をうっとり眺めているキリに、リューエストが笑いながら声をかけてきた。
「何言ってんの、キリ。うちに広い庭あるじゃないか。今はリール叔母さんもめちゃ忙しくてほったらかしで草ボーボーだけど。リール叔母さんは絶対、好きに使っていいって言ってくれるよ」
「マジで?!」
「うんうん。まあ、学園を卒業するまでは、家に帰る暇もほとんどないだろうけどね。あ~、楽しみだなぁ、キリと過ごす学園生活。一緒のクラスになりたいなぁ。キリと離れるなんて考えられないよ、生まれてからずっと一緒にいたんだもの」
「もう、リューエスト、脱線してるわよ。さあキリ、ちゃっちゃと『キー』の清算しちゃいなさいよ、次、行くから」
「うん、わかった」
霧と一緒に付いてきたリューエストが、使い方を教えてくれた。
『キー』を精算機に入れると、「所定の位置に辞典をのせてください」というアナウンスがあり、霧はその通りに『辞典』を置く。そうしながら、ふと思った。
(あ……待てよこれ、日本円で買っていたら、お釣りに日本のお札や硬貨が出てくるところだったんじゃない?! うわっ……危なっ……)
霧は一瞬、サッと青ざめた。
「ずっと眠っている間、日本という異世界で暮らしている夢を見ていた」という設定は、霧のおかしな言動をごまかせてしまっているが、目の前で不思議な異世界の通貨が出てきたら、みんなの反応はどうなるかわからない。機械の誤作動だとごまかしても、リューエストの好奇心を考えれば、どこまでその嘘が通じるか。
霧は、やるせない溜息をついた。
(あたしが実は日本から来た異世界人で、本当の家族じゃないことを知ったら……リューエストは、今みたいに優しくしてくれないんだろうな……)
それを思うと、霧の胸は激しく痛んだ。今まで知らずにいた「家族からの愛情」は、霧の心の中にあるカラカラに乾いた泉を、豊かな水で満たしてくれた。凍てついた空気をあたため、暗い空間に光を届けてくれた。この、初めて手にしたぬくもりを、霧は手放したくなかった。
(あたしが本当の家族じゃないことを、今はまだ、話したくない。『竜辞典』を守るためにも……。できればずっと、キリ・ダリアリーデレとして、このククリコ・アーキペラゴで生きたい)
霧はこのとき生まれてはじめて、はっきりと、「生きたい」と願った。
それを自覚した途端、霧の目に涙があふれる。霧はみんなに気付かれないようサッとその涙を拭うと、元気よく入学旅行の続きに戻って行った。
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