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二章 入学旅行二日目
2-02a 入学旅行二日目の朝
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ドンドンと、扉を叩く音がする。
「キリ、起きて! みんなで朝食にしよう! ねえ、返事して!」
覚醒を促され、霧は目を開けた。明晰夢は途切れ、視界にホテルの豪華な部屋が映る。
部屋の外ではリューエストが何度も霧を呼び、心配するあまり泣きそうな気配を漂わせていた。やがてアデルの声が加わり、「リューエスト、他の宿泊客に迷惑だから静かにしなさいよ。フロントに頼んでキリの部屋に入れてもらうから」と、とりなしている。霧は慌てて、声を張り上げた。
「ごめん、みんな! 今、起きたから、すぐ行くから、待ってて!」
部屋の外からホッとする気配が伝わってくる。
霧はベッドに置きっぱなしだった『クク・アキ』の文庫本をバッグにしまいこむと、サッと服を着替えて扉を開けた。その途端、リューエストが情けない声を上げて霧に抱き着いてくる。
「心配したよぉ、キリ! また眠ったまま起きないんじゃないかと……。ううぅ……そんなことになったら僕は……僕は……」
「ごめん、リューエスト」
霧はリューエストが本気で気を揉んでいたことを、彼の気配から感じ取った。よしよしとリューエストの背中をさすりながら、これやっぱり兄じゃなくて弟じゃね?などと思う。
「ほんと妹離れできないお兄さんよねぇ。キリも大変だ」
霧の部屋に入りながらアデルがそう呟き、続けて部屋に入ってきたリリエンヌが扉を閉めながら声をかけてくる。
「キリ、よく眠れまして? ホテルの売店でパンと飲み物を買ってきましたの。みんなで食べませんこと?」
霧は「わぉい、パン大好き!」と嬉しそうに手を叩くと、昨日の夕食と同じメンバーで朝食を食べ始めた。
パンをかじりながらも霧は、先ほど見た明晰夢の内容を忘れないよう、繰り返し頭の中で反芻する。
(煌竜の主、不屈のソイフラージュ……。そう名乗ったよね、あの子? まさかあの小さな女の子が、『竜辞典』の主、遥か昔の辞典魔法士だなんて……。ということは、チェカと一緒に行方不明になってた3冊の『竜辞典』のうち1冊は、どこかに戻ってきてるってことだよね? だって、『竜辞典』の主があたしに話しかけてきたんだから。いったい、何がどうなってるんだろ。イミフ)
心ここにあらず、という風情で霧が考え込んでいると、リューエストが自分の着ているショートケープをめくって、中に着ているTシャツを見せながら言った。
「見て見てキリ、審判妖精柄のTシャツ! 昨日もらったやつ、さっそく着たよ! キリも着てお揃いしようよ!」
霧は目をパチパチさせながら率直な感想をそのまま舌にのせる。
「うわっ……すごい美貌のキラキライケメンがオタクTシャツ着てる……シュールだわ……」
「キリ、起きて! みんなで朝食にしよう! ねえ、返事して!」
覚醒を促され、霧は目を開けた。明晰夢は途切れ、視界にホテルの豪華な部屋が映る。
部屋の外ではリューエストが何度も霧を呼び、心配するあまり泣きそうな気配を漂わせていた。やがてアデルの声が加わり、「リューエスト、他の宿泊客に迷惑だから静かにしなさいよ。フロントに頼んでキリの部屋に入れてもらうから」と、とりなしている。霧は慌てて、声を張り上げた。
「ごめん、みんな! 今、起きたから、すぐ行くから、待ってて!」
部屋の外からホッとする気配が伝わってくる。
霧はベッドに置きっぱなしだった『クク・アキ』の文庫本をバッグにしまいこむと、サッと服を着替えて扉を開けた。その途端、リューエストが情けない声を上げて霧に抱き着いてくる。
「心配したよぉ、キリ! また眠ったまま起きないんじゃないかと……。ううぅ……そんなことになったら僕は……僕は……」
「ごめん、リューエスト」
霧はリューエストが本気で気を揉んでいたことを、彼の気配から感じ取った。よしよしとリューエストの背中をさすりながら、これやっぱり兄じゃなくて弟じゃね?などと思う。
「ほんと妹離れできないお兄さんよねぇ。キリも大変だ」
霧の部屋に入りながらアデルがそう呟き、続けて部屋に入ってきたリリエンヌが扉を閉めながら声をかけてくる。
「キリ、よく眠れまして? ホテルの売店でパンと飲み物を買ってきましたの。みんなで食べませんこと?」
霧は「わぉい、パン大好き!」と嬉しそうに手を叩くと、昨日の夕食と同じメンバーで朝食を食べ始めた。
パンをかじりながらも霧は、先ほど見た明晰夢の内容を忘れないよう、繰り返し頭の中で反芻する。
(煌竜の主、不屈のソイフラージュ……。そう名乗ったよね、あの子? まさかあの小さな女の子が、『竜辞典』の主、遥か昔の辞典魔法士だなんて……。ということは、チェカと一緒に行方不明になってた3冊の『竜辞典』のうち1冊は、どこかに戻ってきてるってことだよね? だって、『竜辞典』の主があたしに話しかけてきたんだから。いったい、何がどうなってるんだろ。イミフ)
心ここにあらず、という風情で霧が考え込んでいると、リューエストが自分の着ているショートケープをめくって、中に着ているTシャツを見せながら言った。
「見て見てキリ、審判妖精柄のTシャツ! 昨日もらったやつ、さっそく着たよ! キリも着てお揃いしようよ!」
霧は目をパチパチさせながら率直な感想をそのまま舌にのせる。
「うわっ……すごい美貌のキラキライケメンがオタクTシャツ着てる……シュールだわ……」
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