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一章 入学旅行一日目
1-21a 勝敗の行方 1
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ガスティオールは相変わらず下品な笑みを浮かべ、口の端を歪めてアデルをねめつけている。完全に相手を馬鹿にしている素振りだ。
コート中央に置かれた表現対象物は、セセラム競技場を模した精巧なミニチュア。大きさは両掌に乗るぐらいで、咲きほころんだ花のように見える競技場の外観が、美しく再現されている。ガラスドームに覆われているので、精巧なミニチュアがほこりをかぶる心配もない。なかなか見事な飾り物だ。
メインコートには辞典魔法による立体ホログラム装置が備わっていて、表現対象のアイテムが観客にも確認できるよう、中央上空に大きく映し出されている。
今までの課題に使ってきたサブコートとは違い、メインコートには様々な設備が施されていた。中央に立ったレフリーや競技者の声は、どこからか集音して、コート内の隅々にまで届くよう拡声しているらしい。もちろんサブコートと同じく字幕機能も備わっていて、今、観覧席に競技の開始を告げたレフリーの声は、発生と同時に帯状のホログラム文字となって、目に見える形でコート中に表示されている。
それらの全貌を、霧たち24班の面々は競技者用の待機席に座って眺めていた。少し離れた場所に設けられた別の待機席には、1班の面々が座って成り行きを見守っている。
そんな中、レフリーは表現対象のミニチュアが売店で販売されている旨を観客に告げ、
「ぜひ今日の記念にご購入を! ご家族ご友人へのお土産にも最適です! こちらの他にも3種類のサイズがございます!」
と、声を張り上げ宣伝している。それを聞いて、トリフォンが愉快そうに誰ともなく言った。
「ほっほっほっ、商魂たくましいのぉ。毎年この新入生の決勝バトルでは、競技場のオリジナルグッズが表現対象物となるんじゃ。対象物は試合ごとに変わるから、次に何が出てくるか、楽しみじゃの」
「そうそう、物語の中でもそんなこと言ってたな、チェカが……」
そう呟いた霧の声は、コート内の歓声にかき消されたが、アルビレオだけは無表情ながら反応し、チラリと霧に視線をよこしていた。
レフリーの合図で、いよいよバトルが始まった。クジによって決められた先攻は、ガスティオールだ。コート内が静まり返る中、ガスティオールの無駄に大きな声が響き渡る。
「えー、セセラム競技場の置き物! 咲いた花みたいな見た目! 大きさは、えー、ちょうどいいくらい!!」
霧はずっこけた。あまりに幼稚な、その表現に。表現というよりは、ただの説明でしかない。どうせ大したことは無いだろうと思ってはいたが、予想以上にひどい出来だ。これはアデルの表現で耳直しをしたいところだな……と思いながら、霧がそっと溜息をついていると、審判妖精が点数を掲げた。
「……はい、55点です」
気の抜けたレフリーの声が響く。明らかに失望している。無理もない。超難関と言われる魔法士学園の試験に合格した生徒だとは思えない低得点だ。そう思って霧は唖然とした。
表現自体もひどかったが、ガスティオールの『辞典』自体の実力も、常人よりちょっと良い程度のものでしかないようだ。辞典魔法士になれる実力を持った生徒なら、多少表現が不得手でも、『辞典』の持つ威力で言葉が強化されるため、少なくとも80点は取れるはずなのに。
霧は初めてアデルに会った時、彼女が言っていたことを思い出した。
――入学を許可される生徒の質が、年々低下しているって本当だったのね。
アデルは確か、そう言っていた。
霧は考え込んだ。『辞典』及び辞典魔法で整えられたこの『クク・アキ』の世界には、不正の入り込む隙がほとんどない。魔法士学園も然り。裏口入学などという卑怯な手は使えない――はずなのだ。にもかかわらず、これほど実力不足な男が新入生として認められたということは――。
(おかしいな。何かが、変だ。う~ん……よく分からないけど、なんか、釈然としない。違和感。不合理。なんで……?)
霧は答えの出ない問題と格闘するのを諦めて、表現バトルに意識を戻した。ちょうどレフリーの合図で、アデルが表現を始めたところだ。
コート中央に置かれた表現対象物は、セセラム競技場を模した精巧なミニチュア。大きさは両掌に乗るぐらいで、咲きほころんだ花のように見える競技場の外観が、美しく再現されている。ガラスドームに覆われているので、精巧なミニチュアがほこりをかぶる心配もない。なかなか見事な飾り物だ。
メインコートには辞典魔法による立体ホログラム装置が備わっていて、表現対象のアイテムが観客にも確認できるよう、中央上空に大きく映し出されている。
今までの課題に使ってきたサブコートとは違い、メインコートには様々な設備が施されていた。中央に立ったレフリーや競技者の声は、どこからか集音して、コート内の隅々にまで届くよう拡声しているらしい。もちろんサブコートと同じく字幕機能も備わっていて、今、観覧席に競技の開始を告げたレフリーの声は、発生と同時に帯状のホログラム文字となって、目に見える形でコート中に表示されている。
それらの全貌を、霧たち24班の面々は競技者用の待機席に座って眺めていた。少し離れた場所に設けられた別の待機席には、1班の面々が座って成り行きを見守っている。
そんな中、レフリーは表現対象のミニチュアが売店で販売されている旨を観客に告げ、
「ぜひ今日の記念にご購入を! ご家族ご友人へのお土産にも最適です! こちらの他にも3種類のサイズがございます!」
と、声を張り上げ宣伝している。それを聞いて、トリフォンが愉快そうに誰ともなく言った。
「ほっほっほっ、商魂たくましいのぉ。毎年この新入生の決勝バトルでは、競技場のオリジナルグッズが表現対象物となるんじゃ。対象物は試合ごとに変わるから、次に何が出てくるか、楽しみじゃの」
「そうそう、物語の中でもそんなこと言ってたな、チェカが……」
そう呟いた霧の声は、コート内の歓声にかき消されたが、アルビレオだけは無表情ながら反応し、チラリと霧に視線をよこしていた。
レフリーの合図で、いよいよバトルが始まった。クジによって決められた先攻は、ガスティオールだ。コート内が静まり返る中、ガスティオールの無駄に大きな声が響き渡る。
「えー、セセラム競技場の置き物! 咲いた花みたいな見た目! 大きさは、えー、ちょうどいいくらい!!」
霧はずっこけた。あまりに幼稚な、その表現に。表現というよりは、ただの説明でしかない。どうせ大したことは無いだろうと思ってはいたが、予想以上にひどい出来だ。これはアデルの表現で耳直しをしたいところだな……と思いながら、霧がそっと溜息をついていると、審判妖精が点数を掲げた。
「……はい、55点です」
気の抜けたレフリーの声が響く。明らかに失望している。無理もない。超難関と言われる魔法士学園の試験に合格した生徒だとは思えない低得点だ。そう思って霧は唖然とした。
表現自体もひどかったが、ガスティオールの『辞典』自体の実力も、常人よりちょっと良い程度のものでしかないようだ。辞典魔法士になれる実力を持った生徒なら、多少表現が不得手でも、『辞典』の持つ威力で言葉が強化されるため、少なくとも80点は取れるはずなのに。
霧は初めてアデルに会った時、彼女が言っていたことを思い出した。
――入学を許可される生徒の質が、年々低下しているって本当だったのね。
アデルは確か、そう言っていた。
霧は考え込んだ。『辞典』及び辞典魔法で整えられたこの『クク・アキ』の世界には、不正の入り込む隙がほとんどない。魔法士学園も然り。裏口入学などという卑怯な手は使えない――はずなのだ。にもかかわらず、これほど実力不足な男が新入生として認められたということは――。
(おかしいな。何かが、変だ。う~ん……よく分からないけど、なんか、釈然としない。違和感。不合理。なんで……?)
霧は答えの出ない問題と格闘するのを諦めて、表現バトルに意識を戻した。ちょうどレフリーの合図で、アデルが表現を始めたところだ。
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