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一章 入学旅行一日目
1-05a 初めての辞典魔法
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この『ククリコ・アーキペラゴ』と呼ばれる世界では、誰もが生まれた時に一冊の特殊な『辞典』を授かる。
その辞典は『個人辞典』もしくは『自分辞典』などと呼ばれ、辞典魔法を発動させることのできる貴重な魔法アイテムだ。この世界で『辞典』と言えばその特別な一冊を指し、いわゆる字引として存在する普通の辞典は「辞書」と呼び分けて、『辞典』とは明確に区別されている。
霧は頭の中にある物語の設定を思い返しながら、自分の手に持っている辞典を眺めた。
(さっき、台座に置いたら光ったよな、これ? それを見た学園長も「辞典が認識された」って言ってたし……。このあたしの辞典で辞典魔法が使えるなら、最高に面白い!)
この世界を生き生きと彩る辞典魔法。
それは『辞典』に宿る言葉を選び出し、言葉により生み出される魔法。
この世界では、言葉は魔法の付随物などではなく、『辞典』に宿る言葉そのものが、魔法なのだ。
ここ『ククリコ・アーキペラゴ』では、魔法は当たり前に存在する身近な現象で、日本での生活に家電が必要不可欠なように、『辞典』はこの世界の人々の生活基盤となっている。
(よぉし、とりあえずやってみるぞ! あははははは!!)
能天気に笑いながら、霧は辞典を開いた。その瞬間、パッと光を放って立体ホログラムが辞典から描き出される。物語の設定と、同じだ。
「よっしゃあっ、起動した! ぐははははは!」
霧はぞくぞくと全身を震わせた。自分の放つ奇怪な笑い声も、普段なら人目をはばかるところだが、今はもうどうでもよい。ただただ小気味よくて、憧れの辞典魔法を放てるのだと思うと、興奮で口から心臓が飛び出そうだった。
本当に、なんて爽快な夢だろう! 霧はそう思いながら鼻息を吹き出し、辞典をめくった。
「よおし、ええと、まず『核語』を選び出して……」
『核語』とは、辞典魔法を使うときにまず最初に選ぶ、魔法の核となる言葉である。
この辞典魔法の仕組みがまた面白く、今日本ではゲーム化するために開発も進められている。
『辞典』は、その持ち主と共に成長する。
この世界の誰もが生まれた時に授かる一冊の『辞典』は、赤子と共に「育って」ゆく。赤子から幼児へ、幼児から子供、そして大人へと成長する過程で言葉を覚えていくと、その『辞典』に自動的に言葉が記載されていく。つまり『辞典』に記載された言葉の数は、その人の語彙そのものなのである。
もちろん、覚えた言葉が『辞典』に登録されるためには、自分勝手な解釈ではなく、一般的な意味・用法から逸脱しない範囲の理解を得た場合に限る。その範囲で、自分なりの解釈が記されていくため、『辞典』に記された内容は個人によってさまざま。
例えば「好き」という言葉は、だいたいは「気に入ること」「心が惹かれること」「反対語は嫌い」などと『辞典』に記されるが、それに加えて人によっては「素敵」「イイ!」「心地良い感情」「好きと思えるもので満ち満ちた人生を送りたい」などと記されたりする。人さまざまなのである。
この世界では当たり前のことなのだが、霧からすればこの世界の『辞典』は不思議な魔法生成物だ。
そして辞典魔法は、この自分の『辞典』でのみ発動させることができる。他者の『辞典』については、触れることすらできない。弾かれてしまうのだ。
そのため当然ながら、魔法発動のために選べるのは自分が覚えた言葉のみ。
つまり、魔法発動者の語彙が豊富であるほど、より強力な、種類に富んだ魔法を使うことができる。
それを思い出し、霧は胸を躍らせた。
一般的な大人の語彙数は3~5万と言われているため、当然ながら普通に成長していれば『辞典』に記載される語彙数もその程度となる。しかし、霧が持っている辞典は日本で購入した辞書だ。少なくても7万語、もしかしたら9万語以上収録されているかもしれない。
(くうぅぅぅっー! めっちゃチートじゃん、あたしの『辞典』! もしかしてあたし、無敵じゃん?! どんな魔法も選びたい放題! まあ、地上に降りるだけの今は8万語も必要ないんだけど、選択できる語彙が多いに越したことないよね。語彙量に応じて『辞典』は強化されるから、8万語もあれば驚異の強さを持ってるはず! ああ、ワクワクするなぁ! 入学旅行と言えば、表現バトルもあるはず! くっはー、楽しみ過ぎて爆!! おっといけない、早く魔法を完成させなきゃ!)
霧は興奮しながら、辞典をめくって「浮遊」の言葉が載っているページを開くと、その文字を指でなぞる。途端に、立体ホログラムの真ん中に描かれた円の中に、「浮遊」という文字が表示された。
「うっはー!『核語』はこれで完璧! さあ、次!」
魔法発動の核となる『核語』に「浮遊」をセットした霧は、今度は辞典から「自分」の文字をなぞり、ホログラムに追加する。そして「自分」と「浮遊」を一直線に指でなぞると、パッと光が放たれ、二つの言葉が繋がった。
次に辞典から「下降」「アンダンテ」の文字を選び出し、両者を線で繋いで一塊にすると、それを更に「浮遊」と繋げる。
何やらもどかしいが、霧は一つずつ、丁寧に文字を入れ込んでいった。
(うんうん、なんたって初めての魔法だしねぇ、ここは手堅くいかないと。失敗したら目も当てられない。ここはホログラム一択で落ち着いてだね……うんうん)
霧はそんな風に一人で納得しながら、ホログラムを完成させた。小説をはじめ、漫画やアニメ内で描写されていた通りに事が進み、霧は満足げに溜息をつく。
その辞典は『個人辞典』もしくは『自分辞典』などと呼ばれ、辞典魔法を発動させることのできる貴重な魔法アイテムだ。この世界で『辞典』と言えばその特別な一冊を指し、いわゆる字引として存在する普通の辞典は「辞書」と呼び分けて、『辞典』とは明確に区別されている。
霧は頭の中にある物語の設定を思い返しながら、自分の手に持っている辞典を眺めた。
(さっき、台座に置いたら光ったよな、これ? それを見た学園長も「辞典が認識された」って言ってたし……。このあたしの辞典で辞典魔法が使えるなら、最高に面白い!)
この世界を生き生きと彩る辞典魔法。
それは『辞典』に宿る言葉を選び出し、言葉により生み出される魔法。
この世界では、言葉は魔法の付随物などではなく、『辞典』に宿る言葉そのものが、魔法なのだ。
ここ『ククリコ・アーキペラゴ』では、魔法は当たり前に存在する身近な現象で、日本での生活に家電が必要不可欠なように、『辞典』はこの世界の人々の生活基盤となっている。
(よぉし、とりあえずやってみるぞ! あははははは!!)
能天気に笑いながら、霧は辞典を開いた。その瞬間、パッと光を放って立体ホログラムが辞典から描き出される。物語の設定と、同じだ。
「よっしゃあっ、起動した! ぐははははは!」
霧はぞくぞくと全身を震わせた。自分の放つ奇怪な笑い声も、普段なら人目をはばかるところだが、今はもうどうでもよい。ただただ小気味よくて、憧れの辞典魔法を放てるのだと思うと、興奮で口から心臓が飛び出そうだった。
本当に、なんて爽快な夢だろう! 霧はそう思いながら鼻息を吹き出し、辞典をめくった。
「よおし、ええと、まず『核語』を選び出して……」
『核語』とは、辞典魔法を使うときにまず最初に選ぶ、魔法の核となる言葉である。
この辞典魔法の仕組みがまた面白く、今日本ではゲーム化するために開発も進められている。
『辞典』は、その持ち主と共に成長する。
この世界の誰もが生まれた時に授かる一冊の『辞典』は、赤子と共に「育って」ゆく。赤子から幼児へ、幼児から子供、そして大人へと成長する過程で言葉を覚えていくと、その『辞典』に自動的に言葉が記載されていく。つまり『辞典』に記載された言葉の数は、その人の語彙そのものなのである。
もちろん、覚えた言葉が『辞典』に登録されるためには、自分勝手な解釈ではなく、一般的な意味・用法から逸脱しない範囲の理解を得た場合に限る。その範囲で、自分なりの解釈が記されていくため、『辞典』に記された内容は個人によってさまざま。
例えば「好き」という言葉は、だいたいは「気に入ること」「心が惹かれること」「反対語は嫌い」などと『辞典』に記されるが、それに加えて人によっては「素敵」「イイ!」「心地良い感情」「好きと思えるもので満ち満ちた人生を送りたい」などと記されたりする。人さまざまなのである。
この世界では当たり前のことなのだが、霧からすればこの世界の『辞典』は不思議な魔法生成物だ。
そして辞典魔法は、この自分の『辞典』でのみ発動させることができる。他者の『辞典』については、触れることすらできない。弾かれてしまうのだ。
そのため当然ながら、魔法発動のために選べるのは自分が覚えた言葉のみ。
つまり、魔法発動者の語彙が豊富であるほど、より強力な、種類に富んだ魔法を使うことができる。
それを思い出し、霧は胸を躍らせた。
一般的な大人の語彙数は3~5万と言われているため、当然ながら普通に成長していれば『辞典』に記載される語彙数もその程度となる。しかし、霧が持っている辞典は日本で購入した辞書だ。少なくても7万語、もしかしたら9万語以上収録されているかもしれない。
(くうぅぅぅっー! めっちゃチートじゃん、あたしの『辞典』! もしかしてあたし、無敵じゃん?! どんな魔法も選びたい放題! まあ、地上に降りるだけの今は8万語も必要ないんだけど、選択できる語彙が多いに越したことないよね。語彙量に応じて『辞典』は強化されるから、8万語もあれば驚異の強さを持ってるはず! ああ、ワクワクするなぁ! 入学旅行と言えば、表現バトルもあるはず! くっはー、楽しみ過ぎて爆!! おっといけない、早く魔法を完成させなきゃ!)
霧は興奮しながら、辞典をめくって「浮遊」の言葉が載っているページを開くと、その文字を指でなぞる。途端に、立体ホログラムの真ん中に描かれた円の中に、「浮遊」という文字が表示された。
「うっはー!『核語』はこれで完璧! さあ、次!」
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