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三章 入学旅行三日目
3-06a 不思議楽しいショッピング 1
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霧はゆっくり階段を下りながら、リール叔母さんのことを思い浮かべた。
(リール叔母さんから辞典ホルダー、もらったし……入学旅行に出発するとき、色々心配かけたしなぁ……、うん、一番に探すのは、リール叔母さんへの贈り物だ。リューエストはそのあとね。何にしようかなぁ……。あんまり仰々しくなくて、邪魔にならないものがいいよね? うん……それなら……リール叔母さんも、あたしと同じようにいつも髪を一つにくくってるし、ヘアゴムとかにしようかな。実用的かつちょっとオシャレなのがいいなぁ)
そこまで考えた時、何かおかしな感覚がおこり、パッと回りの景色が変わった。
「……っ!」
霧は広い通路に立っていた。通路の左側には店がズラッと並び、右側は吹き抜け部分に接している。柱のある吹き抜け部分を取り囲むように続く通路は、緩やかに弧を描き、ぐるりと一周していた。
「はあ~……、何階ぐらいだろ、ここ……」
5~6歩ほど進んだ前方には、下に続く階段と上に続く階段があり、吹き抜け部分の中央には柱がそびえている。柱と通路は橋で繋がっていて、自由に行き来ができるようになっていた。霧が吹き抜け部分の傍まで行って上を見上げると、そびえる柱の向こう側にチラリと空が見え、下を見下ろすと、何階層も連なるショッピングモールが、ひたすら続いていた。
「ほほう……」
初めて見る不思議な景色を、霧はしばらく感心して眺めていた。
やがて課題のことを思い出し、目の前に並ぶ店を外から物色し始める。ショーウインドウやガラス窓から覗き見る店内の品々は、見たことも無い珍しいものばかりだ。
(はあ~、すごいなぁ。どれに入ろうか。どの店も良さげ。お……綺麗な扉。看板がある。何々……)
霧は、『高純度幸運グッズ店 一条の光』という看板を掲げた店に興味を持ち、その店に入ることにした。
店内はとても明るく、魅力的な装飾品であふれている。
5メートル四方ぐらいのこじんまりとした店内には他に客も無く、霧がホッとしたことに、店員は普通に感じの良い人間のお姉さんだった。彼女にプレゼント用の髪留めを探していることを告げると、すぐにおすすめ商品の棚に連れて行ってくれた。
「こちら、美しい発色が人気のヘアゴムです。オシャレな飾り付きと、シンプルな飾り無しとありまして、36色展開の豊富なカラーが選べます。しかも、この商品、当店自慢の特殊効果が付いているんです」
「ほ、ほう……?! 特殊効果って、ど、どんな?」
「なんと!」
「なんと?!」
「身に着けていると一日一回、ささやかな幸運が訪れるんです!」
「こ、幸運に?! え、すご!! どど、どんな幸運?!」
霧が食いつくと、お姉さんはにっこり笑って説明してくれた。
ささやかな幸運とは例えば、失くしたと思っていたものが見つかったり、会いたいと思っていた人と偶然再会したり、欲しい情報が速やかに手に入ったり、意中の人と会話がはずんだり、ということが起こるのだという。そしてその幸運は、パッケージを開いてから一年間、毎日一回必ず訪れる、とのこと。
本当かなぁ、と思いつつも、霧は面白いな、とも思った。日本での「開運グッズ」なら信憑性も疑うが、ここは不思議な異世界の市場だ。もしかしたら本当に、そんな効果が付随しているのかもしれない、と。
(そうだ、自分用も買って、効果を試してみよう。うん、それがいい)
霧は購入する気になってきたが、よくわからないのは価格設定だ。プライスカードと思える札に何やら数字が表示してあるが、単位がよくわからない。明らかに円ではないし、ククリコ・アーキペラゴにおいてはそもそも通貨というものが廃止されているので、どうすれば購入できるのか不明だ。
お姉さんに訊いてみると、まず『市場迷宮』専用の『キー』を入手する必要があるという。どうやらそれは、一定額の買い物が可能になるプリペイドカードのようなものらしい。ざっと説明を受けたのち、霧は店内隅に設置してある『キー』入手用の自動販売機エリアに立ってみた。途端に、パッとホログラムが浮き上がり、同時に霧の周囲にプライバシーを守るための幕が現れる。
(へえ……セキュリティも万全か。すごいね、『市場迷宮』!)
霧は感心しながら、目の前に現れたホログラムを見つめた。5種類ほどの『キー』が表示され、選択を促している。その外観はいずれも、物理的な鍵の形をしていた。しかも非常に美しい装飾がほどこされている。
(何々……おすすめ、と書いてあるこの大きな『キー』は、客の購入平均額におまけ分をプラスしたもの……お得、だって。ほほう。んで、こっちは……無駄遣い防止『キー』……。はは、少額の買い物用か。それで……この七色に輝くやたら派手な『キー』は、なんだ? 特別豪華なお買い物に、て書いてある。この派手な『キー』だけ支払方法に制限有、て書いてあるなぁ……。う~ん、お姉さんはさっき、『おすすめキー』があればこの店内の小物商品を20個くらい買える、って言ってたし……。よし、おすすめでいいか! ポチッとな!)
ホログラムに「お客様が可能なお支払方法を検索しています」とあり、やがて支払い方法の一覧が表示された。
「えっ……?!」
支払い方法一覧には、「辞典/ククリコ・アーキペラゴ」の他に、「日本円/地球」とある。
(リール叔母さんから辞典ホルダー、もらったし……入学旅行に出発するとき、色々心配かけたしなぁ……、うん、一番に探すのは、リール叔母さんへの贈り物だ。リューエストはそのあとね。何にしようかなぁ……。あんまり仰々しくなくて、邪魔にならないものがいいよね? うん……それなら……リール叔母さんも、あたしと同じようにいつも髪を一つにくくってるし、ヘアゴムとかにしようかな。実用的かつちょっとオシャレなのがいいなぁ)
そこまで考えた時、何かおかしな感覚がおこり、パッと回りの景色が変わった。
「……っ!」
霧は広い通路に立っていた。通路の左側には店がズラッと並び、右側は吹き抜け部分に接している。柱のある吹き抜け部分を取り囲むように続く通路は、緩やかに弧を描き、ぐるりと一周していた。
「はあ~……、何階ぐらいだろ、ここ……」
5~6歩ほど進んだ前方には、下に続く階段と上に続く階段があり、吹き抜け部分の中央には柱がそびえている。柱と通路は橋で繋がっていて、自由に行き来ができるようになっていた。霧が吹き抜け部分の傍まで行って上を見上げると、そびえる柱の向こう側にチラリと空が見え、下を見下ろすと、何階層も連なるショッピングモールが、ひたすら続いていた。
「ほほう……」
初めて見る不思議な景色を、霧はしばらく感心して眺めていた。
やがて課題のことを思い出し、目の前に並ぶ店を外から物色し始める。ショーウインドウやガラス窓から覗き見る店内の品々は、見たことも無い珍しいものばかりだ。
(はあ~、すごいなぁ。どれに入ろうか。どの店も良さげ。お……綺麗な扉。看板がある。何々……)
霧は、『高純度幸運グッズ店 一条の光』という看板を掲げた店に興味を持ち、その店に入ることにした。
店内はとても明るく、魅力的な装飾品であふれている。
5メートル四方ぐらいのこじんまりとした店内には他に客も無く、霧がホッとしたことに、店員は普通に感じの良い人間のお姉さんだった。彼女にプレゼント用の髪留めを探していることを告げると、すぐにおすすめ商品の棚に連れて行ってくれた。
「こちら、美しい発色が人気のヘアゴムです。オシャレな飾り付きと、シンプルな飾り無しとありまして、36色展開の豊富なカラーが選べます。しかも、この商品、当店自慢の特殊効果が付いているんです」
「ほ、ほう……?! 特殊効果って、ど、どんな?」
「なんと!」
「なんと?!」
「身に着けていると一日一回、ささやかな幸運が訪れるんです!」
「こ、幸運に?! え、すご!! どど、どんな幸運?!」
霧が食いつくと、お姉さんはにっこり笑って説明してくれた。
ささやかな幸運とは例えば、失くしたと思っていたものが見つかったり、会いたいと思っていた人と偶然再会したり、欲しい情報が速やかに手に入ったり、意中の人と会話がはずんだり、ということが起こるのだという。そしてその幸運は、パッケージを開いてから一年間、毎日一回必ず訪れる、とのこと。
本当かなぁ、と思いつつも、霧は面白いな、とも思った。日本での「開運グッズ」なら信憑性も疑うが、ここは不思議な異世界の市場だ。もしかしたら本当に、そんな効果が付随しているのかもしれない、と。
(そうだ、自分用も買って、効果を試してみよう。うん、それがいい)
霧は購入する気になってきたが、よくわからないのは価格設定だ。プライスカードと思える札に何やら数字が表示してあるが、単位がよくわからない。明らかに円ではないし、ククリコ・アーキペラゴにおいてはそもそも通貨というものが廃止されているので、どうすれば購入できるのか不明だ。
お姉さんに訊いてみると、まず『市場迷宮』専用の『キー』を入手する必要があるという。どうやらそれは、一定額の買い物が可能になるプリペイドカードのようなものらしい。ざっと説明を受けたのち、霧は店内隅に設置してある『キー』入手用の自動販売機エリアに立ってみた。途端に、パッとホログラムが浮き上がり、同時に霧の周囲にプライバシーを守るための幕が現れる。
(へえ……セキュリティも万全か。すごいね、『市場迷宮』!)
霧は感心しながら、目の前に現れたホログラムを見つめた。5種類ほどの『キー』が表示され、選択を促している。その外観はいずれも、物理的な鍵の形をしていた。しかも非常に美しい装飾がほどこされている。
(何々……おすすめ、と書いてあるこの大きな『キー』は、客の購入平均額におまけ分をプラスしたもの……お得、だって。ほほう。んで、こっちは……無駄遣い防止『キー』……。はは、少額の買い物用か。それで……この七色に輝くやたら派手な『キー』は、なんだ? 特別豪華なお買い物に、て書いてある。この派手な『キー』だけ支払方法に制限有、て書いてあるなぁ……。う~ん、お姉さんはさっき、『おすすめキー』があればこの店内の小物商品を20個くらい買える、って言ってたし……。よし、おすすめでいいか! ポチッとな!)
ホログラムに「お客様が可能なお支払方法を検索しています」とあり、やがて支払い方法の一覧が表示された。
「えっ……?!」
支払い方法一覧には、「辞典/ククリコ・アーキペラゴ」の他に、「日本円/地球」とある。
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