40 / 175
一章 入学旅行一日目
1-20 決勝バトル
しおりを挟む
課題4が無事に「完了」になったため、霧はすぐにでもこの競技場を後にして次の課題に向かいたかったが、そうはいかなかった。誰もが予想した通り、霧たち24班は余興の決勝バトルへと進むことになったのである。
決勝バトルが行われるメインコートは、6万人ほどが収容可能な大規模なもので、霧たちが到着したときにはすでに観客で埋め尽くされていた。
対戦相手は1班。どんな連中かと思いきや……、霧たちがコート中央に辿り着くと、聞き覚えのある声が飛んできた。
「いよぉ、エセダリアとインチキおばはんじゃねぇか。ケッ、胸糞悪ぃな!」
「ガスティオール……!」
アデルの顔が怒りに染まる。
霧たちの対戦相手は、ガスティオールの所属する班だったのである。
(うげぇ……よりにもよって、あの男かよ)
霧は顔をしかめた。
今日学園から降り立ったばかりの時、草原で出会ったあの性格の悪い男、ガスティオール。彼の外見はまるでおとぎ話に出てきそうな金髪碧眼の王子様のようだが、常に嘲りの表情を浮かべ醜く顔をゆがめているせいで、せっかくの美貌がかなり減点されている。
ガスティオールは相変わらずの下卑た表情でアデルと霧をねめつけながら、吐き捨てるように言った。
「1万点取っただとぉ? いったいどんなズルい手を使ってやがる、インチキおばはんめ。おまえもだ、エセダリアのアデル。ちょっといい点取ったからってドヤりやがって、おまえらなんか俺様の班の実力に敵うわけねぇってのによ、ヘッ!」
どうやらガスティオールは、霧たち24班のバトル成績に関する情報を、どこかで入手したらしい。噂というものは瞬く間に広がるものだ。これだけの観客がメインコートに集まったということは、すでに話題になっているのだろう。偶然耳にした可能性もあるし、1班の面々が、対戦相手の情報を積極的に集めたのかもしれない。
しかし霧にとって、そんなことはどうでもよかった。更に、「インチキおばはん」などという幼稚な侮辱を投げつけられたこともどうでもよく、それより、リューエストの怒りが気になった。しかし傍らのリューエストはすました顔をしている。霧は驚いて声をかけた。
「リューエスト、大丈夫? 息してる? ハッ、もしかして、怒りが沸点を越えて一周回って平常運転に切り替わったとか?!」
「ん? ……え? 何?」
リューエストの戸惑うような返答をそばで聞いていたアデルが、怒りのこもった声で言い放つ。
「ちょっとリューエスト、あなたの大事な大事な妹さんが、インチキおばはんなんていう、不名誉極まりない侮辱的なニックネームを付けられたのに、平気なの?!」
「えっ……えっ……それ、キリのことだったのか?! 嘘だぁ……あり得ない……」
リューエストは更に戸惑いの表情を浮かべ、ポカンとしている。どうやら彼はあまりのショックに現状把握を拒否していいるようだ。そんなリューエストを放っておき、アデルは24班のみんなに言った。
「この決勝戦は昔のトーナメント方式の名残で、班対抗の勝ち抜き戦よ。班から一人ずつ出してバトルして、勝った方が残って次の対戦相手と闘うの。最後までメンバーの残った班が勝ち。あのガスティオールというゲスは、絶対一番に出てくる。自分が対戦相手全員に勝つと思ってるバカだからね。だから最初に私が潰してやりたい。みんな、それでいい?」
24班の面々はうなずき、対戦順を決めた。1番目がアデル、2番アルビレオ、3番リリエンヌ、4番トリフォン、5番リューエスト、そして最後は霧になった。霧は最後になって嬉しかった。自分の出番がなくアデルが全員コテンパンにしてくれるだろうとホッとしている。
ほどなくして班対抗の決勝バトルは、レフリーの開催の挨拶で華々しく始まった。巨大なメインコートは満場で、立ち見客も出ている。
霧は『クク・アキ』の物語の中に出てきた、入学旅行初日の描写を思い出した。物語の主人公チェカもまた、決勝バトルに進み、大勢の観客のいる中、余興の表現バトルを繰り広げ喝采を受けていたのを。今、まさに、そのシーンと同じような体験の真っ只中なのだ。
(すごいなぁ……臨場感パネェ……。夢……だとは思えない……)
夢じゃない、と、どこからか響いた声を、霧は思い出す。あの声が真実を告げていたのか、あるいは自分の願望が夢の中で虚言を作り出しただけなのか、霧にはまだ判断が付かなかった。
「ご来場の皆様、お待たせいたしました! これより魔法士学園1540年度新入生による決勝バトルを開始します! 第一試合、1班ガスティオール・カワードゥ、対するは24班アデル・ダリアリーデレ!」
競技の始まりを告げる声に、コート中からワッと歓声が上がる。
アデルの予想通り、1班最初の対戦者はガスティオールだった。
決勝バトルが行われるメインコートは、6万人ほどが収容可能な大規模なもので、霧たちが到着したときにはすでに観客で埋め尽くされていた。
対戦相手は1班。どんな連中かと思いきや……、霧たちがコート中央に辿り着くと、聞き覚えのある声が飛んできた。
「いよぉ、エセダリアとインチキおばはんじゃねぇか。ケッ、胸糞悪ぃな!」
「ガスティオール……!」
アデルの顔が怒りに染まる。
霧たちの対戦相手は、ガスティオールの所属する班だったのである。
(うげぇ……よりにもよって、あの男かよ)
霧は顔をしかめた。
今日学園から降り立ったばかりの時、草原で出会ったあの性格の悪い男、ガスティオール。彼の外見はまるでおとぎ話に出てきそうな金髪碧眼の王子様のようだが、常に嘲りの表情を浮かべ醜く顔をゆがめているせいで、せっかくの美貌がかなり減点されている。
ガスティオールは相変わらずの下卑た表情でアデルと霧をねめつけながら、吐き捨てるように言った。
「1万点取っただとぉ? いったいどんなズルい手を使ってやがる、インチキおばはんめ。おまえもだ、エセダリアのアデル。ちょっといい点取ったからってドヤりやがって、おまえらなんか俺様の班の実力に敵うわけねぇってのによ、ヘッ!」
どうやらガスティオールは、霧たち24班のバトル成績に関する情報を、どこかで入手したらしい。噂というものは瞬く間に広がるものだ。これだけの観客がメインコートに集まったということは、すでに話題になっているのだろう。偶然耳にした可能性もあるし、1班の面々が、対戦相手の情報を積極的に集めたのかもしれない。
しかし霧にとって、そんなことはどうでもよかった。更に、「インチキおばはん」などという幼稚な侮辱を投げつけられたこともどうでもよく、それより、リューエストの怒りが気になった。しかし傍らのリューエストはすました顔をしている。霧は驚いて声をかけた。
「リューエスト、大丈夫? 息してる? ハッ、もしかして、怒りが沸点を越えて一周回って平常運転に切り替わったとか?!」
「ん? ……え? 何?」
リューエストの戸惑うような返答をそばで聞いていたアデルが、怒りのこもった声で言い放つ。
「ちょっとリューエスト、あなたの大事な大事な妹さんが、インチキおばはんなんていう、不名誉極まりない侮辱的なニックネームを付けられたのに、平気なの?!」
「えっ……えっ……それ、キリのことだったのか?! 嘘だぁ……あり得ない……」
リューエストは更に戸惑いの表情を浮かべ、ポカンとしている。どうやら彼はあまりのショックに現状把握を拒否していいるようだ。そんなリューエストを放っておき、アデルは24班のみんなに言った。
「この決勝戦は昔のトーナメント方式の名残で、班対抗の勝ち抜き戦よ。班から一人ずつ出してバトルして、勝った方が残って次の対戦相手と闘うの。最後までメンバーの残った班が勝ち。あのガスティオールというゲスは、絶対一番に出てくる。自分が対戦相手全員に勝つと思ってるバカだからね。だから最初に私が潰してやりたい。みんな、それでいい?」
24班の面々はうなずき、対戦順を決めた。1番目がアデル、2番アルビレオ、3番リリエンヌ、4番トリフォン、5番リューエスト、そして最後は霧になった。霧は最後になって嬉しかった。自分の出番がなくアデルが全員コテンパンにしてくれるだろうとホッとしている。
ほどなくして班対抗の決勝バトルは、レフリーの開催の挨拶で華々しく始まった。巨大なメインコートは満場で、立ち見客も出ている。
霧は『クク・アキ』の物語の中に出てきた、入学旅行初日の描写を思い出した。物語の主人公チェカもまた、決勝バトルに進み、大勢の観客のいる中、余興の表現バトルを繰り広げ喝采を受けていたのを。今、まさに、そのシーンと同じような体験の真っ只中なのだ。
(すごいなぁ……臨場感パネェ……。夢……だとは思えない……)
夢じゃない、と、どこからか響いた声を、霧は思い出す。あの声が真実を告げていたのか、あるいは自分の願望が夢の中で虚言を作り出しただけなのか、霧にはまだ判断が付かなかった。
「ご来場の皆様、お待たせいたしました! これより魔法士学園1540年度新入生による決勝バトルを開始します! 第一試合、1班ガスティオール・カワードゥ、対するは24班アデル・ダリアリーデレ!」
競技の始まりを告げる声に、コート中からワッと歓声が上がる。
アデルの予想通り、1班最初の対戦者はガスティオールだった。
1
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説

異世界で泣いていた僕は、戻って来てヒーロー活動始めます。
まったりー
ファンタジー
8歳の頃、勇者召喚で異世界に飛んだ主人公、神楽啓斗(かぐらけいと)は、1年間を毎日泣いて過ごしていました。
そんな彼を可哀そうと思ったのは、その世界で女神と呼ばれている女性で、使い魔を通して色々力添えをして行き、段々と元気になった神楽啓斗(かぐらけいと)は、異世界で生きる訓練を始めます。
ですが、子供は親元に戻るべきと女神様は力を使い、現代に戻してくれたのです。
戻って来た現代では、女神様の使い魔も助けも行われ続け、神楽啓斗(かぐらけいと)は異世界の力を使い、困ってる人を助けるヒーロー活動を始めます。
普通の平和な世界だと思っていた神楽啓斗(かぐらけいと)でしたが、世界には裏の顔が存在し、戦いの中に身を置く事になって行く、そんなお話です。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394


ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる