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一章 入学旅行一日目
1-08a ツアーメイト
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「おお……おまえさんたちがわしのツアーメイトか。よろしくのぉ」
そう言いながら杖をついた一人の老人が、アデルと霧のそばまで近づいてくる。3人の辞典は光を放ち、互いに呼応しているかのようにチカチカと明滅した。
アデルと霧が老人に挨拶しようと口を開きかけたとき、またもやガスティオールの下卑た笑い声が草原を揺るがす。
「ヒヒャア~ッハッハッハッ!! 今度はヨボヨボのじじいかよ、ヒャハハハハハ、こいつは傑作だぜ!! めちゃ運がいいじゃねぇか、アデルさんよぉ! じじいのオムツを交換しながらせいぜい頑張ることだな!!」
アデルはキッとガスティオールを睨み付け、どなった。
「ガスティオール、その口を今すぐ閉じないと縫い付けてやるわよ! お年寄りは知識の泉! 侮辱するのは許さないから!!」
――お、と霧は感心した。この若いお嬢さんは、敬老の精神を持ち合わせているのか、と。
一方、ガスティオールは誰かを敬う精神など微塵も持たないらしく、ペッと唾を吐くと言い放った。
「な~にが、知識の泉だ。しょんべん垂れ流してできた、くっさい尿溜めの間違いじゃねぇのか? クククククッ、せいぜい足引っ張られて困るがいいさ、ヒャハハハハ!!」
ガスティオールのそばにいる同班の一人が、うんざりしながら彼に声をかけた。
「もうやめろ、ガスティオール。行くぞ、時間がもったいない」
「へへっ、おっとそうだったぜ。高貴な生まれの俺としたことが、下賤なエセダリアなんぞに時間を食っちまった。あばよ、真っ赤っ赤アデルちゃんよ! びりっけつで学園に帰って来るおまえを、お待ちしてやるぜ!! ヒャ~ッ、ハッハッハッ!!」
胸糞の悪い笑い声が徐々に遠ざかり、ガスティオール一行が草原を抜けて木立の合間に見えなくなる。
エセダリア、と再び侮辱の言葉を浴びせられたアデルは、ギュッと拳を握って小刻みに震えていた。
霧は心配気な視線をアデルに向けながら、彼女の圧倒的な存在感とは対照的な自分を再認識する。
(しかしあたし、完全にザコキャラ扱いだなぁ……。影、薄くないか? これ、あたしの夢だよな? もうちっと待遇よくても罰は当たらんと思うんだが……。それに明晰夢ならあたしにとって都合の良い展開になるはずなんだけどなぁ……地面に思いっきり横倒しになるなんてあり得ないし、おっかしいなぁ……。確かにあたし、究極ださい。へこむわぁ)
霧はほんの少し落ち込んだが、すぐに気持ちを切り替え、先ほどの老人に向き合った。
「えっと……キリ・ダリアリーデレです。ご一緒できて光栄です。若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします」
「おお、これはご丁寧に。わしはトリフォン・ワイズマンと申す者。こちらこそ、良しなにお願い申し上げる」
杖をついた老人――トリフォン・ワイズマンは、柔らかな微笑を湛えながらゆったりとした物腰で頭を下げる。アデルもお辞儀を返しながら自己紹介し、続けて霧に向かってぺこりと頭を下げた。霧は嬉しくなって、頭から湯気を出す勢いで叫ぶ。
「よろよろよろすく、アデル!」
しまった、噛んだ! と焦りながらも、霧は続けた。先程トリフォンにした挨拶のような大人の対応はどこかに吹っ飛び、明らかに挙動不審人物の勢いで。
「あっ、あっ、アデルって、呼んでいいよね? あたしのことは、キリって呼んでちょんまげ! うおっと、ちょんまげとはいつの時代のギャグやねん! ゆっとくけどオバサンちゃうしな、オバサンってまた呼んだら泣くで、マジで。実はあたし、こう見えて若いねんで。18歳や!嘘やけど。え、なんで関西弁やねん? その方が緊張とけるかなって思って!」
おっと関西弁ってこの世界に通じるのか?――と霧は思ったが、日本語が普通に通じるのだから無問題だろうと一人で納得する。何しろこの『クク・アキ』の世界は、日本と『言語双生界』という繋がりを持ち、世界中で日本語を使っているのだから。この『クク・アキ』のどこかの地方では、もしかしたら方言を使っているかもしれない。
一方、関西弁が通じているのかいないのか、アデルはにこりともせず、完全に霧の発言を無視して周囲を見渡した。
「ツアーメイトはあと3人ね。早く合流しないと、次の課題に移れないわ」
アデルは冷静な声でそう言うと、自分の『辞典』でツアーメイトの一覧を確認する。
渾身の「空気和ませギャグ」が不発に終わった霧は、ガクッとうなだれて、かまってちゃんヨロシクあからさまに肩を落としたが、アデルは霧など眼中に無いというように続けて言った。
「ツアーメイト6番目の『リリエンヌ・ラエラ』は、私の幼なじみなの。講堂の中では一緒だったんだけど、地上に降りる途中で風に流されて……。近くにいるはずなんだけど……」
「あの子じゃないかの? 手を振って近づいてくる」
そう言いながら杖をついた一人の老人が、アデルと霧のそばまで近づいてくる。3人の辞典は光を放ち、互いに呼応しているかのようにチカチカと明滅した。
アデルと霧が老人に挨拶しようと口を開きかけたとき、またもやガスティオールの下卑た笑い声が草原を揺るがす。
「ヒヒャア~ッハッハッハッ!! 今度はヨボヨボのじじいかよ、ヒャハハハハハ、こいつは傑作だぜ!! めちゃ運がいいじゃねぇか、アデルさんよぉ! じじいのオムツを交換しながらせいぜい頑張ることだな!!」
アデルはキッとガスティオールを睨み付け、どなった。
「ガスティオール、その口を今すぐ閉じないと縫い付けてやるわよ! お年寄りは知識の泉! 侮辱するのは許さないから!!」
――お、と霧は感心した。この若いお嬢さんは、敬老の精神を持ち合わせているのか、と。
一方、ガスティオールは誰かを敬う精神など微塵も持たないらしく、ペッと唾を吐くと言い放った。
「な~にが、知識の泉だ。しょんべん垂れ流してできた、くっさい尿溜めの間違いじゃねぇのか? クククククッ、せいぜい足引っ張られて困るがいいさ、ヒャハハハハ!!」
ガスティオールのそばにいる同班の一人が、うんざりしながら彼に声をかけた。
「もうやめろ、ガスティオール。行くぞ、時間がもったいない」
「へへっ、おっとそうだったぜ。高貴な生まれの俺としたことが、下賤なエセダリアなんぞに時間を食っちまった。あばよ、真っ赤っ赤アデルちゃんよ! びりっけつで学園に帰って来るおまえを、お待ちしてやるぜ!! ヒャ~ッ、ハッハッハッ!!」
胸糞の悪い笑い声が徐々に遠ざかり、ガスティオール一行が草原を抜けて木立の合間に見えなくなる。
エセダリア、と再び侮辱の言葉を浴びせられたアデルは、ギュッと拳を握って小刻みに震えていた。
霧は心配気な視線をアデルに向けながら、彼女の圧倒的な存在感とは対照的な自分を再認識する。
(しかしあたし、完全にザコキャラ扱いだなぁ……。影、薄くないか? これ、あたしの夢だよな? もうちっと待遇よくても罰は当たらんと思うんだが……。それに明晰夢ならあたしにとって都合の良い展開になるはずなんだけどなぁ……地面に思いっきり横倒しになるなんてあり得ないし、おっかしいなぁ……。確かにあたし、究極ださい。へこむわぁ)
霧はほんの少し落ち込んだが、すぐに気持ちを切り替え、先ほどの老人に向き合った。
「えっと……キリ・ダリアリーデレです。ご一緒できて光栄です。若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします」
「おお、これはご丁寧に。わしはトリフォン・ワイズマンと申す者。こちらこそ、良しなにお願い申し上げる」
杖をついた老人――トリフォン・ワイズマンは、柔らかな微笑を湛えながらゆったりとした物腰で頭を下げる。アデルもお辞儀を返しながら自己紹介し、続けて霧に向かってぺこりと頭を下げた。霧は嬉しくなって、頭から湯気を出す勢いで叫ぶ。
「よろよろよろすく、アデル!」
しまった、噛んだ! と焦りながらも、霧は続けた。先程トリフォンにした挨拶のような大人の対応はどこかに吹っ飛び、明らかに挙動不審人物の勢いで。
「あっ、あっ、アデルって、呼んでいいよね? あたしのことは、キリって呼んでちょんまげ! うおっと、ちょんまげとはいつの時代のギャグやねん! ゆっとくけどオバサンちゃうしな、オバサンってまた呼んだら泣くで、マジで。実はあたし、こう見えて若いねんで。18歳や!嘘やけど。え、なんで関西弁やねん? その方が緊張とけるかなって思って!」
おっと関西弁ってこの世界に通じるのか?――と霧は思ったが、日本語が普通に通じるのだから無問題だろうと一人で納得する。何しろこの『クク・アキ』の世界は、日本と『言語双生界』という繋がりを持ち、世界中で日本語を使っているのだから。この『クク・アキ』のどこかの地方では、もしかしたら方言を使っているかもしれない。
一方、関西弁が通じているのかいないのか、アデルはにこりともせず、完全に霧の発言を無視して周囲を見渡した。
「ツアーメイトはあと3人ね。早く合流しないと、次の課題に移れないわ」
アデルは冷静な声でそう言うと、自分の『辞典』でツアーメイトの一覧を確認する。
渾身の「空気和ませギャグ」が不発に終わった霧は、ガクッとうなだれて、かまってちゃんヨロシクあからさまに肩を落としたが、アデルは霧など眼中に無いというように続けて言った。
「ツアーメイト6番目の『リリエンヌ・ラエラ』は、私の幼なじみなの。講堂の中では一緒だったんだけど、地上に降りる途中で風に流されて……。近くにいるはずなんだけど……」
「あの子じゃないかの? 手を振って近づいてくる」
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