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二章 入学旅行二日目
2-09b 毒ガス野郎の妨害 2
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ゲイルは名残惜しそうに霧に手を振ると、ツアーメイトたちと建物の中へ消えて行った。
それを見て、アデルが霧たちに向かって口を開く。
「17班の人たち、リーダーを選定してるんだね。まあ、意見が分かれるときもあるし、まとめ役がいた方がいいとは思うけど、みんなはどう思う?」
アデルの提案を受けて、みんな少し考え始める。しかし霧だけは、躊躇なく吐き捨てるように言った。
「あたしはリーダーいらない。一人に責を押し付けるのも嫌だし、トップからの見えない圧で上下関係や派閥が生まれたりして、色々面倒になるから。まあ、この面々ならそんな心配いらないかもしれないけど、とにかく横並びがいい」
その霧の発言に、いつも無表情なアルビレオが珍しく反応した。
「俺も彼女の意見に賛成だ。リーダーは必要ない」
「お、アルビレオくん、気が合うね! いいね、無口な君も最高にミステリアスで素敵だけど、発言してる姿もいい! つまり黙っててもしゃべっててもいい!」
「俺にくんなど付けなくていい。呼び捨てで。みんなもそうしてくれ」
「お、いいねいいね、アルビレオ、グッと距離が縮んで嬉しいよ!」
「ちょっと、脱線してるわよ、キリ。リーダー選定いるの、いらないの。多数決でも取る?」
「多数決、嫌いだぁ。少ない方は黙殺される。無かったことにされる。無視される。踏みつぶされる。ある意味、多数派による暴力。多数という名のリンチ! 滅びろ、多数決!!」
霧の熱弁に、リリエンヌがおっとりと言った。
「まあ、キリ……多数決で何か嫌なことがあったのね、可哀相に。確かに、キリの考え方も一理ありますわ。では多数決はやめて、自由な対話を試みませんこと? そこであえてわたくしは、リーダー選出に賛成を申し出てみますわ。一人に責が偏ることを避けたいのなら、リーダーを持ち回りにしてみてはいかがでしょう」
彼女の柔らかい物言いに、その場の空気が和む。そんな中、トリフォンが発言した。
「うむ、その方向もありじゃ。じゃが、リーダーをしたくない者がいた場合、押し付けることにならんかの?」
「そうですわねぇ。難しいですわ……」
「僕は単純明快だよ! 僕はいつでもキリの味方! つまりリーダーは無しで。都度話し合いの方向で、もし意見が分かれたらくじ引きで決めるというのはどう?」
リューエストの言葉に「それもありだな」という雰囲気でみんなが頷く中、アデルが重い溜息をついて言った。
「はあ……私、なんか疲れてきた。全然考えまとまらない。それにガスティオールがまだどっかその辺にいると思うだけで憂鬱。馬鹿が移らないうちに、どっか遠くに移動したい気分よ」
「アデル、飴ちゃんあげる。血糖値上げなよ。アホガスの毒ガスが醸し出す憂鬱も、甘いスイーツの威力に退散すること間違いなし!」
アデルは素直に霧からキャンディを受け取ると、包み紙を剥がして口に放りこんだ。「アホガスの毒ガス……それいいわね、これからあいつのこと毒ガス野郎って呼ぼう」と言いながら。
霧たちはとりあえずリーダーの件は保留にして、さっさとこの辺りから離れるために、もよりの『繋がりの塔』へと向かうことになった。
それを見て、アデルが霧たちに向かって口を開く。
「17班の人たち、リーダーを選定してるんだね。まあ、意見が分かれるときもあるし、まとめ役がいた方がいいとは思うけど、みんなはどう思う?」
アデルの提案を受けて、みんな少し考え始める。しかし霧だけは、躊躇なく吐き捨てるように言った。
「あたしはリーダーいらない。一人に責を押し付けるのも嫌だし、トップからの見えない圧で上下関係や派閥が生まれたりして、色々面倒になるから。まあ、この面々ならそんな心配いらないかもしれないけど、とにかく横並びがいい」
その霧の発言に、いつも無表情なアルビレオが珍しく反応した。
「俺も彼女の意見に賛成だ。リーダーは必要ない」
「お、アルビレオくん、気が合うね! いいね、無口な君も最高にミステリアスで素敵だけど、発言してる姿もいい! つまり黙っててもしゃべっててもいい!」
「俺にくんなど付けなくていい。呼び捨てで。みんなもそうしてくれ」
「お、いいねいいね、アルビレオ、グッと距離が縮んで嬉しいよ!」
「ちょっと、脱線してるわよ、キリ。リーダー選定いるの、いらないの。多数決でも取る?」
「多数決、嫌いだぁ。少ない方は黙殺される。無かったことにされる。無視される。踏みつぶされる。ある意味、多数派による暴力。多数という名のリンチ! 滅びろ、多数決!!」
霧の熱弁に、リリエンヌがおっとりと言った。
「まあ、キリ……多数決で何か嫌なことがあったのね、可哀相に。確かに、キリの考え方も一理ありますわ。では多数決はやめて、自由な対話を試みませんこと? そこであえてわたくしは、リーダー選出に賛成を申し出てみますわ。一人に責が偏ることを避けたいのなら、リーダーを持ち回りにしてみてはいかがでしょう」
彼女の柔らかい物言いに、その場の空気が和む。そんな中、トリフォンが発言した。
「うむ、その方向もありじゃ。じゃが、リーダーをしたくない者がいた場合、押し付けることにならんかの?」
「そうですわねぇ。難しいですわ……」
「僕は単純明快だよ! 僕はいつでもキリの味方! つまりリーダーは無しで。都度話し合いの方向で、もし意見が分かれたらくじ引きで決めるというのはどう?」
リューエストの言葉に「それもありだな」という雰囲気でみんなが頷く中、アデルが重い溜息をついて言った。
「はあ……私、なんか疲れてきた。全然考えまとまらない。それにガスティオールがまだどっかその辺にいると思うだけで憂鬱。馬鹿が移らないうちに、どっか遠くに移動したい気分よ」
「アデル、飴ちゃんあげる。血糖値上げなよ。アホガスの毒ガスが醸し出す憂鬱も、甘いスイーツの威力に退散すること間違いなし!」
アデルは素直に霧からキャンディを受け取ると、包み紙を剥がして口に放りこんだ。「アホガスの毒ガス……それいいわね、これからあいつのこと毒ガス野郎って呼ぼう」と言いながら。
霧たちはとりあえずリーダーの件は保留にして、さっさとこの辺りから離れるために、もよりの『繋がりの塔』へと向かうことになった。
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