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二章 入学旅行二日目

2-09a 毒ガス野郎の妨害 1

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「やあ、24班のみんなじゃないか! 会えて嬉しいよ! 昨日は優勝おめでとう! ずっと見てたよ、最高のバトルだった!」

 その男性は霧たちと同じ、学園のショートケープを身に着けている。
 彼を見た途端、リューエストはサッと霧を守るように前に出た。霧は「誰だっけ、どっかで見た」と記憶を探り、昨日、彼と競技場で対戦したことを思い出す。

「あれっ……ええと、何だっけ、確か野菜みたいな名前だったよね? ケール……コンプレックス? あ、いや、なんか違うな」

 頭をひねる霧に、アデルが助け舟を出す。

「ゲイル・グーゴルプレックス、だったと思うわよ? 野菜って……。キリの記憶力、ザルね」

「ああ、そうそうそれそれそんな名前の! さすがアデル、記憶力いい!」

 ゲイル・グーゴルプレックス――彼は昨日、課題4の班対抗バトルで、霧と対戦した17班の男性だった。彼もまたこの街に課題5を取り組むべく来たらしく、ツアーメイトと連れ立っている。
 ゲイルは睨んでいるリューエストを無視して、霧に話しかけてきた。

「ねえキリ、突然こんなこと言われて戸惑うかもしれないが、この街で課題5に取り組むのはお勧めしない。他の課題を先に行くか、『繋がりの塔』から遠くの町へ飛んだ方がいい」

「え、なんで?!」

「1班の、頭のイカれた野郎、覚えてるか? あいつが昨夜から君たち24班の悪い噂をばらまいてる。およそ真実とは程遠い、偽りの評判をね。しかも人を使って、広範囲に。競技場周辺の町は全滅だろう」

 それを聞いてアデルが憤慨する。

「あいつ……バトルに負けた腹いせに、そんな幼稚な真似を! くっ……、ガスティオール、どこまで性根しょうねのねじ曲がった男なの!」

 アデルの言葉にみんなが頷き、トリフォンもまた、呆れた顔をして言った。

「やれやれ、そんなとこだろうと思っとったわい。何とも素行の悪い新入生を入れたもんじゃ。昔なら、有り得んかった」

 ゲイルのツアーメイトである17班の女性も、二人の言葉に頷きながら言った。

「ほんと、あのガスティオールって何様のつもりなんだろうね。あいつのせいで学園の品性が落ちてしまうわ。流されたあなたたちの噂、ひどい虚言きょげんだったよ。聞くたび否定して回ったけど、きりがなくて」

 その場にいる17班の面々は、いずれも霧たちに同情していた。

 霧は初めてこの大地に降り立った時、ガスティオールから向けられた侮辱を思い出した。霧に対しては「だせぇ地面激突オバサン」、アデルに対しては「エセダリア」など、数々の侮辱を浴びせ、その胸糞むなくその悪い笑い声は、周囲の植物も枯れるかと思わせるほどの腐敗臭を漂わせていた。
 自らの実力不足にも気付かず、バトルで打ち負かされた腹いせにデマをばらまくとは、あの男のしそうなことだ、と霧は溜息をつく。

「はあ……。そんじゃ、みんな、別の課題に行かない? とりあえず他に行って、違う課題こなしている間に偶然頼まれごとするかもしれないし。わざわざ困りごと探すより、その方が効率いいでしょ」

「効率。いいね! 好きな言葉だ。さすがキリ!」

 霧の言葉を聞いていたゲイルが、満面の笑みでそう言い、リューエストは険しい表情で「オイおまえ、僕の妹に近づくな」と威嚇している。それに対して霧は、「どうどう、リューエスト。あたしの心配なら要らないよ。二次元にしか興味ないから」などと言い、「お、次元の話、しちゃう? 俺のお勧めは、超弦ちょうげん理論! どっか喫茶店にでも入ってどう? おごるよ?」とゲイルが言うと、リューエストの顔が更に険しくなった。
 ゲイルがそれにもめげずになおも霧に話しかけようとしたとき。近くの建物から出てきた年配の男性が、ゲイルたちに手を振り呼ばわった。どうやら何か困りごとを見つけたらしい。17班の女性はその男性に「すぐ行きます!」と返答し、霧たちに会釈して言った。

「じゃ、リーダーが呼んでるので、私たちはこれで。お互い、良い入学旅行を! さ、行くよ、ゲイル」

 ゲイルは名残惜しそうに霧に手を振ると、ツアーメイトたちと建物の中へ消えて行った。

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