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三章 入学旅行三日目
3-04b 風変わりな従姉、キリ・ダリアリーデレ
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「あのときは嬉しかったなぁ……キリが僕に向かって言った、初めてのお願い事……」
「なんて言ったの?」
興味津々という感じで食いついてきたアデルに、リューエストが破顔しながら即答した。
「『あたし、入学旅行に行きたい!』」
ドッと、キリ以外の面々が、顔を見合わせ笑い出す。一人複雑な苦笑いを浮かべるキリに、アデルとリリエンヌが同時に言った。
「キリらしい。魔法士学園に入りたい、じゃなくて入学旅行に行きたい、なんだ。あははは!」
「ほほえましいですわ。……あ、笑ったりしてごめんなさい、キリ。茶化しているわけではないの」
「うん、まあ、全然、いいんだよ、うん。気にしないでよ。笑い飛ばしてもらった方が、こっちとしても気が楽だしね。はあ……何も覚えてないと思ったら、そうなんだ、へえ……。ふうん……。知らなかったなぁ……。本人も知らない裏設定?なんてものが、あったりして? ハハハ……」
完全に他人事、と言う雰囲気で、何やら意味不明なことをブツブツ言っているキリを、アデルはそっと観察していた。
昨日と同様、全身黒い服に身を包んでいるこの風変わりな従姉は、背中に少しかかるぐらいの長さの黒い髪を、首の後ろで無造作にくくっている。
黙っていると睨んでいるような印象を与える吊り目の三白眼――その瞳もまた、髪同様に黒い。
黒い髪に、黒い瞳。この組み合わせは珍しく、かつて世界を救った高名な辞典魔法士ダリアも、黒い髪と黒い瞳を持っていたらしい。そのため、彼女にちなんで、黒い髪と瞳を持って生まれた女子は「ダリアの愛し子」と呼ばれて一部の人たちの崇敬の的となっている。
アデルはキリの持つ「黒」を見て、心の中でやるせない溜息をついた。同じように珍しいとされる、白い髪・赤い瞳のアデルだが、赤い『辞典』の例があるせいか、赤は生まれ持つには歓迎されない色だ。
(別に……気にしてなんて、いないけど。両親がくれた色だし、この瞳、自分でも綺麗だと思うし……)
アデルの実の両親も養父であるチェカも、また、幼なじみのリリエンヌも、アデルの瞳を「とても美しい。素敵」と心の底からほめてくれるため、アデルは自分の赤い瞳を気に入ってはいるが、英雄ダリアへの憧れから、キリの黒い瞳をどうしても羨ましいと感じてしまう。
羨ましいといえば、身長もだ――と、アデルはキリの全身を眺めた。スレンダーなその体には女性らしい丸みはあまりなく、180㎝はありそうな高身長。傍らにいるリューエストもまた背が高く、キリと同じくらいだ。二人を見てアデルは養父チェカのことを思い出した。
(お父さんも背が高かった……。リール先生も高いし、ダリアの一族は、みんな背が高い……。そういう、遺伝なんだろうな……)
そう思ったアデルは、寂しい気持ちになった。アデルの身長は150㎝。
16歳になった彼女は、もうこれ以上身長は伸びないだろうな、と溜息をつく。
そのとき。
「ねぇ、あれ、何? 古城学園みたいに空に浮かんでるけど……」
キリが海の向こう、遥か上空を指さして、みんなに問いかける。
アデルたちは驚きに息を呑んだのち、一斉に叫んだ。
「「「 市場迷宮!! 」」」
「なんて言ったの?」
興味津々という感じで食いついてきたアデルに、リューエストが破顔しながら即答した。
「『あたし、入学旅行に行きたい!』」
ドッと、キリ以外の面々が、顔を見合わせ笑い出す。一人複雑な苦笑いを浮かべるキリに、アデルとリリエンヌが同時に言った。
「キリらしい。魔法士学園に入りたい、じゃなくて入学旅行に行きたい、なんだ。あははは!」
「ほほえましいですわ。……あ、笑ったりしてごめんなさい、キリ。茶化しているわけではないの」
「うん、まあ、全然、いいんだよ、うん。気にしないでよ。笑い飛ばしてもらった方が、こっちとしても気が楽だしね。はあ……何も覚えてないと思ったら、そうなんだ、へえ……。ふうん……。知らなかったなぁ……。本人も知らない裏設定?なんてものが、あったりして? ハハハ……」
完全に他人事、と言う雰囲気で、何やら意味不明なことをブツブツ言っているキリを、アデルはそっと観察していた。
昨日と同様、全身黒い服に身を包んでいるこの風変わりな従姉は、背中に少しかかるぐらいの長さの黒い髪を、首の後ろで無造作にくくっている。
黙っていると睨んでいるような印象を与える吊り目の三白眼――その瞳もまた、髪同様に黒い。
黒い髪に、黒い瞳。この組み合わせは珍しく、かつて世界を救った高名な辞典魔法士ダリアも、黒い髪と黒い瞳を持っていたらしい。そのため、彼女にちなんで、黒い髪と瞳を持って生まれた女子は「ダリアの愛し子」と呼ばれて一部の人たちの崇敬の的となっている。
アデルはキリの持つ「黒」を見て、心の中でやるせない溜息をついた。同じように珍しいとされる、白い髪・赤い瞳のアデルだが、赤い『辞典』の例があるせいか、赤は生まれ持つには歓迎されない色だ。
(別に……気にしてなんて、いないけど。両親がくれた色だし、この瞳、自分でも綺麗だと思うし……)
アデルの実の両親も養父であるチェカも、また、幼なじみのリリエンヌも、アデルの瞳を「とても美しい。素敵」と心の底からほめてくれるため、アデルは自分の赤い瞳を気に入ってはいるが、英雄ダリアへの憧れから、キリの黒い瞳をどうしても羨ましいと感じてしまう。
羨ましいといえば、身長もだ――と、アデルはキリの全身を眺めた。スレンダーなその体には女性らしい丸みはあまりなく、180㎝はありそうな高身長。傍らにいるリューエストもまた背が高く、キリと同じくらいだ。二人を見てアデルは養父チェカのことを思い出した。
(お父さんも背が高かった……。リール先生も高いし、ダリアの一族は、みんな背が高い……。そういう、遺伝なんだろうな……)
そう思ったアデルは、寂しい気持ちになった。アデルの身長は150㎝。
16歳になった彼女は、もうこれ以上身長は伸びないだろうな、と溜息をつく。
そのとき。
「ねぇ、あれ、何? 古城学園みたいに空に浮かんでるけど……」
キリが海の向こう、遥か上空を指さして、みんなに問いかける。
アデルたちは驚きに息を呑んだのち、一斉に叫んだ。
「「「 市場迷宮!! 」」」
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