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一章 入学旅行一日目

1-06b 着地

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 生身で飛ぶ爽快感に、霧は鳥になった気分を味わっていた。上空を見上げると、先程までいた古城学園が、徐々に小さくなっていく。大空に浮かぶ堂々たる古城学園を下から見上げ、そのスペクタクルな風景に、霧は感動のあまり目に涙を浮かべた。

(忘れないようにしなきゃ。こんな爽快な夢、滅多に見られない)

 空飛ぶ夢というのは、明晰夢めいせきむで見る中ではダントツに素晴らしい。霧はそれをよく知っていた。
 そして夢が――いつか終わる、ということも。

(いや、今は終わるときのことなんか、考えない。こんな素晴らしいひと時を、過ごしているのだから。楽しもう!)

 霧は仰ぎ見ていた視線を、下へと移した。足元の地上はどんどん霧に近づいてきている。
 目を凝らすと、入学旅行のために学園から地上に降りた生徒たちが、あちこちに散らばっているのが見えた。彼らは霧と同じように、辞典魔法士を目指す魔法士の卵で、魔法学園に入学したばかりの生徒たちだろう。生徒たちは入学式を終えると、すぐさま入学旅行に飛び立つのだ。生徒たちはこの旅行で鍛えられ、旅行中に出された課題をこなすことで、適性がはじき出される。そうして学園に帰ってきたら、その適性によって初年度のクラスが決まり、学園での本格的な授業が始まるのだ。

(入学旅行、どこまで行けるかな……。目、覚めないといいな)

 霧は草原の草が風に揺れるさまをぼんやり観察しながら、できればこの夢が長く続いてほしい、と心の底から願った。
 憧れの世界、ククリコ・アーキペラゴ。その世界の中に入れるなんて、鼻血ものだ。起きたらすぐに、すべてを丁寧に書き残しておこう。
 そう決意して、霧は気を引き締めた。

 空の旅は、終わりへと近づいてきている。地上はもう、すぐそこだ。

 一本の木も生えていない気持ちの良さそうな草原へと、霧は着地の準備をした。
 しかしどうしたことか、寝ている姿勢から垂直に立った姿勢に戻そうと、一生懸命体をよじってみるが、思うようにいかない。
 霧は無様に手足をばたつかせ、何とか姿勢を制御しようとしたが、無駄な足掻あがきに終わった。

「ぐうっ、このままでは顔面から地面に着地してしまう!」

 まあ、そうなってもこの速度なら大した衝撃があるとは思えないし、顔が付く前に腕を突っ張ればいいだけの話だが、はなはだしく恰好悪くはある。
 そこで、「そうだ、魔法を終わらせて華麗に着地してみよう」と霧は思った。終わらせるタイミングは地面までどれくらいの距離が妥当だろうか? 早すぎればやはり地面に横倒しだし、遅すぎれば自分の足で立つ姿勢を整えられないだろう。逡巡したのち「ここだっ!」というタイミングで霧は開いていた辞典を閉じ、「魔法終了!」と叫んだのだが、結果は「華麗な着地」からはほど遠く、「ぶほっ!」というみっともない声を上げて「ビタン!!」と横倒しに地面に打ち付けられるという醜態しゅうたいさらした。
 それと同時に、すぐそばから呆れた声が降ってくる。

「……無様ぶざまね。ハッ……!」

 霧はすぐさま起き上がり、どこも怪我をしていないことを確認しながら、ゆっくりと声の主に視線を向ける。
 そこには、真っ白な長い髪をツインテールにした美少女が、立っていた。

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