116 / 175
三章 入学旅行三日目
3-09b 異世界市場の買い物を終えて 2
しおりを挟む
「次の課題に移りたい。各自、課題8を確かに完了したか確認してくれ」
滅多に発言することのないアルビレオの言葉に、24班の面々は緊張感を取り戻し、各自『辞典』を開いた。
入学旅行に関するページを開いた霧もまた、改めて進捗を確認する。
――――――――――――――――――
魔法士学園 入学旅行 第1540年度
【第24班 6名 以下50音順】
1.アデル・ダリアリーデレ
2.アルビレオ・ファルステーロ
3.キリ・ダリアリーデレ
4.トリフォン・ワイズマン
5.リューエスト・ダリアリーデレ
6.リリエンヌ・ラエラ
■課題1/完了
第24班のメンバー全員と合流せよ
以降、上記ツアーメイトと協力しあうこと
なお、初めてツアーメイトと半径2メートル以内に接近すると、辞典が輝いて知らせてくれる
■課題2/完了
セセラム競技場で辞典競技を見学せよ
■課題3/完了
セセラム競技場でツアーメイトと表現バトルを体験せよ
■課題4/完了
セセラム競技場で他の班と表現バトル(団体戦)を体験せよ
なお、対戦相手となる班は競技場先着順に決定される
■課題5/ 2件完了・残り3件
ツアーメイトと協力して、人々の困り事を5件解決せよ
■課題6/実行前
レンデュアル島にある図書塔にて、各自好きな本を読了せよ
一人10冊以上、合計50万文字以上
かつ、班内合計200冊 500万文字を達成すること
★現在の個人文字数→0字
★現在の個人冊数→0冊
★現在のチーム合計文字数→0文字
★現在のチーム合計冊数→0冊
■課題7/完了
物語の泉に赴き、各自ストーリードームを制作せよ
■課題8/完了
市場迷宮で各自、他者への贈り物を購入せよ
なお、市場迷宮出現場所は明かされていない
よって、まず市場迷宮の探索から始めよ
上記課題のすべてを完了したのち、速やかに学園に帰還せよ
なお、学園は常に移動している
――――――――――――――――――
霧は、課題が順調に進んでいることを確認し、みんなに視線を戻した。
24班全員が課題8を終えたことを確認すると、アルビレオが再び口を開く。
「課題の残りは、課題5の困りごと3件分解決、課題6の図書塔だ。俺は図書塔に向かうべきだと思うが、他に意見があれば考慮する」
「いいね、図書塔! どんな本が読めるのか楽しみだ。でもその前に、みんな、お腹空かない? 食事に行こうよ」
霧の提案に皆は頷き、図書塔のあるレンデュアル島に移動したら、まず昼食を摂ることになった。
さっそく『市場迷宮』から発つ準備を始めた霧たちだが、アデルが何かを思い出した様子で声を上げる。
「待って、私、『キー』の残額を清算しておく。次はいつ来れるかわからないし。キリも残額、戻してもらった方がいいわよ」
(あ、そうか。この『キー』ってプリペイドカードみたいなもんだったっけ。う~ん……綺麗だし持っていたいけど……)
そう思って『キー』を眺めながら迷っている霧に、リューエストが言った。
「キリ、入学旅行が終わったら本格的な学園生活が始まるし、多分ここに来る暇は無くなるよ。今回はあっさり『市場迷宮』を発見したけど、普通はこんなにすぐ見つからないんだ。『市場迷宮』自体の探索に、何日もかかることはざらだしね。それに、『キー』の存在は『市場迷宮』以外では不安定になるから、長期間所持することは不可能だ」
「え……不安定? どういうこと?」
霧のその質問に、トリフォンが答えた。
「いつの間にか消えてしまうんじゃ。この通り美しいもんじゃから、蒐集目的で持ち帰る者もいるが、いずれも一年以内に跡形もなく消えてしまうんじゃよ」
「えぇえ~……消えちゃうの、残念……。仕方ない……」
霧はアデルと一緒に、精算機に向かった。精算機の外観は分かりやすく、鍵のオブジェを屋根に乗せた小さな小屋の形をしている。
「あ……何この可愛い小屋。これごと欲しいわ。庭に置きたい。……庭、持ってないけど」
鍵モチーフの素敵小屋をうっとり眺めているキリに、リューエストが笑いながら声をかけてきた。
「何言ってんの、キリ。うちに広い庭あるじゃないか。今はリール叔母さんもめちゃ忙しくてほったらかしで草ボーボーだけど。リール叔母さんは絶対、好きに使っていいって言ってくれるよ」
「マジで?!」
「うんうん。まあ、学園を卒業するまでは、家に帰る暇もほとんどないだろうけどね。あ~、楽しみだなぁ、キリと過ごす学園生活。一緒のクラスになりたいなぁ。キリと離れるなんて考えられないよ、生まれてからずっと一緒にいたんだもの」
「もう、リューエスト、脱線してるわよ。さあキリ、ちゃっちゃと『キー』の清算しちゃいなさいよ、次、行くから」
「うん、わかった」
霧と一緒に付いてきたリューエストが、使い方を教えてくれた。
『キー』を精算機に入れると、「所定の位置に辞典をのせてください」というアナウンスがあり、霧はその通りに『辞典』を置く。そうしながら、ふと思った。
(あ……待てよこれ、日本円で買っていたら、お釣りに日本のお札や硬貨が出てくるところだったんじゃない?! うわっ……危なっ……)
霧は一瞬、サッと青ざめた。
「ずっと眠っている間、日本という異世界で暮らしている夢を見ていた」という設定は、霧のおかしな言動をごまかせてしまっているが、目の前で不思議な異世界の通貨が出てきたら、みんなの反応はどうなるかわからない。機械の誤作動だとごまかしても、リューエストの好奇心を考えれば、どこまでその嘘が通じるか。
霧は、やるせない溜息をついた。
(あたしが実は日本から来た異世界人で、本当の家族じゃないことを知ったら……リューエストは、今みたいに優しくしてくれないんだろうな……)
それを思うと、霧の胸は激しく痛んだ。今まで知らずにいた「家族からの愛情」は、霧の心の中にあるカラカラに乾いた泉を、豊かな水で満たしてくれた。凍てついた空気をあたため、暗い空間に光を届けてくれた。この、初めて手にしたぬくもりを、霧は手放したくなかった。
(あたしが本当の家族じゃないことを、今はまだ、話したくない。『竜辞典』を守るためにも……。できればずっと、キリ・ダリアリーデレとして、このククリコ・アーキペラゴで生きたい)
霧はこのとき生まれてはじめて、はっきりと、「生きたい」と願った。
それを自覚した途端、霧の目に涙があふれる。霧はみんなに気付かれないようサッとその涙を拭うと、元気よく入学旅行の続きに戻って行った。
滅多に発言することのないアルビレオの言葉に、24班の面々は緊張感を取り戻し、各自『辞典』を開いた。
入学旅行に関するページを開いた霧もまた、改めて進捗を確認する。
――――――――――――――――――
魔法士学園 入学旅行 第1540年度
【第24班 6名 以下50音順】
1.アデル・ダリアリーデレ
2.アルビレオ・ファルステーロ
3.キリ・ダリアリーデレ
4.トリフォン・ワイズマン
5.リューエスト・ダリアリーデレ
6.リリエンヌ・ラエラ
■課題1/完了
第24班のメンバー全員と合流せよ
以降、上記ツアーメイトと協力しあうこと
なお、初めてツアーメイトと半径2メートル以内に接近すると、辞典が輝いて知らせてくれる
■課題2/完了
セセラム競技場で辞典競技を見学せよ
■課題3/完了
セセラム競技場でツアーメイトと表現バトルを体験せよ
■課題4/完了
セセラム競技場で他の班と表現バトル(団体戦)を体験せよ
なお、対戦相手となる班は競技場先着順に決定される
■課題5/ 2件完了・残り3件
ツアーメイトと協力して、人々の困り事を5件解決せよ
■課題6/実行前
レンデュアル島にある図書塔にて、各自好きな本を読了せよ
一人10冊以上、合計50万文字以上
かつ、班内合計200冊 500万文字を達成すること
★現在の個人文字数→0字
★現在の個人冊数→0冊
★現在のチーム合計文字数→0文字
★現在のチーム合計冊数→0冊
■課題7/完了
物語の泉に赴き、各自ストーリードームを制作せよ
■課題8/完了
市場迷宮で各自、他者への贈り物を購入せよ
なお、市場迷宮出現場所は明かされていない
よって、まず市場迷宮の探索から始めよ
上記課題のすべてを完了したのち、速やかに学園に帰還せよ
なお、学園は常に移動している
――――――――――――――――――
霧は、課題が順調に進んでいることを確認し、みんなに視線を戻した。
24班全員が課題8を終えたことを確認すると、アルビレオが再び口を開く。
「課題の残りは、課題5の困りごと3件分解決、課題6の図書塔だ。俺は図書塔に向かうべきだと思うが、他に意見があれば考慮する」
「いいね、図書塔! どんな本が読めるのか楽しみだ。でもその前に、みんな、お腹空かない? 食事に行こうよ」
霧の提案に皆は頷き、図書塔のあるレンデュアル島に移動したら、まず昼食を摂ることになった。
さっそく『市場迷宮』から発つ準備を始めた霧たちだが、アデルが何かを思い出した様子で声を上げる。
「待って、私、『キー』の残額を清算しておく。次はいつ来れるかわからないし。キリも残額、戻してもらった方がいいわよ」
(あ、そうか。この『キー』ってプリペイドカードみたいなもんだったっけ。う~ん……綺麗だし持っていたいけど……)
そう思って『キー』を眺めながら迷っている霧に、リューエストが言った。
「キリ、入学旅行が終わったら本格的な学園生活が始まるし、多分ここに来る暇は無くなるよ。今回はあっさり『市場迷宮』を発見したけど、普通はこんなにすぐ見つからないんだ。『市場迷宮』自体の探索に、何日もかかることはざらだしね。それに、『キー』の存在は『市場迷宮』以外では不安定になるから、長期間所持することは不可能だ」
「え……不安定? どういうこと?」
霧のその質問に、トリフォンが答えた。
「いつの間にか消えてしまうんじゃ。この通り美しいもんじゃから、蒐集目的で持ち帰る者もいるが、いずれも一年以内に跡形もなく消えてしまうんじゃよ」
「えぇえ~……消えちゃうの、残念……。仕方ない……」
霧はアデルと一緒に、精算機に向かった。精算機の外観は分かりやすく、鍵のオブジェを屋根に乗せた小さな小屋の形をしている。
「あ……何この可愛い小屋。これごと欲しいわ。庭に置きたい。……庭、持ってないけど」
鍵モチーフの素敵小屋をうっとり眺めているキリに、リューエストが笑いながら声をかけてきた。
「何言ってんの、キリ。うちに広い庭あるじゃないか。今はリール叔母さんもめちゃ忙しくてほったらかしで草ボーボーだけど。リール叔母さんは絶対、好きに使っていいって言ってくれるよ」
「マジで?!」
「うんうん。まあ、学園を卒業するまでは、家に帰る暇もほとんどないだろうけどね。あ~、楽しみだなぁ、キリと過ごす学園生活。一緒のクラスになりたいなぁ。キリと離れるなんて考えられないよ、生まれてからずっと一緒にいたんだもの」
「もう、リューエスト、脱線してるわよ。さあキリ、ちゃっちゃと『キー』の清算しちゃいなさいよ、次、行くから」
「うん、わかった」
霧と一緒に付いてきたリューエストが、使い方を教えてくれた。
『キー』を精算機に入れると、「所定の位置に辞典をのせてください」というアナウンスがあり、霧はその通りに『辞典』を置く。そうしながら、ふと思った。
(あ……待てよこれ、日本円で買っていたら、お釣りに日本のお札や硬貨が出てくるところだったんじゃない?! うわっ……危なっ……)
霧は一瞬、サッと青ざめた。
「ずっと眠っている間、日本という異世界で暮らしている夢を見ていた」という設定は、霧のおかしな言動をごまかせてしまっているが、目の前で不思議な異世界の通貨が出てきたら、みんなの反応はどうなるかわからない。機械の誤作動だとごまかしても、リューエストの好奇心を考えれば、どこまでその嘘が通じるか。
霧は、やるせない溜息をついた。
(あたしが実は日本から来た異世界人で、本当の家族じゃないことを知ったら……リューエストは、今みたいに優しくしてくれないんだろうな……)
それを思うと、霧の胸は激しく痛んだ。今まで知らずにいた「家族からの愛情」は、霧の心の中にあるカラカラに乾いた泉を、豊かな水で満たしてくれた。凍てついた空気をあたため、暗い空間に光を届けてくれた。この、初めて手にしたぬくもりを、霧は手放したくなかった。
(あたしが本当の家族じゃないことを、今はまだ、話したくない。『竜辞典』を守るためにも……。できればずっと、キリ・ダリアリーデレとして、このククリコ・アーキペラゴで生きたい)
霧はこのとき生まれてはじめて、はっきりと、「生きたい」と願った。
それを自覚した途端、霧の目に涙があふれる。霧はみんなに気付かれないようサッとその涙を拭うと、元気よく入学旅行の続きに戻って行った。
1
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説

異世界で泣いていた僕は、戻って来てヒーロー活動始めます。
まったりー
ファンタジー
8歳の頃、勇者召喚で異世界に飛んだ主人公、神楽啓斗(かぐらけいと)は、1年間を毎日泣いて過ごしていました。
そんな彼を可哀そうと思ったのは、その世界で女神と呼ばれている女性で、使い魔を通して色々力添えをして行き、段々と元気になった神楽啓斗(かぐらけいと)は、異世界で生きる訓練を始めます。
ですが、子供は親元に戻るべきと女神様は力を使い、現代に戻してくれたのです。
戻って来た現代では、女神様の使い魔も助けも行われ続け、神楽啓斗(かぐらけいと)は異世界の力を使い、困ってる人を助けるヒーロー活動を始めます。
普通の平和な世界だと思っていた神楽啓斗(かぐらけいと)でしたが、世界には裏の顔が存在し、戦いの中に身を置く事になって行く、そんなお話です。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394


ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる