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一章 入学旅行一日目
1-16a 班ミーティング1
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やがて昼食が済むと、アデルが一枚の紙をテーブルの上に置いて言った。
「みんな、課題3お疲れ様。キリの取得した点数には驚いたけど、この人ちょっと変だから、まあ置いとくとして」
「置いとかれました……。でも珍獣扱いで牢屋行きにならなくて本当に良かった……危うくただのオタクが見世物のオタクになるところだった……」
霧の呟きを無視して、アデルは続けた。
「次はいよいよ課題4ね。課題4は、班対抗の団体戦よ。私が事前に調べておいたところ、歴代新入生の表現バトルの平均点は120点位らしいの。対してこの24班は各自200点以上取得している。つまり私たちははかなり優秀ということで、次の課題4の結果が出たら、多分決勝バトルに進んでしまうと思うのよね。しかも24班には珍獣が紛れ込んでるから、確実に、ね」
チラ、と霧に視線を投げかけながらアデルがそう言っている間、霧は『クク・アキ』の物語を思い出していた。
入学旅行に出かけた新入生が、最初に当たる課題――競技場での表現バトル。
これは新入生の力量と性格を、学園が把握するために設けられた課題だと、『クク・アキ』の作中で主人公チェカが語っていた。表現バトルは公の場で自分の『辞典』の力と表現力を披露しなくてはならないし、観客が見ている中でどれだけ自分の力を発揮できるか、それはやはり、その人物の性格が影響するからだ。
この魔法士学園の素晴らしいところは、個性が尊重されるところだ。
日本の社会のように「団体行動を乱す奴は悪」とか、「出る杭は打たれる」という思想は皆無で、個性や特性を殺すような教育は一切しない。個人の欠点よりも長所に目を向け、それを最大限生かせるよう、教育を進める。
それにはまず、生徒一人一人の個性を知ること。
そのための、入学旅行なのである。
そして、そのための班行動、そのための競技場課題、そのための――表現バトルなのである。
つまりバトルの勝敗や優劣は、問題ではない。
生徒ランキング、という存在であたかも優劣を競い合うシステムを導入しているかのように見えるが、その実、学園がランキングで見ているのは生徒の特性なのではないかと、物語の主人公、チェカも入学旅行中に言っていた。霧はそれを思い出し、考え込む。
(優劣に関心があるか、競うことを好むか否か。学園は生徒の『辞典』を通して、それらのデータを集めているって、チェカは言ってたっけ。生徒たちの個性を尊重して、卒業後の進路が有意義になるよう、的確に導くために。ほんと、素晴らしいなぁ……魔法士学園)
一連の競技場での課題は、公の場にて繰り広げられる表現バトルを通して、生徒一人一人がどのような個性を見せるか、そこが重要なのだ。
また、この課題は一般人へのお披露目も兼ねているのだと、霧は思っている。
将来辞典魔法士になり世界中を渡り、人々に貢献する道を歩むことになる生徒たちを、「今年の新入生です。どうぞよろしく」と世間にお披露目し、それと共に、最高の教育を提供する学園の存在感を、大なり小なり知らしめる。その絶好の機会なのだ。
この辺は『クク・アキ』のファン、通称『ククリアン』が色んな場で考察を繰り広げている。なぜ入学旅行の最初の課題が毎年競技場の表現バトルなのか、『ククリアン』にとっては興味の尽きない内容なのだ。
興味が尽きない――といえば、この『クク・アキ』の世界の一般人にとっても、魔法士学園の新入生のバトルは、一年に一度の愉快な行事として認知度が高い。新入生の課題の場に選ばれた競技場周辺は、毎年お祭りのような騒ぎとなり、生徒たちは皆に大歓迎される。
あらゆる職業の中でも一番の花形である辞典魔法士、その卵たちともなれば相当な実力者である。新入生たちのバトルを見学するのは、辞典競技ファンにとっては絶対見逃せない一年に一度の楽しみなのだ。
だからこそ、競技場での課題3と4が公開試合で、なおかつ課題4が班対抗の団体戦となっているのである。一般人へのサービスも兼ねている、というわけだ。
この先まだまだ続く入学旅行では、各地で人々の協力を得る必要がある。学園は生徒による辞典競技を披露することによって、人々の協力に対する感謝を示しているのだ。
その証拠に、昔この新入生の表現バトルは、トーナメント形式で3日にわたり華々しく開催されていたらしい。
しかし現在は入学旅行の日数を短縮するために規模が縮小されていて、霧たちが目下取り組んでいる競技場体験も、今日一日で終わるような時間配分が取られている。
このあと霧たち第24班は、第17班と対戦する予定だ。各自相手班のうち一人と1対1で対戦すれば、課題4はクリアとなる。
しかし問題はそのあとで、先ほどアデルが言った「決勝バトル」というものが控えている。これは競技場課題がトーナメント形式だった時の、名残だ。
「みんな、課題3お疲れ様。キリの取得した点数には驚いたけど、この人ちょっと変だから、まあ置いとくとして」
「置いとかれました……。でも珍獣扱いで牢屋行きにならなくて本当に良かった……危うくただのオタクが見世物のオタクになるところだった……」
霧の呟きを無視して、アデルは続けた。
「次はいよいよ課題4ね。課題4は、班対抗の団体戦よ。私が事前に調べておいたところ、歴代新入生の表現バトルの平均点は120点位らしいの。対してこの24班は各自200点以上取得している。つまり私たちははかなり優秀ということで、次の課題4の結果が出たら、多分決勝バトルに進んでしまうと思うのよね。しかも24班には珍獣が紛れ込んでるから、確実に、ね」
チラ、と霧に視線を投げかけながらアデルがそう言っている間、霧は『クク・アキ』の物語を思い出していた。
入学旅行に出かけた新入生が、最初に当たる課題――競技場での表現バトル。
これは新入生の力量と性格を、学園が把握するために設けられた課題だと、『クク・アキ』の作中で主人公チェカが語っていた。表現バトルは公の場で自分の『辞典』の力と表現力を披露しなくてはならないし、観客が見ている中でどれだけ自分の力を発揮できるか、それはやはり、その人物の性格が影響するからだ。
この魔法士学園の素晴らしいところは、個性が尊重されるところだ。
日本の社会のように「団体行動を乱す奴は悪」とか、「出る杭は打たれる」という思想は皆無で、個性や特性を殺すような教育は一切しない。個人の欠点よりも長所に目を向け、それを最大限生かせるよう、教育を進める。
それにはまず、生徒一人一人の個性を知ること。
そのための、入学旅行なのである。
そして、そのための班行動、そのための競技場課題、そのための――表現バトルなのである。
つまりバトルの勝敗や優劣は、問題ではない。
生徒ランキング、という存在であたかも優劣を競い合うシステムを導入しているかのように見えるが、その実、学園がランキングで見ているのは生徒の特性なのではないかと、物語の主人公、チェカも入学旅行中に言っていた。霧はそれを思い出し、考え込む。
(優劣に関心があるか、競うことを好むか否か。学園は生徒の『辞典』を通して、それらのデータを集めているって、チェカは言ってたっけ。生徒たちの個性を尊重して、卒業後の進路が有意義になるよう、的確に導くために。ほんと、素晴らしいなぁ……魔法士学園)
一連の競技場での課題は、公の場にて繰り広げられる表現バトルを通して、生徒一人一人がどのような個性を見せるか、そこが重要なのだ。
また、この課題は一般人へのお披露目も兼ねているのだと、霧は思っている。
将来辞典魔法士になり世界中を渡り、人々に貢献する道を歩むことになる生徒たちを、「今年の新入生です。どうぞよろしく」と世間にお披露目し、それと共に、最高の教育を提供する学園の存在感を、大なり小なり知らしめる。その絶好の機会なのだ。
この辺は『クク・アキ』のファン、通称『ククリアン』が色んな場で考察を繰り広げている。なぜ入学旅行の最初の課題が毎年競技場の表現バトルなのか、『ククリアン』にとっては興味の尽きない内容なのだ。
興味が尽きない――といえば、この『クク・アキ』の世界の一般人にとっても、魔法士学園の新入生のバトルは、一年に一度の愉快な行事として認知度が高い。新入生の課題の場に選ばれた競技場周辺は、毎年お祭りのような騒ぎとなり、生徒たちは皆に大歓迎される。
あらゆる職業の中でも一番の花形である辞典魔法士、その卵たちともなれば相当な実力者である。新入生たちのバトルを見学するのは、辞典競技ファンにとっては絶対見逃せない一年に一度の楽しみなのだ。
だからこそ、競技場での課題3と4が公開試合で、なおかつ課題4が班対抗の団体戦となっているのである。一般人へのサービスも兼ねている、というわけだ。
この先まだまだ続く入学旅行では、各地で人々の協力を得る必要がある。学園は生徒による辞典競技を披露することによって、人々の協力に対する感謝を示しているのだ。
その証拠に、昔この新入生の表現バトルは、トーナメント形式で3日にわたり華々しく開催されていたらしい。
しかし現在は入学旅行の日数を短縮するために規模が縮小されていて、霧たちが目下取り組んでいる競技場体験も、今日一日で終わるような時間配分が取られている。
このあと霧たち第24班は、第17班と対戦する予定だ。各自相手班のうち一人と1対1で対戦すれば、課題4はクリアとなる。
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