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一章 入学旅行一日目
1-11b セセラム競技場への道のり 2
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正魔法士になれる唯一の場所――魔法士学園本校への入学を許された者は、一年に一度の入学式のその日、さっそく入学旅行に旅立つ。
生徒たちは入学旅行中に出される課題を通して適性を弾き出され、すべての課題を終えて学園に戻って来ると、おのおの最も相応しいクラスへと振り分けられる。そうしてやっと、空飛ぶ古城学園での本授業が始まるのである。
この入学旅行は『ククリコ・アーキペラゴ~空飛ぶ古城学園と魔法士たち~』の1~2巻に収録されたエピソードで、それらはまさに学園青春もの、楽しい学園生活のプレリュードを飾るに相応しい活気あるストーリー展開で綴られていた。
この物語を愛するファンなら、誰もが、登場人物と共に入学旅行を体験してみたい、と願うだろう。もちろん、霧も例外ではない。
その入学旅行のさなかに、自分はいるのだ――そう思うと、霧は体中の血が沸騰するかのような興奮を覚えた。
先程リューエストの言っていたことが気になるものの、もはやこれが夢だろうが現実だろうが、霧にとってはどうでも良かった。大事なのは一つ。今自分は、入学旅行を始めたばかりだということ。
「ああ、素晴らしぃっ! 楽しみっ! にゅう、がく、りょこぉーっ!!」
思わず声に出して叫んでしまった霧のしまりのない顔を白い目で見ながら、アデルがツカツカと詰め寄ってきた。
「ちょっと、なに浮付いてるのよ! 入学旅行は遊びじゃないのよ!! これは最初の試練!! 自分の学園での立ち位置が、この旅行ですべて決まると言っても過言ではないわ! 気を引き締めて当たってもらわないと!! わかってる?! オバサン!!」
どうやらアデルの心は、先ほどのリューエストの脅しになど、これっぽちも屈していないようだ。物語の中同様の、アデルの気の強いはっきりとした物言いに、霧はホッとした。アデルはこうでなくちゃ、と思いながらも少々その剣幕に気圧されつつ、霧はヘコヘコと頭を下げる。
「あっ、ハイ、すみません。つい、おやつは500円までみたいな遠足気分に……。でもその、オバサンっての、やめてもらえません? 自分、ものすごくその言葉、嫌いなんですわ……」
霧がそう言うと、リューエストが会話に加わってくる。
「そうだよアデル、その呼び方はいけないな。第一、こんなに可愛いキリのどこがオバサンなのか、僕にはさっぱりわからない。だいたい、君にとってはいとこのお姉さんなんだから、キリ姉さん、とかキリお姉ちゃん、とか呼んでもいいんだよ? ね、キリ?」
「うんうん、いいよいいよ、呼んで呼んで。上品にキリお姉さま、でもいいし、もっと親しみを込めてキリ姉、でもいいよ?」
アデルは明らかに嫌そうに「うげぇ」という顔をしている。
霧はますます喜んだ。いいぞいいぞ、アデルをツンデレ妹にするなら、まずはツンじゃなきゃ! などと心の中で叫び、はしゃいでいる。
その霧の心中が零れて伝わり、何となく悪寒を覚えたのか、アデルは少し霧から距離を取ると幼なじみのリリエンヌと並んでおしゃべりを始めた。
霧はもう少しアデルと親睦を深めたいと思ったが、きっかけをつかむことができないまま、一行は無事セセラム競技場へとたどり着いた。
セセラム競技場を上から見ると、大きく丸い、開花した花のように見えるとか。大きな円形の建物を真ん中にして、周囲に小ぶりな丸い建造物がいくつも浮かぶように並んでいる様子は、地上から見てもとても優美な外見だ。それらの建造物はいずれも競技の開催されるコートで、中央がメインコート、周囲に並んでいるのがサブコートと呼ばれている。
「うっわ、すっごい人だな……」
霧がそう感想を漏らした通り、競技場の周辺は人でごった返していた。
驚きを隠しきれない霧に向かって、トリフォンがほっほっほっ、と笑いかけてくる。
「ここはいつも賑わっているんじゃが、今日はまた一段と混雑しておるな。まあ、辞典魔法士見習いのバトルが見られる、一年に一度の祭典じゃからのぉ」
「あ~、そっかぁ、みんな魔法士の卵のバトルが見たいのかぁ……。う~ん、緊張するなぁ、見物人に見られながらの競技は……どっかに顔が隠れるお面でも売ってないかなぁ……」
そう言いながら霧は、周囲をキョロキョロと見渡した。競技場の周りにはたくさんの屋台が並び、お店の人の呼び込みの声や、楽しそうな人々の笑い声に交じって、美味しそうな匂いが漂ってくる。
「えっ、あれお好み焼きじゃない? いや違うだろうけど似てる。うん、匂いも同じ。うわっ、美味しそう……」
フラフラと霧が屋台に引き寄せられてゆくのを、アデルが止めた。
「ちょっと、遊びじゃないって言ったでしょ! 早く受け付けしないと。きっと私たちが最後よ! 誰のせいでこんなに遅くなったと思ってんのよ、しっかりしてよね!」
「あ、すいません。へぇ、行きます、行きますとも。さよなら、お好み焼き……」
霧は腹ごなしを諦めて、すごすごと競技場へ向かった――立ち並ぶ屋台が販売している、美味しそうな食べ物を飢えた眼差しで見つめながら。
生徒たちは入学旅行中に出される課題を通して適性を弾き出され、すべての課題を終えて学園に戻って来ると、おのおの最も相応しいクラスへと振り分けられる。そうしてやっと、空飛ぶ古城学園での本授業が始まるのである。
この入学旅行は『ククリコ・アーキペラゴ~空飛ぶ古城学園と魔法士たち~』の1~2巻に収録されたエピソードで、それらはまさに学園青春もの、楽しい学園生活のプレリュードを飾るに相応しい活気あるストーリー展開で綴られていた。
この物語を愛するファンなら、誰もが、登場人物と共に入学旅行を体験してみたい、と願うだろう。もちろん、霧も例外ではない。
その入学旅行のさなかに、自分はいるのだ――そう思うと、霧は体中の血が沸騰するかのような興奮を覚えた。
先程リューエストの言っていたことが気になるものの、もはやこれが夢だろうが現実だろうが、霧にとってはどうでも良かった。大事なのは一つ。今自分は、入学旅行を始めたばかりだということ。
「ああ、素晴らしぃっ! 楽しみっ! にゅう、がく、りょこぉーっ!!」
思わず声に出して叫んでしまった霧のしまりのない顔を白い目で見ながら、アデルがツカツカと詰め寄ってきた。
「ちょっと、なに浮付いてるのよ! 入学旅行は遊びじゃないのよ!! これは最初の試練!! 自分の学園での立ち位置が、この旅行ですべて決まると言っても過言ではないわ! 気を引き締めて当たってもらわないと!! わかってる?! オバサン!!」
どうやらアデルの心は、先ほどのリューエストの脅しになど、これっぽちも屈していないようだ。物語の中同様の、アデルの気の強いはっきりとした物言いに、霧はホッとした。アデルはこうでなくちゃ、と思いながらも少々その剣幕に気圧されつつ、霧はヘコヘコと頭を下げる。
「あっ、ハイ、すみません。つい、おやつは500円までみたいな遠足気分に……。でもその、オバサンっての、やめてもらえません? 自分、ものすごくその言葉、嫌いなんですわ……」
霧がそう言うと、リューエストが会話に加わってくる。
「そうだよアデル、その呼び方はいけないな。第一、こんなに可愛いキリのどこがオバサンなのか、僕にはさっぱりわからない。だいたい、君にとってはいとこのお姉さんなんだから、キリ姉さん、とかキリお姉ちゃん、とか呼んでもいいんだよ? ね、キリ?」
「うんうん、いいよいいよ、呼んで呼んで。上品にキリお姉さま、でもいいし、もっと親しみを込めてキリ姉、でもいいよ?」
アデルは明らかに嫌そうに「うげぇ」という顔をしている。
霧はますます喜んだ。いいぞいいぞ、アデルをツンデレ妹にするなら、まずはツンじゃなきゃ! などと心の中で叫び、はしゃいでいる。
その霧の心中が零れて伝わり、何となく悪寒を覚えたのか、アデルは少し霧から距離を取ると幼なじみのリリエンヌと並んでおしゃべりを始めた。
霧はもう少しアデルと親睦を深めたいと思ったが、きっかけをつかむことができないまま、一行は無事セセラム競技場へとたどり着いた。
セセラム競技場を上から見ると、大きく丸い、開花した花のように見えるとか。大きな円形の建物を真ん中にして、周囲に小ぶりな丸い建造物がいくつも浮かぶように並んでいる様子は、地上から見てもとても優美な外見だ。それらの建造物はいずれも競技の開催されるコートで、中央がメインコート、周囲に並んでいるのがサブコートと呼ばれている。
「うっわ、すっごい人だな……」
霧がそう感想を漏らした通り、競技場の周辺は人でごった返していた。
驚きを隠しきれない霧に向かって、トリフォンがほっほっほっ、と笑いかけてくる。
「ここはいつも賑わっているんじゃが、今日はまた一段と混雑しておるな。まあ、辞典魔法士見習いのバトルが見られる、一年に一度の祭典じゃからのぉ」
「あ~、そっかぁ、みんな魔法士の卵のバトルが見たいのかぁ……。う~ん、緊張するなぁ、見物人に見られながらの競技は……どっかに顔が隠れるお面でも売ってないかなぁ……」
そう言いながら霧は、周囲をキョロキョロと見渡した。競技場の周りにはたくさんの屋台が並び、お店の人の呼び込みの声や、楽しそうな人々の笑い声に交じって、美味しそうな匂いが漂ってくる。
「えっ、あれお好み焼きじゃない? いや違うだろうけど似てる。うん、匂いも同じ。うわっ、美味しそう……」
フラフラと霧が屋台に引き寄せられてゆくのを、アデルが止めた。
「ちょっと、遊びじゃないって言ったでしょ! 早く受け付けしないと。きっと私たちが最後よ! 誰のせいでこんなに遅くなったと思ってんのよ、しっかりしてよね!」
「あ、すいません。へぇ、行きます、行きますとも。さよなら、お好み焼き……」
霧は腹ごなしを諦めて、すごすごと競技場へ向かった――立ち並ぶ屋台が販売している、美味しそうな食べ物を飢えた眼差しで見つめながら。
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