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二章 入学旅行二日目

2-07b 収納魔法とウサ耳妖精 2

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「うさぎ耳の妖精ちゃ~ん……、出てきておくれぇ……」

 霧が小さな声でそう呼ぶと、『辞典』からふんわりと妖精が飛び出してくる。うさぎ耳のカチューシャを付けた妖精は、霧に向かって「なあに?」と言うように小首を傾げた。

「うわっ、相変わらず可愛いぃお~! あ、あの、このバッグの中に入ってるもの、辞典の中にしまってもらえる……んだろうか……?」

 普通の国語辞典であるはずの、霧の辞典。霧はそれを思い出し、少し不安になった。

(でも『辞典妖精』いるし、みんなには触れない仕様になってるし。もしかして、日本の普通の辞書って、こちらに来たらもれなく『辞典』認定されるのかもしれんし……とすると、収納魔法とやらも当然使えるわけだろうし……)

 そうやって霧がぐるぐる考えている間に、『辞典妖精』は霧の持っていたマイバッグの中を覗き込み、【収納!】と声を出した。途端に、バッグが軽くなる。霧はからのバッグを覗き込んで「おお……」と感心したのち、「あっ!」と何かを思い出して慌てて言った。

「手鏡とブラシだけ、使いたいから手元に持っとく! ウサ耳ちゃん、取り出して!」

【は~い、それっピョン!】

 マイバッグの中に、手鏡とブラシが一瞬で戻ってきた。霧は感動して震えた。

「はわわわ……。便利……。それに、なにその、ピョンって、ピョンって……本当にしゃべる上に語尾可愛すぎぃ……はわわわわわ、あべしひでぶっ!」

 言語が崩壊して断末魔の悲鳴と化している霧に向かって、アデルが言った。

「その謎の、キモイんですけど! 一般人がいるところでは、よしてよね!」

「あら、わたくしは好きでしてよ? オタクのかぐわしい香りがしますわ。オタク同士、わたくしと仲良くして欲しいですわ、うふふ」

「えっ、なんであたしがオタクだってバレた?! てか、リリーちゃんがオタクってのが信じられないんだけど!」

「あら、言獣げんじゅうオタクも妖精オタクも普通に見かけますわよ?」

「いや、あたしの言うオタクっていうのはね、もっとこう、濃い連中でね、そのぉ、うわ、もうエントランスに着いちゃった。ウサ耳ちゃん、ありがと、もういいよ」

【わかった! んじゃ、良い入学旅行を! 楽しんでピョン!】

 ウサ耳妖精はそう言って霧にウインクしながら、辞典の中に消えていった。

「はわぁぁぁ……いい子ぉぉおおおお! うちの妖精、いい子ぉぉおおおお!」

 感動のあまり泣きそうになってる霧を見ながら、リューエストが言った。

「うんうん、『辞典妖精』は持ち主の性格に似るからねぇ。キリに似ていい子なのは当然だよ。なんて言ってたの?」

 『辞典妖精』の声は持ち主にしか聞こえない。それを思い出し、霧はリューエストに答えた。

「入学旅行、楽しんでって言ってくれた。そうだ、課題5から8まで、全部オープンになってたよね、みんな見た?」

「見た見た。今年の課題はちょっと変わってるよね。みんなと合流したらさっそく、どの課題から行くか相談しよう」

 そう言いながら霧たちがチューブから降りてエントランスに足を踏み入れると、アルビレオとトリフォンが近づいてきた。一行は朝の挨拶を交わし、フロントで宿泊の礼を告げた後、さっそうと外に歩き出す。

 いよいよ、入学旅行二日目のスタートだ。

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