推しと行く魔法士学園入学旅行~日本で手に入れた辞典は、異世界の最強アイテムでした~

ことのはおり

文字の大きさ
上 下
86 / 175
二章 入学旅行二日目

2-18b 歴史に残る大発見「24班の奇跡」 2

しおりを挟む
(なるほど、神隠しスポットなのか、この辺りは……)

 進むうちに、霧は納得した。確かに、進めば進むほど、ぞわぞわと肌が粟立あわだってくる。何かの気配を感じて振り向くが、その気配はサッとどこかへ移動し、正体がつかめない。言獣げんじゅうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。とにかく、その気配は異質としか言いようがなく、もし自分が子供なら、好奇心に駆られてその影を追いかけ、奥へと迷い込んでしまうかもしれない。しかし大人の霧にとっては、好奇心より得体のしれない者への恐怖心の方が強かった。

(いやもう、なんか、逃げ出したくなってきたんだけど……。なんかさっきから、足元が時々ぐにゃりとなるし……。この感覚、市立図書館からこっちに移動したときも、あったよね……)

 もう進みたくないな、と霧が思い始めた時、クレアが止まった。

「ここです。私でもかすかに見えますが、魔法士学園の新入生の皆さんには、魔法柵がはっきりと見えるでしょう? うっすらと光る膜があり、あちこちに穴が開いているのが」

 確かに、前方に光る膜のような遮蔽物しゃへいぶつが高さ3メートル付近まで見え、それは左右にずっと続いている。クレアとリューエストの話では、危険な場所をぐるりと取り巻いているということだった。そしてその光の膜には、所々、様々な大きさの穴が開いていた。
 リューエストは穴の状態を確認して、考え込んでいる。

「う~ん……不自然な穴だな。これは悪意のある誰かがわざと……。そうとしか……。……いや、今は原因究明より、処置が先決だ。24班のメンツなら問題ないだろう……手分けして穴を閉じるとして……この魔法柵は確か全長3kmはあったはず……一つの穴の修繕におよそ5分として……6人で当たるのなら……いや、非効率だな、別の方法で……」

 リューエストと同じように魔法柵を調べていたアデルが、クレアに訊いた。

「穴が開いているだけで、この魔法柵に途切れてる箇所は無いんですよね?」

「ええ。どこか一か所でも分断されれば、柵自体が消滅する仕組みなのです。もちろん確認もしました。今のところ穴が開いているだけで、途切れ目はありません」

 クレアがそう言うのを聞いて、トリフォンが言った。

「なら、魔法柵に働きかけ、自動修復機能を持たせればよかろう。速やかに穴を塞げるように」

 アデルも同じ発想をしていたらしく、頷きながら言った。

「問題が一つ。高さ3メートルで全長3㎞もの大きな魔法柵に、一度の魔法で働きかけなきゃいけないから、辞典力と気力体力エネルギーが大量に必要になる。多分私ひとりじゃ、途中で力が尽きる。リューエストはどう?」

「多分できるだろうけど……今は少し疲れているから、どうかな」

 アデルはチラリと霧を見ながら、言った。

「……この中で、確実に魔法を最後まで実行できる、強大な力を持っていそうなのは……」

 みんなの視線が、霧に集まる。
 霧はヒュッと息を止め、慌てて首を振りながら言った。

「え、何? ちょっと、あたしよくわからない。無理。正直もう全然、ついて行けてないの。みんなの話は難しすぎる! 魔法柵ってチンプンカンプン。あたしアホなんで、許して!」

「うん、力はあってもやり方がね……。準備校では必ず教わる技だけど、キリは魔法柵を張ったこともないだろうし……。みんなで張れる方法があったら楽勝なんだけど……キリの底なしパワーと私たちのパワー、そして私たちの知識と経験……合わせる方法ないかな……」

 そう言うアデルに、霧はパッと思いついたことを言った。

「『辞典』を、重ねてみたら?」

 みんなの顔に「は?」という表情が浮かぶ。霧は何かとんでもなく非常識な、おかしなことを言ったらしい。霧は慌てて言いつくろった。

「あの、あの、『辞典』って、重ねられるんじゃないかなぁって、そんな気がしただけ」

 それは本当に、単なる霧の思いつきだった。チェカの書いた物語の中にも出てこない。そしてみんなの反応を見れば、その思いつきが奇妙なものであることがわかる。それでも霧はなぜか、それができるのではという、不思議な直感を持っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で泣いていた僕は、戻って来てヒーロー活動始めます。

まったりー
ファンタジー
8歳の頃、勇者召喚で異世界に飛んだ主人公、神楽啓斗(かぐらけいと)は、1年間を毎日泣いて過ごしていました。 そんな彼を可哀そうと思ったのは、その世界で女神と呼ばれている女性で、使い魔を通して色々力添えをして行き、段々と元気になった神楽啓斗(かぐらけいと)は、異世界で生きる訓練を始めます。 ですが、子供は親元に戻るべきと女神様は力を使い、現代に戻してくれたのです。 戻って来た現代では、女神様の使い魔も助けも行われ続け、神楽啓斗(かぐらけいと)は異世界の力を使い、困ってる人を助けるヒーロー活動を始めます。 普通の平和な世界だと思っていた神楽啓斗(かぐらけいと)でしたが、世界には裏の顔が存在し、戦いの中に身を置く事になって行く、そんなお話です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...