上 下
21 / 175
一章 入学旅行一日目

1-10b 「お兄ちゃん大好き!」(若干棒読み)

しおりを挟む
 霧は肉親からの愛情を知らない。だから「兄から溺愛されている妹」という立ち位置は最高に甘やかで本来なら大歓迎だが、霧にはもっと大事なミッションがあった。

には悪いけど、引っ込んどいてもらわないと!)

 霧は思いっきり息を吸い込むと、拳を握り締め、駄々っ子のように足を踏み鳴らしながら、叫んだ。

「あたしは入学旅行を楽しみたい! 入学旅行を楽しみたい! 入学旅行を楽しみたい!」

 大事なので3回言いました、とばかりに繰り返し、霧はリューエストの頭を押さえつけて前倒しさせると、自分もみんなに向かって頭を下げ、叫んだ。

「兄が失礼しました! ごめんなさい! 皆さんの身は心身共に安全です! なぜならあたしは非常に頑丈で、決して皆さんによって傷つけらることは無いからです! ついでにアホなので、嫌みを言われても気づきませんから安心してください! つまり兄の反撃が襲う可能性はゼロ、皆無です!! 皆さんの学園生活は、順風満帆・安全第一・平穏無事です!!」

 そう言い終わるや、霧はリューエストと共に顔を上げ、きつい眼差しの三白眼で、かたわらの「兄」を見つめた。霧が怒っているのを感じ、リューエストはさっきとは打って変わった情けない表情で震えている。

「キ、キリ……ご、ごめん、僕、何か間違えたんだね? お兄ちゃんはただ、キリが可愛くて、愛おしくて、守りたくて……。お、怒ってるんだね、キリ、お、お願いだ、お兄ちゃんを嫌いにならないで」

 その美しい宝石アクアマリンのような瞳から、ポロリと涙がこぼれ落ちる。霧は驚いて、ポケットティッシュを取り出すとリューエストの涙を拭いて言った。兄というよりこれ弟じゃん?と思いながら。

「怒ってない、もう怒ってないよ! リューエストを嫌いになんかならないよ、大好きだよ! デコピンしてごめんね、痛かった?」

 リューエストの美しい顔が、ぱあっと、喜びに光り輝く。

「ほんと? 怒ってない? じゃあ、もう一回言って」

「うんうん、怒ってない。怒ってないから、泣かないで」

「そこじゃなくて、大好き、ってとこだよ! お兄ちゃん大好きって、もう一回言って!」

「…………」

 目をキラキラさせて霧を見つめる、その美しい「兄」の顔を、霧は呆れたように見つめ返した。

(この夢、いったい誰のシナリオなんだろ。それともあたしってば潜在意識で、「愛され妹」になりたい願望をこじらせてたんだろうか。いやいや、兄弟姉妹欲しいなんて、一度も思ったことないし、むしろあのクズ両親の被害があたし一人で良かったと思ってるくらいなのに、意外だ……。ううむ……とりあえず、全然物語と内面イメージの違うこのリューエスト、おとなしくさせておくか)

 そうFAファイナルアンサーを出した霧はにこっと笑うと、サービス精神を上乗せして言った。

、嬉しいよ。だから余計なことはしないでね? 今度みんなを脅迫したら、あたし、ブチ切れるからね。あたし、リューエストは何もしないで傍にいてくれるだけでいいの。お兄ちゃん、大好き!」

 若干棒読みだったが、霧のセリフにリューエストは目に涙を溜めて感動している。どうやら「お兄ちゃん、大好き」のところだけ頭の中で繰り返し再生しているようだ。

 霧は静かになったリューエストにホッとして、『辞典』を開いて入学旅行の課題用ページを確認した。

――――――――――――――
魔法士学園 入学旅行 第1540年度

【第24班 6名 以下50音順】
1.アデル・ダリアリーデレ
2.アルビレオ・ファルステーロ
3.キリ・ダリアリーデレ
4.トリフォン・ワイズマン
5.リューエスト・ダリアリーデレ
6.リリエンヌ・ラエラ

■課題1/完了
第24班のメンバー全員と合流せよ
以降、入学旅行中は上記ツアーメイトと協力しあうこと
なお、初めてツアーメイトと半径2メートル以内に接近すると、辞典が輝いて知らせてくれる
■課題2/実行前
セセラム競技場で辞典競技を見学せよ
■課題3/課題2完了後に取り組むこと
セセラム競技場でツアーメイトと表現バトルを体験せよ
■課題4/課題3完了後に取り組むこと
セセラム競技場で他の班と表現バトル(団体戦)を体験せよ
なお、対戦相手となる班は競技場先着順にて決定される
■課題5
課題1~4完了後に開示される
――――――――――――――

 課題1が完了となり、課題2~4の項目が現れている。
 霧は顔を上げると、霧と同じように自分の『辞典』を確認しているツアーメイトたちに声をかけた。

「みんな、出足が遅れてごめん。さっそくセセラム競技場に向かおう!」

 霧の声に皆うなずき、一行は歩き出した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...