推しと行く魔法士学園入学旅行~日本で手に入れた辞典は、異世界の最強アイテムでした~

ことのはおり

文字の大きさ
上 下
58 / 175
二章 入学旅行二日目

2-02b 言獣オタクリューエストのハイテンション解説

しおりを挟む
「うわっ……すごい美貌のキラキライケメンがオタクTシャツ着てる……シュールだわ……」

 霧が目をパチパチさせながらそう呟くと、リリエンヌが口に手を当て、「ぷふっ!」と可愛い音を出して吹き出す。
 リューエストは辛辣しんらつな霧の反応に唇を尖らせながら、言った。

「オタクTシャツ? オタクかな、これ? まあ、僕自身は自他ともに認めるオタクだよ。妖精オタクじゃなくて、言獣げんじゅうオタクだけどね。うん」

(こっちにもオタクいるんだ……てか、オタクって言葉自体が通じるの、何というか、ホッとするなぁ……オタクの自分としては)

 そう思いながら霧が心の中で喜んでいると、リリエンヌがリューエストに話しかけた。

「あなたは世界一の言獣コレクターだと、有名ですものね。そうだわ、一つ相談に乗ってくださらない? わたくしはオリゴ系を中心に集めていますの。可愛いんですもの。それで……」

 パアッとリューエストの顔が輝き、リリエンヌの話が途中なのにもかかわらず、口をはさむ。

「お、リリーちゃん、なかなかいいところに目を付けたね。確かにオリゴ系は可愛い子が多いね。女性に大人気の言獣だ。でも見た目だけじゃなく、とても役立つ子たちなんだよ。オリゴ系は主に『可愛い』『素敵』『うっとり』『甘い』『好き』など、ポジティブ&スイート系の言葉の威力を増強してくれる。とても広範囲の言葉を担当しているから、『辞典』の強化に大変有効だ。それに種類が多いのもオリゴ系の利点だね。皆知っている通り、一つの『辞典』と契約できるのは一種類につき一獣のみ。例えば『フラクトオリゴ』という言獣と既に契約していると、同種で別個体の『フラクトオリゴ』とはもう契約できない。だから言葉の強化の重ね付けができないのが難点だけど、その点オリゴ系は各種、担当言語の重複ちょうふくがよく見られるから、『ラフィノース』や『イソマルトオリゴ』などと合わせて契約すると、同じ言葉を更に強化してくれて重宝ちょうほうする。そんな素敵な言獣なんだけど、特にラフィノースなんかは稀少きしょう言獣と呼ばれていて、出会える確率が極端に低く、僕もかなり根気が必要だったよ。そうそう、オリゴ系の利点と言えば他にも」

 リューエストは生き生きとして、オタクにありがちなハイテンション解説を怒涛どとうのように披露ひろうし始めた。リリエンヌは微笑みながら熱心に聞いているが、どこで割り込もうかとタイミングを伺っている様子だ。
 一方、霧は自分の頭の上で「ぴよぴよ」とヒヨコが回っているような心地になってきた。情報量が多過ぎて、リューエストの話している内容が全く頭に入ってこない。

( 言獣げんじゅうかぁ……。そういや『クク・アキ』の物語の中にもいくつか出てきたな。『ふわぽよ丸』なんか、すごい可愛かった。この世界では、ほとんどの子供が初めて契約する言獣がそれで、6巻で子供時代のアデルが『ふわぽよ丸』を成長させてたなぁ。初めはただの白い毛玉だったのに、可愛い耳が生えたりしてたっけ。犬みたいに賢くて、お手も覚えてたなぁ。毛玉からぴょこん、って可愛い手が出てくるんだよなぁ……アレは可愛かったなぁ……)

 言獣げんじゅうというのは、『言魂界ことだまかい』からこの『ククリコ・アーキペラゴ』にやってくる、不思議な存在だ。
 『言魂界ことだまかい』には人や動植物などの物質的なものは一切存在していない。人間が『ククリコ・アーキペラゴ』から『言魂界ことだまかい』に行くことは不可能だけど、言獣は自由に行き来している。
 言獣は物質的な存在ではなく、肉体というものは持たないし、こちらに居ついて繁殖するということもない。そんな彼らが『ククリコ・アーキペラゴ』にやってくるのは、人の力を借りて自らを成長させるためだと言われている。
 こちらに来た言獣は、相性のいい人間を見つけると契約を望み、ついてくるようになる。人間が契約に応じると『辞典』の中に宿り、特定の言葉を強化してくれるのだ。強化された言葉を契約者である人間が使うと、その言獣は成長することができる。そうやって、言獣は高みを目指すのだ。

 言獣には様々な種類があり、『ふわぽよ丸』に代表されるような無害でどこにでも見られる言獣もいれば、火や水などの自然現象系、ネガティブな言葉に宿る闇系など、様々な系統が存在する。
 その中には、ほとんど発見されることのない稀少きしょうしゅや、一個体しか存在していない固有種もいる。見かけても契約できるかは言獣次第のため、珍しい種と契約している者は一目置かれる。
 特に辞典魔法士にとって、言獣との契約は必須事項だ。強い『辞典』には、多くの言獣が宿っていると見ていい。一流の辞典魔法士は、言獣の中でも稀少種や固有種と契約しているケースが多い。

 そして――その言獣の頂点にいるのが、竜だ。その力は計り知れないという。
 1540年前、伝説の辞典魔法士の『辞典』に宿っていた、竜。
 今では契約はおろか、竜を見た者は一人もいない。

(そのほとんど幻と化した竜の宿る『竜辞典』を、守っていたのがチェカなんだよね……。彼が日本にいて『クク・アキ』の作者だったなんて、驚きだわ)

 霧はチラ、とアデルを見た。彼女はリューエストの言獣うんちくリサイタルにうんざりした顔をしているが、リリエンヌが食いついているので黙って聞いているようだ。
 霧はアデルに、彼女の養父であるチェカが生きていることを教えてあげたい、という思いに駆られた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

異世界で泣いていた僕は、戻って来てヒーロー活動始めます。

まったりー
ファンタジー
8歳の頃、勇者召喚で異世界に飛んだ主人公、神楽啓斗(かぐらけいと)は、1年間を毎日泣いて過ごしていました。 そんな彼を可哀そうと思ったのは、その世界で女神と呼ばれている女性で、使い魔を通して色々力添えをして行き、段々と元気になった神楽啓斗(かぐらけいと)は、異世界で生きる訓練を始めます。 ですが、子供は親元に戻るべきと女神様は力を使い、現代に戻してくれたのです。 戻って来た現代では、女神様の使い魔も助けも行われ続け、神楽啓斗(かぐらけいと)は異世界の力を使い、困ってる人を助けるヒーロー活動を始めます。 普通の平和な世界だと思っていた神楽啓斗(かぐらけいと)でしたが、世界には裏の顔が存在し、戦いの中に身を置く事になって行く、そんなお話です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

黒白の魔法少女初等生(プリメール) - sorcier noir et blanc -

shio
ファンタジー
 神話の時代。魔女ニュクスと女神アテネは覇権をかけて争い、ついにアテネがニュクスを倒した。力を使い果たしたアテネは娘同然に育てた七人の娘、七聖女に世の平和を託し眠りにつく。だが、戦いは終わっていなかった。  魔女ニュクスの娘たちは時の狭間に隠れ、魔女の使徒を現出し世の覇権を狙おうと暗躍していた。七聖女は自らの子供たち、魔法少女と共に平和のため、魔女の使徒が率いる従僕と戦っていく。  漆黒の聖女が魔女の使徒エリスを倒し、戦いを終結させた『エリスの災い』――それから十年後。  アルカンシエル魔法少女学園に入学したシェオル・ハデスは魔法は使えても魔法少女に成ることはできなかった。異端の少女に周りは戸惑いつつ学園の生活は始まっていく。  だが、平和な日常はシェオルの入学から変化していく。魔法少女の敵である魔女の従僕が増え始めたのだ。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...