推しと行く魔法士学園入学旅行~日本で手に入れた辞典は、異世界の最強アイテムでした~

ことのはおり

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二章 入学旅行二日目

2-12   リンクする過去の痛み

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「帰れ! 俺が自分の子をどうしようと俺の勝手だ!」

 野太い、吠えるような男の声に、霧はビクッと体を硬直させた。
 呪わしい過去がよみがえり、子供の頃の様々な感情が胸に去来する。
 男の放った言葉は、霧の父親が見知らぬ大人に投げつけた言葉と、そっくり同じだった。
 自分の子をどうしようと俺の勝手――その横暴な理屈で、霧の父親はかつて、まだ8歳の子供だった霧を、金儲けの道具にしようとしたのだ。
 家の中には、霧とその父親だけ。霧の母親はその時すでに、霧を捨ててどこかに行ってしまっていた――酒浸りで無職の、モラルの欠如した粗暴な男の元に、小さな女の子を置いていけばどうなるか分かっていながら。
 
 端的に言えば、霧の両親はどうしようもないクズだった。
 
 自分の体の中に流れる血は、そのクズ両親を由来としたものだと思うたび、霧は自分の存在そのものを嫌悪してしまう。
 それは紛れもなく呪いだった。
 遺伝子の暴力とも言える、出生の呪いだった。

 男の怒声を聞いたことでそれらの苦痛がよみがえり、霧の体が硬直する。
 やがてリリエンヌが小さな悲鳴を上げ、その声に霧はハッと我に返った。アデルが飛んできた木切れを手で弾き、リリエンヌと男の子を背後にかばいながら叫ぶ。

「痛っ! 何なのもう! ちょっとキリ、ぼけっとしてないで、ここから避難するわよ!」

 霧は頷くと、怯えて泣き叫んでいる男の子を担ぎ上げ、アデルとリリエンヌと一緒にその場から一目散に逃げ出した。

 一方、24班の男性陣はその場にとどまって攻撃的な男に向き合っていた。男はまるで毛むくじゃらの熊のような風貌で、戸口付近に立てかけてあった木の棒を手当たり次第に投げつけている。先ほど家の中から外へ弾き飛ばされた若い男性は、地面に横倒しになった体を速やかに起こすと、熊男の暴力にも屈せず毅然とした態度で叫んだ。

「子供は、親の所有物じゃありません! 今すぐ攻撃をやめて私に子供を渡してください! あの子にはきちんとした世話を受ける権利がある!」

 そう叫んだ若い男性は、サーモンピンクのショートケープを身に着けていた。よく見るとケープの右肩付近には、『准辞典魔法士』を表す紋章が刺繍されている。
 どちらに味方すればよいか一目瞭然のこの場で、24班の男性陣は、いつでも加勢できるよう辞典を開いて身構えた。

「帰れ! この魔法士くずれめ! ぶっ殺すぞ!」

 熊男はそう叫ぶと、自分の『辞典』を開き、竜巻まじりの風を呼ぶ。

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