84 / 175
二章 入学旅行二日目
2-17b 課題7――ストーリードーム作成
しおりを挟む
霧はワクワクしながらアデルに声をかけた。
「アデル、もう出来たの、早すぎ! 見せて見せて」
「いいよ。背景同じで3シーンの簡単なものだから、5分で出来たの。ドームの飾りのこのボタンを1回押すと、最初から自動再生が始まるよ」
アデルのストーリードームは、白い卵が揺れているシーンから始まった。立体映像なので、ドームのどの方面から見ても可愛い卵が見える。
次のシーンでは卵にひびが入り、中から何かの生き物の鼻先が現れた。何が生まれてくるのかワクワクして見守っていると、猫のような生き物が現れ――なんと、大きな白い翼を持った美しい純白の猫で――生まれた喜びを全身で表しながら飛び回り始めた。
霧が「わあ! きゃわいいぃ!」と声を上げてしばらく見ていると、最初の卵のシーンに切り替わった。
2ターン目を食い入るように眺める霧に、アデルが口を開く。
「今回の課題7では多分、生徒の表現力を見るんだと思うの。課題3と4の競技場でのバトルが言葉による表現力で、この課題7は映像による表現力ね。入学旅行の課題はどれも、新入生の適性を定めてクラス分けするためのものだから、このストーリードームも完成度は気にしなくていいと思うわ。キリの好きなように作り込めばいいと思う。ちょっと聞いてる、キリ?」
「うん、聞いてる。すごいねぇ、アデル、この天使みたいな猫、めちゃ可愛い上に、実際こんな生き物が目の前にいるみたい。翼の羽根の一つ一つまで描き込まれてるし、動きも滑らか。もしかして名人級じゃないの、これ」
「辞典魔法士を目指すなら、これくらい普通よ。……まあ、イメージの表現は得意な方ではあるけど。さ、早くキリも作っちゃお」
アデルは霧の誉め言葉に少し顔を赤らめながらも、グイグイと霧の手を引っ張って手近な『物語の泉』の前に連れて行く。
霧はアデルの丁寧なレクチャーを受けながら、ストーリードーム作りを進めながら思った。
(はあ……すごい。この『物語の泉』ってさしずめ、高性能なイメージ投影型3Dプロジェクションマッピング生成AIって感じか。イメージしたそばから映像が描き込まれてゆく……はあ……すごい)
その後40分ほどで、霧のストーリードームは完成した。
「で、で、できた……。アデル、ありがとう、ほんとありがとう、教え方、分かりやすくて天才だった!」
「天才はあなたよ、キリ。驚いた。これ、売れるレベルだと思う」
アデルが霧の完成したストーリードームを見つめながらそう言うと、リリエンヌの声が後ろから降ってきた。
「本当に、素晴らしいですわ。感動的なストーリーが7シーンで巧みに表現されいて、キラキラした物語の宝石箱みたいですわ。ぜひストーリードームショップに登録して、販売して欲しいですわ、キリ! もちろんわたくし、買いますわ。自分用に一つ、両親用に一つ、布教用に何個も買いますわ!!」
瞳を潤ませたリリエンヌがそう熱弁すると、トリフォンも感心したように頷き、リューエストが何やら訳の分からない妹への賛辞を叫んでいる。いつもはツアーメイトに無関心な様子のアルビレオまで、霧のストーリードームを興味深げに覗き込んでいた。
いつの間にか、霧のストーリードーム作りは24班の面々に見学されていたらしく、その場所に全員が揃っている。
霧が照れながら「いやぁ……漫画とかアニメで、オタクの頭の中はイメージ爆発しちゃってるからねぇ……そんなに褒められたら木に登っちゃうからやめて」と焦っていると。
突如、誰かが近づいてくる気配がした。
「リューエストさん! リューエストさん、います?! どうか手を貸してください!」
切迫した声でそう叫びながら、見知らぬ女性が霧たち目がけて走り寄ってきた。
「アデル、もう出来たの、早すぎ! 見せて見せて」
「いいよ。背景同じで3シーンの簡単なものだから、5分で出来たの。ドームの飾りのこのボタンを1回押すと、最初から自動再生が始まるよ」
アデルのストーリードームは、白い卵が揺れているシーンから始まった。立体映像なので、ドームのどの方面から見ても可愛い卵が見える。
次のシーンでは卵にひびが入り、中から何かの生き物の鼻先が現れた。何が生まれてくるのかワクワクして見守っていると、猫のような生き物が現れ――なんと、大きな白い翼を持った美しい純白の猫で――生まれた喜びを全身で表しながら飛び回り始めた。
霧が「わあ! きゃわいいぃ!」と声を上げてしばらく見ていると、最初の卵のシーンに切り替わった。
2ターン目を食い入るように眺める霧に、アデルが口を開く。
「今回の課題7では多分、生徒の表現力を見るんだと思うの。課題3と4の競技場でのバトルが言葉による表現力で、この課題7は映像による表現力ね。入学旅行の課題はどれも、新入生の適性を定めてクラス分けするためのものだから、このストーリードームも完成度は気にしなくていいと思うわ。キリの好きなように作り込めばいいと思う。ちょっと聞いてる、キリ?」
「うん、聞いてる。すごいねぇ、アデル、この天使みたいな猫、めちゃ可愛い上に、実際こんな生き物が目の前にいるみたい。翼の羽根の一つ一つまで描き込まれてるし、動きも滑らか。もしかして名人級じゃないの、これ」
「辞典魔法士を目指すなら、これくらい普通よ。……まあ、イメージの表現は得意な方ではあるけど。さ、早くキリも作っちゃお」
アデルは霧の誉め言葉に少し顔を赤らめながらも、グイグイと霧の手を引っ張って手近な『物語の泉』の前に連れて行く。
霧はアデルの丁寧なレクチャーを受けながら、ストーリードーム作りを進めながら思った。
(はあ……すごい。この『物語の泉』ってさしずめ、高性能なイメージ投影型3Dプロジェクションマッピング生成AIって感じか。イメージしたそばから映像が描き込まれてゆく……はあ……すごい)
その後40分ほどで、霧のストーリードームは完成した。
「で、で、できた……。アデル、ありがとう、ほんとありがとう、教え方、分かりやすくて天才だった!」
「天才はあなたよ、キリ。驚いた。これ、売れるレベルだと思う」
アデルが霧の完成したストーリードームを見つめながらそう言うと、リリエンヌの声が後ろから降ってきた。
「本当に、素晴らしいですわ。感動的なストーリーが7シーンで巧みに表現されいて、キラキラした物語の宝石箱みたいですわ。ぜひストーリードームショップに登録して、販売して欲しいですわ、キリ! もちろんわたくし、買いますわ。自分用に一つ、両親用に一つ、布教用に何個も買いますわ!!」
瞳を潤ませたリリエンヌがそう熱弁すると、トリフォンも感心したように頷き、リューエストが何やら訳の分からない妹への賛辞を叫んでいる。いつもはツアーメイトに無関心な様子のアルビレオまで、霧のストーリードームを興味深げに覗き込んでいた。
いつの間にか、霧のストーリードーム作りは24班の面々に見学されていたらしく、その場所に全員が揃っている。
霧が照れながら「いやぁ……漫画とかアニメで、オタクの頭の中はイメージ爆発しちゃってるからねぇ……そんなに褒められたら木に登っちゃうからやめて」と焦っていると。
突如、誰かが近づいてくる気配がした。
「リューエストさん! リューエストさん、います?! どうか手を貸してください!」
切迫した声でそう叫びながら、見知らぬ女性が霧たち目がけて走り寄ってきた。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説

異世界で泣いていた僕は、戻って来てヒーロー活動始めます。
まったりー
ファンタジー
8歳の頃、勇者召喚で異世界に飛んだ主人公、神楽啓斗(かぐらけいと)は、1年間を毎日泣いて過ごしていました。
そんな彼を可哀そうと思ったのは、その世界で女神と呼ばれている女性で、使い魔を通して色々力添えをして行き、段々と元気になった神楽啓斗(かぐらけいと)は、異世界で生きる訓練を始めます。
ですが、子供は親元に戻るべきと女神様は力を使い、現代に戻してくれたのです。
戻って来た現代では、女神様の使い魔も助けも行われ続け、神楽啓斗(かぐらけいと)は異世界の力を使い、困ってる人を助けるヒーロー活動を始めます。
普通の平和な世界だと思っていた神楽啓斗(かぐらけいと)でしたが、世界には裏の顔が存在し、戦いの中に身を置く事になって行く、そんなお話です。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394


ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる