推しと行く魔法士学園入学旅行~日本で手に入れた辞典は、異世界の最強アイテムでした~

ことのはおり

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一章 入学旅行一日目

1-10a 顔面国宝シスコン兄の過剰な妹への愛が暴走してもう疲れたよパトラッシュ

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 生徒ランキング。
 それは入学旅行開始から終了までの期間、新入生に付けられる順位だ。
 今後の成績に関わるものでは一切なく、新入生への歓迎の意を込めたお遊びランキングとされている。

 ランキングは学園の独自採点により決まるが、その採点方式は明かされてはいない。噂によると各課題に取り組んだ際のクオリティやスピードに加え、入学旅行中の振る舞いや生徒のユニークさなども加味されるらしい。
 上位30人が学園内に公開され、順位は入学旅行中に随時更新される。
 ランキング公開場所は学園講堂の台座――入学旅行出発前に、各自『辞典』を置いて認識させた、あの台座で、誰でも確認できる仕組みだ。その場所以外では確認できないため、当然、新入生自身は、課題を終えて学園に戻るまでは、自分がランキング入りしているかをその目で確認することはできない。

 最終的な順位は、新入生が全員、学園に戻ってきた時点で決定される。そのため、新入生が入学旅行に行っている間は、在校生の間で密かに賭け事までされているとか。ランキング入りを果たすのはどういう生徒か、そして誰が1位を取るかは、学園中の大きな関心事かんしんじなのである。

 実力を自負する新入生は誰もが、そのランキングの上位に輝くことを目指し、入学旅行の課題に奮闘する。当然ながら上位10位に入れば学園中で注目されることとなり、更に1位の生徒は、学園内にある秘密の組織に招待されるとか、上級生からの贈り物があるとか、寮内にVIPルームをゲットできるとか、色々言われている。

 アデルの目の前で着地に失敗した霧が、その生徒ランキングの1位を取れるほどの実力を持っている――なんて言われても、霧自身はもちろん、アデルも釈然しゃくぜんとしないだろう。霧は目を泳がせて、更に動揺した。

(これ、冗談? リューエストってば冗談言って誰かがつっこむの、待ってる? え、待て、ここは空気読んで、あたしがにつっこむところか? 「なんでやねん! んなわけあるか!」て、かますところか? え、そうなの? わからん!  めちゃわからん!)

 そう思いながら霧は、リューエストの真意を探るように彼を見つめた。
 しかしリューエストに冗談を言っているような雰囲気は微塵みじんもなく、彼の表情は真剣そのものだ。その気迫にまれたのか、その場には緊迫したムードまで漂っている。
 その居心地の悪い沈黙を破ったのは、再び口を開いたリューエストの、凛とした声だった。

「いいかい、みんな。もし僕の妹を傷つけるようなことをするなら、入学旅行の途中で後悔することになるから、警告しておく。みんな、僕の噂は大なり小なり知っているかと思う。僕を敵に回さない方が良い、ということもね。僕が今まで魔法士学園に入学しなかったのは、僕に実力が無かったからではなく、学園に興味が無かったからだ。でも半年前、やっと目覚めたキリが学園に入りたいと言うから、彼女を守るために共に入学することにした。キリと仲良くしてもらえるなら、君たちは僕の友人だ。僕の力は、君たちに有利な形で振るわれるだろう。でも、もし――」

 最初は普通の声音こわねだったリューエストの声が、だんだんと剣呑けんのんになり、重低音の響きに変わってゆく。

「もしキリに少しでも、精神的・肉体的な、屈辱や、暴力、損害を、与えようとするなら」

 一音ずつ区切るように、ゆっくり、はっきりと、発音される物騒な言葉。

「君たちの学園生活は、地獄に変わると、言っておく」

 そう言い切ったリューエストの端正な顔立ちに、殺気がにじむ。彼を中心としたこの場の空気が、まるで鋭利な刃物と化したような錯覚を覚え、少しでも身じろぎすれば肌が血しぶきを上げそうだ。
 ツアーメイトたちはリューエストから視線をはずせず、息を詰まらせ固まっている。

 辞典魔法の天才は、辞典魔法を使わなくても、自ら発する言葉に強い力を与え、他人を支配することができるという。それを証明するかのようなこの状況に、霧は恐怖と危機感を覚え、抵抗しようとした。言葉が影響力を持つこの世界で、言葉に対抗できるのはやはり言葉しかない。
 しかし、舌が重く、喉がひりついて言葉を発することができない。

(ちょ……リューエストって、こんな怖い人だった?! この美貌で絶対零度のオーラをまとって脅迫を吐かれちゃったら、もうあたし、気絶しちゃうぞ?! いやいやいやいや、アニメでこのシーン再現できたら、世界中のリューファンが、昇天しちゃうぞ?! むしろ『神回かみかい!』とか騒いで祭壇作って『邪神リューエスト・降臨!』とかほざきながら奉っちゃうぞ?! 何これ、萌えシーン満載サービス満点夢?! 最高かよ! いやいやいやいや、待て待て待て、そこじゃない、今考えるのはそこじゃない! あたしは入学旅行を楽しみたいんだ、なのにてば、台無しに!! ツアーメイトに喧嘩売ってる場合か! リューエストの脅迫は、断固拒否! 拒否! 拒否!)

 霧のその思いが、呪詛じゅそのようなその場の雰囲気を打ち破る。いきなり霧はリューエストの額に「デコピン」を喰らわせた。パチン、という音と共に、皆がハッと身じろぎする。水面の静寂を破った一滴の雫のように、その音が皆の呪縛を解いた。
 明らかに変わったその場の雰囲気を肌で感じながら、霧は大きな声で叫ぶ。

「リュー! あたしが守ってくれって、いつ頼んだ?! ツアーメイトを脅迫するなんて、言語道断!!」

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