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二章 入学旅行二日目

2-19b リューエストのコテージ 2

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「えーっ、嘘ぉ!! 今夜は雑魚寝ざこねかなって想像してたのに、すごい、ちゃんとしたホテル並みじゃない! 何これ、バルコニーまであって、海が見える最高の眺め! めっちゃ贅沢じゃない!」

 アデルがそう言うと、隣の部屋を割り当てられたリリエンヌと霧もまた、アデルの元に合流して大はしゃぎで浮かれ出す。

「本当に、素晴らしいですわ、リューエスト! 部屋のクリンネス魔法も完璧で、どこもかしこも清潔な状態を維持していますのね。ホコリ一つ落ちていませんわ」

「すごー、すごー、すごー!」

 感動のあまり言語中枢が破壊された霧が、「すごー!」を繰り返す。そんな霧に微笑みながら、リリエンヌが声をかけてきた。

「こんな素敵なコテージを永続的に借りる権利を有しているということは、この島への貢献度が著しいということですわ。クレアさんが必死にリューエストを捜しにいらしたのも、納得できるというもの。羨ましいですわぁ、キリ。素晴らしいお兄さまを持って、キリも鼻が高いでしょ?」

 リリエンヌのその言葉を聞いた途端、バッと、リューエストの期待に満ちた眼差しが霧に刺さる。霧はウッと喉を詰まらせたのち、絞るように声を出した。

「うん、まあ、すごい兄を持ったな、って、実感した。セ、セ、セレブになった気分だよね。さざ波の音が、すごい心地いい。こんな素敵なコテージに泊まれて嬉しいよ、ほんとに。ありがと、リューエスト」

 リューエストは「うわぁぁぁあああああああ! キリに心を込めて感謝された! 今日はいい日だぁっ!!」と叫んでマジ泣きしている。霧はビクッと体を震わせ、思った。

(ここでリューエストをねぎらっておかないと面倒なことになると思って素直にお礼言ったけど……結局面倒なことになるんだな。どうすりゃいいんだ。正解がわからぬ。まあいいか……泣いてるけど喜んでるみたいだし)

 そうこうするうちに夜は更けていき、24班の面々はそれぞれの部屋に引き上げて行った。

 現地時間ではもう0時を過ぎているが、霧たちの時間――学園標準時間は、19時を過ぎたところだ。
 この世界を巡る「時間」については、チェカの書いた物語、『ククリコ・アーキペラゴ~空飛ぶ古城学園と魔法士たち~』略して『クク・アキ』の中でもチラリと触れられていたが、この『クク・アキ』の世界も、地球と同じ24時間周期で一日が過ぎ、暦の移り変わりはほぼ同じ、空に浮かぶ月も一つとなっている。物語の最初の方の巻で、チェカの知人の学者が、「言語げんご双生界そうせいかいとして繋がったということは、きっと歴史上に記される日本という世界は、我らの世界と同配列上にあり、環境が似通っているに違いない」と話しているシーンがあった。

(あれは読者に親しみを湧かせ、物語に入り込ませやすくするための設定だと思ってたけど……時間の進み方とかが地球と同じなのは、事実だったのか……)

 霧はそう思いながら、部屋の隅に置かれた机に向かい、テーブルランプをつけた。すでにシャワールームで体の汚れを落とし、備え付けられていたパジャマに着替えていたが、まだベッドに入るには早い。そう思った霧はバッグの中を探り、『クク・アキ』の8巻を取り出すと、じっくりと表紙を眺めた。

(そういえば、買った時にチラッと見ただけで、表紙、ちゃんと見てなかったなぁ……)

 表紙には背中合わせのチェカとアデルが描かれていて、いつも一緒にいた二人が、離れ離れになり別々の世界に存在することを示唆しさするようなデザインになっている。どこかハッとするような、印象的な扉絵だ。自然と目が吸い寄せられる。
 そして霧は帯のキャッチコピーを読み――驚きに目を見張った。

――衝撃の、新展開! 『竜辞典』を手に取るのは、あなたかもしれない!

「……え……? どういうこと? 衝撃の新展開はよくある宣伝文として……そのあと……これって……読者への、メッセージ?」

 霧は戸惑いながら本を裏返し、裏側の帯も確認した。そこは通常なら、同レーベルの新刊の宣伝が羅列されているところだが、裏側の帯に書かれてあったのは――。

――さあ、今すぐ本屋に行って、『竜辞典』を探しに行こう!それは普通の国語辞典にまぎれている。『竜辞典』が新たなあるじに選ぶのは、それぞれ一人だけ。それは、あなたかもしれない!

「……は……? え……?」

 まさか、という思いが、霧の胸に渦巻く。

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