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二章 入学旅行二日目

2-17a 物語の泉

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 驚きのあまり間抜け顔で立ち尽くしている霧に、リューエストが声をかける。

「キリ、こっちこっち! この自動販売機で、まず制作用のドームを購入するんだ。大きさが色々あって、大きくなるほど長いストーリーを作り込めるんだけど……今回の課題には長さの指定はないから、最も標準的な、両手の上に乗るサイズか、それより小さいものがいいと思うな。底部の装飾は選べるんだよ。カスタマイズもできる」

「ほへぇ……これ、自動販売機なの?」

 不思議な木の形をした装置の前で、霧は度重なる未知との遭遇に呆けていた。
 リューエストは「まず僕がドームを買ってみるから、見ててね」と言って、装置の手前に設けてある台の上に、ホルダーごと『辞典』を置く。すると『辞典』から『辞典妖精』が飛び出してきて、木の中央部分にぽっかり開いたうろの部分に移動し、リューエストと相談しながらストーリードームの器作りを始めた。

「うん、そうそう、大きさは、それぐらい。底部の装飾は、可愛いのがいいな。絵柄集、呼び出してくれる? あ、それいいな、小動物が踊っている、ウキウキするやつ。色はもうちょっと明るめで。うん、そんな感じだ。よし、それで頼むよ」

 霧が目を見開いて観察していると、木の洞に枝が伸びてきて、あっという間に実が成るように、ストーリードームの器が完成した。中はまだ空っぽだが、それは日本でもよく見かける、飾り物のスノードームと似たような形をしている。底部には飾りが付いていて、リューエストの選んだ柄は可愛い森の動物が描かれていた。それを見て霧がはしゃいでいると、リューエストは満足そうに笑いながら「さ、キリも作ってごらん。楽しいよ」と霧を促す。

 瞬く間に、霧も器を手に入れ、感動して声を上げた。

「うわぁ……すご、何これ! 見て、リューエスト、底部の飾り、めちゃ精巧。この魔法仕掛けの3Dプリンター、すごくね? もう芸術品のレベルでしょ!」

「本当に、キリの器は素敵ですわね。アンティークな雰囲気で美しいですわ」

 その声に振り向くと、リリエンヌが自分の器を手にして、すぐそばに立っていた。
 この不思議な自動販売機は木の形をしているため、このエリアに入った当初はまるで気付かなかったが、『物語の泉』の周囲にいくつも設置してあって、24班の面々はすでにみな、器を購入して手に持っていた。霧はリリエンヌが両手の掌の上に乗せている器を見て、声を上げた。

「えっ、何それ可愛い!! お花、お花が可愛い!! そんなのもできるんだ!!」

 リリエンヌの購入した器は、底部の飾りにパステルトーンの花がいくつも浮き彫りのようになって飾られていた。あまりの可愛らしさに霧は同じものが欲しくなり、もう一度器作りにチャレンジしようかと思ったが、今は課題消化が先だと諦めた。

「じゃあ、ストーリードームを作成しにいこう。ホラ、アルビレオがもう制作に着手してる、見てごらん。ああやって、『物語の泉』の、あの水球の中にこの器を入れて、イメージするんだ。するとドーム内に立体映像が浮き出してくる。『辞典妖精』が手伝ってくれるから、雑味が入ったらその都度修正していくんだよ。このストーリードームの大きさだと、4シーンから8シーンぐらいが適当だね。まず最初の1シーンを作り、イメージ通りのものが出来たら次のシーンに着手していくんだ。中断したいときは、水球から器を出す。もう一度泉に入れたら、また続きを作れるよ。長時間離れてしまうとドームの中のイメージが固まってしまうから注意だ。それからね……」

「や、ちょっと待ってリューエスト、申し訳ないけどキャパオーバー。わけわかんなくなってきた」

「じゃあ、横でレクチャーしてあげようか? もう私、仕上がったから。リューエスト、自分の作ってきなよ」

 そう声をかけてきたのは、アデルだ。彼女はすでに完成したストーリードームをその手の中に持っていた。片手の掌に乗るぐらいの、小さなものだ。アデルの申し出に頷いたリューエストが「じゃ、アデル頼むよ。またあとでね、キリ」と言ってその場を離れる。
 霧はリューエストに手を振りながら、ワクワクしながらアデルに声をかけた。

「アデル、もう出来たの、早すぎ! 見せて見せて」

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