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二章 入学旅行二日目
2-23b 3年前、チェカに何が起きたのか――事の顛末と敵の正体 2
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突然、符号した。――ソイフラージュが警告してきた、危険な人物、リリエンヌのルーツが。
学園内に潜んでいる、危険な敵。
秘められた、リリエンヌのルーツ。
そっくりな美貌を持つ、リリエンヌとシルヴィア。
リリエンヌ自身も知らない、彼女の遺伝子上の母親。
(シルヴィア先生の、ことだったのか……!)
霧はそうに違いない、と複雑な気持ちで息を詰まらせた。
きっとリリエンヌの育ての親は、彼女を実の子として、慈しんで育てたのだろう。リリエンヌを見ていれば、それがわかる。人柄の良い人物が、リリエンヌにありったけの愛情を注いで、大切に育てたのだ、と。
(何か、きっと事情があるんだろうな……。これは、絶対胸の奥にしまっておかなきゃいけない事実だ。うん。絶対、誰にも言わない)
そう決意しながら、霧は震える指先でページをめくり、物語の続きに立ち戻った。
そこから先は、怒涛の展開だった。
危機に目覚めた『竜辞典』の主たちは、すぐさま状況把握に乗り出し、あらゆる行動パターンにより導き出される結果を、瞬時に割り出し検討した。それにより、シルヴィアと闘うリスクより、自身とチェカを守るため、今は逃げる道を選ぶ。
しかし、ただ目の前から逃亡するだけでは、意味がない。
根本的な解決のためには、それでは足りない。シルヴィアが『竜辞典』を手に取れたのは、『竜辞典』の唯一の弱点を、知っていたからだ。
その弱点とはすなわち、「血肉を具えた主」の不在。
『竜辞典』は『辞典妖精』が本来繋がるはずの、「血肉を具えた主」を持たず、その場所が空席になっている。その空席に、何らかの形で入り込まれてしまったのだ。それは失われたはずの知識であり、秘術。なぜ、シルヴィアが知っているのかは定かではない。
今は原因究明よりも、シルヴィアの支配から逃れることが最優先――『竜辞典』の主たちは、そう判断し、速やかにそれを実行に移す。
逃亡先に最も安全な場所は、略奪者が容易く追ってこれない場所。
そこは――日本だった。
言語双生界として二つの世界をつないでいる道は、本来なら人の力では渡れない。計り知れない力を持つ竜の力がそれを可能としたが、準備不足で逃避行に至ったチェカの肉体と精神は、世界を渡るときにダメージを受けてしまった。
そうして日本で意識を失い倒れているところを保護され、チェカは記憶を手繰り寄せながら、自身ですら初めは「空想物語」だと思っていた『ククリコ・アーキペラゴ~空飛ぶ古城学園と魔法士たち~』を書き始める。
やがて徐々に記憶を取り戻していったチェカは、自身の使命を思い出し、次なる行動に出た。
目覚めた『竜辞典』の主――伝説の辞典魔法士たちと様々な会話を行ったチェカは、『竜辞典』をシルヴィアから守るためには、『竜辞典』と適合する新たな主を見つけるしかない、ということを知る。そのために、チェカは『竜辞典』を普通の国語辞典に偽装し、書店に置いたのだ。そして『竜辞典』と適合できる誰かが現れるまで、定期的に書店を変え、持ち主となり得る者を探し続けた。
8巻の最後で、チェカは『竜辞典』の居場所を移し替えながら、独り言を漏らす。
「今度こそ。現れてくれ。『竜辞典』の新たな主よ。読者諸君、この物語を読んだなら、探してほしい。君こそ、『竜辞典』にふさわしい者かもしれない。そして三冊の『竜辞典』がすべてククリコ・アーキペラゴに戻ったら、どうか俺を迎えに来てほしい。俺はこの日本の地で、待っている――竜の迎えを」
霧はごくりと喉を鳴らした。ついに、『辞典妖精』が言っていた、チェカのメッセージの部分に辿り着いたのだ。いったい彼は、どんな重要なことを伝えようとしているのだろうか。霧は夢中で文字を追った。
「『竜辞典』の新たな主として、ククリコ・アーキペラゴに戻った者よ、誰か一人でもいい、この8巻を読んでいることを切に願う」
(読んでるよ、チェカ。今、あなたのメッセージに辿り着いた。どんなことでも、力になる。安心して)
霧は真剣にそう思いながら、チェカからのメッセージを読み進めた。
学園内に潜んでいる、危険な敵。
秘められた、リリエンヌのルーツ。
そっくりな美貌を持つ、リリエンヌとシルヴィア。
リリエンヌ自身も知らない、彼女の遺伝子上の母親。
(シルヴィア先生の、ことだったのか……!)
霧はそうに違いない、と複雑な気持ちで息を詰まらせた。
きっとリリエンヌの育ての親は、彼女を実の子として、慈しんで育てたのだろう。リリエンヌを見ていれば、それがわかる。人柄の良い人物が、リリエンヌにありったけの愛情を注いで、大切に育てたのだ、と。
(何か、きっと事情があるんだろうな……。これは、絶対胸の奥にしまっておかなきゃいけない事実だ。うん。絶対、誰にも言わない)
そう決意しながら、霧は震える指先でページをめくり、物語の続きに立ち戻った。
そこから先は、怒涛の展開だった。
危機に目覚めた『竜辞典』の主たちは、すぐさま状況把握に乗り出し、あらゆる行動パターンにより導き出される結果を、瞬時に割り出し検討した。それにより、シルヴィアと闘うリスクより、自身とチェカを守るため、今は逃げる道を選ぶ。
しかし、ただ目の前から逃亡するだけでは、意味がない。
根本的な解決のためには、それでは足りない。シルヴィアが『竜辞典』を手に取れたのは、『竜辞典』の唯一の弱点を、知っていたからだ。
その弱点とはすなわち、「血肉を具えた主」の不在。
『竜辞典』は『辞典妖精』が本来繋がるはずの、「血肉を具えた主」を持たず、その場所が空席になっている。その空席に、何らかの形で入り込まれてしまったのだ。それは失われたはずの知識であり、秘術。なぜ、シルヴィアが知っているのかは定かではない。
今は原因究明よりも、シルヴィアの支配から逃れることが最優先――『竜辞典』の主たちは、そう判断し、速やかにそれを実行に移す。
逃亡先に最も安全な場所は、略奪者が容易く追ってこれない場所。
そこは――日本だった。
言語双生界として二つの世界をつないでいる道は、本来なら人の力では渡れない。計り知れない力を持つ竜の力がそれを可能としたが、準備不足で逃避行に至ったチェカの肉体と精神は、世界を渡るときにダメージを受けてしまった。
そうして日本で意識を失い倒れているところを保護され、チェカは記憶を手繰り寄せながら、自身ですら初めは「空想物語」だと思っていた『ククリコ・アーキペラゴ~空飛ぶ古城学園と魔法士たち~』を書き始める。
やがて徐々に記憶を取り戻していったチェカは、自身の使命を思い出し、次なる行動に出た。
目覚めた『竜辞典』の主――伝説の辞典魔法士たちと様々な会話を行ったチェカは、『竜辞典』をシルヴィアから守るためには、『竜辞典』と適合する新たな主を見つけるしかない、ということを知る。そのために、チェカは『竜辞典』を普通の国語辞典に偽装し、書店に置いたのだ。そして『竜辞典』と適合できる誰かが現れるまで、定期的に書店を変え、持ち主となり得る者を探し続けた。
8巻の最後で、チェカは『竜辞典』の居場所を移し替えながら、独り言を漏らす。
「今度こそ。現れてくれ。『竜辞典』の新たな主よ。読者諸君、この物語を読んだなら、探してほしい。君こそ、『竜辞典』にふさわしい者かもしれない。そして三冊の『竜辞典』がすべてククリコ・アーキペラゴに戻ったら、どうか俺を迎えに来てほしい。俺はこの日本の地で、待っている――竜の迎えを」
霧はごくりと喉を鳴らした。ついに、『辞典妖精』が言っていた、チェカのメッセージの部分に辿り着いたのだ。いったい彼は、どんな重要なことを伝えようとしているのだろうか。霧は夢中で文字を追った。
「『竜辞典』の新たな主として、ククリコ・アーキペラゴに戻った者よ、誰か一人でもいい、この8巻を読んでいることを切に願う」
(読んでるよ、チェカ。今、あなたのメッセージに辿り着いた。どんなことでも、力になる。安心して)
霧は真剣にそう思いながら、チェカからのメッセージを読み進めた。
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