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二章 入学旅行二日目
2-05 未知の危険
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この世界の人はみな、生まれたときに自分だけの『辞典』を授かる。
『辞典』には成長の過程で覚えた言葉のみが記載されていくので、いわゆる字引きとは違うものなのだ。辞典魔法で使えるのは、当然、自分が覚えた言葉のみだ。
そのため辞典魔法士を目指す者は、より多くの語彙を獲得するために言葉を学び続ける。語彙数と言葉への理解度は『辞典』を強化するのに欠かせないからだ。
それと並んで、言獣の獲得も重要になる。普通に暮らす分には言獣との契約は無くても困らないが、辞典魔法士にはそうはいかない。優秀な辞典魔法士はみな、より多くの言獣と契約し、自らの『辞典』をより高みへと鍛錬するのだ。
(ううん……あたしのこの国語辞典、言獣、いない……よね? いや、もしかして、いるのか? なぜか『辞典妖精』もいるし。それも不思議なんだよな。なんかすごい秘技で、移植でもされたんかいな? とにかく分からんことばかりだから、どっかで一人になる機会あったら、『辞典妖精』呼び出して訊いてみないとな……)
『辞典妖精』のことを考えていた霧は、ソイフラージュが言っていた言葉を思い出した。
《あなたの『辞典妖精』は裏切らない。でも人は裏切るから気を付けて》
そしてソイフラージュは、こうも言っていた。
《霧、気を付けて。どこに敵が潜んでいるかわからない。この世界は夢じゃなく実在していて、あなたは生身。命を落とさないように、慎重に行動して。学園の関係者にも敵が混ざりこんでる》
それを思い出し、霧はゾッとして体中が冷たくなるのを感じた。
(こわ……。敵って……何?! 誰?! いったいチェカに、何が起こったんだろ。ううう……ちょっと待て。あたしの正体がばれると危ない、とも言ってたな。つまり、日本人だとばれると危ない、ということなのか? ……それって、何をしたら、ばれちゃう? もうすでにあたし、夢の中で日本で暮らしていたっていう設定だから、日本のこと出さずにいられないんだけど……。ううう、どうすればいいかわからん!)
霧はギュッと、膝の上に置いている自分の辞典を両手で掴み、ハッとした。
(この辞典……あたしの辞典。日本で買った辞典。もしかしてそれがばれたら、やばい? ……え、ちょっと待って。この世界の『辞典』って、他人には触れないんだよね? でもこれ、本屋で見つけた、ただの辞書だし……)
冷やりと、霧の背中が凍り付く。
(もしかして、このあたしの普通の辞書、他の人にも触れるんじゃないの?!)
サアーッと、霧の体から血の気が引く。
『辞典』には成長の過程で覚えた言葉のみが記載されていくので、いわゆる字引きとは違うものなのだ。辞典魔法で使えるのは、当然、自分が覚えた言葉のみだ。
そのため辞典魔法士を目指す者は、より多くの語彙を獲得するために言葉を学び続ける。語彙数と言葉への理解度は『辞典』を強化するのに欠かせないからだ。
それと並んで、言獣の獲得も重要になる。普通に暮らす分には言獣との契約は無くても困らないが、辞典魔法士にはそうはいかない。優秀な辞典魔法士はみな、より多くの言獣と契約し、自らの『辞典』をより高みへと鍛錬するのだ。
(ううん……あたしのこの国語辞典、言獣、いない……よね? いや、もしかして、いるのか? なぜか『辞典妖精』もいるし。それも不思議なんだよな。なんかすごい秘技で、移植でもされたんかいな? とにかく分からんことばかりだから、どっかで一人になる機会あったら、『辞典妖精』呼び出して訊いてみないとな……)
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そしてソイフラージュは、こうも言っていた。
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それを思い出し、霧はゾッとして体中が冷たくなるのを感じた。
(こわ……。敵って……何?! 誰?! いったいチェカに、何が起こったんだろ。ううう……ちょっと待て。あたしの正体がばれると危ない、とも言ってたな。つまり、日本人だとばれると危ない、ということなのか? ……それって、何をしたら、ばれちゃう? もうすでにあたし、夢の中で日本で暮らしていたっていう設定だから、日本のこと出さずにいられないんだけど……。ううう、どうすればいいかわからん!)
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冷やりと、霧の背中が凍り付く。
(もしかして、このあたしの普通の辞書、他の人にも触れるんじゃないの?!)
サアーッと、霧の体から血の気が引く。
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